ワルダクミ
その頃。
星霜王国から遠く離れた場所にある、ヴァルディア王国。
王城の一室では、三人の人物が一つの机を囲んでいた。
中央に座っているのは、ヴァルディア王国の王。
その右側には、悪戯好きな少女、クォーツ・ポピー。
そして左側には、黒い魔力をまとった青年、ルーゲル・シュストー元之介。
「……」
王が、机の上に広げられた資料を見る。
「星霜王国の子供たちについて、か」
「はい」
ポピーが楽しそうに笑う。
「最近、面白い子たちがいるんですよ」
「面白い?」
「ええ」
ポピーは、何枚かの資料を指で叩いた。
「クオン、レオン、シオン」
「三人とも、千乃さんの近くにいる子供です」
ルーゲルが腕を組む。
「つまり」
「千乃の弱点か?」
「そうかもしれませんねぇ」
ポピーは、にっこり笑った。
「大切なものって、壊れたら面白いじゃないですか」
王が眉をひそめる。
「……随分と物騒な言い方だな」
「でも、間違ってませんよ」
ポピーは楽しそうだった。
「千乃さんは、あの三人をかなり大切にしているみたいです」
ルーゲルが、資料を一枚取る。
「クオン」
「狐人族の少年か」
「そう」
ポピーが頷く。
「珍しい種族ですし、裏の市場では価値も高い」
王が。
「……なるほど」
別の資料を見る。
「レオン」
「シオン」
「二人とも、千乃と真銀に深く懐いている」
ルーゲルが笑った。
「なら、三人を手に入れればいい」
ポピー。
「どうやって?」
「力ずく」
「単純ですねぇ」
「俺はダークヒーローだからな」
「その理屈、まだ使ってるんですか?」
ルーゲルが少しムッとする。
「当然だ」
「格好いいだろ?」
「……」
王が。
「話を戻せ」
「はい」
ポピーは肩をすくめた。
「正面から行ったら、千乃さんたちに気づかれます」
「当然だ」
王が答える。
「ならば」
ポピーが。
指を一本立てる。
「子供たちだけを狙えばいい」
「……」
部屋の空気が。
少しだけ変わった。
「クオン」
「レオン」
「シオン」
ポピーが、一人ずつ名前を口にする。
「三人を、それぞれ別の場所で狙う」
ルーゲル。
「分断するのか」
「そう」
ポピーは笑う。
「三人が一緒にいると、千乃さんがすぐ来るでしょう?」
「だから」
「三人を別々にする」
王が。
「その後は?」
ポピーが答える。
「売る」
「……」
王が。
「売る?」
「ええ」
ポピーは楽しそうに笑った。
「一度、別の人間に買わせるんです」
「そして、その買い手からさらに別の人間へ」
「最後には、誰が持っているのか分からない状態にする」
ルーゲルが。
「なるほど」
「追跡を難しくするわけか」
「そういうことです」
王が腕を組む。
「だが」
「千乃が探しに来るだろう」
「もちろん」
ポピーの笑顔が。
少しだけ歪む。
「だからこそ」
「面白いんですよ」
その瞬間。
ルーゲルの身体から。
黒い魔力が。
わずかに漏れた。
「俺も」
「協力しよう」
「本当に?」
ポピーが嬉しそうに見る。
「ああ」
ルーゲルは立ち上がる。
「千乃の大切なものを奪えば」
「千乃を追い詰められる」
そして。
黒い魔力を手のひらに集める。
「その上で」
「俺が最後に全部ひっくり返す」
「……」
王が。
「何をするつもりだ?」
「まだ考えてない」
「考えてないのか」
「そのうち思いつく」
「計画性がないな」
「ダークヒーローには勢いが必要なんだ」
「知らん」
ポピーが。
くすくす笑う。
「じゃあ」
「決まりですね」
机の上に。
三人の名前が並ぶ。
クオン。
レオン。
シオン。
ポピーが。
その三つを指先で順番に叩いた。
「この三人を」
「狙いましょう」
王も。
「うむ」
ルーゲルも。
「了解だ」
三人の視線が。
資料へ集まる。
その中には。
星氷神城の中庭で遊ぶ三人の姿が描かれていた。
クオンが笑っている。
レオンが走っている。
シオンが、その後ろを追いかけている。
そして。
少し離れた場所では。
千乃が三人を見守っていた。
ポピーは、その絵を見ながら。
「……」
楽しそうに笑った。
「さて」
「千乃さん」
「どんな顔をするんでしょうね?」
その頃。
星氷神城。
中庭。
「クオン!」
「なーに、お姉ちゃん?」
「レオンとシオン、どこ行った?」
「……」
クオンが。
少し考える。
「さっきまで、あっちにいたよ」
「そっか」
千乃は笑って。
三人のいる方向を見る。
「じゃあ」
「探しに行こうか」
「うん!」
三人の笑い声が。
城の中庭に響く。
まだ。
誰も知らない。
その笑い声を。
狙っている者たちが。
すでに。
動き始めていることを。




