ようやく会えた
奈落。
千乃はララとライと一緒に、大きな湖のほとりを歩いていた。
「今日は何食べようかな。」
「昨日のお魚美味しかったよね!」
ララがぴょんぴょん跳ねる。
「ああ。」
ライも静かに頷く。
「この辺りなら、また釣れるだろう。」
その時だった。
ゴォォォォォッ……
上空から、風を切る音が響いた。
「ん?」
千乃が顔を上げる。
暗くて見えないはずの奈落の天井。
そのはるか上から、小さな影がものすごい勢いで落ちてきていた。
「……何あれ?」
ララも空を見上げる。
「魔物?」
ライは目を細めた。
「いや。」
「あれは……。」
影が少しずつ近づいてくる。
人の姿。
剣。
黒い髪。
「……え?」
千乃の瞳が大きく開く。
「うそ。」
「真銀……?」
影はさらに近づく。
間違いない。
「真銀!!」
思わず叫んだ。
だが返事はない。
落下速度が速すぎる。
「まずい!」
このままでは地面へ激突する。
考えるより先に、体が動いていた。
真紅の魔力が一気に溢れ出す。
「お願い、間に合って!」
巨大な魔法陣が展開される。
千乃は両手を空へ向けた。
「真紅魔装!」
地面いっぱいに真紅の魔力が広がる。
「柔らかく!」
「もっと!」
「もっと!」
魔力が何層にも重なり、巨大なクッションのような膜を作り出す。
ぷるん、と弾力を持った真紅の魔力。
「お願い!」
「間に合って!」
ドスンッ!!
真銀は魔力のクッションへ勢いよく落下した。
クッションは大きく沈み込む。
ぐにゃり。
ぐにゃり。
勢いを吸収しながら、何度も弾む。
ぽよん。
ぽよん。
ぽよん。
最後には、ふわりと地面へ降ろした。
「……。」
静寂。
「……生きてる?」
千乃が恐る恐る近づく。
「真銀!」
肩を揺する。
「真銀!」
「……ん。」
ゆっくり目が開いた。
「いてて……。」
ぼんやりとした視界。
最初に見えたのは。
泣きそうな顔をした千乃だった。
「……千乃?」
「うん!」
「私!」
一瞬、真銀は固まる。
「……夢か?」
「夢じゃないよ!」
千乃は勢いよく真銀の頭を軽く叩いた。
「いたっ。」
「ほら!」
「痛いでしょ!」
「……本当だ。」
真銀はゆっくり起き上がる。
目の前には。
元気そうな千乃。
少し伸びた髪。
変わらない笑顔。
「生きてた……。」
その一言だった。
真銀の目から、大粒の涙がこぼれる。
「……よかった。」
「本当に。」
「よかった。」
千乃は驚いた。
真銀が泣くところなんて、一度も見たことがなかった。
「そんなに心配したの?」
「四か月だぞ。」
声が震えていた。
「四か月。」
「毎日探した。」
「毎日。」
「でも見つからなくて。」
「もう……。」
言葉にならない。
千乃は静かに笑う。
「ごめん。」
「心配かけちゃったね。」
そして。
そっと真銀の頭をなでた。
「でも。」
「迎えに来てくれて、ありがとう。」
真銀は何も言わず、小さく頷いた。
その時。
「千乃ー!」
ララが飛びついてきた。
「お友達?」
「うん!」
千乃が笑って紹介する。
「この子はララ。」
「こっちはライ。」
真銀は二人を見て目を丸くした。
「……人?」
ララは元気よく手を振る。
「元うさぎ!」
ライも軽く会釈する。
「元狼だ。」
「……。」
真銀は数秒黙ったあと。
「千乃。」
「なに?」
「四か月で何があった?」
千乃はえへへ、と笑う。
「いろいろ!」
その一言に、真銀は苦笑するしかなかった。
こうして。
四か月ぶりに、二人はようやく再会を果たしたのだった。




