黒歴史、第一章解禁ッ!!
目を開けた瞬間、空気が違った。
湿ったコンクリートの匂いでも、教室のチョークの粉でもない。
もっと乾いていて、もっと澄んでいて、そして妙に“生きている”空気。
千羽千乃は、ゆっくりと上体を起こした。
「……ここ、どこ」
見渡す限りの草原。
空はやけに広く、雲はまるで絵の具を垂らしたように流れている。
そして手元。
黒い革表紙のノート。
「……ある」
それは、死ぬ直前まで持っていた“空想ノート”だった。
ページを開く。
そこには、見覚えのある文字が並んでいた。
漆黒終焉剣
封絶領域
虚空詠唱・第零式
そしてその下に、妙に小さく書かれたメモ。
『なんかかっこいいやつ(強そう)』
「いや、誰だこれ書いたの……」
自分だ。
思い出して、頭を抱えたくなる。
だがその瞬間だった。
遠くで地鳴り。
草原の地平線が揺れる。
「……モンスター?」
黒い影がいくつも立ち上がる。
獣とも人ともつかない、歪んだ存在。
誰かの悲鳴が聞こえた。
「逃げろ!! 魔獣だ!!」
村らしきものがあった。
そこへ魔獣が迫っている。
千乃は一瞬だけ固まる。
(え、これ……初手イベント戦?)
そして次の瞬間。
ノートを開いた。
「……やるしかないか」
ページに指を置く。
「漆黒終焉剣」
その瞬間、空気が変わった。
黒い光が収束し、一本の剣が空中に“生成”される。
形は明らかに中二病だった。
だが威圧は本物だった。
「……え、ほんとに出るのこれ」
千乃の声が一瞬だけ裏返る。
しかし魔獣は待ってくれない。
最初の一体が跳んだ。
「来いってことね」
千乃は剣を握る。
そして振るった。
黒い軌跡が空を裂く。
次の瞬間、魔獣は音もなく崩れた。
「……は?」
一拍遅れて理解が追いつく。
「え、強すぎない?」
もう一体。
さらに二体。
押し寄せる影。
千乃は息を吐く。
「じゃあ……これも試すか」
ノートをめくる。
「封絶領域」
足元に魔法陣が展開される。
世界が一瞬だけ“静止”したように見えた。
魔獣の動きが止まる。
風も止まる。
音も止まる。
「……時間、止まってる?」
違う。
止めているのではない。
この領域の中では“動けない”だけだ。
「なにこれ……私が一番怖いんだけど」
軽く呟きながら、千乃は剣を構える。
一歩。
二歩。
そして振るう。
解放された瞬間、魔獣たちはまとめて崩れ落ちた。
静寂。
草原に戻る風。
「……やば」
千乃は剣を見下ろす。
「これ、私のノートだよね?」
答える者はいない。
ただ、確かな事実だけがそこにあった。
――書いたものは、全部現実になる。
千乃はゆっくり息を吸い、吐いた。
「じゃあさ」
少しだけ口角が上がる。
「ちょっとくらい、本気で遊んでもいいよね」
ノートを閉じる。
その瞬間、風が変わった。
これは、黒歴史が世界を塗り替え始めた“最初の一日”。




