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見えちゃったんだもん 千乃ver.

 数日後。


 依頼を終えた帰り道。


「今日は結構大変だったね。」


「修正体が出なかっただけマシだ。」


 真銀はそう言いながら宿へ戻る。


 途中、ギルドでもらった書類を整理するため、カバンを開いた。


 書類をしまい、何事もなく歩き出す。


 そのとき。


 一冊の小さなノートが、音もなく地面へ落ちた。


 本人は気づかない。


「じゃあ、また明日。」


「うん、おやすみ。」


 二人は別々の部屋へ入っていった。


 宿の廊下には、一冊のノートだけが残されていた。


---


「あれ?」


 少しして部屋を出た千乃は、そのノートを見つける。


「真銀の……?」


 拾い上げる。


 表紙には何も書かれていない。


「届けてあげよ。」


 そう思った瞬間。


 ページがふわりと開いた。


 風だったのか。


 偶然だったのか。


 目に飛び込んできた文字は、一行目だった。


『今日もまた戦った。』


「あ……。」


 閉じようとする。


 でも。


 次の一文に、自分の名前があった。


『千乃はそのズレの中心にいる。』


「……。」


「ご、ごめん。」


 小さく謝りながら、ほんの少しだけ視線が動く。


---


『あいつの魔力は真紅だ。』


『止めた瞬間に全部壊れるタイプの力だ。』


『だから俺は止めない。』


『止めたらあいつが壊れるから止めない。』


 千乃は目を丸くした。


「……そんなこと。」


 考えていたんだ。


 何も言わないのに。


 ずっと。


---


 ページをめくる。


『あいつは戦いのたびに少しずつ慣れてる顔になる。』


『それが少しだけ怖い。』


 その一文に、胸が締めつけられる。


「……ごめん。」


 思わず漏れた言葉だった。


 自分では隠せているつもりだった。


 平気なふりをしていた。


 でも。


 ちゃんと見られていた。


---


 さらに目に入る。


『今の俺は、あいつがいる前提で動いてる。』


『それがなくなったら、多分うまく歩けない。』


 千乃の手が止まる。


 その先は読まなかった。


 静かにノートを閉じる。


「……だめ。」


「これ以上は。」


 小さく息を吐き、ノートを抱えた。


---


 翌朝。


「真銀。」


「ん?」


「はい。」


 千乃はノートを差し出す。


「昨日、落としてたよ。」


「……え?」


 真銀は慌てて受け取る。


「落としてたのか、これ。」


 千乃は視線を泳がせる。


「その……。」


「少しだけ。」


「読んだ?」


「……うん。」


 二人の間に沈黙が流れる。


 真銀は頭をかいた。


「どこまで?」


「私の名前が出てきたところ……くらい。」


「……そうか。」


 少しだけ安心したように息をつく。


 千乃は苦笑した。


「ごめんね。」


「本当は読まないつもりだったんだけど……。」


「いや。」


 真銀は首を振る。


「俺が落としたんだから。」


 その言葉に、千乃は少しだけ笑う。


「お互い様、だね。」


「ああ。」


 少し照れくさそうに笑い合う。


 前に千乃の日記を読んでしまったときより、ずっと穏やかな空気だった。


 二人とも。


 相手の心を少しだけ知ってしまった。


 でも、それを口にはしない。


 今はまだ、その距離が心地よかった。

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