表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/94

仕方ねぇだろ?! 真銀ver.

 ギルドで依頼を終えた帰り道。


「今日は疲れたぁ……。」


 千乃は大きく伸びをする。


「世界修正体が来なかっただけ平和だったな。」


 真銀が苦笑する。


「そうだね。」


 二人は並んで宿へ向かう。


 千乃は歩きながら、いつもの小さな日記帳を取り出した。


「今日のこと忘れないうちに書いとこうかな。」


「歩きながら書くなよ。」


「大丈夫、大丈夫。」


 そう言って数行だけ書き込み、宿の前で日記帳をカバンへしまう。


「じゃあ、おやすみ!」


「おう。また明日。」


 二人はそれぞれの部屋へ戻っていった。


 その数秒後。


 宿の入口に、小さな日記帳が一冊、ぽつんと落ちていた。


 しまったつもりで、しまえていなかった。


 千乃は、そのことに気づいていない。


---


「……ん?」


 少し遅れて戻ってきた真銀が足を止める。


 足元に見覚えのある表紙。


「これ……。」


 拾い上げる。


「千乃のか。」


 すぐ返そうと思った。


 だが、表紙が少しだけ開いていた。


 風が吹く。


 ページがぱらりとめくれる。


 そこに目が止まってしまった。


『今日もまた、世界修正体が来た。』


「……。」


 閉じようとした。


 本当は閉じるつもりだった。


 でも。


 自分の名前が見えてしまった。


『真銀は今日も無茶をした。』


「……悪い。」


 誰に言うでもなく、小さくつぶやく。


 そして、ほんの少しだけ続きを読んでしまった。


---


『私の魔力は強いけど、止まると全部壊れる。』


『だから、隣で動いてくれる人が必要なんだと思う。』


 真銀は黙った。


 知らなかった。


 千乃はいつも笑っていたから。


 あんな力を持っていても、不安なんてないと思っていた。


 違った。


 ちゃんと怖がっていた。


---


『真銀はたぶん、それを分かってやっている。』


『そういうところが、ずるい。』


 思わず苦笑する。


「全然分かってなかったよ。」


 小さくつぶやいた。


---


 さらにページをめくる。


『隣に真銀がいる状況が、好きなんだと思う。』


 その一文で、真銀の指が止まる。


「……。」


 胸が少しだけ熱くなる。


 でも、その続きを読もうとはしなかった。


 ゆっくりと日記を閉じる。


「ここから先は。」


「読んだら駄目だ。」


 それだけは分かった。


---


 翌朝。


「おはよー!」


 いつも通り元気な千乃が部屋から出てくる。


 真銀は何も言わず、日記帳を差し出した。


「昨日、落としてた。」


「えっ?」


 千乃は慌てて受け取る。


「あぁーっ! 本当だ!」


 顔色が変わる。


「……。」


「……。」


 二人の間に沈黙が流れる。


 千乃がおそるおそる聞く。


「もしかして……。」


「……ちょっとだけ読んだ。」


 その瞬間。


 千乃の顔が一気に真っ赤になった。


「ちょ、ちょっとってどこまで!?」


「最初のほう。」


「最初ってどこ!?」


「俺の名前が出てきたところ。」


「それ十分だから!」


 千乃は頭を抱えてしゃがみ込む。


「うわぁぁぁ……!」


「ごめん。」


「いや、落とした私が悪いんだけど……!」


 耳まで真っ赤になりながら日記を抱きしめる。


「忘れて!」


「努力はする。」


「努力じゃなくて忘れて!」


 真銀は少し笑った。


「安心しろ。」


「誰にも言わない。」


 その言葉に、千乃は少しだけ表情を緩める。


「……ありがとう。」


「それと。」


「ん?」


「これからも隣にいる。」


 その一言だけ残して、真銀は歩き出した。


 千乃はその背中を見つめたまま動けなかった。


「……そういうところなんだよ。」


 小さくつぶやき、また顔を真っ赤にする。


 その日の日記には、一行だけ増えていた。


『今日は人生で一番恥ずかしかった。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ