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200/260

魂帰還の儀 ずっと、そばにいたよ

今回は200話記念!ではなく、普通に続きです笑

めちゃくちゃ良い回になったので、氷空、

「これは200話にぴったり!!」

と思いました。


 その日の夜。


 星氷神城《アストラルグレイシア》。


 千乃の部屋。


 静かな。


 静かな。


 部屋だった。


 ベッドの上。


 永久氷界。


 その淡い光の中で。


 千乃の身体は。


 眠ったまま。


 そこにある。


 そして。


 その隣。


 アイ。


 白い髪。


 白い猫耳。


 白い尻尾。


 右目は金色。


 左目はピンク。


 真銀も。


 その場にいた。


「……」


 真銀は。


 ベッドの上の千乃を。


 じっと見ていた。


「……本当に」


「戻れるんだな」


 アイ。


「うん」


「戻れるよ」


 真銀。


「……」


 アイ。


「大丈夫」


「ちゃんと」


「千乃は帰ってくる」


 真銀。


「……ああ」


 けれど。


 その声には。


 まだ。


 不安が残っていた。


 アイは。


 それに気づいて。


 少しだけ笑った。


「真銀」


「ん?」


「千乃に」


「会いたい?」


 真銀。


「……」


 その質問を。


 聞いた瞬間。


 真銀の目が。


 少しだけ揺れた。


「……会いたい」


 アイ。


「……うん」


「すごく?」


「ああ」


「ずっと」


「会いたかった」


 アイ。


「……そっか」


 真銀。


「だから」


「絶対に」


「戻ってきてほしい」


 アイ。


「……うん」


「戻るよ」


 そして。


 アイは。


 ベッドの上の。


 千乃を見る。


「じゃあ」


「始めるね」


 真銀。


「……ああ」


 アイは。


 胸元から。


 三つの素材を。


 取り出した。


 星霊花。


 永劫水晶。


 始原竜アストラゼウスの涙。


 それぞれが。


 静かに。


 光っている。


「……」


 アイ。


「これで」


「全部」


 真銀。


「……」


 アイ。


「やっと」


「帰れる」


 そして。


 アイは。


 千乃の身体へ。


 そっと。


 手を伸ばした。


「――魂帰還の儀」


 ふわっ。


 部屋いっぱいに。


 光が広がった。


「……!」


 真銀。


 千乃の身体を。


 淡い光が包み込む。


 星霊花が。


 光の粒へ変わっていく。


 永劫水晶が。


 ゆっくりと。


 光へ変わる。


 始原竜の涙が。


 一滴。


 千乃の胸元へ。


 吸い込まれていく。


「……」


 真銀。


「千乃……」


 その時。


「……?」


 アイが。


 自分の手を見た。


「……」


 指先が。


 少し。


 薄くなっている。


「……」


 真銀。


「アイ?」


 アイ。


「ん?」


「……手」


「どうした?」


 真銀が。


 アイの手を見る。


「……」


「透けてる」


 アイ。


「……そうだね」


 真銀。


「何で?」


 アイ。


「魂が」


「戻り始めてるから」


 真銀。


「……」


 アイ。


「私の魂が」


「千乃の身体に」


「戻ってるんだと思う」


 真銀。


「……」


 少し。


 沈黙。


「じゃあ」


「アイは?」


 アイ。


「……」


「どうなる?」


 アイ。


 少しだけ。


 目を伏せる。


「消えるよ」


「……!」


 真銀。


「待って」


「待て」


 真銀が。


 アイの手を。


 掴もうとする。


 けれど。


 指先が。


 わずかに。


 すり抜けた。


「……!」


 真銀。


「触れない……」


 アイ。


「もう」


「こっちの身体に」


「魂が残ってないから」


 真銀。


「そんな……」


 アイ。


「大丈夫だよ」


 真銀。


「大丈夫じゃない!」


 アイ。


「真銀」


「千乃は」


「もうすぐ戻る」


 真銀。


「でも!」


「アイはどうなる!」


 アイ。


「……」


「いなくなる」


 真銀。


「嫌だ」


「……」


 アイ。


「真銀」


「嫌だ」


「……」


「千乃が戻るなら」


「それは嬉しい」


「でも」


「アイまで」


「いなくなる必要ないだろ」


 アイ。


「……」


 少し。


 笑う。


「必要がないんじゃなくて」


「戻る場所が」


「決まっただけだよ」


 真銀。


「……」


 アイの。


 指先が。


 さらに。


 薄くなる。


 白い指が。


 向こう側の壁を。


 少しだけ。


 透かして見せる。


「……」


 真銀。


「アイ」


「うん」


「本当に」


「消えるのか?」


 アイ。


「うん」


「少しずつ」


 真銀。


「……」


 アイ。


「でも」


「怖くないよ」


 真銀。


「俺は怖い」


 アイ。


「……」


 真銀。


「また」


「誰かを」


「失うみたいで」


 アイ。


「……」


 真銀の声が。


 少し。


 震える。


「千乃を失った」


「そのあと」


「アイが来た」


「ずっと」


「そばにいてくれた」


「それなのに」


「今度は」


 真銀。


「アイまで」


 アイ。


「……真銀」


 アイの。


 腕が。


 少し。


 透明になる。


 肩の輪郭も。


 淡くなる。


 けれど。


 アイの声は。


 まだ。


 ちゃんと。


 聞こえていた。


「大丈夫」


「……」


「私は」


「ちゃんと」


「千乃に戻るから」


 真銀。


「……」


 アイ。


「だから」


「悲しまないで」


 真銀。


「無理だ」


「……」


「無理に決まってる」


 アイ。


「……そっか」


 少しだけ。


 笑う。


「真銀らしいね」


「……」


 真銀。


「何だよ」


「最後まで」


「そんなこと言うのか」


 アイ。


「だって」


「真銀だから」


 真銀。


「……」


 アイの。


 白い猫耳が。


 少しずつ。


 透けていく。


 白い髪も。


 光を通すようになる。


 尻尾も。


 薄く。


 薄く。


「……」


 真銀。


「アイ」


「うん」


「何か」


「できることはないのか?」


「……」


「俺に」


「何か」


「させてくれ」


 アイ。


「うーん」


 少し。


 考える。


「じゃあ」


「……?」


「最後まで」


「私のこと」


「見てて」


 真銀。


「……分かった」


 真銀は。


 目を逸らさなかった。


 アイも。


 真銀を見ていた。


 部屋の中。


 千乃の身体を包んでいた光は。


 少しずつ。


 強くなっていく。


 それと反対に。


 アイの姿は。


 少しずつ。


 薄くなっていく。


「……」


 真銀。


「……アイ」


「うん」


「まだ」


「いるな」


「うん」


「よかった」


 アイ。


「……」


 少し。


 笑う。


「まだいるよ」


「……」


「まだ」


「ここにいる」


 真銀。


「……」


 アイ。


「あと少し」


「……」


「もう少しだけ」


 真銀。


「……」


 アイの。


 身体が。


 胸元まで。


 淡く透け始める。


 その向こうに。


 部屋の壁が。


 見える。


「……」


 真銀。


「アイ」


「うん」


「本当に」


「戻ってくるんだよな」


 アイ。


「うん」


「千乃として」


「……」


「ちゃんと」


「戻ってくる」


 真銀。


「……」


「じゃあ」


「待ってる」


 アイ。


「うん」


 少し。


 間。


 真銀。


「……」


 アイ。


「……」


「真銀」


「ん?」


「私」


「……」


「楽しかったよ」


「……」


 真銀。


「何が?」


 アイ。


「猫だった時も」


「人になった時も」


「みんなと一緒にいた時も」


「……」


「すごく」


「楽しかった」


 真銀。


「……」


 アイ。


「真銀のそばにいられて」


「よかった」


 真銀。


「……」


 アイ。


「最初は」


「気づいてもらえなかったけど」


「……」


「それでも」


「ずっと」


「そばにいられた」


 真銀。


「……」


 アイの。


 顔が。


 少しずつ。


 透けていく。


 白い髪の向こうに。


 光が見える。


「……」


 真銀。


「アイ」


「うん」


「俺」


「……」


「お前のこと」


「ちゃんと」


「大切に思ってた」


 アイ。


「……知ってる」


「……」


「だから」


「ありがとう」


 真銀。


「……」


 アイ。


 少しだけ。


 笑う。


「でもね」


 真銀。


「ん?」


 アイ。


「本当は」


「ずっと」


「言いたかったことがある」


 真銀。


「……」


 アイ。


「でも」


「言えなかった」


「……」


 真銀。


「何?」


 アイ。


「……」


 アイの。


 身体が。


 さらに。


 薄くなる。


 もう。


 輪郭だけ。


 残っている。


 真銀。


「アイ?」


 アイ。


「うん」


 真銀。


「聞かせてくれ」


 アイ。


「……」


「分かった」


 そして。


 アイは。


 真銀を。


 まっすぐ。


 見つめた。


「ずっと、千乃は、アイとして真銀のそばにいたからね」


 真銀。


「……」


 アイ。


「猫になってたけど」


「……」


「千乃だったから」


 真銀の。


 瞳が。


 大きくなる。


「……え?」


 アイ。


 もう。


 身体の大部分が。


 透明だった。


 それでも。


 声だけは。


 まだ。


 はっきり。


 聞こえる。


「じゃあ」


 真銀。


「……」


 アイ。


「また後で」


「……!」


 最後に。


 白い光が。


 ふわり。


 アイを包んだ。


「アイ!」


 真銀が。


 手を伸ばす。


 けれど。


 指先は。


 光の中を。


 通り抜ける。


「待って!」


「アイ!」


 アイの。


 姿が。


 さらに。


 薄く。


 薄く。


 なっていく。


 白い猫耳。


 白い髪。


 白い尻尾。


 そのすべてが。


 光へ。


 溶けていく。


「アイ!」


 真銀。


 その名前を。


 口にした瞬間。


 アイの姿が。


 完全に。


 消えた。


「……」


 部屋。


 静かになる。


 何も。


 ない。


 そこに。


 アイは。


 もう。


 いなかった。


 真銀。


「……」


 伸ばした手を。


 ゆっくり。


 下ろす。


「……」


「千乃」


 返事は。


 ない。


 けれど。


 その瞬間。


 ベッドの上。


 千乃の指が。


 ぴくっ。


 動いた。


「……!」


 真銀。


「千乃?」


 もう一度。


 指が。


 動く。


「千乃!」


 永久氷界の光が。


 ゆっくり。


 消えていく。


 千乃のまぶたが。


 かすかに。


 震える。


「……」


 真銀。


 息を止める。


 そして。


 ぱちっ。


 目が。


 開いた。


 右目。


 金色。


 左目。


 ピンク。


「……ん」


 真銀。


「……」


 声が。


 出なかった。


 ただ。


 目の前の。


 千乃を。


 見つめる。


 千乃。


「……真銀?」


 その声。


 いつもの。


 千乃の声。


 真銀。


「……」


 千乃。


「どうしたの?」


 真銀。


「……千乃」


「うん?」


「本当に」


「千乃か?」


 千乃。


「……?」


 少し。


 首を傾げる。


「うん」


「私だよ」


 真銀の。


 目から。


 涙が。


 こぼれた。


「……」


 千乃。


「真銀?」


 真銀。


「……アイ」


 千乃。


「……」


「アイが」


「千乃だった」


 千乃。


「……」


「うん」


 真銀。


「ずっと?」


 千乃。


「ずっと」


「……」


 真銀。


「猫の時も?」


 千乃。


「うん」


 真銀。


「人になってからも?」


 千乃。


「うん」


 真銀。


「……」


 千乃。


 少しだけ。


 笑う。


「ずっと」


 真銀。


「……」


「そうか」


 そして。


 真銀は。


 ようやく。


 気づいた。


 自分が。


 千乃を失ったと思っていた間。


 ずっと。


 そばにいた。


 猫のアイとして。


 人のアイとして。


 何度も。


 自分の隣にいて。


 何度も。


 言葉をくれて。


 何度も。


 支えてくれた。


 その全部が。


 千乃だった。


「……」


 真銀。


「……ばか」


 千乃。


「え?」


「ずっと」


「そばにいたのかよ」


 千乃。


「うん」


 真銀。


「……」


「言ってくれよ」


 千乃。


「言えるわけないでしょ」


「……」


 千乃。


「猫だったし」


 真銀。


「……それは」


「そうだな」


 千乃。


「人になってからも」


「秘密だったし」


 真銀。


「……」


 千乃。


「でも」


「ちゃんと」


「戻ってきたよ」


 真銀。


「……」


 千乃。


「約束したから」


 真銀。


「……」


 そして。


 真銀は。


 少しだけ。


 笑った。


「……おかえり」


 千乃。


「……」


 千乃も。


 少しだけ。


 目を細める。


「ただいま」


 静かな。


 部屋。


 長い間。


 止まっていた時間が。


 ようやく。


 動き始めた。


 そして。


 千乃は。


 もう一度。


 この世界に。


 帰ってきた。


 翌朝。


 星氷神城《アストラルグレイシア》。


 朝。


 食堂へ続く廊下を。


 千乃と真銀が。


 並んで歩いていた。


「……」


「……」


 千乃。


「ねえ」


「ん?」


「普通に行ってみよう」


 真銀。


「普通に?」


「うん」


「昨日まで」


「私、死んでたことになってたけど」


「いや、実際に死んでたんだけど」


「……」


「今さら大騒ぎするのも」


「なんか」


「疲れるし」


 真銀。


「……それは」


「分かる」


 千乃。


「だから」


「何食わぬ顔で」


「朝ごはん食べに行こう」


 真銀。


「……」


「本当に?」


「うん」


「絶対?」


「絶対」


 そして。


 二人は。


 食堂の扉の前に立った。


「……」


 千乃。


「いくよ」


 真銀。


「ああ」


 がちゃ。


 扉が。


 開いた。


「おはよー」


 千乃が。


 何でもないように。


 言った。


「…………」


 食堂。


 静寂。


 誰も。


 動かない。


「……?」


 千乃。


 真銀。


「……」


 千乃。


「みんな?」


 その瞬間。


 ララが。


 ゆっくり。


 振り返った。


「……」


「……」


 千乃。


「おはよ」


「……」


 ララの。


 目が。


 大きくなる。


「……」


「……主?」


 千乃。


「うん」


「主?」


「うん」


「……」


 ララ。


 椅子から。


 立ち上がった。


「……主?」


「うん!」


 次の瞬間。


「びょええええぇぇぇぇっっっっっっっっっっ!!!!」


「うわっ!?」


 千乃。


 ララが。


 ものすごい勢いで。


 飛び込んできた。


「主ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「ララ!?」


「主がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「いるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


「いるよ!?」


「死んだはずなのにぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「事実だけどその言い方やめて!?」


 千乃。


 ララを。


 受け止める。


「本物だよ」


「びょえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「聞いて!?」


 その声で。


 クオンが。


 振り返った。


「……」


 クオン。


「……」


「……お姉ちゃん?」


 千乃。


「うん」


 クオンの。


 耳が。


 ぴんっ。


「……」


「お姉ちゃん……?」


「うん!」


 クオン。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 そして。


「びょええええぇぇぇぇっっっっっっっっっっ!!!!」


 千乃。


「クオン!?」


 クオンが。


 千乃へ。


 駆け寄る。


 ぎゅっ。


「お姉ちゃん……!」


「うん」


「……」


「帰ってきた……」


「うん」


「本当に……」


「うん」


「……」


 クオン。


 顔を。


 千乃の服へ。


 押しつける。


「びょええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「クオンまでぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 その隣。


 レオン。


 シオン。


 二人。


 完全停止。


「……」


「……」


 千乃。


「レオン?」


「……」


「シオン?」


「……」


 二人の。


 目が。


 じわっ。


 千乃。


「……」


 レオン。


「……ママ」


 千乃。


「うん」


 シオン。


「……ママ」


「うん」


「……」


 二人。


 同時に。


「「びょええええぇぇぇぇっっっっっっっっっっ!!!!」」


「二人とも!?」


 千乃の。


 両側から。


 ぎゅっ。


「ママぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「うん!」


「ずっと待ってたぁぁぁぁぁぁ!!」


「ごめんね」


「ごめんじゃないぃぃぃぃぃ!!」


「えぇ!?」


 千乃。


 左右から。


 抱きつかれ。


 完全に。


 動けなくなった。


「真銀」


「ん?」


「助けて」


「……」


 真銀。


「無理だ」


「なんで!?」


「俺も」


「もう」


「いっぱいだ」


 千乃。


「……」


 真銀。


 少し。


 目元を。


 拭った。


「……」


「真銀も泣いてるじゃん」


「泣いてない」


「泣いてるよ」


「……」


 そして。


 カイル。


 椅子に座ったまま。


「……」


 千乃を見る。


「……」


 目。


 完全に。


 赤い。


「カイル?」


「……」


「おはよ」


「……」


 カイル。


 ゆっくり。


 立ち上がった。


「……千乃」


「うん」


「……」


 数秒。


 耐える。


「……」


「……」


「……」


 そして。


「びょえええぇぇぇぇっっっっっっっっっっ!!!!」


「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 カイル。


「千乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「俺!」


「ずっと!」


「お前がいなくなったって!」


「思ってたのにぃぃぃぃぃ!!」


「うん」


「帰ってきたぁぁぁぁぁぁ!!」


「うん」


「俺!」


「勇者なのに!」


「何もできなかったぁぁぁぁぁ!!」


「……」


「びょえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 千乃。


「カイル」


「なにぃぃぃぃ!?」


「声」


「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


「さらに大きくなった!?」


 その頃。


 食堂の。


 部屋の隅。


 ライは。


「……」


 壁の方向を。


 向いていた。


 千乃。


「……ライ?」


「……」


「ライ?」


「……」


 返事。


 ない。


「……」


 千乃。


 そっと。


 近づく。


「ライ」


「……」


「こっち向いて?」


「……無理だ」


「え?」


「今」


「顔を見せたら」


「……」


「たぶん」


「俺も」


「泣く」


「……」


 千乃。


「もう泣いてるでしょ?」


「……」


 ライ。


 しばらく。


 黙る。


「……」


 そして。


 小さく。


「……主」


「うん」


「……帰ってきたんだな」


「うん」


「……」


 ライ。


 壁を向いたまま。


「……よかった」


「……」


 千乃。


 少し。


 笑った。


「ライ」


「……」


「顔」


「見せて」


「……」


「お願い」


 ライ。


 ゆっくり。


 振り返る。


 目元。


 赤い。


「……」


 千乃。


「……泣いてる」


「……」


「珍しい」


「うるさい」


「ふふ」


 ライ。


「……」


「本当に」


「帰ってきたんだな」


「うん」


 その瞬間。


 アイシィが。


「千乃さん……!」


「アイシィ」


 アイシィ。


 目に。


 いっぱい。


 涙を。


 浮かべている。


「……」


 千乃。


「泣いてる?」


「……」


「はい」


 アイシィ。


 静かに。


 涙を。


 拭う。


「申し訳ありません」


「でも」


「……」


「本当に」


「嬉しくて」


「うん」


「また」


「千乃さんの声が」


「この城で聞けて」


「……」


「嬉しいです」


 千乃。


「……」


「私も」


 アイシィ。


「……」


 そして。


 柚乃。


 その隣で。


「……」


 もう。


 大号泣。


「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


「柚乃!?」


「本当にぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「帰ってきたぁぁぁぁぁぁ!!」


「うん!」


「よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「うん!」


「もう会えないと思ってたぁぁぁぁぁぁ!!」


「ごめんね」


「だからごめんじゃないってばぁぁぁぁぁ!!」


 千乃。


「みんな」


「……」


 周りを見る。


 ララ。


 クオン。


 レオン。


 シオン。


 カイル。


 柚乃。


 アイシィ。


 そして。


 壁際で。


 静かに涙を拭っている。


 ライ。


「……」


 千乃。


「みんな」


「……」


 少しだけ。


 笑う。


「ただいま」


 その瞬間。


「「「「「「「おかえりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」」」」」


 食堂が。


 揺れた。


「声でかいよ!?」


 ララ。


「主だから!」


 クオン。


「お姉ちゃんだから!」


 レオン。


「ママだから!」


 シオン。


「ママだから!」


 柚乃。


「お姉ちゃんだから!」


 アイシィ。


「千乃さんだからです!」


 カイル。


「千乃だからぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ライ。


「……」


 ライだけ。


 少し。


 遅れて。


「……おかえり、主」


「うん」


 千乃。


 笑った。


「ありがとう」


 そして。


 千乃は。


 真銀を見る。


「……」


 真銀。


「……」


 真銀も。


 少しだけ。


 笑った。


「……朝ごはん」


「うん?」


「冷めるぞ」


「……」


 千乃。


「そうだった!」


「そこ!?」


 ララ。


「ごはん!」


「ララは最初からそれだよね!?」


 クオン。


「僕も食べたい」


「うん!」


 レオン。


「ママの隣!」


 シオン。


「私も!」


「はいはい」


 カイル。


「俺も千乃の隣が!」


「ダメ」


 真銀。


「なんで!?」


 食堂。


 数ヶ月ぶりに。


 千乃の席が。


 埋まった。


 そこに。


 千乃が。


 ちゃんと。


 座っている。


 それだけで。


 みんなにとっては。


 朝ごはんが。


 いつもより。


 少しだけ。


 特別なものになった。


 そして。


 ライは。


 誰にも見られないように。


 もう一度だけ。


 そっと。


 目元を拭った。


 壁ではなく。


 今度は。


 千乃の方を。


 見ながら。


 朝ごはんを。


 無事に。


 ……とは。


 いかなかった。


 正確には。


 千乃が。


 一口。


 パンを食べたところで。


「……」


 ララ。


「主」


「ん?」


「町」


「行きたい」


「……」


 千乃。


「城下町?」


「うん!」


「遊びに?」


「うん!」


 千乃。


 少し。


 真銀を見る。


「……どうする?」


 真銀。


「行くか」


「いいの?」


「久しぶりだろ」


 千乃。


「うん!」


 クオン。


「僕も行きたい」


 レオン。


「僕も!」


 シオン。


「私も!」


 柚乃。


「私も行く!」


 カイル。


「俺も!」


 ライ。


「……」


 アイシィ。


「私もご一緒します」


 カミル。


「我も」


 千乃。


「全員!?」


 ララ。


「みんなで行く!」


 千乃。


「……」


 少し。


 考えて。


「じゃあ」


「行こう!」


「おー!」


 全員。


 元気に。


 立ち上がった。


 星氷神城。


 城下町。


 大通り。


「今日は何買おうかなー」


 千乃が。


 久しぶりの町を。


 楽しそうに。


 歩いていた。


 真銀。


 その隣。


「……」


 クオン。


「お姉ちゃん」


「なーに?」


「人、多いね」


「今日は特に多いね」


 ララ。


「お店いっぱい!」


 柚乃。


「久しぶりだなぁ」


 カイル。


「俺は」


「いつでも人気だけどな」


 ライ。


「誰も聞いてない」


「ひどい!」


 そんな。


 いつもの会話。


 だった。


 ……はずだった。


 町人。


「……」


「……」


「…………」


 一人。


 二人。


 千乃を見る。


「……?」


 千乃。


「どうしたの?」


 町人。


「……」


 別の町人。


「……千乃様?」


 千乃。


「はい」


「……」


「…………」


 その瞬間。


「千乃様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「え?」


 一人が。


 叫んだ。


「千乃様がいる!!」


「本物!?」


「生きてる!?」


「え!?」


「千乃様、生きてるぞ!!」


「本当に!?」


「嘘じゃない!?」


 ざわっ。


 ざわざわっ。


 町中が。


 一気に。


 騒がしくなる。


「千乃様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「本物ですか!?」


「幽霊じゃない!?」


「幽霊じゃないよ!?」


 千乃。


 両手を。


 ぶんぶん。


「生きてるよ!」


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


「なんで!?」


 町人たちが。


 一斉に。


 千乃の周りへ。


 集まってくる。


「千乃様!」


「本当に!」


「本当に戻ってきたんですか!?」


「うん!」


「神界から!?」


「一応!」


「本物!?」


「本物!」


「触っていい!?」


「なんで!?」


 真銀が。


 慌てて。


 千乃の前へ。


「落ち着け!」


「真銀」


「何?」


「みんな」


「ちょっと興奮しすぎ」


「……」


 真銀。


「それは」


「そうだな」


 ララ。


「主は本物!」


「うん!」


 クオン。


「お姉ちゃん!」


「うん!」


 レオン。


「ママ!」


「うん!」


 シオン。


「ママ!」


「うん!」


 町人たち。


「……」


「…………」


「ママ?」


 千乃。


「え?」


「千乃様」


「お子様が?」


「うん」


「……」


「…………」


「情報量が多すぎる!!」


「私もそう思う!」


 カイル。


「俺も説明しようか?」


「お前は黙ってろ!」


「なんで!?」


 そして。


 町の奥。


 一軒の。


 小さな花屋。


 店先には。


 色とりどりの花。


 その店の中で、一人の女性が町の騒ぎを。


 通称、花屋のソイルさん。


 が、聞いていた。


「……?」


 ソイル。


「何かしら」


 店の外へ。


 出る。


「千乃様が」


「どうとか……」


 そして。


 人混みの向こう。


 見えた。


 メタルピンクの髪。


 金色の右目。


 ピンクの左目。


「……」


 ソイル。


「…………」


 手から。


 花が。


 一輪。


 落ちた。


「……」


 千乃。


「……?」


 ソイル。


「……千乃様」


 千乃。


 顔を上げる。


「……ソイルさん?」


「……!」


 その瞬間。


 ソイルの目から。


 涙が。


 ぽろ。


「……」


「千乃様……?」


「うん」


「……」


 ソイル。


 一歩。


 二歩。


 ゆっくり。


 近づいてくる。


「本当に?」


「うん」


「本当に」


「千乃様?」


「うん」


「……」


 ソイル。


 唇を。


 震わせる。


「……生きてるんですか?」


 千乃。


「うん」


 ソイル。


「……」


 ぽろ。


 ぽろぽろ。


 涙が。


 止まらない。


「……よかった」


「ソイルさん?」


「よかったぁ……」


 千乃。


「……」


 ソイル。


「私」


「ずっと」


「毎日」


「千乃様が」


「もう」


「帰ってこないんじゃないかって……」


 千乃。


「……」


「花を」


「買ってくれる人が」


「いなくなったからじゃありません」


「……」


「千乃様が」


「いつも」


「花を見て」


「綺麗だねって」


「笑ってくれたから……」


 ソイル。


 涙を。


 何度も。


 拭う。


「それが」


「もう」


「見られないんだって……」


 千乃。


「……ソイルさん」


 ソイル。


「……はい」


 千乃。


「ただいま」


「……!」


 ソイル。


 完全に。


 耐えられなくなった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


「ソイルさん!?」


 ソイルが。


 千乃へ。


 駆け寄る。


「おかえりなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「うん!」


「本当にぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「うん!」


「よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「うん!」


「千乃様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「はいはい」


 千乃。


 少し。


 笑いながら。


 ソイルの肩を。


 そっと。


 支える。


「もう」


「泣かないで」


「無理ですぅぅぅぅぅぅぅ!!」


「即答!?」


 町人。


「ソイルさん!」


「よかったな!」


「千乃様!」


「帰ってきたぞ!」


 ソイル。


「はいぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 また。


 泣く。


 ララ。


「ソイルも泣き虫!」


 ソイル。


「だってぇぇぇぇぇぇ!!」


 千乃。


「ララ」


「なに?」


「今それ言わないの」


「はーい」


 クオンが。


 ソイルを見る。


「……」


 そして。


「こんにちは」


 ソイル。


「……?」


「あなたは?」


 クオン。


「クオン」


「……」


 千乃。


「私が保護した子」


「今は」


「私たちと一緒に暮らしてる」


 ソイル。


「……」


 また。


 涙。


「……千乃様」


「ん?」


「また」


「大切な人が」


「増えたんですね」


 千乃。


「うん!」


 クオン。


 千乃の服を。


 ぎゅっ。


「お姉ちゃん」


「なーに?」


「……」


「ここ」


「好き」


 千乃。


「私も!」


 ソイル。


 その二人を。


 見ながら。


 涙を。


 拭った。


「……」


「よかった」


「本当に」


「……」


 そして。


 花屋の店先を見る。


「千乃様」


「なに?」


「お花」


「選んでいきませんか?」


「いいの?」


「もちろんです」


 ソイル。


 少し。


 笑う。


「帰ってきたお祝いです」


 千乃。


「……!」


「じゃあ」


「これ!」


 一輪。


 小さな花を。


 指差す。


 ソイル。


「それがお好きなんですね」


「うん!」


 真銀。


 その様子を。


 静かに。


 見ていた。


 そして。


 少しだけ。


 笑う。


「……」


 町人たちも。


 次々と。


 千乃へ。


 声をかけ始める。


「千乃様!」


「おかえりなさい!」


「また町に来てください!」


「今度はゆっくりしていってください!」


「はい!」


 千乃。


 手を振る。


「また来るよ!」


「「「はい!!」」」


 その声が。


 城下町いっぱいに。


 響いた。


 数ヶ月。


 誰も。


 千乃の姿を。


 見られなかった。


 けれど。


 今。


 町の真ん中に。


 ちゃんと。


 千乃がいる。


 笑って。


 手を振って。


 いつものように。


「またね」


 と言っている。


 ソイルは。


 店先で。


 何度も。


 涙を拭いながら。


 千乃の背中を。


 見送っていた。


「……おかえりなさい」


 小さな声。


 けれど。


 今度は。


 悲しみの言葉ではない。


 ちゃんと。


 帰ってきた人へ向ける。


「おかえり」だった。

これからも”ちのかれ!”をよろしくお願いします!

201話からは5000文字前後をベースにしていこうと思います!

(今までは10000超えたりしてましたが、ある程度は揃えていこうかと。)

リアルでの体調のこともあり、少し今までより更新スピードが遅くなると思います、すみません。

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