…という感じです!
「……という感じです!!」
ラブリーさんは、両手をぱんっと打ち合わせた。
「はいっ!! これにて、ラブリー・スミスの転生経緯説明会、閉幕ぅぅぅぅ!! 皆さん、ご清聴ありがとうございました!! 質問は受け付けますが、前世の個人情報に関する質問はお断りします!! あと、蛍光ピンクのツインテールとハートのサングラスのデザインについては、私もまだ納得していません!! 以上です!!」
…………。
………………。
…………………しん。
食堂は、妙な静けさに包まれていた。
千乃はパンを持ったまま固まり、真銀は眉間に指を当てている。ララは目をぱちぱちさせ、ライは静かにラブリーさんを見つめ、アイシィは口元を押さえていた。メルトだけは、いつも通りぷるぷるしている。
「……えっと」
千乃が、ようやく口を開いた。
「つまり、ラブリーさんは日本で普通に暮らしてて、友達の結婚を手伝ったら、その相手の元カノに恨まれて……それで命を落として、気がついたら蛍光ピンクのツインテールとハートのサングラスだったってこと?」
「はい!! その通りです!!」
「最後の情報が強すぎるよぉぉぉ!!」
「そこは私も被害者です!!」
「被害者って言わないでよぉ! いや、前半は本当に大変だったと思うけど!!」
千乃は慌てて付け加えた。
ラブリーさんは、先ほどまでの騒がしさを少しだけ引っ込め、ふっと笑った。
「ありがとうございます、千乃さん。でも、もう大丈夫ですよ。前世のことは悲しい記憶ですけど、今の私には今の人生がありますから!」
「……うん」
千乃は小さく頷いた。
「そっか。じゃあ、今のラブリーさんが元気いっぱいなのは、今の人生を楽しんでるからなんだね」
「もちろんです!! せっかく新しい人生をいただいたんですから、楽しまなければ損です!! 知らない世界! 知らない文化! 知らない魔法! 知らない食べ物! そして、記録する価値のある尊い人間関係!! この世界、見どころが多すぎるんですよぉぉぉぉ!!」
「元気だなぁ……」
真銀が呟く。
「ええ!! 元気だけが取り柄ですから!! あっ、もちろん記録能力もありますよ!? 観察眼もあります!! 分析力もあります!! あと、どんなに興奮しても記録用紙を破らない精神力もあります!!」
「最後のは普通では?」
「普通ではありません!! 千乃さんたちの戦いを目撃したとき、私は何度ペンを握り潰しかけたと思っているんですか!!」
「だから、なんで握り潰す方向にいくの!?」
千乃のツッコミが食堂に響いた。
ララは、ラブリーさんのそばまでぴょんぴょん跳ねていった。
「ねえねえ、ラブリー! 日本って、おいしいものいっぱいあるの?」
「あります!! それはもう、たくさん!!」
「どんなの!?」
「お米!! お肉!! お魚!! 甘いお菓子!! 季節限定のスイーツ!! そして、期間限定と書かれた瞬間に購入意欲を刺激してくる数々の商品!!」
「期間限定?」
「そうです!! 今しか食べられないかもしれないという、あの魅惑の言葉です!!」
「おいしそう!!」
「でしょう!?」
「ララ、食べてみたい!」
「私も食べたいです!! 日本に帰れるなら、まずは食べ歩き旅行をしたいですね!! ああ、想像するだけでお腹が空いてきました!!」
「ラブリーさん、今もご飯食べてるよ?」
「それとこれとは別です!!」
「別なんだ!?」
千乃は思わず笑った。
真銀は、そんなやり取りを見守ってから、静かに口を開いた。
「……ラブリーさん」
「はいっ!! なんでしょう、真銀さん!!」
「前世のことを話してくれてありがとう。だが、無理にすべてを話す必要はないからな」
ラブリーさんは一瞬だけ目を丸くした。
それから、いつもの明るい笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます!! でも、今回は千乃さんが聞いてくれたので、話したかったんです! 私の過去を知ってもらえたら、どうして私がこの世界にいるのか、少しは伝わるかなと思いまして!!」
「うん。ちゃんと伝わったよ」
千乃は微笑んだ。
「ラブリーさんが、どうして記録を大切にしてるのかも、少し分かった気がする」
「……千乃さん」
「誰かの幸せを応援したいって気持ちが、ずっと続いてるんだね。前世でも、今でも」
「…………」
ラブリーさんは、ぱちぱちと瞬きをした。
そして。
「そうですぅぅぅぅぅ!! そうなんですよぉぉぉぉ!! 千乃さぁぁぁぁん!! 分かってくださいますかぁぁぁぁ!!」
「わっ!? 急に大きい!!」
「だって!! だってですよ!? 自分が大切だと思った人が幸せになるのって、嬉しいじゃないですか!! その人が努力して、悩んで、誰かと支え合って、最後に笑えるようになる!! そんな瞬間を見られたら、記録したくなるでしょう!? 残したくなるでしょう!? その人たちが歩んできた時間を、なかったことにしたくないでしょう!? 私はそういうものを残したいんです!! 誰かが頑張ったことも、誰かが誰かを支えたことも、仲間たちが力を合わせたことも!! だから私は記録係なんです!! 恋愛ギルドの長なんです!! そして、尊いものを見つけたら叫ばずにはいられないんですぅぅぅぅ!!」
「最後は必要だった!?」
「必要です!!」
「そっかぁ……!」
千乃はなぜか納得した。
真銀は小さく息を吐く。
「……千乃も、妙なところで納得するな」
「だって、ラブリーさんらしいもん!」
「それはそうだが……」
ラブリーさんは、感極まった様子で記録用紙を抱きしめた。
「ありがとうございます!! この出会いも、いつか記録に残しましょう!! 題名はそうですね……『異世界の食堂にて、二人の転生者が出会う。蛍光ピンクの記録係、人生を語る』!!」
「待って!?」
千乃が椅子から身を乗り出す。
「なんで私たちの食事まで記録になるの!?」
「大切な出会いだからです!!」
「じゃあ、今の私の顔も!?」
「もちろんです!!」
「やめてぇぇぇぇ!! ご飯食べてるだけなのにぃぃぃ!!」
「日常こそ、人生の大切な一部なのです!!」
「正論っぽいことを言えば許されると思わないでぇぇぇ!!」
ラブリーさんのペンが、さらさらと紙の上を走り始めた。
真銀は千乃の皿に料理を取り分けながら、ぽつりと言った。
「……千乃。諦めて食べたほうがいい」
「真銀ぉ!?」
「冷めるぞ」
「うっ……それは困る……!」
千乃はしぶしぶ椅子に座り直した。
ララはパンを頬張り、ライは落ち着いて食事を続け、アイシィは楽しそうに笑っている。カミルは悠然と食卓を見渡し、ルシアとルシファーも穏やかな表情で料理を味わっていた。
メルトは、ぷるん。
そしてラブリーさんは、今日も記録を続ける。
前世で失ったものは、もう戻らない。
けれど、新しい世界で出会った人々と、新しく築いていく関係がある。
過去を抱えたままでも、人はまた誰かを大切にできる。
ラブリーさんにとって、この世界はそういう場所になっていた。
……ただし。
「千乃さん!! ちなみに今回の記録の最後には、千乃さんの鬼月姫の詠唱を全文掲載する予定です!!」
「まだ諦めてなかったのぉぉぉぉぉ!?」
食堂に、千乃の悲鳴が響き渡った。
転生者同士の感動的な交流は、最後までラブリーさんの圧倒的な記録欲に振り回されることになったのだった。




