ラブリー・スミスでぇぇぇぇぇぇっっっっっっす!!
「今日は絶対に無理しないこと。」
宿の主人が何度目かになる言葉を口にしながら、車椅子のブレーキを確認する。
「はい。」
千乃は苦笑いを浮かべた。
「返事だけはいいんだよなぁ。」
「う……。」
宿の主人にまで言われてしまい、千乃は肩をすくめる。
真銀はその様子を見て、小さく笑った。
「ほら、行くぞ。」
「うん。」
真銀が車椅子をゆっくり押し始める。
宿を出ると、朝の街はすっかり活気づいていた。
露店からは香ばしい匂いが漂い、子どもたちが元気よく駆け回っている。
こないだまで世界が滅びかけていたなんて、誰も思わないだろう。
その何気ない景色に、千乃は思わず目を細めた。
「平和だね。」
「……ああ。」
真銀も短く頷く。
その後ろを、ララ、ライ、アイシィが並んで歩く。
「わぁっ! あの串焼きおいしそう!」
ララは屋台を見つけるなり目を輝かせた。
「朝飯食ったばっかだろ。」
ライが呆れたように言う。
「別腹!」
「その"別腹"は何個あるんだ。」
「いっぱい!」
即答だった。
アイシィはそのやり取りを見て、くすっと笑う。
「ララらしい。」
「えへへ!」
街を歩く人たちも、ちらりと千乃たちへ視線を向ける。
世界を救った一行だとは知らない。
ただ、仲のいい冒険者たちが歩いているようにしか見えなかった。
その時だった。
「見つけましたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
街中に響くほど元気な声。
全員が一斉に振り向く。
遠くから、ピンク色のコートを翻しながら猛スピードで走ってくる女性が一人。
金髪にピンクのメッシュ。
ハート型のメガネ。
そして、胸元には大きくハートの紋章。
「恋愛ギルドですっ!!」
真銀は額に手を当てた。
「……嫌な予感しかしねぇ。」
女性は勢いそのまま千乃たちの前で止まる。
「お久しぶりですっ!」
「申し遅れまくりましたっ!恋愛ギルド、ギルド長! ラブリー・スミスです!」
両手を大きく広げ、満面の笑み。
相変わらず元気が有り余っている。
……が。
車椅子の千乃を見た瞬間だけ、その笑顔がふっと和らいだ。
「……本当に、ご無事でよかったです。」
その一言だけは、とても静かだった。
千乃も優しく笑い返す。
「ありがとうございます。」
数秒の沈黙。
そして次の瞬間。
ラブリー・スミスはパンッと手を叩いた。
「ではっ!!」
「**臨時・定期恋愛査定を開始します!!**」
「早ぇよ!!」
真銀のツッコミが街に響く。
「まだ前回からそんなに経ってねぇだろ!」
「はい!」
ラブリーは満面の笑みで頷いた。
「通常査定ではありません!」
「世界を救ったペアは特別査定対象になります!」
「そんな制度聞いたことねぇ!」
「今作りました!」
「作るな!」
いつの間にか後ろには恋愛ギルドの査定員たちまで集まっていた。
全員が分厚いノートと羽ペンを構えている。
「査定開始!」
「車椅子を自然に押している……!」
「記録!」
「段差の前で速度を落とした!」
「加点!」
「膝掛けを直した!」
「尊い!」
「荷物を全部持っている!」
「高得点!」
真銀は思わず振り返る。
「お前ら何見てんだ!!」
ラブリーは真剣な表情で頷いた。
「全部です!」
「全部じゃねぇよ!」
千乃は困ったように笑うしかない。
「えっと……。」
ララは査定員たちを見回しながら首をかしげた。
「これ、いつものやつ?」
「はい!」
査定員が元気よく返事をする。
「定期恋愛査定です!」
「へぇ。」
ララは何の疑いもなく頷いた。
「二人って昔からこんな感じだもんね。契約したから過去見えた。」
羽ペンが一斉に止まる。
査定員たちの目が輝いた。
「幼少期から継続確認!!」
「重要証言!」
「追記してください!」
「継続的相互信頼!」
「加点!」
「えっ?」
ララが目をぱちくりさせる。
「何か変なこと言った?」
ライは深いため息をついた。
「……いや。」
「いつも通りだ。」
アイシィも小さく頷く。
「自然すぎるから、査定員が喜んでる。」
「なるほど。」
ララは納得したように頷いた。
全然なるほどではない。
ラブリー・スミスは一枚のカードを取り出した。
恋愛ギルドカード。
そこへ魔力を流し込む。
文字が次々と書き換わっていく。
恋愛適性。
天然指数。
鈍感指数。
信頼度。
進展率。
夫婦オーラ。
査定員たちが固唾をのんで見守る。
そして。
ラブリー・スミスが固まった。
「……え。」
「ギルド長?」
査定員が覗き込む。
ラブリーはカードと二人を何度も見比べた。
「信頼度……。」
「また上限を超えています。」
「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」
査定員たちが一斉に叫ぶ。
真銀は呆れた顔をする。
「そんな項目あったのか?」
ラブリーは首を横に振った。
「ありません。」
「ないのかよ!」
「本来は存在しない数値です!」
「意味分かんねぇ!」
ラブリーは真顔でカードを閉じる。
「やはり……。」
そして、ゆっくり二人を見た。
「**特別観察対象 No.001。**」
「千羽千乃さん、夜坂真銀さん。」
「恋愛ギルドは、これからもお二人を全力で見守ります!」
「見守らなくていい!!」
真銀の声に、街中の人たちが思わず振り向いた。
その様子を見て、千乃は堪えきれず吹き出す。
「ふふっ……。」
久しぶりに聞こえたその笑い声に、ララも、ライも、アイシィも自然と笑顔になる。
ラブリー・スミスはそんな二人を見て、満足そうに頷いた。
「ええ、今日も尊いですね。」
査定員たちも一斉にメモを書き始める。
**『笑顔確認。尊さ、過去最高値を更新。』**
真銀は天を仰いだ。
「……勘弁してくれ。」




