◯回目ですね。
ヴァルディア王国。
王城の大広間に、異様な沈黙が広がっていた。
玉座に座るヴァルディア王国王は、目の前に立つ千乃たちを見つめている。
その隣には真銀。
後ろにはララ、ライ、アイシィ、そしてメルト。
そして千乃の右手には。
透明な真紅の大剣が握られていた。
刀身は透き通っている。
なのに、内部には真紅の光が脈打つように流れていた。
どう見ても。
交渉に来た人間が持ってくる物ではない。
王もそれは分かっているらしく、少し引きつった顔をしていた。
「……千乃殿」
「はい」
千乃は満面の笑顔で答えた。
「本日はお話し合いに来ました」
にこっ。
笑顔。
大剣。
王は数秒黙った。
「……その剣は?」
「これですか?」
千乃が透明な真紅の大剣を見る。
「護身用です」
「…………」
「怖くないですよ?」
笑顔。
大剣。
真紅の光。
王は視線を逸らした。
「いや、十分怖いのだが……」
「そうですか?」
千乃は首を傾げる。
そして、少しだけ姿勢を正した。
「では、本題に入りますね」
笑顔のまま。
「一回目です。うちの子たちを返してください」
大広間が静まり返る。
王は玉座に座ったまま、千乃を見る。
「……三人のことか」
「はい」
「彼らは現在、我が国で保護している」
「保護?」
千乃の笑顔が少しだけ深くなった。
「そうですか」
右手の大剣が。
ズン。
床に突き立てられた。
石床に亀裂が走る。
「では、二回目ですね」
千乃は笑っていた。
「うちの子たちを返してください」
「……」
「返してくれますよね?」
王は黙っている。
千乃は笑顔のまま待っている。
真銀が隣で口を開いた。
「王よ。これは忠告ではない」
「……」
「返してほしいと言っているんだ」
声が低い。
普段の真銀からは考えられないほど、怒気が滲んでいる。
「三人は俺たちの家族だ。何の権利があって、お前たちは連れていった?」
「王として、必要な――」
「必要?」
真銀の目が鋭くなる。
「本人たちの意思も聞かずに?」
「それは……」
「俺たちの許可もなく?」
「……」
「それを保護と呼ぶのか?」
王は答えられない。
千乃はそんな真銀を横目で見た。
「真銀」
「ああ」
「怒ってるね」
「千乃もだろう」
「うん」
千乃はにっこり笑った。
「ものすごく怒ってるよ」
笑顔なのに。
怖い。
王の側近たちが、じりっと後退する。
その時、メルトが千乃の足元から前へ出た。
ててててて。
頭上に。
特大の、おこマーク。
「ぷるるるる……!」
「メルトも怒ってるみたいですね」
千乃が微笑む。
「でも、私は話し合いをしたいんです」
王が恐る恐る尋ねる。
「……まだ話し合うつもりなのか?」
「もちろんです」
千乃は大剣を肩に担いだ。
「三回目ですね」
笑顔。
「うちの子たちを返してください」
「断る」
王が言った。
その瞬間。
千乃の笑顔が。
さらに明るくなった。
「そうですか」
大剣の刀身から、真紅の光が一気に溢れ出す。
王城の床が震える。
窓がびりびりと揺れる。
ララが目を輝かせた。
「主、笑ってる!」
「うん」
ライが冷静に答える。
「笑顔だな」
「でも怒ってるよね?」
アイシィが尋ねる。
「怒っている」
真銀が即答した。
「ものすごく」
千乃は王を見つめた。
「では、四回目ですね」
「まだあるのか!?」
王が思わず叫ぶ。
「もちろんありますよ」
千乃はにこにこと答える。
「うちの子たちを返してください」
「だから断ると言って――」
ズドンッ!!
千乃が大剣を床へ叩きつけた。
王座の前の床が大きく割れる。
「五回目ですね」
「回数が増えるたびに物理的になるのは何なのだ!?」
「交渉です」
「それは交渉ではない!」
「そうですか?」
千乃は本気で不思議そうな顔をした。
「お願いしてるだけですよ?」
「剣を持って!?」
「はい」
「床を割って!?」
「はい」
「笑顔で!?」
「はい」
千乃は満面の笑みを浮かべた。
「うちの子たちを返してください」
「…………」
王は頭を抱えた。
「……返さぬ」
「六回目ですね」
「数えるな!」
千乃の大剣が、ゆっくりと持ち上がる。
真銀も一歩前へ出た。
「王」
「な、なんだ」
「俺からも一つだけ言わせてもらう」
真銀の瞳が冷たく光る。
「三人を返せ」
「……断る」
「そうか」
真銀の周囲に魔力が集まり始める。
千乃と真銀。
二人とも。
完全にブチギレていた。
ただし。
千乃だけは。
ずっと笑顔だった。
「では、七回目ですね」
「まだ続けるのか!?」
「はい」
千乃は大剣を片手で構える。
「うちの子たちを返してください」
「断る!」
「八回目ですね」
「話を聞け!」
「九回目ですね」
「回数だけ増えているぞ!?」
「十回目ですね」
「まだ返さない!」
「十一回目ですね」
「だから!」
王が叫ぶ。
千乃は笑顔のまま首を傾げた。
「……王様」
「なんだ」
「私、丁寧にお願いしてますよね?」
「どこがだ!!」
大広間に王の絶叫が響き渡る。
ララは腹を抱えて笑っていた。
「主、交渉下手ー!」
「そうかな?」
「うん!」
千乃は少し考える。
「じゃあ、もう一回だけお願いしてみよう」
「やめろ!」
王が叫ぶ。
千乃は大剣を構え直した。
そして。
笑顔で。
「十二回目ですね」
真紅の魔力が、大広間いっぱいに広がった。
「うちの子たちを返してください」
今度ばかりは。
王も笑っていられなかった。
お星さま押すだけなので本当にお願いします、、、、、、
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