俺は完璧でイケメンな勇者!!!!!
城の医務室。
カイルはベッドの上で、静かに眠っていた。
全身には包帯が巻かれ、鎧は外され、青いマントも丁寧に畳まれている。柚乃はベッドのそばに座り、千乃は腕を組んで壁にもたれていた。
「……まだ目を覚まさないね」
千乃が小さく呟く。
「かなり無理をしたもの。今はゆっくり休ませてあげよう」
柚乃はカイルの手をそっと握った。
その時だった。
「……俺は……」
二人が顔を上げる。
「カイル?」
カイルの眉がぴくりと動いた。
次の瞬間。
「俺はイケメンだぁぁぁぁ!! イケメンで完璧な勇者だぁぁぁぁ!!」
バッ!!
カイルが、ベッドの上で寝た状態から勢いよく跳ね起きた。
「えっ!?」
「カイル!?」
そのまま空中で、くるんっ!!
身体を一回転させながら、ベッド脇に置かれていた剣へ手を伸ばす。
シュバッ!!
剣を抜く音が、医務室に鋭く響いた。
そして。
トンッ!!
カイルはベッドの足元にある床へ、見事に着地した。
剣を斜めに構え、青いマントを翻し、金髪を揺らしながら。
「……フッ」
完璧な決めポーズ。
医務室が、静まり返った。
柚乃は口を開けたまま固まっている。
千乃は数秒、カイルを見つめた。
「…………」
「…………」
「…………カイル?」
柚乃が、ゆっくりと声をかけた。
「なんだ、柚乃!」
カイルは爽やかに振り向いた。
「……あなた、今まで寝てたんだよ?」
「当然だ! 勇者にも休息は必要だからな!」
「いや、そうじゃなくて……!」
千乃が額に手を当てる。
「全身ぼろぼろで運ばれてきたんだよ!? 災害級を一人で倒して、最後にパタンって倒れたんだよ!?」
「フッ……! それもまた、勇者の宿命!」
「宿命で片付けない!!」
柚乃が立ち上がった。
「カイル!! 怪我は!?」
「問題ない!」
「問題あるよ!!」
「いや、俺はイケメンで完璧な勇者だからな!」
「その理屈、全然分からない!!」
千乃が即座に突っ込む。
カイルは剣を構えたまま、ふと首を傾げた。
「……ところで、ここはどこだ?」
「医務室!!」
「なるほど! つまり、俺は無事に帰還したということか!」
「そうだよ! でも、まだ安静にしてなきゃ駄目!」
柚乃がカイルの剣を指さす。
「まず、その剣をしまって!」
「ふっ。勇者の剣は、いついかなる時も――」
「しまって!!」
「はい!!」
カイルは即座に剣を鞘へ戻した。
カチャン。
千乃は腕を組み直し、深く息を吐く。
「……起きて早々に、ベッドから飛び起きて一回転して剣を抜いて着地って……」
「完璧だっただろう?」
「完璧に安静違反だよ!!」
柚乃はカイルの肩を押し、ベッドへ戻そうとする。
「ほら、横になって!」
「待て、柚乃! 俺はもう大丈夫だ!」
「大丈夫じゃない!」
「だが、俺は――」
「カイル!!」
「はい!!」
カイルは、ぴたりと黙った。
柚乃の目が本気だったからである。
千乃は呆れながらも、少しだけ笑った。
「……ほんと、目を覚ましてもカイルはカイルだね」
「当然だ! 俺はイケメンで完璧な勇者だからな!」
「それ、さっきも聞いた!!」
カイルは胸を張ろうとした。
しかし、次の瞬間。
「……あれ?」
身体がふらりと傾いた。
「カイル!?」
柚乃が慌てて支える。
「……ちょっと、立ちくらみが……」
「だから安静にしてって言ったでしょう!!」
千乃が反対側から支え、二人でカイルをベッドへ戻した。
カイルは大人しく横になる。
「……ふむ。どうやら、まだ完全復活ではないようだな」
「最初からそうだよ!!」
千乃のツッコミが医務室に響いた。
柚乃は布団をかけ直し、カイルの額に手を当てる。
「もう、心配したんだから……」
カイルは少しだけ表情を和らげた。
「……ぐすっ、びょえ…柚乃ぉ…ごめんなさぁい……」
「泣かない!!あと、次からは、一人で無茶しないこと」
「……はぁい」
千乃もベッドの横に立ち、真剣な顔で言った。
「国を守ってくれたことは、本当にすごいと思う。でも、カイル自身が倒れちゃったら、柚乃もみんなも心配するんだからね」
「……ああ」
カイルは二人を見つめ、ゆっくり頷いた。
そして、少し間を置いてから。
「……だが」
「ん?」
「俺は……イケメンで……完璧な……勇者……」
「「寝なさい!!」」
千乃と柚乃の声が、ぴったり重なった。さすが双子。
「はい!!」
カイルは布団をかぶり、今度こそベッドに沈んだ。
医務室には、ようやく静けさが戻る。
ただし。
布団の中から、小さな声が聞こえていた。
「……フッ。完璧だ……」
「聞こえてるよ、カイル!!」
「寝ます!!」
勇者カイルの復活は、どうやらもう少し先になりそうだった。




