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カイルからの重大発表

 食堂。


 戦いを終えたあとの穏やかな時間が流れていた、その時だった。


 バァァァァァンッ!!


 食堂の扉が勢いよく開いた。


「おかえりぃぃぃぃぃぃぃ!! 重大任務、無事完了ぉぉぉぉぉぉ!!」


「うわっ!?」


 柚乃がびくっと肩を跳ねさせる。


 飛び込んできたのは、金髪に青い瞳の勇者カイルだった。


 その後ろから、クオン、レオン、シオンも一緒に食堂へ入ってくる。


 そして、千乃の姿を見つけた瞬間。


「お姉ちゃんっ!! おかえりなさい!」


 クオンが真っ先に駆け寄った。


「お母さん! おかえり!!」


「お母さん、おかえりなさい!!」


 レオンとシオンも、千乃のそばへ駆け寄る。


「ただいまぁぁぁ!!」


 千乃は三人をまとめて迎え、嬉しそうに笑った。


「みんな、ただいま! お留守番ありがとうね!」


「うんっ!」


 クオンは満面の笑みで頷き、レオンとシオンも嬉しそうに千乃のそばにいた。


 真銀もその様子を見て、穏やかに声をかける。


「みんな、無事だったか?」


「うん! 大丈夫だったよ、お父さん!」


 レオンが元気よく答えた。


 シオンも頷く。


「カイルさんがずっと大騒ぎしてたけどね!」


「ちがう!? 大騒ぎではない!! あれは重大任務に対する勇者としての責任感がだな……!!」


「ずっと『俺が守る! このイケメンで最強な勇者カイルが!』って言ってたよ!」


 クオンが無邪気に暴露した。


「クオンくぅぅぅん!? そこは格好よくまとめてくれないかなぁ!?」


「え? 格好よかったよ?」


「そうだろう!?」


「でも、ちょっとうるさかった!」


「そこまで言う!?」


 食堂に笑い声が広がった。


 千乃もくすくす笑いながら、柚乃へ目を向ける。


「柚乃も、みんなを見ていてくれてありがとうね!」


「ううん。私は大したことしてないよ」


 柚乃は少し照れたように笑った。


 しかし、すぐに表情を改めると、千乃のそばへ近づいた。


「……お姉ちゃん、後で伝えたいことがある」


「ん? 伝えたいこと?」


「うん。ちょっと大事な話」


 柚乃はそう言って、ちらりとカイルを見た。


 カイルも、なぜか妙に真剣な顔をしている。


 千乃は二人を交互に見た。


「……なに? なんかあったの?」


「いやぁ、それがだな!」


 カイルが、ずいっと前へ出た。


 そして、胸を張る。


「このイケメンで最強な俺から、伝えることがある!!」


「自分でイケメンで最強って言った!?」


 千乃が即座にツッコんだ。


「そこは重要じゃない!!」


「いや、かなり重要な自己申告だったよ!?」


「とにかく聞いてくれ!!」


 カイルは咳払いを一つ。


 いつもの大げさな態度とは少し違い、どこか緊張しているようにも見えた。


 柚乃は隣で頬を赤くしている。


 ……え?


 千乃は目をぱちぱちさせた。


 真銀も二人の様子に気づき、静かに視線を向ける。


 カイルは柚乃を一度見てから、再び千乃たちへ向き直った。


「俺と柚乃は……」


 食堂が静かになった。


「結婚することになった!!」


「…………」


「…………」


「…………え?」


 千乃の動きが止まった。


 真銀も目を瞬かせる。


 クオンはきょとんと首を傾げ、レオンとシオンは二人の顔を見比べた。


 数秒後。


「ええええええええええええええええええっ!?」


 千乃の絶叫が食堂に響き渡った。


「けっ、結婚!? 柚乃とカイルが!? 結婚するの!?」


「そうだ!!」


「えっ!? ええっ!? いつから!? どうして!? 何があったの!?」


「落ち着け、千乃」


 真銀が肩に手を置いてなだめるが、千乃の驚きは収まらない。


「だって真銀! 柚乃だよ!? 私の妹だよ!? その柚乃が結婚!? しかも相手がカイル!?」


「おい、最後の言い方はどういう意味だ!?」


「いや、だってカイルだよ!?」


「俺は勇者だぞ!?」


「それは知ってるよぉぉぉ!!」


 カイルが胸を張り、千乃が頭を抱えた。


 柚乃は顔を真っ赤にしながら、控えめに口を開いた。


「お姉ちゃん……その、私たち、ちゃんと話し合って決めたんだ」


 千乃はぴたりと動きを止めた。


「……そっか」


 柚乃の表情を見て、千乃は少しだけ目を細める。


「柚乃が、自分で決めたんだね?」


「うん」


「カイルと一緒にいたいって?」


「……うん」


 柚乃は恥ずかしそうに俯きながらも、はっきりと頷いた。


 カイルも、今度はふざけずに口を開いた。


「俺もだ。柚乃とこれから先も一緒にいたい。だから、結婚を申し込んだ。柚乃も受け入れてくれたんだ」


 その言葉を聞いて、千乃は二人をじっと見つめた。


 そして。


「……そっかぁ」


 ふわりと笑った。


「柚乃、おめでとう!」


「……お姉ちゃん!」


 柚乃の顔が、さらに赤くなる。


 千乃は妹の手を取った。


「嬉しいよ! 大切な妹が、自分で選んだ人と一緒に生きていくって決めたんだもん!」


「うん……!」


「でも!」


「えっ!?」


 千乃は勢いよくカイルへ振り向いた。


「カイル!!」


「お、おう!?」


「柚乃を泣かせたら許さないからね!!」


「当然だ!! 俺は柚乃を幸せにする!! このイケメンで最強な勇者カイルに誓って!!」


「最後の自己紹介はいらないよ!!」


「なぜだぁぁぁぁぁ!!」


 食堂に再び笑い声が広がった。


 真銀はそんな千乃を見ながら、静かに口元を緩める。


「……妹の結婚か。驚くのも無理はないな」


「うん! びっくりしすぎて、まだ頭が追いついてないよ!」


 千乃は柚乃とカイルを見比べた。


「でも、そっかぁ……柚乃がお嫁さんになるんだねぇ……」


「お姉ちゃん、その言い方やめて……恥ずかしいから……!」


「えへへ、ごめんごめん!」


 クオンが、ぱっと顔を輝かせた。


「じゃあ、カイルさんと柚乃お姉ちゃん、家族になるの?」


「そうだな!」


 カイルが堂々と答える。


「俺と柚乃は、これから夫婦になる!」


「すごい!」


 レオンも目を輝かせた。


「結婚式するの!?」


「もちろんだ!!」


「お祝いする!?」


「当然だ!!」


「ごちそういっぱい!?」


「そこも大事だな!!」


「やったぁ!」


「食べ物の話になるの早くない!?」


 千乃が思わずツッコむと、シオンは楽しそうに笑った。


「だって、お祝いだもん!」


「それはそうだけど!」


 真銀は小さく頷いた。


「結婚式をするなら、俺たちも協力しよう。準備が必要だろうからな」


「真銀……!」


 柚乃が嬉しそうに二人を見た。


「ありがとう、お姉ちゃん、お義兄さん」


「お義兄さん……」


 真銀が一瞬だけ固まった。


 千乃はその反応を見逃さなかった。


「真銀、今ちょっと照れた?」


「……気のせいだ」


「えー! 絶対照れた!」


「千乃」


「はいっ!」


 千乃はぴしっと背筋を伸ばした。


 その様子に、柚乃もカイルも、子どもたちも笑い出した。


 こうして、戦いのあとに戻ってきた穏やかな食堂には、新しいお祝いごとが舞い込んだ。


 千乃は妹の手を握り直し、心から嬉しそうに笑った。


「柚乃、カイル。二人とも、本当におめでとう!」


 そして、次の瞬間。


「……ところで、結婚式っていつ!?」


「早い早い早い!! まだこれから決めるところだ!!」


「だって気になるんだもん!!」


 新たな大騒ぎの予感に、真銀は静かに天井を仰いだ。


 戦争は終わった。


 けれど、千乃たちの日常は、今日も相変わらず賑やかだった。

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