こんなにも”優しく”お願いしてるんですよ?
大広間には、もはや誰も口を挟めない空気が漂っていた。
千乃は相変わらず笑顔だった。
右手には透明な真紅の大剣。
その刀身には、赤い光がゆっくりと流れている。
「十三回目ですね」
「……」
王は何も言わなかった。
「うちの子たちを返してください」
「…………断る」
「十四回目ですね」
「まだ続くのか!?」
「もちろんです」
千乃はにこにこと笑っている。
「だって、まだ返してもらえてませんから」
「だから返さないと言っている!」
「そうですか」
千乃は少しだけ首を傾げた。
そして、大剣を片手で持ち上げる。
ブンッ!!
真紅の刀身が空気を切り裂き、凄まじい風圧が大広間を駆け抜けた。
王の髪がぶわっと舞い上がる。
側近たちも思わず顔を覆う。
そんな中。
千乃は何事もなかったように、大剣を肩へ担いだ。
「こんなにも“優しく”お願いしてるんですけどねぇ」
にっこり。
「うちの子たちを返してください」
「…………」
王は絶句した。
真銀が隣で腕を組む。
「千乃」
「なに?」
「それを優しいと言うのは、少し無理があると思う」
「え?」
千乃が本気で驚く。
「だって、まだ一度も斬ってないよ?」
「基準がおかしい」
ライが小さく頷く。
「俺もそう思う」
「私もです……」
アイシィも苦笑する。
「千乃さんの『優しい』の基準は、少々物騒ですね」
「えー……」
千乃は不満そうに頬を膨らませる。
その横で、メルトが身体をぷくっと膨らませた。
頭上には、大きな、おこマーク。
「ぷるるるる……!」
「メルトまで怒ってる」
ララが笑う。
「メルト、主と同じ顔してる!」
「ぷる!」
メルトが胸を張る。
王はそんな一同を見て、とうとう額を押さえた。
「……そもそも、なぜそこまで三人に執着する」
千乃の笑顔が少しだけ変わった。
「執着?」
「ああ。三人とも我が国にいる。衣食住も与えている。傷つけてもいない」
「そうですか」
千乃は大剣を肩に担いだまま、静かに王を見る。
「じゃあ、質問しますね」
「……なんだ」
「レオンは?」
「……」
「シオンは?」
「……」
「クオンは?」
王は答えない。
千乃の笑顔が消えた。
「三人とも、私たちの家族です」
静かな声だった。
「勝手に連れていって、勝手に売って、勝手に買って。それで『衣食住を与えているから問題ない』って言われても、私は納得できません」
真銀も一歩前へ出る。
「俺たちは三人を返せと言っている」
「……」
「これ以上、理由を増やす必要はない」
王が口を開く。
「しかし――」
「十五回目ですね」
千乃が笑顔に戻った。
「うちの子たちを返してください」
「話を遮るな!」
「十六回目ですね」
「だから!」
「十七回目ですね」
「数える意味があるのか!?」
「ありますよ」
千乃は大剣を肩に担いだまま、にっこり笑う。
「返してくれるまで数えますから」
「…………」
「十八回目ですね」
王の顔が引きつる。
「うちの子たちを返してください」
千乃の背後で。
ララが拳を握った。
ライが静かに構える。
アイシィの周囲に冷気が集まる。
メルトの身体には、おこマーク。
そして真銀も。
完全に戦闘態勢だった。
なのに。
千乃だけは。
最後まで——笑顔だった。




