何回目だよっ!?
その後。
交渉は。
続いた。
「十九回目ですね。うちの子たちを返してください」
「断る!」
「二十回目ですね。うちの子たちを返してください」
「だから断る!」
「二十一回目ですね。うちの子たちを返してください」
「話を聞け!」
「二十二回目ですね。うちの子たちを返してください」
「聞いている!」
「二十三回目ですね。うちの子たちを返してください」
「ならば帰れ!」
「二十四回目ですね。うちの子たちを返してください」
「帰れと言っている!」
それでも千乃は笑顔だった。
右手には透明な真紅の大剣。
時々、ブンッと振って。
そのまま肩へ担ぐ。
「こんなにも”優しく”お願いしてるんですけどねぇ」
「それのどこが優しい!?」
王の叫び声が大広間に響き渡った。
そして、”優しく”お願いするという名の脅し交渉が始まった。
「三十回目ですね。うちの子たちを返してください」
「断る!」
「四十回目ですね。うちの子たちを返してください」
「断る!」
「五十回目ですね。うちの子たちを返してください」
「断る!」
「六十回目ですね。うちの子たちを返してください」
「だから断ると言っている!」
千乃は笑顔。
真銀は無言。
ララは途中から数えるのをやめた。
ライは途中から王を見る目が冷たくなった。
アイシィは何度目か分からなくなった頃には、静かに冷気を漂わせていた。
メルトはというと。
最初から最後まで、おこマークを出しっぱなしだった。
「七十回目ですね」
「……断る」
「八十回目ですね」
「……断る」
「九十回目ですね」
「…………断る」
「百回目ですね」
千乃は満面の笑顔で、大剣をブンッと振った。
そのまま肩に担ぐ。
「うちの子たちを返してください」
「…………」
王は沈黙した。
「王様?」
「……断る」
「百一回目ですね」
「まだ続くのか!?」
「はい」
即答だった。
「百二回目ですね。うちの子たちを返してください」
「断る!」
「百三回目ですね」
「断る!」
「百四回目ですね」
「断る!」
「百五回目ですね」
「断る!」
そこから先は。
もはや会話ですらなかった。
「百十回目ですね」
「断る!」
「百二十回目ですね」
「断る!」
「百三十回目ですね」
「断る!」
「百四十回目ですね」
「断る!」
「百五十回目ですね」
「断る!」
「百六十回目ですね」
「断る!」
「百七十回目ですね」
「断る!」
千乃は一切疲れた様子を見せない。
むしろ。
どんどん笑顔になっていく。
そして大剣をブンッ。
肩へ担ぐ。
「こんなにも“優しく”お願いしてるんですけどねぇ」
「その台詞、もう何十回聞いたと思っている!?」
「百七十一回目ですね」
「そこじゃない!!」
真銀がとうとう目を閉じた。
「……千乃」
「なに?」
「俺たちは、いつまでこれを続ける?」
「返してもらえるまで?」
「そうか」
真銀は目を開けた。
「なら、付き合う」
「真銀……!」
千乃の笑顔がさらに明るくなる。
「じゃあ、一緒にお願いしよう!」
「分かった」
二人が並んだ。
千乃は大剣を肩に担ぎ。
真銀は静かに王を見る。
「百八十回目ですね」
「うちの子たちを返せ」
「百八十一回目ですね」
「うちの子たちを返してください」
「百八十二回目ですね」
「うちの子たちを返せ」
「百八十三回目ですね」
「うちの子たちを返してください」
「百九十回目ですね」
「うちの子たちを返せ」
「二百回目ですね」
「うちの子たちを返してください」
「…………」
王は玉座に沈み込んだ。
そして。
「……なぜ」
ぽつりと呟く。
「なぜ、二百回も同じことを言っているのに、誰も帰ろうとしない……」
千乃は笑顔のまま答えた。
「だって」
大剣をブンッと振る。
そのまま肩へ担ぐ。
「まだ返してもらってませんから」
「…………」
「二百一回目ですね」
王は天井を見上げた。
「……誰か、この子たちを止めてくれ」
側近たちは全員。
無言で首を横に振った。
無理だった。
千乃は笑顔。
真銀は本気。
ララたちは完全に臨戦態勢。
メルトは、おこマーク。
そして。
「二百二回目ですね」
千乃が一歩前へ出る。
「うちの子たちを返してください」
王は。
まだ。
「断る」
と言った。
その瞬間。
千乃の笑顔が。
ほんの少しだけ深くなった。




