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うーん、困った

 ヴァルディア王国。


 千乃たちが帰還した、その日の夜。


 王城の一室に、数人の男女が集まっていた。


 中央に座るのは、ヴァルディア王国国王。


 その周囲には、今回の一件に関わった者たちが並んでいる。


 ファンクル・アーシュル。


 クォーツ・ポピー。


 ルーゲル・シュストー元之介。


 ガーデス・テントウ。


 そしてクローバー・チーフ。


 誰も口を開かない。


 部屋の空気は重かった。


 国王が机を強く叩く。


「……失敗した」


「はい」


 おっとりした声で答えたのはファンクルだった。


 彼女は椅子に座ったまま、どこか眠そうに瞬きをしている。


「三人とも……奪い返されちゃいましたねぇ」


「他人事のように言うな!」


 国王が怒鳴る。


 ファンクルは少しだけ肩を揺らした。


「でも、二回目は成功したんですよぉ?」


「その二回目の成功も、結局は全部台無しになっただろう!」


「そうですねぇ」


「そこで納得するな!」


 ファンクルは困ったように笑った。


 彼女には、以前にも誘拐を試みたことがある。


 そのときは失敗した。


 今回は二度目。


 今度こそ成功したと思っていた。


 ところが結果は、千乃が王城へ乗り込み、二百回以上にわたって


「うちの子たちを返してください」


 と言い続け、大剣で王城を破壊しかけ、最後には三人を連れて帰っていった。


 国王は頭を抱えた。


「そもそも、なぜあの女があそこまで強いんだ!」


「千乃さんですかぁ?」


「そうだ!」


「前に会ったときより……なんだか強くなってませんでした?」


「そこが問題なのだ!」


 クォーツ・ポピーが楽しそうに笑う。


「でも面白かったじゃん。王様、ずっと泣きそうな顔してたよ?」


「面白くない!」


「私は面白かったけど」


 ポピーは頬杖をつきながら、くすくす笑った。


「他人の不幸って、どうしてあんなに楽しいんだろうねぇ。すごく美味しそう…」


「貴様は少し黙れ!」


「えー」


 その横では、ガーデス・テントウがテントウムシのリュックを背負ったまま腕を組んでいた。


「だったら次は、もっと強いやつを操ればいいだろ!俺何もしてないけどね!!へへっ」


「無理だ」


 国王が即答する。


「お前の洗脳は、自分より強い相手には通じないのだろう?」


「うっ……」


「しかも一人しか操れない」


「でもルーゲルと違って、俺はダークマターは完全制御できる!」


 ガーデスが胸を張る。


「だから何だ!」


「……何だろ」


「自分で分かっていないのか!」


 会議室に怒声が響く。


 その様子を見ていたルーゲル・シュストー元之介が、椅子から立ち上がった。


「フッ……」


 全員の視線が集まる。


「だったら俺が出るしかないな」


「何をするつもりだ?」


「俺は神のミスでこの世界に転生した選ばれし存在。そしてダークヒーローに憧れ、ダークマターをその身に取り込んだ男……」


「長い」


「まだ自己紹介の途中なんだが!?」


 ルーゲルは咳払いする。


「俺なら、あいつらを倒せる」


「根拠は?」


「雰囲気だ」


「帰れ」


「ひどくない!?」


 国王が額を押さえる。


 すると今度は、クローバー・チーフが自信満々に立ち上がった。


「ならば僕の能力を使えばいい」


「奪って手に入れる《プランダー》か」


「そう。相手の手に触れれば、その恋心を僕へ向けさせることができる」


 チーフは自信満々に胸を張る。


「どんな相手でも僕を好きになる」


「全力で嫌がられたら無効なんだろう?」


「……まあ、そうだが」


「だったら千乃には通じないだろうな」


「なぜだ!?」


「お前が触ろうとした時点で、あの女が何をすると思う?」


「……」


 チーフが黙る。


 全員の脳裏に、大剣を肩へ担いで笑っている千乃の姿が浮かんだ。


「……やめておこう」


「賢明だな」


 国王が深々と息を吐く。


 しばらく沈黙が続いた。


 やがてファンクルが、のんびりと口を開いた。


「じゃあ……もう一度、誘拐します?」


「貴様は一度失敗しているだろう!」


「二回目は成功しましたよぉ」


「だから、その成功を奪還されたのだ!」


「三回目なら……」


「成功する保証は!?」


「ありませんねぇ」


「なら言うな!」


 ファンクルは相変わらずおっとりしている。


 その姿を見て、ポピーが笑い出した。


「ふふっ。これ、作戦会議っていうより反省会じゃない?」


「誰のせいだと思っている!」


 国王が机を叩く。


「全員だ!」


 会議室が静まり返る。


「誘拐は失敗! 洗脳も無理! ダークマターも制御できるだけで千乃には勝てない! 恋心を奪う能力も相手が嫌がれば終わり! そして私の王城は大剣で滅茶苦茶だ!」


 国王の怒声が部屋中に響いた。


「挙げ句の果てに、あの女は笑顔で帰っていったんだぞ!」


「まあ……」


 ファンクルが小さく首を傾げる。


「三人が無事だったのは、よかったんじゃないですかぁ?」


「今そこを評価する話ではない!」


「でも……」


 ファンクルは窓の外を見る。


「次は、もっと慎重にしないといけませんねぇ」


 ポピーが楽しそうに笑った。


「うん。次はもっと面白くなりそう」


 ガーデスも目を輝かせる。


「今度こそ俺が――」


「絶対に勝手に動くな!」


 国王の怒鳴り声が再び響いた。


 その夜。


 ヴァルディア王国では、千乃たちへの対策を考えるための作戦会議が続いた。


 ただし。


 会議が始まってから一時間経っても。


「千乃をどうするか」


という話題しか決まらなかった。

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