どういうことでしょうか?
王が側近へ命じると、しばらくして大広間の扉が開いた。
連れてこられた三人の姿を見た瞬間、千乃の笑顔が消えた。
先頭にいたクオンは、自分の足で歩いてはいるものの、服には埃がつき、頬には小さな擦り傷がいくつも残っている。
後ろのレオンとシオンも同じだった。
二人とも大きな怪我ではない。
それでも、腕や頬には赤くなった跡があり、乱暴に扱われたことだけは見れば分かった。
「……」
千乃の手に握られていた透明な真紅の大剣がゆっくりと下がる。
真銀も何も言わなかった。ただ、その青い瞳だけが三人の姿を追っていた。
クオンが千乃を見つける。
その瞬間、青紫色の瞳が大きく見開かれた。
「……お姉ちゃん」
小さな声だった。
千乃の表情が一瞬で変わる。
「クオン!」
大剣をその場に置き、千乃が駆け寄る。クオンの前に膝をつくと、傷のある頬へそっと手を添えた。
「痛かった?」
「……ちょっとだけ」
クオンはそう答えてから、千乃の服をぎゅっと掴んだ。
「お姉ちゃん……迎えに来てくれた」
「うん。迎えに来たよ」
千乃は優しく抱きしめた。
「遅くなってごめんね」
「ううん……」
クオンは千乃の胸元に顔を埋める。
「来てくれたから、いい」
その言葉を聞いた千乃は目を閉じた。抱きしめる腕に少しだけ力が入る。
「……うん」
その横から、レオンとシオンも駆け寄ってきた。
「「お母さん!」」
二人の声が重なる。
「レオン! シオン!」
千乃が顔を上げると、双子は一気にその胸へ飛び込んだ。
千乃は二人をまとめて抱きしめ、三人の頭を順番に撫でていく。
「怖かった?」
「ちょっとだけ。でも、シオンがいたから大丈夫だった」
「私も、レオンがいたから大丈夫だったよ」
二人はそう言って、お互いを見る。
千乃はその様子を見て、ようやく少しだけ安心したように息を吐いた。
「そっか……」
真銀も二人の前にしゃがみ込む。
「怪我を見せてくれ」
「お父さん」
レオンが真銀へ手を伸ばす。
真銀はその手を取った。
「痛むか?」
「ちょっとだけ」
「そうか」
真銀は優しく頭を撫でる。
「よく頑張ったな」
シオンも真銀の服を掴んだ。
「お父さん、迎えに来てくれた?」
「ああ」
真銀は迷いなく答えた。
「必ず迎えに来るつもりだった」
その言葉を聞いた二人の表情が少し緩む。
千乃はそんな四人を見つめたあと、ゆっくり立ち上がった。
そして。
王の方を向いた。
「……王様」
「な、なんだ」
さっきまでの笑顔はない。
声も静かだった。
「この子たちを連れてきた人は、誰ですか?」
「それは……」
「答えてください」
王が言葉を詰まらせる。
千乃の足元で、真紅の魔力が静かに揺れた。
「私、二百五十三回もお願いしましたよね」
「……」
「うちの子たちを返してくださいって」
千乃は笑っていない。
「それなのに、返ってきた子たちが怪我をしている」
真銀が千乃の隣に立つ。
「俺も聞きたい」
低い声だった。
「どうしてこうなった」
「……連れてくる際に、少々手荒に――」
その言葉を聞いた瞬間。
千乃の周囲から、真紅の魔力が一気に噴き上がった。
「少々?」
王が固まる。
千乃は置いていた大剣を拾い上げると、片手で持ち上げた。
「なるほど」
笑顔だった。
今度は。
とても綺麗な笑顔だった。
「では、二百五十四回目ですね」
大剣を肩へ担ぐ。
「うちの子たちを返してください」
「もう返しただろう!」
「はい」
千乃は頷いた。
「だから次は」
真紅の光が大剣の刀身を走る。
「この子たちにつけた傷について、お話ししましょうか」
真銀も一歩前へ出る。
「俺も参加する」
王が後ずさる。
その後ろでは、ララがにっこり笑っていた。
「主、まだ交渉続けるの?」
「うん」
千乃は笑顔で答える。
「今度は、別の内容でね」
メルトの身体がぷるんと揺れた。
頭上には。
今までで一番大きなおこマークが浮かんでいた。




