からっぽ
「あなた達にそんな器用なことができるのかな?」
その言葉が響いた瞬間。
「…………は?」
ヴァルディア王国国王が、呆然と呟いた。
目の前には、何もない。
さっきまで確かに存在していた戦場も、兵士たちも、城も、空も、すべてが消えている。
あるのは、どこまでも続く真っ白な世界。
「な、なんだここはぁぁぁぁぁ!?」
国王が叫んだ。
「城は!? 兵士は!? 地面は!? 空はどこへ行ったぁぁぁぁぁ!?」
「え!? ちょっと待って!? 私たち、どこにいるの!?」
クォーツ・ポピーも慌てて周囲を見回す。
「何もない! 本当に何もないよぉぉぉ!?」
「お、おい……元之介! これはお前の仕業か!?」
「俺様じゃねぇぇぇぇぇ!!」
元之介も完全に混乱していた。
「なんだここは!? 何もねぇぞ!? 何もできねぇじゃねぇか!!」
「真っ白ですねぇ!?ここはどこなのでしょう?」
ファンクル・アーシュルも慌てて周囲を見回す。
四人が一斉に騒ぎ始める。
「戻せぇぇぇぇぇ!!」
「どうやって!?」
「知らないよぉぉぉ!!」
「千乃ぉぉぉぉぉ!!」
その様子を、少し離れた場所から眺めている者たちがいた。
真銀。
ララ。
ライ。
アイシィ。
メルト。
カミル。
そして、鬼月姫となった千乃。
誰一人として慌てていない。
「…………」
真銀は静かに周囲を見渡したあと、千乃を見る。
「いつものことだな」
「うん」
千乃は何でもないように頷いた。
「いつものこと」
「主、またやったの?」
ララが首を傾げる。
「うん、やったよ」
「そっかぁ」
ララは納得したように頷いた。
ライも特に驚いた様子はない。
「レーレか」
「そうそう」
アイシィも白い世界を見回しながら、のんびりと言う。
「相変わらず真っ白だねぇ」
「だな」
メルトも、ぷるぷると身体を揺らしている。
カミルに至っては、もはや驚く気配すらなかった。
「……また始まったか」
それだけだった。
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!」
敵側から悲鳴が飛んでくる。
「なんでお前たちはそんなに落ち着いてるんだぁぁぁぁぁ!?」
国王が叫ぶ。
真銀は、きょとんとした顔で答えた。
「慣れているからだが」
「慣れるなぁぁぁぁぁ!!」
「無理だよ」
千乃が楽しそうに笑う。
「私、千乃だよ?」
「それがなんなんだぁぁぁぁぁ!?」
「こういうことする人」
「説明になってない!!」
敵側は完全にパニック状態だった。
武器を構える者。
周囲を走り回る者。
何もない空間に向かって魔法を放つ者。
元の世界へ戻ろうとして空中を探る者。
しかし、どれだけ騒いでも、白い世界は微動だにしない。
そんな彼らを眺めながら、千乃は紅い瞳を細めた。
「さて」
鬼月姫が、一歩前へ出る。
「ここからが本番だよ」
敵の動きが止まった。
その瞬間、真銀たちも静かに身構える。
さっきまでの戦場とは違う。
殺せない。
壊せない。
逃げられない。
そして、この世界を知っているのは。
千乃たちだけだった。




