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世界修正体の王

 その依頼は、突然ギルドへ届いた。


 依頼書ではない。


 手紙でもない。


 黒い紙だった。


 何も書かれていない紙。


 ただ、それだけ。


「……何これ。」


 受付嬢が触れた瞬間。


 紙がふわりと宙へ浮かぶ。


 次の瞬間。


 真っ黒な文字が、勝手に浮かび上がった。


 ギルド内が静まり返る。


 そこに書かれていたのは、たった一文。


『世界修正を開始する。』


 その瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴ……


 地面が大きく揺れ始める。


「地震!?」


 冒険者たちが外へ飛び出す。


---


 街の外。


 空が割れていた。


 まるでガラスに亀裂が入るように。


 青空へ無数の黒いひびが広がっていく。


「空が……。」


 千乃は息を呑む。


 ララが震えながら耳を伏せた。


「こんなの……初めて。」


 ライも険しい表情になる。


「嫌な気配だ。」


 アイシィは空を見上げたまま動かない。


「……来る。」


「何が?」


 真銀が尋ねる。


 アイシィはゆっくり答えた。


「奈落のもっと深い場所でも、一度しか感じたことがない。」


「世界そのものが敵になる時の気配。」


---


 空の裂け目から。


 黒い光が一本、静かに降りてきた。


 地面へ着地する。


 砂埃すら舞わない。


 そこに立っていたのは、一人の青年だった。


 年齢は二十歳くらい。


 黒い外套。


 銀色の髪。


 紅でも蒼でもない。


 色のない瞳。


 あまりにも普通の姿。


 だからこそ、不気味だった。


 青年はゆっくり周囲を見渡す。


 そして。


 千乃と真銀を見た。


「発見。」


 それだけ言った。


---


 次の瞬間。


 ギルド中の全員が膝をつく。


「ぐっ……!」


「体が……!」


 誰も動けない。


 ララも。


 ライも。


 アイシィまでもが、その場に膝をついていた。


「な……に……これ……。」


 千乃だけが、かろうじて立っている。


 真銀も剣を支えにして耐えていた。


 青年は少しだけ首をかしげる。


「耐えるか。」


「予測以上。」


---


「お前……誰だ。」


 真銀が睨みつける。


 青年は感情のない声で答えた。


「名称は不要。」


「私は世界修正体。」


 一拍置いて。


「その管理者。」


「王。」


 その一言で、空気が凍りついた。


 世界修正体。


 今まで何度も戦ってきた敵。


 その頂点。


 すべてを生み出した存在。


---


 千乃は一歩前へ出る。


「じゃあ。」


「今まで襲ってきたのって。」


「全部あなた?」


「肯定。」


 王は頷く。


「世界の歪みを修正するため。」


「不要な存在を排除する。」


 その視線が二人へ向けられる。


「千羽千乃。」


「夜坂真銀。」


「異世界転生による特異点。」


「存在確率、異常。」


「未来予測、不能。」


「よって。」


「修正対象。」


---


 真銀は剣を構える。


「断る。」


 王は首を横に振る。


「拒否権は存在しない。」


 その瞬間。


 黒い魔力が世界中へ広がった。


 空のひびがさらに大きくなる。


 街の建物が軋み始める。


 地面そのものが悲鳴を上げているようだった。


---


 千乃は静かにノートを開く。


 いつもの空想ノート。


 使い慣れた一冊。


 そのページをめくろうとした瞬間。


 パラ……


 風もないのに、ページが勝手に動いた。


「え?」


 一枚。


 また一枚。


 止まらない。


「ノートが……。」


 千乃は押さえようとする。


 しかし止まらない。


 まるで、何かを探すように。


 ページは高速でめくられていく。


 それを見た王が、初めて反応を示した。


 ほんのわずかに。


 表情が変わる。


「……そのノート。」


 感情のない声が、初めて揺れた。


 千乃は気付かない。


 だが真銀は見逃さなかった。


(今……。)


(こいつ、動揺した。)


 ページはなおもめくられ続ける。


 そして、一番最後のページの手前で。


 ぴたり、と止まった。


 誰もまだ知らない。


 空想ノートの最後に眠る、本当の力を。

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