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メルトくん

 久しぶりに、千乃たちは奈落へ向かっていた。


 今回はいつものメンバーだけではない。クオンに加えて、少しずつ大きくなってきたレオンとシオンも一緒だ。かつてはまだ小さかった二人も、今では自分の足でしっかり歩けるようになっている。


「わぁ……!」


 奈落へ続く道を見下ろしながら、クオンが目を輝かせる。


「ここが奈落?」


「そうだよ」


 千乃が答える。


「久しぶりに来たけど、やっぱり広いねぇ」


 その隣で、真銀が周囲を見回した。


「前に来た時より、魔力が濃くないか?」


「うん。たぶん深いところまで降りたら、もっと濃くなると思う」


「……」


 クオンの耳がぴくっと動いた。


「お姉ちゃん」


「なに?」


「ここ……ちょっと怖い」


「大丈夫!」


 千乃が笑って、クオンの頭をぽんと撫でる。


「ララもライもアイシィもいるし、カミルもいる。それに真銀もいるからね」


「……うん」


 クオンは安心したように頷いた。


 そして、その後ろでは。


「レオン、シオン。ちゃんとついてきてる?」


「いるー!」


「いるよ」


「よし」


 千乃が振り返る。


 二人とも元気そうだ。


 以前は千乃たちの後ろをちょこちょこついてくるだけだった二人も、今では奈落を見ながら興味津々で周囲を眺めている。


「……成長したな」


 真銀がぽつりと言った。


「うん」


 千乃も少し嬉しそうに笑う。


「二人とも大きくなったよね」


「まだまだ子供だけどな」


「それはそう」


 千乃が笑う。


 その会話を聞いていたララが。


「ララも大きくなった!」


「ララは昔から大きいよ」


「ほんと!?」


「うん。いろんな意味で」


「どういう意味!?」


 ライが横から。


「騒がしさだろ」


「ライひどい!」


 奈落に来たというのに、相変わらず平常運転だった。


 そんな一行が、さらに奥へ進んだ時だった。


「……ん?」


 アイシィが足を止める。


「どうしました?」


 千乃が振り返る。


 アイシィは、奈落の奥をじっと見つめていた。


「何かいます」


「魔物?」


「……はい」


 カミルも同時に気づいたらしい。


「我も感じる」


 真銀が警戒する。


「どのくらいだ?」


「かなり大きい」


「……」


 千乃が少しだけ身構える。


「災害級?」


「……おそらく」


 その瞬間。


 地面が。


 ぶるん。


 と揺れた。


「……?」


 さらに。


 ぶるぶるぶるぶる。


「何これ!?」


 千乃が叫ぶ。


 そして。


 遠くから。


 何かが。


 ずるずるずるずる。


 こちらへ近づいてくる。


「……」


「……」


「……」


 全員が黙った。


 やがて。


 巨大な塊が姿を現す。


 大きさは、およそ三メートル。


 丸い。


 ぷるぷるしている。


 そして。


 色が。


「……変わってる?」


 クオンが呟いた。


 その通りだった。


 スライムの身体が、周囲の魔力に反応するように色を変えている。


 青。


 紫。


 緑。


 赤。


 白。


 黒。


 まるで奈落そのものを映しているかのように、次々と色が変化していく。


「……」


 千乃が。


「かわいい」


「え?」


 真銀が振り返る。


「かわいくない?」


「三メートルあるぞ」


「でもスライムだよ?」


「サイズの問題じゃない」


 ライが冷静に言った。


「災害級だ」


「……」


 千乃。


「……でも、かわいい」


「聞いてないな」


 すると。


 巨大スライムが。


 ぷるん


 と揺れた。


 そして。


 ぷるぷる!


「……」


 ララが。


 ぴくっ。


「……主」


「なに?」


「仲間」


「え?」


 ララが一歩前へ出る。


「スライム!」


「そうだね」


「ララと同じ!」


「ララはウサギだけど」


「細かい!」


 スライムが。


 また。


 ぷるんっ


 と揺れる。


 ララも。


 ぴょん!


「……」


 ライが頭を抱えた。


「何で会話できてるんだ」


「同じ災害級だからじゃない?」


「そんな理由で通じるのか?」


 千乃が笑っていると、スライムがゆっくりこちらへ近づいてきた。


 警戒している様子はない。


 むしろ。


 千乃の前まで来ると。


「ぷる……」


 ぺた。


 千乃の足元に身体をくっつけた。


「……」


「……」


「……」


 千乃が。


「懐かれた?」


 真銀。


「たぶんな」


 スライムが嬉しそうに。


 ぷるぷる。


 ぷるぷる。


 ララも。


「仲間ー!」


 と飛びつく。


「ララ!?」


 べちゃっ。


「うわっ!」


 ララの身体が。


 スライムの中へ。


「主ー! 入ったー!」


「出てきなさい!」


「ぷるぷるー!」


「楽しんでない!?」


 しばらくして。


 ぽんっ。


 とララが弾き出された。


「……」


「……」


 ララ。


「おもしろい!」


 ライ。


「お前は何でも楽しむな」


 その間にも。


 スライムは千乃の周りをぷるぷると跳ねている。


「この子、どうする?」


 千乃が尋ねる。


「どうするって……」


 真銀がスライムを見る。


「従魔にするか?」


「……!」


 千乃の目が輝いた。


「いいの?」


「俺に聞くのか?」


「だって真銀も一緒に決めるでしょ」


「まあな」


 スライムは。


「ぷる?」


 と首を傾げるように揺れた。


「従魔になりたい?」


「ぷるぷる!」


 即答だった。


「決まり!」


 千乃が嬉しそうに手を叩く。


「じゃあ名前をつけよう!」


「ぷる!」


「うーん……」


 千乃は腕を組んだ。


「奈落の闇を支配する漆黒の――」


「ぷる」


「……」


 スライムが。


 明らかに嫌そうに揺れた。


「まだ最後まで言ってないよ?」


「ぷるぷる」


「えー……」


 千乃は考える。


「じゃあ」


「奈落を統べし終焉の――」


「ぷるっ!」


「また!?」


 スライムが。


 ぶるぶる。


 どうやら、厨二病ネームだけは絶対に嫌らしい。


「じゃあ何がいいの?」


「ぷる……」


「……」


「ぷるぷる」


「分からない」


 真銀が。


「そいつに任せればいいんじゃないか?」


「なるほど」


 千乃は少し考えて。


「じゃあ」


「メルト」


「ぷる?」


「どう?」


 スライムが。


 ぷる。


 ぷるぷる。


 そして。


「ぷるん!」


「気に入った?」


「ぷる!」


「よし!」


 こうして。


 三メートル級。


 周囲の魔力によって色が変わり。


 硬さも自由自在。


 しかも災害級。


 そんな、とんでもないスライムが。


 千乃たちの新しい従魔になった。


「メルト」


「ぷる!」


「これからよろしくね」


「ぷるぷる!」


 ララが横から。


「ララもよろしく!」


「ライも!」


「私はアイシィです」


「我はカミルだ」


「俺は真銀」


 レオンとシオンも。


「よろしく!」


「よろしくね」


 クオンも。


「……よろしく、メルト」


「ぷる」


 そして。


 最後に。


 千乃が笑った。


「じゃあ帰ろうか」


「ぷる!」


 三メートルのスライムが。


 ずるずる。


 とついてくる。


 千乃たちの後ろを。


 ぷるぷる。


 ぷるぷる。


 そして。


 ライが。


「……」


 しばらくメルトを見たあと。


「千乃」


「なに?」


「こいつ」


「うん」


「城に入るのか?」


「……」


 千乃が。


 メルトを見る。


 巨大。


 三メートル。


 災害級。


「……入るよ?」


「どうやって」


「普通に」


「普通に入れる大きさじゃない」


「じゃあ」


 千乃がメルトを見る。


「ちょっと小さくなれる?」


「ぷる!」


 次の瞬間。


 ぼんっ。


 三メートルの巨体が。


 手のひらサイズになった。


「……」


「……」


「……」


 ライ。


「便利だな」


 千乃。


「でしょ?」


 ララが。


 小さくなったメルトを。


 両手で抱える。


「新しい仲間!」


「ぷる!」


 クオンの尻尾も。


 ふわっ。


 と揺れた。


 奈落への久しぶりの遠征は。


 薬草を探すどころか。


 災害級スライムという。


 とんでもない従魔を一体。


 新しく連れて帰る結果になった。


 そして。


 星氷神城には。


 また一匹。


 規格外の仲間が増えることになる。


「……」


 真銀が。


 手のひらサイズのメルトを見る。


「……ララ系か」


「ぷる!」


 ララ。


「仲間!」


「ぷる!」


 ライ。


「……嫌な予感しかしない」


 アイシィ。


「私も少しだけ同感です」


 カミル。


「我もだ」


 千乃。


「大丈夫だよ」


 その直後。


 メルトが。


「ぷるっ!」


 巨大化。


「うわぁぁぁぁぁ!?」


 千乃の声が。


 奈落の出口まで。


 響き渡った。

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