災害級という名の危険トランポリン
星氷神城に、メルトがやってきてから数日。
三メートル級の災害級スライムという、とんでもない存在を従魔にしたはずなのだが、城の中ではすっかり馴染んでいた。
特に仲が良くなったのが、クオンとレオン、シオンの三人だ。
「メルトー!」
中庭に、クオンの声が響く。
「ぷる!」
メルトは嬉しそうに身体を揺らした。今日は三メートルの巨体のまま、庭の中央にどんと座り込んでいる。周囲の魔力を吸っているのか、身体は淡い水色から紫、そして少しだけ桃色へと変化していた。
「すごい!」
レオンが目を輝かせる。
「色が変わった!」
「魔力で変わるんだって!」
シオンもメルトの周りをぐるぐる回る。
「じゃあ、僕たちが近くにいたら何色になるかな?」
「やってみよう!」
「ぷる?」
メルトが三人を見る。
そして。
ぷるん。
少しだけ身体を低くした。
「……?」
クオンが首を傾げる。
「メルト?」
「ぷるぷる!」
次の瞬間だった。
ぼよんっ!!
「え?」
三人の身体が、一斉にメルトの身体へ吸い込まれた。
「わぁぁぁぁぁ!?」
「うわっ!」
「きゃっ!?」
ずぶんっ。
まるで巨大なゼリーに飛び込んだように、三人の姿がメルトの中へ消える。
「……」
中庭。
静寂。
たまたま近くにいた千乃が。
「…………」
固まった。
「メルト?」
「ぷる」
「今」
「三人」
「飲み込んだ?」
「ぷる!」
「元気よく肯定しないで!?」
真銀も立ち上がる。
「クオンたちは大丈夫なのか?」
「たぶん……」
千乃がメルトを見る。
すると、半透明になった身体の中で。
三人が。
「わぁー!」
「すごい!」
「ぷるぷるしてる!」
普通に遊んでいた。
「……」
真銀。
「……」
千乃。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
そしてララだけが。
「いいなー!」
とメルトに飛び込もうとしていた。
「ララ、待て!」
ライが慌てて止める。
「なんで!?」
「お前まで入ったら、話がさらにややこしくなる」
「でも楽しそう!」
「そういう問題じゃない!」
その間にも、メルトの中の三人は楽しそうだった。
「メルトー!」
「ぷる!」
「もっと動いて!」
「ぷるぷる!」
ぶるんっ。
メルトの身体が大きく揺れる。
「わぁぁぁ!」
「揺れる!」
「楽しい!」
「……」
千乃が額を押さえる。
「これ、どういう遊びになってるの?」
真銀が答える。
「俺にも分からない」
そしてメルトは。
ぷるん。
と身体を縮めた。
「……?」
クオンが。
「メルト?」
「ぷる!」
次の瞬間。
「ぺっ」
「え?」
三人が。
まとめて吐き出された。
ぽーんっ!
「わぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「飛んだぁぁぁぁ!」
「高いー!」
空中へ放り出された三人は、そのまま落下していく。
「危ない!」
千乃が慌てて手を伸ばす。
だが。
ぽよんっ!!
三人が着地した場所は、メルトの身体だった。
しかも、さっきまでの柔らかなスライムではない。
メルトが身体を平らに広げ、絶妙な硬さに調整していた。
ぽよん。
ぽよん。
ぽよーん。
「……」
千乃。
「……トランポリン?」
「ぷる!」
メルトが得意げに揺れる。
「おお!」
レオンが跳ねる。
「もう一回!」
ぽよんっ!
「わぁ!」
シオンも続く。
「楽しい!」
ぽよーん!
クオンまで。
「わぁぁぁぁ!」
見事に跳ね上がる。
「ぷるぷる!」
メルトも楽しそうだ。
「……」
千乃はしばらく眺めていたが。
「メルト」
「ぷる?」
「それ」
「もしかして」
「遊具になった?」
「ぷる!」
「返事した!」
真銀が呆れたように笑う。
「災害級スライムなのに、やってることが完全に子供向け遊具だな」
「いいじゃん!」
千乃も笑う。
「クオンたち、楽しそうだし!」
その瞬間。
「主ー!」
ララが叫んだ。
「私もやる!」
「待て」
ライが即座に止める。
「今度はお前か」
「だって楽しそう!」
「お前は加減を知らないだろ」
「知ってる!」
「信用できない」
「ひどい!」
するとメルトが。
「ぷる!」
身体をさらに大きく広げた。
「……」
ライが。
「まさか」
ララが。
「行くよー!」
ぴょーん!
「ララァァァァァァ!?」
ぽよぉぉぉぉん!!
ララがものすごい勢いで跳ね上がった。
「たっかーい!」
「お前は何してるんだ!」
「楽しい!」
空中でくるくる回るララ。
そして。
ぽよんっ!
再びメルトへ着地。
「もう一回!」
「やめろ!」
ライが頭を抱える。
「この城にまた危険な遊具が増えた……」
アイシィがメルトを見る。
「ですが」
「はい?」
「メルトさんは」
「かなり器用ですね」
メルトは得意げに。
「ぷる!」
その横で、クオンたちはまだ跳ねている。
「メルト!」
「もっと高く!」
「ぷる!」
ぼよんっ!!
「わぁぁぁぁぁ!」
「クオン、飛びすぎ!」
「大丈夫!」
「本当に!?」
千乃は笑いながらも、落下地点をしっかり確認している。
「メルト、ちゃんと受け止めてね!」
「ぷる!」
「よし!」
そして。
また三人が。
ぽよーん。
ぽよーん。
ぽよーん。
と跳ねる。
中庭は、すっかり巨大スライム遊園地と化していた。
カミルが少し離れた場所から、その光景を眺める。
「……災害級とは」
ライが。
「何だ?」
「こういうものなのか?」
「違うと思う」
真銀が即答した。
「たぶん」
千乃が振り返る。
「たぶん多すぎない?」
「お前もだろ」
「……」
千乃は少し考えて。
「まあ、楽しいからいいか!」
「その結論でいいのか……」
メルトは今日も。
「ぷるぷる!」
と楽しそうに身体を揺らしていた。
災害級。
硬さ自由自在。
魔力で色まで変化する、とんでもないスライム。
そんなメルトの新しい能力。
それは。
――子供たち専用、超巨大トランポリン。
「メルトー!」
「ぷる!」
「もう一回!」
「ぷるぷる!」
そして。
千乃の中庭に。
また一つ。
規格外の日常が増えたのだった。




