恋愛ギルド包囲網。てぇてぇものは、逃がすでないっ!!
「……まずい。」
真銀が低く言った瞬間だった。
街の空気が変わる。
さっきまでの平和な朝が、嘘みたいに薄れていく。
キラン。
キラン。
キラン。
キラン。
ハート型のメガネが、四方から同時に光った。
「発見しましたぁぁぁぁぁ!!」
「特別観察対象!!」
「移動開始!!」
「包囲陣形展開!!」
真銀の顔が一気に死ぬ。
「……なんで増えてんだよ。」
路地裏、屋根の上、屋台の影。
全部から恋愛ギルドの査定員が出てくる。
まるで最初から街全体が待ち構えていたみたいに。
ララがきょろきょろする。
「ねえ、これやばくない?」
「やばいな。」
ライは即答した。
「完全に包囲されてる。」
アイシィが小さく息を吸う。
「逃走ルート、三つ潰されてる。」
真銀は一瞬だけ千乃を見る。
車椅子。
まだ完全には動けない。
次の瞬間、判断は一つだった。
「抱えるぞ。」
「え?」
千乃が反応する前に。
真銀はそのまま腕を入れた。
「わっ……!」
軽く、確実に。
お姫様抱っこ。
千乃の視界が一気に高くなる。
「ちょ、真銀!?」
「黙ってろ。舌噛む。」
そのまま真銀は地面を蹴った。
ドンッ。
屋根へ跳ぶ。
同時に下から声が爆発する。
「跳びましたぁぁぁぁ!!」
「追跡開始!!」
「逃がしません!!」
ララが見上げる。
「え、私たちは!?」
「こっち!」
ライが即座に車椅子の取っ手を掴む。
「押すぞ!」
「任せて!」
ララが横から加勢する。
「行け行け行けー!」
アイシィが一瞬だけ目を閉じる。
「……本来の姿。」
次の瞬間。
空気が冷たく変わった。
バキン、と音を立てるように魔力が広がる。
白い光。
そして巨大な影。
「……戻る。」
氷の鱗が広がる。
巨大な翼が屋根を割るように広がった。
アイスドラゴンの本来の姿。
「乗って。」
低い声。
ララが目を輝かせる。
「うわぁぁぁ!かっこいい!!」
「感動してる場合じゃない!」
ライが叫びながら車椅子を持ち上げる。
「行くぞ!」
真銀は屋根の上を跳びながら、千乃を抱えたまま振り返る。
下には恋愛ギルドの大群。
「分析中!!」
「跳躍角度計算!!」
「尊さ増加中!!」
「増やすな!!」
真銀が叫ぶ。
その瞬間。
アイシィが翼を広げた。
「乗って。」
真銀は一瞬だけ頷く。
「行くぞ。」
屋根から跳び、背中へ着地。
ライとララも後に続く。
車椅子はライがしっかり固定している。
そして。
一気に空へ。
バサァァァァッ!!
街が一瞬で遠くなる。
下では恋愛ギルドが空を見上げていた。
「飛びました!!」
「追跡は空路へ移行!!」
「本気出します!!」
真銀は空から下を見て、ため息をついた。
「……なんなんだあいつら。」
千乃は腕の中で少しだけ申し訳なさそうに笑う。
「ごめん……巻き込んじゃった。」
「気にすんな。」
即答だった。
その声は、いつもより少しだけ近かった。
アイシィの背で風が鳴る。
ララが空ではしゃぐ。
「飛んでる!すごい!」
「はしゃぐな!」
ライが真顔でツッコむ。
でも、その目は少し楽しそうだった。
そして下の街ではまだ声が響いている。
「恋愛ギルド、空中査定モードに移行!!」
真銀は天を仰いだ。
「……終わってくれ。」




