仕方ねぇだろ?! 真銀ver.
ギルドで依頼を終えた帰り道。
「今日は疲れたぁ……。」
千乃は大きく伸びをする。
「世界修正体が来なかっただけ平和だったな。」
真銀が苦笑する。
「そうだね。」
二人は並んで宿へ向かう。
千乃は歩きながら、いつもの小さな日記帳を取り出した。
「今日のこと忘れないうちに書いとこうかな。」
「歩きながら書くなよ。」
「大丈夫、大丈夫。」
そう言って数行だけ書き込み、宿の前で日記帳をカバンへしまう。
「じゃあ、おやすみ!」
「おう。また明日。」
二人はそれぞれの部屋へ戻っていった。
その数秒後。
宿の入口に、小さな日記帳が一冊、ぽつんと落ちていた。
しまったつもりで、しまえていなかった。
千乃は、そのことに気づいていない。
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「……ん?」
少し遅れて戻ってきた真銀が足を止める。
足元に見覚えのある表紙。
「これ……。」
拾い上げる。
「千乃のか。」
すぐ返そうと思った。
だが、表紙が少しだけ開いていた。
風が吹く。
ページがぱらりとめくれる。
そこに目が止まってしまった。
『今日もまた、世界修正体が来た。』
「……。」
閉じようとした。
本当は閉じるつもりだった。
でも。
自分の名前が見えてしまった。
『真銀は今日も無茶をした。』
「……悪い。」
誰に言うでもなく、小さくつぶやく。
そして、ほんの少しだけ続きを読んでしまった。
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『私の魔力は強いけど、止まると全部壊れる。』
『だから、隣で動いてくれる人が必要なんだと思う。』
真銀は黙った。
知らなかった。
千乃はいつも笑っていたから。
あんな力を持っていても、不安なんてないと思っていた。
違った。
ちゃんと怖がっていた。
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『真銀はたぶん、それを分かってやっている。』
『そういうところが、ずるい。』
思わず苦笑する。
「全然分かってなかったよ。」
小さくつぶやいた。
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さらにページをめくる。
『隣に真銀がいる状況が、好きなんだと思う。』
その一文で、真銀の指が止まる。
「……。」
胸が少しだけ熱くなる。
でも、その続きを読もうとはしなかった。
ゆっくりと日記を閉じる。
「ここから先は。」
「読んだら駄目だ。」
それだけは分かった。
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翌朝。
「おはよー!」
いつも通り元気な千乃が部屋から出てくる。
真銀は何も言わず、日記帳を差し出した。
「昨日、落としてた。」
「えっ?」
千乃は慌てて受け取る。
「あぁーっ! 本当だ!」
顔色が変わる。
「……。」
「……。」
二人の間に沈黙が流れる。
千乃がおそるおそる聞く。
「もしかして……。」
「……ちょっとだけ読んだ。」
その瞬間。
千乃の顔が一気に真っ赤になった。
「ちょ、ちょっとってどこまで!?」
「最初のほう。」
「最初ってどこ!?」
「俺の名前が出てきたところ。」
「それ十分だから!」
千乃は頭を抱えてしゃがみ込む。
「うわぁぁぁ……!」
「ごめん。」
「いや、落とした私が悪いんだけど……!」
耳まで真っ赤になりながら日記を抱きしめる。
「忘れて!」
「努力はする。」
「努力じゃなくて忘れて!」
真銀は少し笑った。
「安心しろ。」
「誰にも言わない。」
その言葉に、千乃は少しだけ表情を緩める。
「……ありがとう。」
「それと。」
「ん?」
「これからも隣にいる。」
その一言だけ残して、真銀は歩き出した。
千乃はその背中を見つめたまま動けなかった。
「……そういうところなんだよ。」
小さくつぶやき、また顔を真っ赤にする。
その日の日記には、一行だけ増えていた。
『今日は人生で一番恥ずかしかった。』




