世界修正体の王!
黒い奔流が世界中へ広がったあとも、世界修正体の王はしばらくその場から動かなかった。
黒い外套が風に揺れる。
銀色の髪が静かに流れ、紅でも蒼でもない、色のない瞳が周囲を映していた。
「……」
表情はない。
驚きも。
怒りも。
喜びも。
何もない。
ただ、一定の速度で周囲を観測している。
「おい……」
元之介が恐る恐る声をかけた。
「お前、何か言えよ」
王は元之介へ視線を向けた。
「確認しました」
「何を?」
「世界の状態を」
淡々とした声だった。
「現在、世界に異常な存在が複数確認されています」
元之介が眉をひそめる。
「異常?」
「はい」
王の瞳に光が宿る。
それは感情ではない。
ただの処理開始を示すような、無機質な光だった。
「世界修正を開始します」
「……は?」
王は空を見上げる。
「修正対象を確認」
その視線の先にあるのは。
星氷神城。
千乃。
真銀。
ララ。
ライ。
アイシィ。
そして、メルトとライム。
さらに、そこに存在する世界そのもの。
「対象を特定しました」
王の声には何の感情もない。
「千羽千乃」
その名前を口にした瞬間、周囲の空気が変わった。
「夜坂真銀」
「ララ」
「ライ」
「アイシィ」
「メルト」
「ライム」
次々と名前を読み上げていく。
元之介が青ざめた。
「おい、待て」
「何でしょう」
「何をするつもりだ?」
「修正します」
「だから、何を!」
「バグを削除します」
元之介が絶句する。
王は続けた。
「この世界は、本来の構造から逸脱しています」
「……」
「千羽千乃を中心として、本来存在しない能力、存在しない因果、存在しない生命、存在しない関係性が多数発生しています」
淡々とした説明。
そこには悪意すらなかった。
「それらはバグです」
王が一歩、前へ進む。
「バグは修正します」
「待てよ!」
元之介が叫ぶ。
「千乃たちは俺たちの敵だぞ!」
「敵かどうかは関係ありません」
「は?」
「世界修正に必要な対象であるか。それだけです」
王は元之介を見る。
「あなたも対象になる可能性があります」
「……」
「あなたのダークマターによる世界への干渉も、正常な構造から逸脱しています」
「俺まで消すのかよ!?」
「必要であれば」
あまりにも淡々としていた。
ガーデスがエリシアの姿を眺めながら叫んでいる横で、ポピーがその会話を聞いて笑う。
「うわぁ……怖いね、この人」
ファンクルも珍しく黙って王を見ていた。
クローバーも口を挟めない。
国王だけが震える声で尋ねる。
「では……我々は?」
「現時点では修正対象ではありません」
「現時点では……?」
「状況によって変更されます」
それだけ告げると、王は背を向けた。
「待て!」
元之介が叫ぶ。
「どこへ行く!」
「対象の元へ向かいます」
「千乃たちのところか!」
「はい」
王は歩き出した。
黒い外套が揺れる。
銀色の髪が風に流れる。
その姿には、戦いへ向かう者の興奮もなければ、復讐に燃える者の怒りもない。
ただ世界を正常な状態へ戻す。
その目的だけが存在していた。
「千羽千乃」
王が小さく呟く。
「世界修正のため、削除します」
その言葉を最後に、王の姿が空間の向こうへ消えた。
残された元之介たちは、しばらく誰も動けなかった。
やがてガーデスが振り返る。
「……なあ」
「何?」
ポピーが答える。
「エリシア様たちを守るためなら、俺はあいつと戦うぞ」
その言葉に、ファンクルが目を細める。
「……そうですかぁ」
ポピーは楽しそうに笑った。
「なんだか、面白くなってきたね」
一方その頃。
星氷神城では。
千乃は何も知らずに、メルトの中で眠っている三人の子どもたちを眺めていた。
「よく寝てるね」
「ぷる……」
メルトが嬉しそうに揺れる。
真銀も隣から三人を見ていた。
「今日は色々あったからな」
「うん。帰ってきて安心したのかな」
千乃が微笑む。
ライムはその横でお座りしている。
「わん」
「ライムも偉いね」
千乃が頭を撫でる。
その穏やかな時間の裏側で。
世界修正体の王は、すでに星氷神城へ向かっていた。
目的は一つ。
千乃たちを倒すことではない。
憎むことでもない。
裁くことでもない。
ただ。
世界を修正する。
そのために、バグった存在を消す。
それだけだった。




