お許しください!!
王が三人を連れてきた者を呼びつけると、しばらくして大広間の扉が勢いよく開いた。
「お、お呼びでしょうか、陛下……」
入ってきたのは、三人を連れてきた兵士だった。
兵士は千乃を見るなり顔を真っ青にし、メルトに包まれて眠っている三人を見て、さらに青ざめる。
「……あ」
千乃はにっこりと笑った。
「こんにちは」
「ひっ……!」
兵士の膝が震え始める。
千乃は大剣を肩に担いだまま、穏やかな声で尋ねた。
「三人を連れてきたのは、あなたですか?」
「は、はい……!」
「そのとき、乱暴に扱ったりしました?」
「そ、それは……」
兵士は必死に首を振ろうとしたが、千乃の横に座っているライムと目が合った。
黒柴が、じっと見ている。
「わん」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
兵士はその場にへたり込んだ。
千乃が首を傾げる。
「ライム、何もしてないよ?」
「わ、分かっています! 分かっていますが怖いんです!」
「可愛いのに」
「可愛いですけど怖いんです!」
ライムは褒められたと思ったのか、尻尾をぶんぶん振った。そのたびに大広間の空気が重く揺れる。
兵士は涙目になりながら、床へ額をつけた。
「申し訳ありませんでした!」
「……え?」
「本当に申し訳ありません! 急かしてしまいました! 少し強く腕を引いてしまったこともあります!お許しください!」
「ちょ、ちょっと待って」
千乃が慌てて大剣を肩から下ろした。
「そこまで謝らなくても……」
「無理です!」
兵士は泣きながら叫んだ。
「その黒柴が怖すぎます!」
「ライムは何もしてないよ!」
「それが一番怖いんです!」
真銀が小さく息を吐く。
「千乃。もう十分だろう」
「うん」
千乃はメルトへ視線を向けた。
透明な身体の中では、レオンとシオンとクオンの三人が寄り添うようにして眠っている。
三人ともすっかり安心したのか、静かな寝息を立てていた。
「……寝ちゃったね」
「ぷる……」
メルトの身体が少しだけ揺れる。
千乃はその姿を見て、表情を柔らかくした。
「メルト、そのままお願いね。三人をお城まで連れて帰ろう」
「ぷる!」
メルトの身体の上に浮かんでいた巨大なおこマークが消え、代わりに小さな安心したような形が浮かんだ。
「じゃあ、帰ろうか」
千乃は大剣を消すと、王へ向き直った。
「今日は三人を返してくれて、ありがとうございました」
「……ああ」
王は疲れ切った顔で頷く。
「また会うことになるだろうが会いたくない」
「え?」
「いや、何でもない」
千乃は気にせず笑った。
「では、失礼しますね」
千乃が手を前へ伸ばす。
真紅の光が集まり、空間が渦を巻くように開いていく。
「転移門」
目の前に真紅の渦が現れ、その向こう側には星氷神城の景色が見えた。
「真銀、ララ、ライ、アイシィ、メルト。行こう」
「うん!」
「了解」
「はい」
「分かりました、主!」
千乃がメルトを抱え上げる。
その中では、三人がまだ眠ったままだ。
「おやすみ。もう大丈夫だからね」
千乃が優しく声をかけると、クオンが眠ったまま小さく身じろぎした。
「……お姉ちゃん……」
「うん。ここにいるよ」
千乃は微笑み、メルトと一緒にゲートをくぐる。
真銀たちも続いていき、最後にライムが千乃の横をててて、と歩いていった。
「ライム、待て」
「わん」
ぴたり。
ライムが止まる。
「よし。おいで」
「わん!」
ライムが千乃の横へ戻っていく。
その姿を見届けた真銀が苦笑した。
「最後まで普通の犬だな」
「可愛いでしょ?」
「……まあな」
全員がゲートの向こうへ消える。
千乃は最後に王へ手を振った。
「それじゃあ、さようなら!」
「……もう来るな……」
王の呟きは、誰にも届かなかった。
真紅のゲートが静かに閉じる。
大広間に残された王と兵士たちは、しばらく無言で立ち尽くしていた。
やがて兵士が、震える声で呟く。
「……陛下」
「何だ」
「本当に……帰ったんですよね?」
「……ああ」
「よかった……」
王も深く息を吐いた。
ようやく終わった。
そう思った、その瞬間。
「わん」
遠く離れたはずの場所から聞こえたような気がして、王と兵士は同時に飛び上がった。




