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依頼は静かに壊される

 ランク測定から一日。


 千羽千乃の周囲は、妙に静かだった。


 いや、正確には「静かにされている」。


「……あの人、今日依頼受けるらしいぞ」

「見に行くな、絶対見るな」

「でも気になるだろ……」


 ギルド内の冒険者たちが、距離を測りながらひそひそと話している。


 当の本人はというと。


「……普通の依頼ないの?」


 掲示板の前で首を傾げていた。


 そこにあるのは高難度依頼ばかり。


 魔獣討伐、遺跡調査、災害鎮圧。


 初心者向けの“採取依頼”は、なぜか全部消えている。


(なんで全部物騒なんだろう)


 原因は簡単だった。


 ギルド長の判断で、危険区域案件が全部彼女に回されているからだ。


 ただし本人は知らない。


「まあいいか」


 適当に一枚取る。


《黒森遺跡・異常魔力源の調査》


「……遺跡か」


 少しだけ面倒そうな顔をしながらも、歩き出す。


---


 黒森遺跡は静かだった。


 静かすぎるほどに。


 風が止まり、鳥の声もない。


「……嫌な静けさ」


 千乃はノートを軽く叩く。


「まあ、出てきたら出てきたでいいけど」


 遺跡の奥へ進むと、空気が変わる。


 壁に刻まれた古い魔法陣。


 中央には、歪んだ結晶体。


 それが“異常魔力源”だった。


「これが原因?」


 近づいた瞬間。


 結晶が脈動する。


 空間が歪む。


 黒い影が、遺跡の壁から滲み出した。


 人型ではない。


 形を持つ“概念の欠片”。


「うわ、めんどくさいやつ」


 千乃は即座にノートを開く。


 断章消去(フラグメントデリート)

 

 黒い光が走る。


 影が“意味ごと”切り取られるように消えていく。


 抵抗も悲鳴もない。


 ただ、そこにあったという事実だけが消える。


 静寂。


「……終わり?」


 あまりにもあっさりしている。


 千乃は結晶を見下ろす。


(これ持ち帰るのかな?)


 試しに触れる。


 その瞬間。


 結晶がノートのページに“反応”した。


 勝手に文字が浮かぶ。


 未記録領域:追加可能


「……え?」


 ページをめくる。


 そこには、書いた覚えのない空白ページが一枚増えていた。


 しかも、ほんのり光っている。


「いや、ちょっと待って」


 さすがに声が出る。


「私、こんなの書いた記憶ないんだけど」


 風が吹く。


 結晶はもうただの石になっていた。


 遺跡は静か。


 異常は消えた。


 依頼は完了。


 だが千乃は、ノートをじっと見つめていた。


「……これ、ただのノートじゃないよね」


 誰も答えない。


 ただ、ページが一枚だけ増えたまま、そこにある。


 意味のない空白。


 だが確かに“存在しているもの”。


「まあいいか」


 結局、いつものように肩をすくめる。


「使えるならいいし」


 そして遺跡を出る。


 空は何も変わらない。


 だが世界のどこかで、ほんのわずかに“情報の欠落”が起きていた。


 誰も気づかない程度の、歪み。


 それはまだ、小さなバグだった。

ちのちゃん、やっぱすごいです。

ましろくん、イケメンだろうなぁ

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