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ネコノキモチ

 翌朝。


 星氷神城アストラルグレイシア


 食堂。


「……」


 真銀が。


 椅子に座っていた。


 その膝の上には。


 白い猫。


 アイ。


「にゃ」


(朝ごはん、いい匂い……)


 真銀。


「……お前」


「本当にここが気に入ったんだな」


「にゃ」


(うん。だって、みんながいるから)


 真銀。


 少しだけ。


 笑った。


「そうか」


 アイは。


 真銀の膝の上で。


 ころん。


 と転がる。


「にゃぁ」


(真銀、昨日より少し元気になったかな)


 真銀。


「……」


 その声に。


 なぜか。


 少しだけ。


 胸が温かくなる。


「……変な猫だな」


 アイ。


「にゃ?」


(変じゃないよ)


 真銀。


「いや」


「悪い意味じゃない」


 アイ。


「にゃ」


(ならいいけど)


 そのとき。


「アイー!」


 ララが。


 ものすごい勢いで。


 食堂へ飛び込んできた。


「にゃっ!?」


(わっ!?)


 どーんっ!


 ララが。


 アイを抱き上げる。


「おはよー!」


「アイ!」


「今日もかわいい!」


「にゃぁぁぁ!?」


(ちょ、ララ! 朝から元気すぎる!)


 ララ。


「にゃー!」


「にゃにゃー!」


 アイ。


「……」


(ララ、私の真似してる?)


 ララ。


「にゃ!」


(たぶんそうだな)


 ライが。


 朝食を運びながら。


「……何をしている」


「アイと会話!」


「会話になってないだろ」


「にゃ!」


(ライ、おはよう)


 ライ。


「……」


 ぴたっ。


「……おはよう」


 アイ。


「にゃ」


(うん)


 ライ。


 なぜか。


 少しだけ。


 目を細めた。


「……本当に」


「千乃に似てるな」


 アイ。


「……」


(……)


 その言葉に。


 千乃の胸が。


 少しだけ。


 痛んだ。


(私だからね)


 でも。


 今は。


 言えない。


 だから。


「にゃ」


(おはよう、ライ)


 それだけ。


 ライは。


「……」


 小さく。


 頭を撫でた。


「元気そうで何よりだ」


「にゃぁ〜」


(……ありがとう)


 その横。


 アイシィが。


「アイさん」


 髪を揺らしながら。


 しゃがみ込む。


「朝ごはんですよ」


 アイ。


「にゃ」


(やった)


 アイシィ。


「ふふっ」


「嬉しそうですね」


(アイシィのごはん、好き)


「にゃぁ」


 アイシィ。


「……」


「本当に千乃さんみたいです」


 アイ。


「……」


(……)


 そして。


「アイ!」


 クオンが。


 ぱたぱた走ってくる。


「おはよう!」


「にゃ」


(クオン、おはよう)


 クオン。


「今日も元気?」


「にゃ!」


(元気だよ)


 クオン。


「よかった!」


 その後ろ。


 レオン。


 シオン。


 二人も。


「アイ、おはよう」


「にゃ」


(レオン、シオンもおはよう)


 二人。


 同時に。


「「……」」


 顔を見合わせる。


「今」


「返事した?」


「した」


「……」


「猫なのに」


「なんで俺たちの言葉が分かってるみたいなんだろう」


 アイ。


「……」


(それは……)


(お母さんだからです)


 レオン。


「にゃ、にゃぁ?」


(し、しらないよぉ?)


「今度は鳴いた」


 シオン。


「かわいい」


 アイ。


「にゃ」


(……まあ、かわいいならいいか)


 そして。


 最後に。


「アイ」


 カイルが。


 やってきた。


「おはよう」


 アイ。


「……」


(……来た)


 カイル。


「どうした?」


 アイ。


「にゃ」


(おはよう、カイル)


 カイル。


「……」


 数秒。


「……俺にも」


「ちゃんと挨拶してくれた」


 アイ。


「にゃ?」


(当たり前でしょ)


 カイル。


「……」


 なぜか。


 目が。


 潤んだ。


 アイ。


「……」


(まさか)


「……」


 カイル。


「……嬉しい」


 アイ。


「にゃぁ!?」


(泣くな!)


 カイル。


「俺」


「猫にも認められた……!」


 アイ。


「にゃにゃにゃ!」


(認めたとかじゃないから!)


 ララ。


「カイル泣いてる!」


 ライ。


「朝からか」


 アイシィ。


「昨日も泣いていましたね」


 クオン。


「カイルさん、泣き虫」


 レオン。


「また泣いてる」


 シオン。


「いつものこと」


 カイル。


「みんな冷たくない!?」


 アイ。


「にゃ」


(でも……)


(なんだか)


(この光景、懐かしいな)


 千乃。


 いや。


 アイは。


 みんなの顔を見る。


(みんなが元気で)


(ちゃんと笑ってて)


(それだけで)


(よかった)


 真銀が。


 アイの頭を。


 そっと撫でる。


「……アイ」


 アイ。


「にゃ?」


(なに?)


「今日も」


「一緒にいような」


 アイ。


「……」


 少しだけ。


 目を細める。


「にゃお」


(うん)


(ずっと一緒にいるよ)


 真銀。


「……」


「なんでだろうな」


 アイ。


「?」


「お前にそう言われる?鳴かれると」


「安心する」


 アイ。


「……」


(私も)


 食堂。


 朝の光。


 みんなの声。


 笑い声。


 そして。


 白い猫。


 アイ。


 誰も知らない。


 その小さな身体の中に。


 千乃がいることを。


 けれど。


 千乃は。


 今日も。


 みんなのそばにいた。


 猫として。


 そして。


 千乃として。


 静かに。


 笑っていた。


 その日の夕方。


 星氷神城アストラルグレイシア


 千乃の部屋の前。


「……」


 廊下を。


 一人の男が。


 ゆっくり。


 歩いていた。


 金色の髪。


 いつもの。


 皇族らしい服。


 けれど。


 今日は。


 いつもの。


 自信満々な顔ではなかった。


 パイライト。


「……」


 その手には。


 一束の花。


 白い花。


 淡い青の花。


 そして。


 小さな桃色の花。


「……」


 パイライトは。


 千乃の部屋の前で。


 立ち止まった。


 しばらく。


 何も言わない。


 ただ。


 扉を見る。


「……千乃様」


 声が。


 少し。


 震えていた。


 そして。


 ゆっくり。


 花を。


 床へ置く。


「……」


「どうか」


「安らかに」


 小さな声。


 その目から。


 ぽろ。


 涙が。


 落ちた。


「……」


 パイライトは。


 慌てて。


 袖で目を拭う。


「……泣いてなど」


「いない」


 誰も。


 何も。


 言っていない。


「……」


「これは」


「花粉だ」


 もちろん。


 廊下に。


 花粉など。


 飛んでいない。


「……」


 パイライト。


 再び。


 目を伏せる。


「……本当に」


「いなくなってしまったのだな」


 声が。


 今度は。


 もっと。


 小さかった。


「……」


「私は」


「ずっと」


「千乃様に」


「振り向いてほしかった」


「……」


「真銀より」


「私を選んでほしかった」


 パイライト。


 花を見る。


「……」


「だから」


「嫌がらせをした」


「……」


「愚かなことを」


「した」


 ぽろ。


「……」


「千乃様が」


「私を嫌って当然だ」


 その時。


「……にゃ」


 少し離れた場所から。


 白い猫。


 アイが。


 とことこ。


 歩いてきた。


「……」


(パイライト)


 アイは。


 花を見る。


(……)


 そして。


 パイライトを見る。


(ちゃんと、花を持ってきたんだ)


 パイライト。


「……猫」


 アイ。


「にゃ」


(うん)


 パイライト。


「お前も」


「千乃様のことが」


「好きだったのか?」


 アイ。


「……」


(好きだったよ)


「にゃ」


 パイライト。


「……そうか」


 少し。


 笑った。


「なら」


「お前も」


「寂しいな」


 アイ。


「……」


(うん)


 パイライトは。


 花を見つめる。


「……千乃様」


「私は」


「もう」


「あなたに」


「何も」


「求めない」


「……」


「ただ」


「どうか」


「この花だけは」


「受け取ってほしい」


 アイ。


「……」


(……)


 千乃の胸に。


 複雑な気持ちが。


 広がる。


(あんなに嫌なことされたのに)


(今は)


(泣いてる)


 パイライト。


「……」


「私は」


「あなたに」


「謝る資格すら」


「ないのかもしれない」


 その言葉に。


 アイの。


 前足が。


 ぴくっ。


(……)


(いや)


(それでも)


(花を置いてくれたんだ)


 アイは。


 花へ。


 一歩。


 近づく。


 くん。


 くん。


「にゃ」


(……きれい)


 パイライト。


「……」


「気に入ったか?」


 アイ。


「にゃ」


(うん)


 パイライト。


「そうか」


 そして。


 パイライトは。


 千乃の部屋の扉を見る。


「……では」


「私は」


「帰る」


 ゆっくり。


 背を向ける。


「……」


 数歩。


 歩く。


 その背中を。


 アイが。


 じっと。


 見ていた。


(……)


(……)


 すると。


 パイライトが。


 突然。


 振り返った。


「……」


 アイ。


「……にゃ?」


(なに?)


 パイライト。


「……」


「やはり」


「お前」


「千乃様に」


「よく似ているな」


 アイ。


「……」


(……)


 パイライト。


「……」


「だから」


「少しだけ」


「救われる」


 アイ。


「……」


(……パイライト)


 その時。


 パイライトが。


 ほんの少し。


 笑った。


「ではな」


 そして。


 歩いていく。


 角を曲がる。


 姿が。


 見えなくなる。


「……」


 アイは。


 しばらく。


 その場にいた。


 そして。


 花を見る。


(……)


(パイライト)


(あなたも)


(本当は)


(寂しかったんだね)


 アイは。


 花の横へ。


 ちょこん。


 と座った。


「にゃ」


(千乃としては)


(……まだ、許したわけじゃないよ)


(でも)


(花を持ってきてくれて)


(ありがとう)


 その瞬間。


 アイの右目。


 金色の瞳が。


 ほんの少し。


 潤んだ。


「……にゃ」


(……どうか、安らかに)


 それは。


 パイライトが。


 千乃へ贈った言葉。


 そして。


 今度は。


 千乃自身が。


 静かに。


 受け取った言葉だった。


 ただ。


 その直後。


「……」


 アイの前足が。


 すっ。


 上がった。


(……)


 ぱしっ。


 ……とは。


 ならなかった。


 猫パンチを。


 しようとして。


 やめた。


(……やっぱり)


(今日は)


(やめとこう)


 アイは。


 前足を。


 そっと。


 下ろした。


「にゃ」


(……花、きれいだし)


 そして。


 花の隣で。


 丸くなる。


 白い猫。


 アイ。


 その身体の中には。


 千乃がいる。


 けれど。


 誰も。


 それを知らない。


 ただ。


 千乃は。


 今日も。


 みんなのそばで。


 静かに。


 生きていた。


 その日の午後。


 星霜王国。


 城下町。


 アイは。


 真銀の隣を。


 とことこと歩いていた。


「にゃ」


(今日はどこへ行くの?)


 真銀。


「少し散歩だ」


「にゃ」


(そっか)


 ララも。


「アイー!」


 ぴょんっ。


「待ってー!」


「にゃっ」


(ララ、走ると転ぶよ)


「うわっ!」


 どてっ。


「……」


 アイ。


「にゃ」


(ほら)


「ララ、大丈夫か?」


 真銀が。


 手を差し出す。


「大丈夫!」


 ララ。


 すぐに立ち上がる。


「……」


 アイ。


(全然懲りてない)


 そんなやり取りをしながら。


 城下町の中央広場へ。


 やってきた。


「……」


 真銀が。


 足を止める。


 アイも。


「にゃ?」


(どうしたの?)


 そこには。


 大きな。


 像があった。


 星霜神城を背景に。


 そこに立つ。


 十人の姿。


 千乃。


 真銀。


 ララ。


 ライ。


 アイシィ。


 カイル。


 カミル。


 柚乃。


 エレノア。


 グラン。


 星霜王国を作った。


 仲間たちの像。


 その前に。


 今日は。


 たくさんの花束が。


 置かれていた。


「……」


 真銀。


 黙って。


 像を見る。


 その足元。


 白い花。


 青い花。


 桃色の花。


 黄色い花。


 小さな子どもが置いたような。


 小さな花束まである。


 アイ。


「……」


(……みんな)


(千乃のこと)


(覚えててくれてるんだ)


 ララが。


 花束を見る。


「主のため?」


 真銀。


「ああ」


「……」


 ララ。


 少しだけ。


 寂しそうに。


「主」


 アイ。


「にゃ」


(うん)


 そして。


 ララが。


 像を見上げる。


「でも」


「……」


「クオンがいない」


 真銀。


「……」


 アイも。


 像を見る。


(……本当だ)


 レオンも。


 シオンも。


 いない。


 像には。


 千乃たち。


 十人だけ。


 クオン。


 レオン。


 シオン。


 三人の姿は。


 どこにもなかった。


 真銀。


「……」


 しばらく。


 像を見つめていた。


 そして。


 ゆっくり。


 町の職人たちの方へ。


 歩いていく。


「……すまない」


 職人。


「はい?」


 真銀。


「この像に」


「三人を」


「追加してくれ」


 職人。


「三人?」


 真銀。


「ああ」


「クオン」


「レオン」


「シオン」


 アイ。


「……」


(……)


 真銀。


「千乃に」


「近くに」


 職人。


「……」


「もちろんです」


 真銀。


「それと」


 一瞬。


 真銀が。


 千乃の像を見る。


「……」


 そして。


「もう一つ」


 職人。


「はい」


 真銀。


「千乃だけの像も」


「近くに」


 職人。


「……!」


 ララ。


「主だけ?」


 真銀。


「ああ」


 真銀は。


 像を見上げる。


「みんなと一緒の千乃も」


「大切だ」


「……」


「でも」


 少し。


 声が。


 震える。


「千乃だけの姿も」


「残したい」


 アイ。


「……」


(真銀……)


 真銀。


「この国を作ったのは」


「千乃だからな」


「……」


「守って」


「笑って」


「怒って」


「泣いて」


「俺たちと」


「一緒に生きてくれた」


 アイ。


「にゃ……」


(……うん)


 真銀。


「だから」


「千乃の像を」


「一つだけ」


「ちゃんと」


「作ってほしい」


 職人。


「……分かりました」


「必ず」


 真銀。


「頼む」


 ララ。


「主の像!」


 ぴょんっ。


「絶対かわいい!」


 ライ。


「……」


「今ある像でも」


「十分目立っているがな」


 アイシィ。


「千乃さんらしい像になるといいですね」


 カミル。


 少し離れたところで。


 静かに。


「……我も」


「賛成だ」


 柚乃は。


 その場にはいない。


 けれど。


 真銀は。


 小さく。


 空を見上げた。


「……柚乃にも」


「見せてやりたいな」


 アイ。


「にゃ」


(きっと喜ぶよ)


 真銀。


「……」


 そして。


 真銀は。


 もう一度。


 像を見る。


 千乃。


 その隣に。


 真銀。


 ララ。


 ライ。


 アイシィ。


 カイル。


 カミル。


 柚乃。


 エレノア。


 グラン。


 そして。


 これから。


 クオン。


 レオン。


 シオン。


 さらに。


 千乃だけの像。


 新しい像が。


 作られる。


 それは。


 千乃がいなくなったことを。


 悲しむためだけではない。


 千乃が。


 ここにいたことを。


 忘れないため。


 そして。


 これからも。


 この国を。


 守っていくため。


 真銀。


「……」


 小さく。


「千乃」


 呟いた。


 アイ。


「にゃ」


(なに?)


 真銀。


「……ありがとう」


 アイ。


「……」


(……こちらこそ)


 真銀の隣で。


 白い猫が。


 静かに。


 尻尾を揺らした。


 その足元には。


 今日も。


 千乃へ贈られた花束が。


 たくさん。


 並んでいた。


 やがて。


 この広場には。


 千乃と。


 大切な家族たちの姿が。


 もう一度。


 刻まれることになる。


 その日の夜。


 星霜王国。


 千乃の部屋。


 窓から。


 月明かりが。


 静かに差し込んでいた。


「……」


 ベッドの上。


 白い猫。


 アイが。


 丸くなっている。


「にゃ」


(……今日は)


(ちょっと試してみようかな)


 アイは。


 ゆっくり。


 目を開ける。


(アストラル・レルム)


(行けるかな)


 以前。


 千乃が。


 守護神アルテナとして暮らしていた場所。


 エレノア。


 グラン。


 オルディア。


 そして。


 神々の世界。


「にゃ」


(行ってみよう)


 アイの身体を。


 淡い光が。


 包む。


 ふわっ。


 星の粒が。


 部屋いっぱいに。


 舞い始める。


「……?」


 真銀が。


 隣の椅子から。


 顔を上げる。


「アイ?」


「にゃ」


(ちょっとだけ、行ってくるね)


 次の瞬間。


 光。


 ぱあっ。


 白い猫の姿が。


 消えた。


「……」


 真銀。


「……?」


 しばらく。


 沈黙。


「……まあ」


「帰ってくるだろ」


 そして。


 アストラル・レルム。


「……」


 アイが。


 空から。


 ふわっ。


 と降りてきた。


「にゃ」


(着いた)


 その瞬間。


「あ」


 声。


 アイが。


 振り向く。


「……アルちゃん?」


 エレノア。


 その場に。


 立っていた。


 数秒。


 アイを見る。


「……」


 アイ。


「……にゃ?」


(ノアちゃん)


 エレノア。


「……」


 目を細める。


「アルテナだ」


「にゃ!?」


(えっ!?)


 エレノア。


「やっぱり」


「アルちゃんだ」


「にゃにゃ!?」


(なんで分かるの!?)


 そこへ。


 グラン。


「……何だ?」


 アイを見る。


「……」


「アルだな」


「にゃぁ!?」


(グランまで!?)


 さらに。


 オルディア。


「……」


 ゆっくり。


 アイを見る。


「なるほど」


「アルテナか」


「にゃ……」


(世界神様まで!?)


 エレノア。


「やっぱりね」


「にゃ」


(そんなに分かりやすい?)


 グラン。


「目だな」


「……にゃ?」


「右が金」


「左がピンク」


 オルディア。


「それに」


「その雰囲気だ」


「にゃ」


(雰囲気で分かるの!?)


 エレノアが。


 アイを。


 そっと。


 抱き上げる。


「アルちゃん」


「にゃ」


「死んだけど」


「にゃ……」


(うん)


「猫に憑依したんだね」


「……にゃ」


(そういうこと)


 グラン。


「なるほどな」


 オルディア。


「魂だけは」


「変わらなかったということか」


 アイ。


「にゃ」


(たぶんね)


 エレノア。


「でも」


「アルちゃん」


「にゃ?」


「ちょっと」


「やってみない?」


「にゃ?」


(何を?)


 エレノア。


「人になれると思うよ」


「……」


(人に?)


 グラン。


「アルなら」


「できるだろ」


 オルディア。


「神である以上」


「器を変える程度なら」


「不可能ではない」


 アイ。


「……」


(……やってみようかな)


「にゃ」


 エレノア。


「よし!」


「じゃあ」


「私がカスタマイズする!」


「にゃ?」


(カスタマイズ?)


 エレノア。


「髪型!」


「服!」


「顔!」


「全部!」


 アイ。


「にゃ……」


(ノアちゃん、絶対楽しんでる)


 エレノア。


「アルちゃんは」


「今までの姿に」


「戻れないかもしれない」


「にゃ……」


(……)


 エレノア。


「でも」


「元の身体に戻れる方法を」


「探せるまでは」


「今の身体で」


「暮らせばいい」


 アイ。


「……」


(元の身体に戻れるまで)


(みんなのところに帰れないわけじゃない)


(だったら)


(人の姿で話せるなら)


(やってみたい)


「にゃ」


 エレノア。


「決まり!」


 ぱんっ!


「じゃあ」


「変身!」


 淡い光が。


 アイを包む。


「……!」


 グラン。


「お」


 オルディア。


「……」


 光が。


 ゆっくり。


 消えていく。


 そこに。


 一人の少女が。


 立っていた。


 白い髪。


 肩から。


 背中へ。


 ふわりと流れる。


 頭には。


 白い猫耳。


 腰の後ろには。


 白い猫の尻尾。


 そして。


 右目。


 金色。


 左目。


 ピンク。


「……」


 少女は。


 自分の手を見る。


 指を。


 ゆっくり。


 動かす。


「……」


 そして。


「……声」


 小さく。


 呟いた。


「……出る」


 エレノア。


「出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「わっ!?」


 エレノア。


「アルちゃん!」


「人になった!」


「うん」


 グラン。


「……」


 腕を組む。


「思ったより」


「普通だな」


「どういう意味!?」


 オルディア。


「……」


 少女を見る。


「顔は」


「以前とは違うな」


「うん」


 少女。


 自分の顔に。


 そっと触れる。


「……別人だね」


 エレノア。


「でも」


 エレノア。


 じーっ。


「ちゃんと」


「アルちゃんの面影あるよ」


「……そう?」


「うん!」


 グラン。


「目は完全にアルだ」


「右金、左ピンク」


「……」


 少女。


「……」


 少し。


 笑う。


「なんか」


「不思議」


「猫だったのに」


「今は」


「人」


 エレノア。


「でしょ?」


 少女。


 猫耳を。


 ぴくっ。


 動かす。


「……」


「これ」


「勝手に動く」


 エレノア。


「かわいい!」


「……」


 尻尾も。


 ふわっ。


 揺れる。


「……これも」


「動く」


 グラン。


「完全に猫だな」


「……」


「まあ」


「アイだったしね」


 少女。


「……」


 少し。


 考える。


「……アイ」


 自分の名前を。


 口にする。


「今まで」


「そう呼ばれてたし」


 エレノア。


「じゃあ」


「人の姿でも」


「アイちゃんでいいね!」


「うん」


 オルディア。


「しかし」


「この姿は」


「元のアルテナとは違う」


「うん」


「戻る方法を探す間は」


「この姿で過ごすといい」


 アイ。


「……」


「ありがとう」


 エレノア。


「でも!」


「?」


「カスタマイズ」


「いらなかったね」


「……」


 グラン。


「最初から」


「必要なかったな」


 オルディア。


「本人の魂が」


「自分に合う姿を選んだのだろう」


 アイ。


「……」


 白い猫耳を。


 ちょこん。


 と触る。


「……うん」


「このままでいい」


 エレノア。


「決まり!」


「アルちゃん!」


「今日から」


「白猫神少女!」


「長いよ!?」


 グラン。


「雑だな」


 オルディア。


「……」


「アルテナでいい」


「それが一番まとも」


 アイ。


「じゃあ」


「私は」


「アイで」


 エレノア。


「うん!」


「アイちゃん!」


 アイ。


 少しだけ。


 笑った。


「……よろしく」


 そして。


 その夜。


 神々の世界。


 アストラル・レルムに。


 新しい姿の。


 千乃。


 いや。


 アイが。


 生まれた。


 白い髪。


 白い猫耳。


 白い尻尾。


 右目。


 金色。


 左目。


 ピンク。


 顔は。


 以前の千乃とも。


 アルテナとも。


 少し違う。


 それでも。


 笑ったときだけ。


 どこか。


 千乃の面影があった。


 エレノア。


「……」


「やっぱり」


「アルちゃんだね」


 アイ。


「……うん」


 その言葉を。


 今度は。


 猫の鳴き声ではなく。


 自分の声で。


 答えた。


「……ただいま」


 エレノア。


「……」


 グラン。


「……」


 オルディア。


「……」


 そして。


 エレノアが。


 笑った。


「おかえり」


 アイ。


 白い尻尾を。


 小さく揺らした。


「……うん」


 今度は。


 ちゃんと。


 話せる。


 そして。


 いつか。


 元の身体へ。


 戻れる方法が見つかるまで。


 この姿で。


 もう一度。


 みんなのそばへ。


 帰ることにした。


 アイ。


 白い髪。


 白い猫耳。


 白い尻尾。


 右目。


 金色。


 左目。


 ピンク。


 見た目だけなら。


 どこか。


 千乃の面影がある。


 けれど。


「……」


 アイは。


 自分の喉へ。


 そっと。


 手を当てた。


「……声」


 エレノア。


「うん?」


 アイ。


「……変」


 エレノア。


「?」


 アイ。


「なんか」


「自分の声なのに」


「自分の声じゃない」


 グラン。


「まあ」


「元の身体じゃないからな」


 アイ。


「……」


 もう一度。


「こんにちは」


 自分の声。


 少し高く。


 柔らかい。


 以前の。


 千乃の声とは。


 まったく違う。


「……」


(変な感じ)


(私が喋ってるのに)


(私の声じゃない)


 エレノア。


「どう?」


 アイ。


「……変な感じー」


「声が」


「ぜんぜん違う」


 エレノア。


「あー」


「確かに」


「アルちゃんの声じゃないね」


 アイ。


「でしょ?」


 グラン。


「前より」


「少し幼く聞こえるな」


「……」


 アイ。


「幼い?」


「うん」


「猫っぽい」


「猫だったからね」


「そういう問題か?」


 オルディア。


「声とは」


「肉体に強く依存するものだ」


 アイ。


「……」


「じゃあ」


「この声も」


「この身体の声ってこと?」


 オルディア。


「そうだ」


「魂は」


「千乃のままだ」


「だが」


「器が違う」


 アイ。


「……」


(魂は私)


(でも声は私じゃない)


 アイは。


 少し。


 不思議そうに。


 自分の声を。


 もう一度。


 聞いた。


「……私」


「こんな声なんだ」


 エレノア。


「うん」


「かわいいよ☆」


「……」


「でも」


「アルちゃんって感じは」


「ちゃんとする」


 アイ。


「……ほんと?」


「ほんと」


 グラン。


「目と」


「雰囲気だな」


 オルディア。


「それに」


「話し方」


「魂が同じなら」


「そういう部分は」


「変わらない」


 アイ。


「……」


 少し。


 笑う。


「そっか」


(声は違っても)


(私なんだ)


 アイは。


 猫耳を。


 ぴくっ。


 動かした。


「……にゃ」


 エレノア。


「今」


「猫になった?」


「違うよ!?」


 グラン。


「反射的に出たな」


「……」


 アイ。


「……」


(今のは恥ずかしい)


 エレノア。


「でも」


「アルちゃん」


「声が違うのも」


「慣れれば平気だよ」


「……」


 アイ。


「慣れるかな」


「うん」


「きっと」


 オルディア。


「それに」


「この姿は」


「今のお前が」


「選んだ姿でもある」


 アイ。


「……」


「私が?」


「ああ」


「白い髪も」


「猫耳も」


「尻尾も」


「オッドアイも」


「お前の魂が」


「自然に選んだ」


 アイ。


「……」


(じゃあ)


(この声も)


(この姿も)


(今の私なんだ)


 アイは。


 ゆっくり。


 前を向いた。


「……じゃあ」


「練習してみる」


 エレノア。


「何を?」


「喋る練習」


「いいね!」


 アイ。


「おはよう」


 エレノア。


「おはよう!」


「ありがとう」


「どういたしまして!」


「こんにちは」


「こんにちは!」


「……」


 アイ。


「変」


 エレノア。


「まだ言うの!?」


「だって」


「自分の声なのに」


「他人が喋ってるみたい」


 グラン。


「慣れるまで」


「仕方ないな」


 アイ。


「……」


(でも)


(いつか)


(この声にも)


(慣れるのかな)


 エレノア。


「アルちゃん」


「ん?」


「焦らなくていいよ」


「元の身体に戻る方法も」


「みんなで探すから」


 アイ。


「……」


「うん」


 その言葉に。


 少しだけ。


 安心した。


「ありがとう」


 エレノア。


「どういたしまして☆」


 アイ。


「……」


(この声)


(まだ変な感じだけど)


(いつか)


(自分の声だって)


(思えるようになったらいいな)


 白い猫耳が。


 ぴくっ。


 尻尾が。


 ふわっ。


 揺れる。


 新しい身体。


 新しい声。


 新しい名前。


 アイ。


 それでも。


 その中にいるのは。


 千乃。


 変わらない。

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