千乃の行方
意識が戻った。
「……う。」
身体中が痛い。
千乃はゆっくりと目を開けた。
見上げても空は見えない。
どこまでも続く黒い岩壁。
「……生きてる。」
思わず頬をつねる。
「痛い。」
夢じゃない。
ちゃんと生きていた。
「よかった……。」
安心したのも束の間。
辺りを見回した千乃は固まる。
「……ここ、どこ?」
巨大な洞窟。
いや。
洞窟というには広すぎる。
山が丸ごと地下にあるような世界だった。
天井は見えない。
足元には青白く光る鉱石。
見たこともない植物。
遠くから聞こえる低いうなり声。
「奈落って、こんな場所なんだ……。」
立ち上がろうとした瞬間。
「いったぁ……。」
右足に鋭い痛みが走る。
ひねったらしい。
幸い、折れてはいない。
「これくらいなら歩けるかな。」
服についた土を払い、深呼吸する。
「まずは出口を探さないと。」
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一方、その頃。
ギルドでは緊急会議が開かれていた。
「奈落の地図は。」
「ありません。」
「過去の調査記録は。」
「ありません。」
「帰還者は。」
「……ゼロです。」
部屋が静まり返る。
ギルド長は腕を組み、地図を見つめた。
「つまり未知の領域か。」
「はい。」
「なら、なおさら行く。」
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真銀は席を立った。
「俺が先頭に行きます。」
「駄目だ。」
ギルド長は即答した。
「今のお前は冷静じゃない。」
「……。」
「そのまま飛び込めば、お前まで帰れなくなる。」
反論できなかった。
自分でも分かっている。
焦っている。
冷静じゃない。
だからこそ悔しかった。
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その頃。
奈落。
千乃はゆっくり歩いていた。
「静か……。」
人の気配はない。
風もない。
聞こえるのは、自分の足音だけ。
コツ。
コツ。
コツ。
突然。
足音が二つになった。
コツ。
コツ。
コツ。
コツ。
千乃が止まる。
もう一つの足音も止まる。
「……。」
ゆっくり振り返る。
誰もいない。
「気のせい?」
再び歩く。
コツ。
コツ。
コツ。
コツ。
また増える。
「……。」
今度はすぐに振り返った。
やはり誰もいない。
「なにこれ……。」
少しだけ背筋が寒くなる。
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その瞬間だった。
ガラッ。
背後で岩が崩れた。
千乃は反射的に振り向く。
そこには。
二つの赤い光。
闇の中で、ゆっくりと揺れている。
「……目?」
ズシン。
ズシン。
巨大な何かが歩いてくる。
暗闇から姿を現したのは、黒い岩のような皮膚を持つ巨人だった。
身長は十メートルを超えている。
「……うそ。」
千乃は思わず笑ってしまう。
「奈落って、歓迎が派手だね。」
巨人が咆哮を上げる。
轟音だけで岩壁が揺れた。
「グォォォォォォッ!!」
千乃はノートを取り出す。
「真銀がいたら、『またか』って言うんだろうな。」
少しだけ寂しそうに笑う。
「今回は一人だけど。」
真紅の魔力が静かに溢れ始める。
「ちゃんと帰るために。」
ノートがひとりでに開く。
新しいページだった。
そこに書かれていた技を見て、千乃は目を丸くする。
「……え?」
「こんな技、書いた覚えないんだけど。」
ページは赤く輝き始める。
まるで、
"奈落そのもの"がノートへ何かを書き加えているかのように。




