おはよう
通りすがりの本好き様のアドバイスを参考に、少し、文章に緩急をつけてみました。
とても参考になりました、ありがとうございます!
どうなったか、ぜひ、感想よろしくお願いします。
宿の部屋は静かだった。
静かすぎて、外の街の音がやけに遠く感じる。
ベッドの上、千乃は動かない。
呼吸だけが、かすかに続いている。
真銀はその横に座ったまま、手を離していなかった。
ララが椅子に腰掛けて足を揺らす。
「ねえ、これほんとに起きるやつ?」
軽い声。いつも通りの調子。
ライが即答する。
「起きるかどうかじゃなくて、起こすかどうかだ」
その言い方に、少しだけ部屋の空気が締まる。
アイシィはベッドのそばに立ち、千乃を見ていた。
「……まだだな」
短く、それだけ。
真銀は何も言わない。
ただ、千乃の手を握る指だけが少し強くなる。
その瞬間だった。
空気が、ほんの一拍だけズレる。
「……ん」
ララが椅子から身を乗り出す。
「今の、見た?」
ライの目が細くなる。
ベッドの上で、千乃のまぶたが揺れた。
ほんの、ほんのわずか。
間違えるには小さすぎる変化。
でも見た瞬間に分かるやつだった。
真銀の呼吸が一瞬止まる。
「……おい」
声が遅れて出る。
もう一度、千乃の指が動いた。
今度ははっきりと、真銀の服を掴み直す。
その直後だった。
千乃の目が、ゆっくり開く。
焦点は合っていない。
でも「戻ってきた」という事実だけが、はっきりそこにあった。
ララが小さく息を呑む。
「……あ」
ライが短く吐く。
「マジか」
アイシィは動かないまま言う。
「意識復帰」
淡々とした言葉なのに、やけに重い。
真銀はすぐには言葉が出なかった。
安心でもない。怒りでもない。
全部が混ざって、形にならない。
「……遅ぇ」
やっと出たのがそれだった。
千乃の視線が少しだけ動く。
真銀を探すみたいに。
そして見つけた瞬間、ほんのわずかに力が抜ける。
その反応に、真銀の眉が一瞬だけ動く。
ララが小さく笑う。
「生きてるじゃん」
軽く言うけど、声は少しだけ落ち着いてる。
ライが低く言う。
「ギリギリだな」
アイシィは一歩だけ近づく。
「会話は可能みたい」
それだけ。
真銀はようやく千乃の手を握り直す。
強くじゃない。逃げない程度に。
「勝手に終わるな」
短い言葉。
千乃は数秒遅れて、かすれた声を出す。
「……終わってない」
その一言で、部屋の空気が少しだけほどける。
ララが椅子にもたれ直す。
「ほんとさ、心臓に悪いんだけど」
ライが軽く笑う。
「慣れろ」
ほんの少しだけ、いつもの空気が戻る。
でも真銀だけはまだ動かない。
千乃の手を握ったまま、目を逸らさない。
「……起きたなら」
少しだけ間を置く。
「次は勝手に落ちんな」
千乃はぼんやりしたまま、ほんの小さく息を吐いた。
それが返事みたいに見えた。
外では普通の夜が流れている。
でもこの部屋だけは、今ようやく“止まっていた時間”が動き始めていた。




