↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
213/259

ルーゲル・シュストー元之介

 その日の午後。


 星氷神城《アストラルグレイシア》の城下町では、いつも通り穏やかな時間が流れていた。市場では店員たちが呼び込みをし、子供たちは走り回り、ララはなぜか屋台の前で「おなかすいた!」と騒いでいる。


「主ー! あれ食べたい!」


「さっき食べたよね?」


「食べた!」


「じゃあ、なんでまた?」


「おなかすいた!」


「……」


 千乃は少し考えた。


「成長期かな?」


「ララはずっとそうだ」


 ライが即答する。


「ひどい!」


 そんなやり取りをしていた、その時だった。


 通りの向こうから、妙な声が聞こえてきた。


「……ふっ」


「……?」


「ついに来たか」


 千乃が振り返る。


「何が?」


 真銀もそちらを見る。


 そこにいたのは、一人の青年だった。


 黒い服。


 長いコート。


 片手をポケットに入れ、もう片方の手を前へ伸ばしている。


 そして。


 ものすごく格好をつけた顔。


「……」


 ライが。


「……何だ、あれ」


「知らない」


 千乃も首を傾げる。


 青年は、こちらの視線に気づくと、さらにポーズを決めた。


「……俺を見つけたか」


「見つけたというか」


「勝手に視界に入ってきた」


「千乃、それ言う?」


 真銀が小声で突っ込む。


 青年は気にしない。


「俺の名は――」


 片手を胸へ。


「ルーゲル・シュストー元之介」


「……」


「……」


「……」


 沈黙。


 ララが小声で千乃に尋ねる。


「主」


「うん?」


「名前、長いね」


「うん」


「覚えられる?」


「無理かも」


「おい!」


 ルーゲルが叫んだ。


「今、聞こえたぞ!」


「ごめん」


「謝るの早いな!?」


 ルーゲルは咳払いをする。


「俺は選ばれし転生者」


「……」


「神のミスによって、この世界へと導かれた存在だ」


 千乃。


「神様のミス?」


「そうだ」


「……」


 千乃は真銀を見る。


「私も転生だけど」


「俺は聞いてない」


「私も今初めて聞いた」


「お前ら何なんだよ!」


 ルーゲルの額に青筋が浮かぶ。


 だが、それでも彼はポーズを崩さない。


「だが俺は」


 黒い魔力が。


 ゆっくりと。


 彼の周囲に集まり始める。


「この世界で」


「自らの力を手に入れた」


「……」


 カミルが。


「この魔力……」


 千乃も。


「ちょっと変だね」


 黒い。


 普通の魔力とは違う。


 どこか重く。


 不自然に濁っている。


「これが」


 ルーゲルが笑う。


「俺の力だ」


「……何それ?」


「ダークマター」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 ライ。


「……」


 アイシィ。


「……」


 カミル。


「……」


 全員の視線が。


 ルーゲルへ集まる。


「食べた」


「……は?」


 千乃が聞き返す。


「ダークマターを」


「食べた」


「……」


「食べたの?」


「そうだ」


「何で?」


 ルーゲルは胸を張った。


「ダークヒーローに憧れたからだ」


「理由が軽い!!」


 千乃のツッコミが城下町に響いた。


 ルーゲルは満足そうに笑う。


「そして俺は」


「その力を完全に制御した!」


 黒い魔力が。


 ぶわっ。


 膨れ上がる。


「……」


 真銀が。


「制御できてる?」


「当然だ」


「じゃあ」


 真銀が指差す。


「後ろの屋台は何で浮いてるんだ」


「……」


 ルーゲルが振り返る。


 屋台が。


 宙に浮いている。


「……」


「……」


「……」


 屋台が。


 ぐるぐる回っている。


「……」


 ルーゲル。


「これは」


「演出だ」


「絶対違う」


 千乃が即答する。


 次の瞬間。


 屋台が。


「ぐるぐるぐるぐる……」


 さらに回転。


「止まれ!」


 ルーゲルが叫ぶ。


「……」


「……」


 止まらない。


「止まれぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 屋台が。


 そのまま。


 遠くへ飛んでいった。


「「「あああああああああ!!」」」


 店主の悲鳴が響く。


「……」


 千乃。


「制御できてないね」


「……」


 ルーゲルの顔が引きつる。


「……今のは」


「ちょっとした誤差だ」


「誤差で屋台飛ばすな」


 真銀が呆れる。


 ルーゲルは。


 再び黒い魔力を集める。


「だが!」


「俺は!」


「この力で!」


「世界を変える!」


 千乃。


「何をするの?」


「決まっている」


 ルーゲルが腕を広げる。


「悪を討ち」


「闇を支配し」


「俺だけの正義を――」


「待って」


 千乃が手を上げる。


「うん?」


「その前に」


「屋台戻そう」


「……」


「店主さん困ってるよ」


「……」


「……」


 ルーゲルは。


 ゆっくり。


 屋台が飛んでいった方向を見る。


「……」


「……」


「……」


「……俺の正義より」


「そっちが先?」


「うん」


 千乃は笑った。


「世界を変えるなら」


「まず目の前の困ってる人を助けようよ」


「……」


 ルーゲル。


 黙る。


「……」


「……」


 そして。


「……分かった」


 黒い魔力が。


 再び集まる。


「おお!」


 千乃が期待する。


「今度こそ制御する!」


「……」


 屋台が。


 ものすごい勢いで戻ってくる。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 店主が叫ぶ。


「速い!!」


「止まれぇぇぇぇぇ!!」


 ルーゲルが叫ぶ。


 屋台。


 ギリギリで停止。


「……」


 店主。


「……」


「……」


 千乃。


「成功?」


 ルーゲルは。


 胸を張った。


「当然だ」


 真銀。


「ギリギリだったけどな」


 ルーゲル。


「それも計算のうちだ」


「絶対違う」


 カイルが横から呟く。


「こいつ」


「俺より主人公になりたがってない?」


「お前と張り合うな」


 真銀が即答した。


「何でだよ!?」


 その時。


 ルーゲルの身体から。


 再び黒い魔力が漏れ出す。


「……」


 カミルが。


「これは」


「少し厄介だな」


 千乃も。


 ルーゲルを見る。


「ねえ」


「何だ?」


「その力」


「本当に」


「ちゃんと制御できてる?」


 ルーゲル。


「……」


「当然だ」


「……」


 黒い魔力が。


 また。


 彼の足元から溢れる。


 地面に。


 小さな亀裂が入った。


「……」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 ライ。


「……」


 アイシィ。


「……」


 ララ。


「……」


 カイル。


「……」


 全員。


「…………」


 ルーゲル。


「……」


「……」


「……まあ」


 少しだけ。


 視線を逸らす。


「たまに」


「暴れる」


「それ制御できてないじゃん!!」


 千乃の叫びが。


 城下町に響き渡った。


 こうして。


 千乃たちは。


 妙にイキった転生者。


 ルーゲル・シュストー元之介と。


 最悪な第一印象を築いた。


「……」


 ルーゲル。


「ダークヒーローって」


「格好いいだろ?」


 千乃。


「……」


「まずそのポーズやめようか」


「何でだよ!?」


 そんな。


 平和な出会いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。