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奈落の白兎

 巨大な岩の巨人は、ゆっくりと崩れ落ちた。


 ドォォォン……


 地面が揺れる。


「ふぅ……。」


 千乃は額の汗をぬぐった。


「奈落って、最初の歓迎が重すぎない?」


 倒れた巨人を見上げる。


 全長十メートル以上。


 まるで岩山そのものだ。


 その時。


「……ん?」


 千乃はしゃがみ込み、巨人の腕をつついた。


「これ、お肉……だよね?」


 岩だと思っていた皮膚の内側には、しっかりと赤身の肉が詰まっていた。


「え。」


「食べられる?」


 少しだけ考える。


「……せっかく倒したし。」


「いただきます!」


---


 一時間後。


 奈落の片隅。


 即席のかまどが作られていた。


「火よ。」


 パチッ。


 魔法で火を灯す。


 巨人の肉を大きめに切り分け、香草を振る。


 塩。


 胡椒。


 近くに生えていた香りのいい葉っぱも少し。


 ジュゥゥゥ……


 肉汁があふれる。


「いい匂い……。」


 こんがり焼き色がついた肉を一口。


「……。」


「……。」


「美味しい!!」


 思わず立ち上がる。


「何これ!?」


「牛と豚と鶏を全部いいところだけ混ぜたみたい!」


 夢中で食べ始める。


---


 その時だった。


 ガサッ。


 草むらが揺れた。


「?」


 千乃が振り向く。


 そこには。


 真っ白な毛並み。


 ふわふわでもふもふ。


 青く澄んだ瞳。


 手のひらに乗るくらいの、小さなうさぎが立っていた。


「……かわいい。」


 うさぎは焼ける肉をじっと見つめている。


「欲しいの?」


「きゅう。」


 小さく鳴いた。


「ふふっ。」


 千乃は焼きたての肉を小さく切る。


「熱いから気を付けてね。」


 うさぎの前へ置く。


 ぱくっ。


 もぐもぐ。


 もぐもぐ。


 耳がぴこぴこ動く。


「きゅぅぅぅっ!」


 飛び跳ねた。


「美味しかった?」


「きゅ!」


 何度も頷いている。


「よかった。」


---


 食事を終えたうさぎは。


 なぜか。


 千乃の膝へ飛び乗った。


「え?」


 さらに腕へ。


 肩へ。


 最後は頭の上へ。


「きゅう。」


「そこ好きなの?」


 返事をするように耳が揺れる。


「……可愛い。」


 千乃は思わず笑った。


---


 その瞬間。


 ノートが淡く光る。


 赤い魔法陣が地面へ広がった。


「え?」


 魔法陣は、うさぎと千乃を包み込む。


 文字が浮かび上がる。


 従魔契約 完了


「勝手に!?」


 魔法陣は消えた。


 すると。


「やっと話せるー!」


「へ?」


 元気な女の子の声。


 辺りを見回す。


 誰もいない。


「上だよー!」


 見上げる。


 頭の上のうさぎが、口を動かしていた。


「うさぎ!?」


「うさぎじゃないもん!」


「えっ。」


「えっ。」


 二人とも固まる。


---


「契約したからお話できるようになったんだよ!」


「そういう仕組みなんだ……。」


「そうそう!」


 うさぎは嬉しそうに跳ねる。


「お肉ありがとう!」


「すっごく美味しかった!」


「よかった。」


「お名前ある?」


「ない!」


「じゃあ付けてもいい?」


「うん!」


 千乃は少し考える。


「ララ。」


「ララちゃん。」


「今日からよろしくね。」


 うさぎは目を輝かせた。


「ララ!」


「ララ!」


「その名前大好き!」


 ぴょんっと飛びつき、千乃の頬へすり寄る。


「よろしくね、ご主人!」


「ご主人は照れるなぁ。」


「じゃあ千乃!」


「うん、それで!」


---


 その頃。


 奈落のさらに深部。


 巨大な黒い城。


 そこへ、一匹のコウモリが飛び込んできた。


「報告します!」


「例の人間ですが……。」


「災害級個体『白月兎』と契約しました!」


 一瞬。


 部屋が静まり返る。


「……何だと?」


 玉座の男が立ち上がる。


「あの白月兎を?」


「はい。」


「肉を与えたら……懐いたそうです。」


「…………。」


 沈黙。


 そして誰かが、小さく呟いた。


「ありえん。」


「あれは奈落でも最悪クラスの災害級だぞ。」


「人類が見れば逃げる存在だ。」


「それを……餌付けした?」


 部屋中の魔族たちは信じられないという顔で固まっていた。


 一方その頃。


「ララ、おかわりいる?」


「いるー!」


「いっぱい焼くね。」


「やったぁ!」


 当の本人は、奈落最強クラスの魔物を膝に乗せながら、のんきに夕食を楽しんでいた。

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