あああああああああああああ
「…………」
数人の兵士が、ぴたりと動きを止めた。
「……帰れない」
誰かが、ぽつりと呟く。
「帰れない……帰れない……」
別の兵士も、何度も周囲を見回している。
どこを見ても白。
前も、後ろも、上も、下も分からない。
仲間の姿すら、遠くにいるのか近くにいるのか判別できない。
「ここは……どこだ……?」
「俺たちは……どうなった……?」
「嫌だ……」
一人の兵士が、頭を抱えた。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ……帰してくれ……」
「あああああああ、あああっっっっっっっっっ!!!!」
「おい、大丈夫か!?」
隣の兵士が肩を掴む。
しかし、その兵士は反応しない。
ただ、虚ろな目で真っ白な空間を見つめ続けていた。
「何もない……」
また一人。
「何もない……何もない……」
さらに一人。
「こんなの……おかしい……」
数人の兵士がその場に座り込み、完全に動けなくなってしまった。
戦うどころではない。
目の前に広がる「何もない世界」そのものに耐えられなくなっていた。
「お、おい! しっかりしろ!」
別の兵士が必死に声をかける。
けれど、返事はない。
「いやだ……」
「帰りたい……」
「誰か……助けて……」
小さな声だけが、白い世界に落ちていく。
その様子を見ていた国王が、顔を引きつらせた。
「お、おい……」
クォーツ・ポピーも、さすがに笑顔を失っている。
「ちょっと……これ、まずくない?」
「…………」
元之介も言葉を失う。
ファンクルも、兵士たちを見ながら固まっていた。
一方。
「…………」
千乃たちは、相変わらず落ち着いていた。
真銀は兵士たちを一瞥しただけで、千乃へ視線を戻す。
「何人か、限界らしいな」
「うん」
千乃は紅い瞳を細めた。
「まあ、いきなり何もないところに放り込まれたら、そうなる人もいるよね」
「主、レーレ初見の人には刺激が強いんだね」
ララがしみじみと言う。
「そうかも」
「慣れてる俺たちがおかしいんじゃないか?」
ライが淡々と突っ込む。
「それはそう」
アイシィも頷いた。
「否定できないね」
メルトが、ぷるんと揺れる。
カミルは兵士たちを見ながら静かに呟いた。
「この世界に慣れておらぬ者には、少々酷であろうな」
「だよねぇ」
千乃はそう言って、敵側へ視線を戻した。
数人の兵士は、もう戦おうともしていない。
ただ白い世界の中で立ち尽くし、あるいは座り込み、現実を理解することすらできなくなっている。
そして。
そんな彼らの前を、鬼月姫がゆっくりと歩いていく。
「大丈夫」
千乃が微笑む。
「死にはしないから」
その言葉に、兵士たちが一斉に顔を上げた。
「……死なない?」
「うん」
千乃は紅い瞳を細める。
「だって、ここは不死の世界だもの」
その言葉を聞いた瞬間。
兵士たちの表情が、さらに引きつった。
「…………」
真銀が小さく息を吐く。
「千乃」
「ん?」
「それ、今言うと余計に怖がるぞ」
「……あ」
千乃が少しだけ目を丸くした。
「確かに」
敵側の兵士たちは、さらに青ざめていた。
味方側だけが、妙に平和だった。




