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依頼が簡単なんですがァ?!

 翌朝。


 千羽千乃は、ギルドの空気が変わっていることに気づいた。


 正確には、「依頼の質」が変わっていた。


「……またこれ?」


 掲示板には、昨日と同じような依頼が並んでいる。


《遺跡の異常魔力源調査(危険度:極)》


《暴走魔獣群の鎮圧(推定災害級)》


《未確認領域の封鎖》


(いや、普通に多すぎない?)


 昨日より明らかに増えている。


 しかも全部“危険度が上がっている”。


 受付の女性が苦笑いを浮かべた。


「……千乃さん向けに、適切な難易度を選んだ結果です」


「それ、私が基準になってるやつ?」


「はい」


 即答された。


(最悪だ)


 千乃はため息をついて、一枚取る。


《古代遺跡・魔導炉停止任務》


「これでいいや」


 軽いノリだった。


 周囲の冒険者がざわつく。


「またあれ受けるのか……」

「昨日の遺跡、秒で終わったやつだぞ」

「今回はさすがに時間かかるだろ」


 その声を背に、千乃は出発した。


---


 遺跡は、すぐに見つかった。


 そして、すぐに異常も見つかった。


 入口からして歪んでいる。


 空間がわずかに“ずれている”。


「はいはい、いつものやつね」


 ノートを開く。


 ページを軽く指で叩く。


構造補正アーキテクト・リライト


 読み方。


「アーキテクト・リライト」


 その瞬間。


 遺跡の歪みが“整う”。


 壊れていたはずの通路が、正しい形に戻っていく。


「え、修理じゃんこれ」


 千乃は歩く。


 敵の気配はある。


 だが出てこない。


 いや、出てこれない。


 構造そのものが“正常化”されているため、異常が成立できない。


「……なんか申し訳なくなってきた」


 そう呟きながら奥へ進む。


---


 最深部。


 魔導炉。


 巨大な結晶装置が、赤く脈動していた。


 暴走寸前。


 触れれば爆発するタイプのやつだ。


「これ止めるの、普通は大変なんだろうな」


 軽く言う。


 そしてノートを開く。


終息手順リセット・プロトコル


「リセット・プロトコル」


 一拍。


 魔導炉が“理解したように”停止した。


 爆発もしない。


 暴走もしない。


 ただ、静かになる。


「……終わり?」


 あまりにもあっさりしている。


 千乃は首を傾げる。


「これ、ほんとに危険任務?」


 背後では、遺跡全体の魔力が安定していた。


 むしろ“正常すぎる”ほどに。


---


 ギルドへ戻ると、空気がまた変わっていた。


 受付の女性が、少し引きつった顔で言う。


「……報告、確認しました」


「うん」


「遺跡、完全に正常化されています」


「よかったね」


「普通は無理です」


 間。


「あと……危険度が“消えています”」


「え?」


 受付は書類を見せる。


 そこにはこう書かれていた。


《対象:危険性なし(原因不明)》


 千乃は固まった。


(いや、私がやったんだけど)


 言えない。


 言っても多分信じられない。


 ギルド長が奥から現れる。


「……お前の依頼は、いつも“問題が解決した結果だけ残る”」


「それ、褒めてる?」


「事実だ」


 短い沈黙。


「だが一つ問題がある」


「なに?」


「次に依頼を出すとき、基準が消えた」


「やめてそれ」


 千乃は頭を抱えた。


---


 その夜。


 ギルドの掲示板から、いくつかの依頼が“自動で消えていた”。


 理由不明。


 ただ一つ確かなことは。


 この世界はすでに、千羽千乃という存在を基準に“再調整”を始めているということだった。


 そして本人はまだ気づいていない。


 自分が“世界の難易度そのもの”になっていることに。

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