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世界全域守護結界

 世界修正体の王が右手を上げる。


 空が軋む。


 大地が悲鳴を上げる。


 世界そのものが、修正を始めようとしていた。


「始まる。」


 老人が震える声で呟く。


「世界規模の修正じゃ……。」


 黒い光が空一面へ広がっていく。


 このままでは街も、人も、森も、山も。


 すべてが巻き込まれる。


---


 真銀が剣を構える。


「千乃!」


「分かってる!」


 千乃はノートを胸へ抱いた。


 ゆっくりと目を閉じる。


「私は……。」


「誰も傷つけたくない。」


 ページがひとりでに開く。


 真紅の魔力が溢れ出した。


---


 千乃は静かに右手を空へ掲げる。


「我が真紅の魔力よ。」


「世界を包め。」


「誰一人、傷つけるな。」


 魔力が空へ昇る。


 真紅の光は雲を突き抜け。


 空全体へ広がっていった。


---


 街を包む。


 森を包む。


 山を包む。


 川を包む。


 大地を包む。


 ギルドを包む。


 恋愛ギルドも。


 王都も。


 村も。


 奈落までも。


 光は止まらない。


---


「これは……。」


 老人が息を呑む。


「世界全域……。」


 アイシィが空を見上げる。


「すごい……。」


 ララは目を輝かせた。


「全部光ってる!」


 ライは静かに笑う。


「本当にやるとは。」


---


 王が初めて空を見上げる。


「世界全域結界。」


「観測。」


「あり得ない。」


---


 その瞬間。


 真紅の結界が完成した。


 世界を覆う巨大な球体。


 透き通る真紅の膜が、この世界そのものを優しく包み込む。


---


 そして。


 崩れていた建物が戻る。


 砕けた石畳が元へ戻る。


 折れた木々が立ち上がる。


 傷ついた地面が修復される。


 瓦礫だった家が元通りになる。


 世界中の人々の傷も癒えていく。


「傷が……。」


「治ってる。」


「建物まで……。」


 誰もが空を見上げていた。


---


 しかし。


「っ……!」


 千乃が膝をつく。


「千乃!」


 真銀が駆け寄る。


 彼女の腕が少しずつ裂けていた。


 血が流れる。


 頬にも亀裂が走る。


「大丈夫……。」


 そう言う声も震えている。


---


「千乃!」


「結界を解け!」


 真銀が叫ぶ。


 しかし千乃は首を振った。


「だめ。」


「この結界は……。」


「私以外の全部を守る。」


 真銀は目を見開く。


「全部?」


「うん。」


 千乃は苦しそうに笑う。


「人も。」


「街も。」


「魔物も。」


「木も。」


「地面も。」


「空も。」


「全部。」


「だから。」


「壊れるのは。」


 ゆっくりと自分の胸へ手を当てる。


「私だけ。」


---


 王は無表情のまま、その光景を見つめていた。


「自己犠牲。」


「理解不能。」


 千乃は笑った。


「厨二病だからね。」


「世界が壊れるくらいなら。」


「私一人で十分。」


---


 世界修正体の王は、初めて言葉を失った。


 世界を守るために戦う者はいた。


 誰かを守る者もいた。


 だが。


 "自分以外のすべて"を守ろうとした者は、一人もいなかった。


 真紅の結界は、静かに世界を包み続ける。


 そして最終決戦の舞台は整った。


 もう、この戦いで世界が壊れることはない。


 壊れるとしたら。


 それは、結界を支え続ける千乃自身だけだった。

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