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人になれるの?

 奈落を歩き始めて三日目。


 ララは千乃の肩の上。


 ライは少し後ろを歩いている。


「うーん……。」


 千乃は何かを考えていた。


「どうしたの?」


 ララが首をかしげる。


「いや、二人とも普通に話せるじゃん?」


「うん!」


「だったらさ。」


 千乃は何気なく尋ねた。


「人間の姿になったりできるの?」


 その一言で。


 ララとライが同時に止まった。


「……え?」


「……。」


 二匹は顔を見合わせる。


「できるけど。」


「できるな。」


「…………。」


 今度は千乃が固まる番だった。


「えぇぇぇぇぇぇっ!?」


---


「できるの!?」


「うん!」


 ララはきょとんとしている。


「なんで言わなかったの?」


「聞かれなかったから!」


「そんな理由!?」


 ライも静かに頷く。


「必要がなかった。」


「必要なくても教えてよ!」


---


「じゃあ!」


 千乃は目を輝かせる。


「見てみたい!」


「いいよー!」


 ララはぴょんっと飛び上がった。


 白い光が体を包む。


 ふわり、と毛並みが光へ変わる。


 耳が縮み。


 前足が腕へ。


 後ろ足が脚へ。


 小さな体はゆっくり大きくなっていく。


 光が消えた。


「どう?」


 そこに立っていたのは、十歳くらいの少女だった。


 真っ白でもふもふの長い髪。


 宝石みたいなブルーの瞳。


 うさ耳だけがそのまま頭の上に残っている。


 ふわふわした白いワンピースを着ていた。


「すごい……!」


 千乃は思わず拍手した。


「かわいい!」


「えへへー!」


 ララはその場でくるりと回る。


「人の姿になるの久しぶり!」


---


「ライも!」


「……分かった。」


 ライも一歩前へ出る。


 蒼銀色の毛並みが淡い光へ変わる。


 体がゆっくり人の姿へ変化する。


 数秒後。


 そこには一人の青年が立っていた。


 年齢は十八歳くらい。


 青みがかった銀色の髪。


 澄んだ青い瞳。


 整った顔立ち。


 長身で落ち着いた雰囲気をまとっている。


 狼耳と尻尾だけが残っていた。


 黒を基調とした服が自然と身にまとわれている。


「これが人型だ。」


「……。」


 千乃はぽかんと口を開ける。


「ライ。」


「なんだ?」


「イケメン。」


 一瞬、沈黙。


 ララが吹き出した。


「あはははは!」


 ライは少しだけ照れたように視線を逸らす。


「そういうものなのか。」


---


「というか!」


 千乃は両手を広げる。


「二人とも普通に人間じゃん!」


「まあね!」


「人前では基本こちらの姿だ。」


 ライが答える。


「じゃあ最初からそうしてればよかったのに。」


「奈落には人間が来ない。」


「だから必要なかった。」


「なるほど。」


 納得してしまう。


---


「でもね!」


 ララが嬉しそうに笑う。


「契約した主の前で人型になるのは初めて!」


「そうなの?」


「うん!」


「普通は信用してないとなれないから!」


「へぇ。」


 千乃は少し照れくさくなった。


「信用してくれてるんだ。」


「もちろん!」


 ララは迷いなく答える。


「千乃、大好き!」


 そのまま飛びつく。


「わっ!」


 千乃は慌てて受け止めた。


「ありがとう。」


---


 ライも静かに口を開く。


「俺も同じだ。」


「お前は命の恩人だ。」


「契約したから従うのではない。」


「千乃だから従う。」


 真っ直ぐな言葉だった。


 千乃は少しだけ頬をかく。


「なんか照れるなぁ。」


「照れなくていい。」


「事実だから。」


「ライまでそんなこと言うの?」


 ララが笑う。


「ライ、素直じゃーん!」


「……うるさい。」


「照れてる!」


「照れてない。」


 二人のやり取りを見て、千乃は思わず吹き出した。


「ふふっ。」


 奈落へ落ちてから初めてだった。


 心の底から、何も考えずに笑えたのは。


 その笑い声は静かな奈落に響き、一人と二匹の旅は少しだけ賑やかなものになっていった。

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