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常闇の箱庭大戦(ディストピア・ゲーム)2 追跡者

 そのときだった。


 戦場の片隅で、ぷるぷると揺れていたメルトの身体が。


 にゅうううううっ。


「…………」


 突然、下へ伸びた。


 ぷるぷるした身体の底から、何かが二本。


 にゅっ。


 にゅうっ。


 まるで足のように生えてきた。


「…………」


 メルトが、その二本の足を見下ろす。


 そして。


 て。


 てて。


 ててて。


 ててててててててててて。


「…………え?」


 メルトが走り出した。


 ててててててててててててててててててててててて。


「…………」


 その進行方向。


 そこにいたのは。


 体育座りをしていたエリシアだった。


「…………」


「…………」


 エリシアとメルトの目が合う。


 いや。


 目があるのかすら分からない、ぷるぷるした身体。


 その下から伸びた、謎の二本足。


 そして。


 ててててててててててて。


 こちらへ一直線に走ってくる。


「…………」


 エリシアの顔が引きつった。


「…………え?」


 メルトが止まらない。


 ててててててててててて。


「ちょっと……」


 エリシアが後ずさる。


「何ですか、それ……」


 メルトは答えない。


 ただ。


 てててててててててててててて。


「来ないでください」


 エリシアが一歩下がる。


 メルトが一歩進む。


 てて。


「…………」


 もう一歩。


 てて。


「…………」


 さらに一歩。


 てて。


「…………」


 そして。


 メルトが、にゅうっと身体を前へ伸ばした。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!?」


 エリシアが絶叫した。


「来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 立ち上がる。


 走る。


「待ってくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 メルトも走る。


 ててててててててててててててててててててててて。


「なんで追ってくるんですかぁぁぁぁぁ!!」


「ぷる」


「返事になってませんよぉぉぉぉぉ!!」


 エリシアが全力で走る。


 メルトも全力で走る。


 ててててててててててててててててててててて。


 白い世界の中を、二人が一直線に駆け抜けていく。


「誰かぁぁぁぁぁ!!」


 エリシアが叫ぶ。


「助けてくださぁぁぁぁぁい!!」


 しかし。


 周囲では。


 ガキィンッ!!


 ドォンッ!!


 バシュッ!!


「ぐあああああっ!」


「まだまだぁぁぁ!!」


「そこだぁぁぁ!!」


 大激戦の真っ最中。


 誰もエリシアを助ける余裕などない。


「ちょっとぉぉぉぉぉ!!」


 エリシアが涙目になりながら走る。


「皆さん戦ってる場合じゃないですよぉぉぉ!!」


 メルトは追う。


 ててててててててててててててててててて。


 エリシアが振り返る。


「まだ来てるぅぅぅぅぅ!!」


 メルトが、ほんの少しだけ身体を横へ傾けた。


 ててててて。


 エリシアが左へ曲がる。


 メルトも左へ曲がる。


 ててててて。


 エリシアが右へ曲がる。


 メルトも右へ曲がる。


 ててててて。


「怖い怖い怖い怖い怖い!!」


 完全に鬼ごっこだった。


 しかも。


 追いかける側は、ぷるぷるのスライム。


 逃げる側は、戦闘能力のないエリシア。


 その光景だけを切り取れば、もはや戦争ではない。


 謎のホラーゲームだった。


「ぷる」


「来ないでぇぇぇぇぇ!!」


 メルトが少しだけ速度を上げる。


 ててててててててててててててて。


「速くなったぁぁぁぁぁ!?」


 エリシアも速度を上げる。


「ていうか何で足生えてるんですかぁぁぁぁぁ!!」


 メルトは答えない。


 ててててててててててて。


 そして。


 エリシアが振り返った瞬間。


「ひっ!?」


 メルトの身体が。


 にゅううううううううっ。


 伸びた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 エリシアがさらに加速する。


 ててててててててててててててててててて。


「助けてくださぁぁぁぁぁい!!」


 その叫びが、戦場に響き渡る。


 千乃が一瞬だけ振り返った。


「ん?」


 そして。


「…………」


 メルトとエリシアを見る。


 ててててててててててて。


「…………」


 エリシアが逃げている。


 ててててててててててて。


 メルトが追っている。


「…………」


 千乃は数秒だけ見つめた。


「……メルト、何してるの?」


「ぷるっ」


 メルトが元気よく返事をする。


 もちろん走りながら。


 ててててててててててて。


「エリシアを追いかけてるの?」


「ぷるぷる」


「そっかぁ」


 千乃は特に止めなかった。


「頑張ってね」


「ぷるっ!」


「いやぁぁぁっっっっっっっっっっっ!?」


 エリシアの絶叫が響く。


「助けてくださいよぉぉぉぉぉ!!」


 千乃は笑顔のまま、再び目の前の敵へ向き直った。


「ごめんね、今ちょっと忙しいから!」


「そんなぁぁぁぁぁぁ!!」


 ててててててててててててててっっっっっっっ。


 戦場の片隅では、今日も謎の追いかけっこが続いていた。


 一方、中央では。


「うおおおおおおおおおおっ!!」


 国王が叫ぶ。


「まだ終わらんぞぉぉぉぉぉ!!」


 千乃が笑う。


「もちろん」


 紅い瞳が輝く。


「こっちもまだ終わってないよ!」


 轟音。


 魔法。


 咆哮。


 そして。


 ててててててててててててててててて。


「来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 常闇の箱庭大戦は。


 なぜか鬼ごっこまで巻き込みながら、さらに激しさを増していった。

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