いいこと思いついたze
作戦会議は、相変わらず何一つ進んでいなかった。
「だから、俺が行けばいいんだって!」
ルーゲル・シュストー元之介が立ち上がる。
「お前は座っていろ!」
国王が怒鳴った。
「俺は神のミスで転生したんだぞ! 普通の人間とは違うんだ! ダークマターだって――」
「完全制御できていないだろうが!」
「できる!」
「さっき暴走しかけただろう!」
「してない!」
「した!」
「してない!」
「した!」
「……うるせぇな」
元之介の声が低くなった。
その瞬間。
彼の身体から、黒い霧のようなものが漏れ出した。
「……え?」
ファンクルがゆっくり顔を上げる。
元之介の瞳から光が消えていく。
ダークマターが、彼の身体を覆い始めた。
「おい、元之介!」
ガーデスが立ち上がる。
「止めろ!」
「俺は……俺は選ばれし存在なんだ……」
黒い霧が一気に膨れ上がった。
窓が震える。
床に亀裂が走る。
「俺の力を……俺の世界を……俺が変える……!」
元之介の身体が黒い光に包まれる。
「まずい!」
国王が叫んだ。
「全員、離れろ!」
次の瞬間。
ドォンッ!
凄まじい衝撃が王城を揺らした。
黒い奔流が部屋から飛び出し、空へ向かって伸びていく。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
ポピーが椅子から転げ落ちる。
「何これ、最高じゃん!」
「最高ではない!」
国王が叫ぶ。
「完全に暴走しているぞ!」
黒い奔流は王城を越え、さらに空へ伸びていく。
やがて世界全体を覆うほどに広がり始めた。
「元之介!」
ファンクルが珍しく大きな声を出した。
「それ以上は駄目ですよぉ!」
「止まらねぇ……!」
元之介自身も驚いている。
「なんだこれ……俺の力じゃ……」
ダークマターが勝手に動いていた。
世界各地で、黒い光が地面から噴き上がる。
そして。
かつて千乃たちと戦い、倒され、消えていった者たちの気配が次々と蘇っていく。
「な、何が起きている……?」
国王が震える声で呟いた。
「まさか……」
元之介が目を見開く。
「俺が倒したわけでもないのに……」
黒い光の中から、人影が現れた。
一人。
また一人。
さらに一人。
かつての敵たちが、次々とこの世界へ戻ってくる。
「……嘘だろ」
元之介が呟いた。
その中でも。
ひときわ強い気配が現れた。
黒い外套。
銀色の髪。
二十歳ほどに見える青年。
紅でも蒼でもない。
色そのものを持たないような瞳。
その青年が、静かに目を開いた。
「……」
周囲を見渡す。
世界修正体の王。
かつて世界そのものを修正する力を持っていた存在。
その姿を見た瞬間。
「…………」
ガーデスが固まった。
数秒後。
「…………え?」
さらに数秒。
「え、え、え?」
ガーデスの身体が震え始める。
「エリシア……?」
その先に、もう一人。
パイライトの姿まで現れた。
「…………」
ガーデスの目が見開かれる。
「エリシア様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
突然、ガーデスが叫んだ。
テントウムシのリュックが跳ねるほどの勢いで走り出す。
「生きてる! 生きてる! いや、復活してる! 最高! 最高すぎる!!」
「おい、ガーデス!」
「俺はこの日のために生きてきたんだ!」
「そんな日は予定していない!」
「エリシア様!俺です! ガーデスです!」
ガーデスは二人の前で跪いた。
「お帰りなさいませぇぇぇぇぇぇぇっ!」
その姿を見て、ポピーが腹を抱えて笑う。
「ちょっと、何あれ。面白すぎるんだけど」
ファンクルは復活した者たちを眺めながら、ぽつりと呟いた。
「……元之介さん」
「なんだよ……」
「これ、作戦会議どころじゃないですよぉ」
「……俺もそう思う」
元之介は青ざめた。
自分が何をしてしまったのか。
ようやく理解し始めていた。
世界中で、かつての敵たちが蘇っている。
しかも、その中には世界修正体の王までいる。
そしてガーデスはというと。
「エリシア様ぁぁぁ……!」
完全に会議から脱落していた。
国王は頭を抱える。
「……私はただ、千乃への対策を考えたかっただけなのだが」
誰も答えなかった。
なぜなら。
今この瞬間、ヴァルディア王国の作戦会議は。
世界規模の敵復活騒動へと変わってしまったのだから。




