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待ってる。

 千乃が奈落へ落ちてから、一週間。


 地上では、かつてない規模の捜索が続いていた。


「第七班、異常ありません!」


「第五班も収穫なし!」


「魔力反応、確認できません!」


 ギルドには、次々と報告が入る。


 そのたびに、受付嬢の表情は曇っていった。


---


「……まだ、見つからないの。」


 受付嬢は静かにつぶやく。


 いつもなら元気いっぱいに依頼を受ける少女。


 ギルド中を走り回る姿。


 厨二病全開で技名を叫ぶ声。


 そのどれもが、一週間聞こえていなかった。


 ギルドの中は、不思議なほど静かだった。


---


「真銀。」


 ギルド長が声をかける。


「……はい。」


「休め。」


「嫌です。」


 即答だった。


「まだ探せます。」


「寝てないだろ。」


「平気です。」


「平気な顔じゃない。」


 真銀の目には、隠しきれない疲労が浮かんでいた。


 食事もろくに取っていない。


 眠ってもすぐ目が覚める。


 それでも毎朝、誰より早く奈落へ向かう。


「俺が探さないと。」


 その一言だけを繰り返していた。


---


「真銀。」


 ギルド長は静かに肩へ手を置く。


「お前一人で背負うな。」


「……。」


「千乃は、お前を守るために落ちた。」


「そのお前が倒れたら、あいつは怒るぞ。」


 真銀は拳を握る。


「分かってます。」


「でも。」


 声が震えた。


「助けられなかった。」


 ギルド長は何も言わない。


 その後悔だけは、誰にも消せなかった。


---


 ギルドの掲示板。


 そこには一枚の紙が貼られていた。


 緊急依頼


 千羽千乃捜索任務


 成功報酬 ギルド負担


 参加資格 全冒険者


 ランク不問


 その紙には、数え切れないほどの署名が並んでいた。


「俺も参加する。」


「私も。」


「千乃ちゃんには世話になったからな。」


「絶対見つけよう。」


 誰一人、諦めていなかった。


---


 受付嬢は、いつものカウンターを見つめる。


「早く帰ってきてください。」


「また、報酬の金額を見て『お肉いっぱい食べられる!』って笑ってください。」


 ぽつりと漏れた願いは、小さな声だった。


---


 その頃。


 王都では妙な噂が広がっていた。


「聞いたか?」


「真紅の魔力を持つSランク冒険者が行方不明らしい。」


「世界修正体を何体も倒したあの子?」


「そう。」


「奈落へ落ちたとか。」


「……。」


 酒場の中が静かになる。


「あの子でも帰れない場所なのか。」


「奈落って。」


 誰も軽々しく口を開けなかった。


---


 夜。


 真銀は一人、奈落の崖へ立っていた。


 冷たい風が吹く。


「千乃。」


 返事はない。


「……まだ、生きてるよな。」


 そう信じるしかなかった。


 あの時、最後に見た笑顔。


 『ちゃんと生きて帰ってね。』


 その言葉だけが、何度も頭の中で繰り返される。


「約束しただろ。」


「帰ってくるって。」


 真銀は奈落の底を見つめる。


 どれだけ暗くても。


 どれだけ深くても。


「俺は待ってる。」


「何年かかっても。」


「必ず見つける。」


 その決意だけは、一週間経っても少しも揺らいでいなかった。


 一方その頃。


 はるか奈落の底では。


「ララー! ライー!」


「見て見て! このキノコ、ハートの形してる!」


「食べられるかな?」


「千乃!」


「待て!」


「それは多分毒だ。」


「えぇっ!?」


「もう少しで食べるところだった!」


「危ない危ない!」


 地上では誰もが心配していることなど知らず、千乃は今日も元気に奈落を探検していた。

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