消えた声
医務室。
誰も動かなかった。
医師の言葉だけが。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
真銀の頭の中を。
巡っていた。
間に合わなかった。
千乃は。
もう。
いない。
真銀。
「……」
ゆっくり。
立ち上がる。
そして。
「千乃を」
「……」
「部屋へ」
医師。
「……真銀さん」
「お願いします」
「千乃は」
「俺の妻です」
「最後くらい」
「いつもの場所で」
「眠らせてあげたい」
医師は。
しばらく。
真銀を見た。
そして。
「……分かりました」
千乃の自室。
いつも。
千乃が過ごしていた部屋。
机。
窓。
棚。
そして。
ベッド。
そのベッドへ。
千乃の身体が。
静かに。
寝かされた。
傷は。
治療魔法によって。
きれいに。
元通りになっている。
髪も。
いつもの。
メタルピンク。
いつもの。
お団子。
まるで。
眠っているだけのようだった。
けれど。
もう。
目を開くことはない。
真銀。
「……」
ベッドの横に。
座る。
そして。
千乃の顔を見る。
「……本当に」
「寝てるみたいだな」
返事は。
ない。
真銀。
「……」
「起きてくれよ」
「千乃」
「……」
もちろん。
返事は。
ない。
真銀は。
しばらく。
その場から。
動かなかった。
すると。
アイシィが。
静かに。
部屋へ入ってきた。
「真銀さん」
「……」
「千乃さんの身体を」
「保存魔法で」
「この部屋ごと」
「保存しておきましょう」
真銀。
「……できるのか?」
「はい」
「千乃さんが」
「いつか戻ってこられる可能性を」
「少しでも残せるように」
真銀は。
千乃を見る。
「……頼む」
「分かりました」
アイシィが。
そっと。
手を前へ。
「――永久氷界」
ふわっ。
淡い光が。
部屋いっぱいに。
広がっていく。
壁。
床。
天井。
家具。
窓。
そして。
ベッド。
千乃。
すべてが。
静かな魔法の中へ。
包まれていく。
時が。
止まったようだった。
「……」
アイシィ。
「これで」
「この部屋は」
「変わりません」
「埃も」
「傷みも」
「時間による変化も」
「すべて」
「止まります」
真銀。
「……ありがとう」
アイシィ。
「いえ」
「……」
真銀は。
もう一度。
千乃を見る。
「……これなら」
「千乃が」
「帰ってきても」
「大丈夫だな」
アイシィ。
「……はい」
その言葉に。
アイシィ自身も。
少しだけ。
声を震わせた。
そして。
部屋の外。
「……」
ララが。
立っていた。
その後ろ。
クオン。
レオン。
シオン。
三人。
誰も。
部屋へ。
入れなかった。
「……主」
ララの声が。
小さく。
震える。
「……」
クオン。
「お姉ちゃん……」
レオン。
「……ママ」
シオン。
「ママぁ……」
誰も。
返事をしない。
ララが。
扉を見る。
「……」
そして。
「主」
ぽろっ。
一粒。
涙が。
落ちた。
「……起きて」
返事は。
ない。
「主……」
ぽろ。
ぽろ。
「ララ」
「ここにいるよ」
「ずっと」
「ここにいるから」
けれど。
千乃は。
答えない。
その瞬間。
「ママぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レオン。
泣き出した。
シオンも。
「ママぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クオン。
「お姉ちゃん……!」
声を。
抑えられない。
「お姉ちゃん……!」
「起きてよ……!」
「お姉ちゃん……!」
ララ。
「主ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
四人の声が。
廊下に。
響き渡った。
その声を。
部屋の中で。
真銀が。
聞いていた。
「……」
目を。
閉じる。
「……みんな」
そして。
千乃の手を見る。
もう。
握り返しては。
くれない。
「……千乃」
「お前」
「最後まで」
「みんなのこと」
「心配してたな」
「……」
真銀の声が。
震える。
「自分が」
「こんな状態なのに」
「みんなを」
「俺に託して」
「……」
千乃。
静かに。
眠っている。
真銀。
「……分かったよ」
「約束する」
「みんなを守る」
「絶対に」
「……」
それでも。
涙が。
止まらなかった。
その頃。
廊下では。
ララ。
クオン。
レオン。
シオン。
四人が。
泣き続けていた。
「「ママ……!」」
「お姉ちゃん……!」
「主……!」
クオンは。
小さな手で。
扉を。
ぎゅっと握る。
「……お姉ちゃん」
「帰ってきて」
「……」
レオン。
「ママ」
「……」
シオン。
「ママぁ……」
三人は。
これまで。
何度も。
千乃に。
助けてもらった。
笑ってもらった。
一緒に。
過ごした。
だから。
分かってしまう。
今度だけは。
千乃が。
返事をしてくれないことを。
「……」
ララ。
小さく。
「……主」
「ララ」
「ずっと」
「待ってるから」
「……」
「だから」
「……」
「帰ってきて」
誰も。
その言葉を。
否定できなかった。
千乃の部屋は。
保存された。
時間から。
切り離されたように。
静かに。
そこに残った。
ベッドの上。
いつもの姿の。
千乃。
そして。
その外。
泣き続ける。
ララ。
クオン。
レオン。
シオン。
部屋の中。
千乃の隣に座る。
真銀。
誰も彼女が戻ってくるとは。
約束できない。
けれど。
誰も。
諦めることも。
できなかった。
その夜。
星氷神城は。
とても。
静かだった。
ただ。
千乃の部屋の前だけ。
時々。
「ママ……」
「お姉ちゃん……」
「主……」
という。
小さな声が。
いつまでも。
消えなかった。
翌朝。
星氷神城。
千乃の部屋の前。
「……」
クオン。
「……」
レオン。
「……」
シオン。
三人は。
まだ。
そこにいた。
ララも。
隣で。
ずっと。
扉を見ていた。
「……主」
ララが。
小さく。
呟く。
「……」
クオン。
「お姉ちゃん……」
レオン。
「ママ……」
シオン。
「ママ……」
誰も。
動かなかった。
すると。
アイシィが。
静かに。
近づいてきた。
「……三人とも」
「少し」
「別の部屋で」
「休みませんか?」
「……」
クオン。
「……嫌」
「お姉ちゃんの」
「近くがいい」
レオン。
「僕も」
「ママの近くがいい」
シオン。
「私も」
「ママの近くがいい」
アイシィ。
「……」
困ったように。
千乃の部屋を見る。
「千乃さんの部屋は」
「保存魔法がかかっています」
「これ以上」
「中へ入ることはできません」
「……」
三人。
黙る。
すると。
ララが。
「……」
「じゃあ」
「三人で」
「一緒の部屋にいれば?」
クオン。
「……」
レオン。
「……」
シオン。
「……」
三人が。
顔を見合わせる。
「……」
「……」
「……」
そして。
クオン。
「……一緒?」
レオン。
「うん」
シオン。
「一緒がいい」
クオン。
「……」
「じゃあ」
「三人の部屋」
レオン。
「広いところがいい」
シオン。
「三人で使える」
ララ。
「それなら」
「寂しくない!」
クオン。
「……」
少しだけ。
頷いた。
「……うん」
しばらくして。
星氷神城の。
少し広めの部屋。
大きな窓。
三つのベッド。
大きな机。
そして。
三人が一緒に過ごせる。
十分な広さ。
クオン。
「……ここ」
レオン。
「うん」
シオン。
「三人で使う」
アイシィ。
「よろしいですか?」
三人。
「「「うん」」」
クオン。
部屋の中を。
とことこ。
歩く。
ベッドを見る。
机を見る。
窓を見る。
そして。
「……」
「お姉ちゃん」
小さく。
呟いた。
「ここから」
「お姉ちゃんの部屋」
「見える?」
アイシィ。
「……見えますよ」
窓の向こう。
少し離れた場所。
千乃の部屋。
保存魔法によって。
静かに。
そこにある。
クオン。
「……」
レオン。
「ママの部屋」
シオン。
「……」
「見えるね」
クオン。
「……よかった」
ほんの少し。
安心したように。
笑った。
けれど。
その夜。
三人は。
ベッドに入っても。
眠れなかった。
「……」
クオン。
「……」
レオン。
「……」
シオン。
三人。
それぞれのベッド。
けれど。
誰も。
目を閉じない。
しばらくして。
「……ねえ」
シオン。
「うん?」
レオン。
「……ママ」
「帰ってくるかな」
「……」
クオン。
「お姉ちゃん」
「帰ってきてほしい」
シオン。
「うん」
レオン。
「僕も」
沈黙。
そして。
「……」
クオン。
布団から。
ゆっくり。
起き上がる。
「……一緒に寝ない?」
レオン。
「……」
シオン。
「……いいよ」
三人。
それぞれ。
ベッドから降りる。
そして。
三人用の。
大きなベッドへ。
集まる。
「……」
「……」
「……」
クオン。
「……一人だと」
「寂しいから」
レオン。
「僕も」
シオン。
「私も」
三人。
ぴったり。
寄り添う。
しばらく。
誰も。
喋らない。
そして。
「……ママ」
レオン。
「……お姉ちゃん」
クオン。
「……ママ」
シオン。
三人の目から。
涙が。
ぽろぽろ。
「……」
クオン。
「お姉ちゃん……!」
レオン。
「ママぁ……!」
シオン。
「ママぁぁ……!」
ついに。
三人とも。
声を抑えられなくなった。
「ママぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「お姉ちゃんんんんんんんんんんんん!!」
「ママぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
部屋の外。
ララが。
立っていた。
「……」
聞こえてくる。
三人の泣き声。
「……」
ララも。
目を潤ませる。
「……主」
小さな声。
「……」
「ララも」
「寂しいよ」
そして。
ララも。
三人の部屋へ。
とことこ。
入っていく。
「……」
三人。
「ララ……」
「ララさん……」
「……」
ララ。
「……一緒に」
「いていい?」
クオン。
「……うん」
レオン。
「うん」
シオン。
「もちろん」
ララ。
ベッドへ。
ぽすっ。
四人。
一緒に。
並ぶ。
ララ。
「……主」
「帰ってきて」
クオン。
「お姉ちゃん」
「帰ってきて……」
レオン。
「ママ」
「帰ってきて……」
シオン。
「ママぁ……」
四人。
また。
泣いた。
けれど。
今度は。
一人じゃなかった。
互いに。
そばにいる。
だから。
少しだけ。
眠ることができた。
その夜。
保存された。
千乃の部屋。
ベッドの上。
いつもの姿の。
千乃。
静かに。
そこにいる。
そして。
少し離れた。
三人の部屋。
クオン。
レオン。
シオン。
その隣。
ララ。
四人が。
寄り添って。
眠っている。
千乃が。
大切にしていた。
子どもたちと。
仲間。
その夜だけは。
一人にならないように。
互いを。
支えながら。
静かな夜を。
過ごしていた。
数日後。
星氷神城。
朝。
「……」
中庭。
クオン。
レオン。
シオン。
三人が。
並んで。
歩いていた。
「……」
まだ。
千乃がいない寂しさは。
消えていない。
けれど。
三人で一緒にいることで。
少しずつ。
いつもの生活を。
取り戻そうとしていた。
その時。
「……にゃ」
「……?」
クオンが。
足を止めた。
「……今」
「猫?」
レオン。
「……」
シオンも。
耳を澄ませる。
「にゃー……」
「……」
植え込みの向こう。
白い影が。
ひょこっ。
と。
顔を出した。
「……!」
クオン。
「猫……」
そこにいたのは。
真っ白な猫だった。
白い毛。
小さな身体。
そして。
何より。
右目。
金色。
左目。
ピンク。
オッドアイ。
「……」
三人。
じーっ。
「……」
猫も。
三人を見る。
「にゃ」
クオン。
「……」
ゆっくり。
近づく。
「怖くないよ」
猫。
「……」
クオンの足元まで。
とことこ。
歩いてくる。
「……」
そして。
すりっ。
クオンの足へ。
身体を。
擦りつけた。
「……!」
クオン。
「かわいい……」
レオン。
「白い猫」
シオン。
「目」
「ママと同じ」
クオン。
「……」
三人。
猫を見る。
右目。
金色。
左目。
ピンク。
「……」
クオン。
「お姉ちゃんみたい」
レオン。
「ママみたい」
シオン。
「……うん」
その時。
廊下から。
真銀が。
歩いてきた。
「お前たち」
「何してる?」
クオン。
「真銀さん!」
レオン。
「パパ!」
シオン。
「猫!」
真銀。
「猫?」
真銀が。
中庭を見る。
「……」
白い猫。
「……」
猫も。
真銀を見る。
「にゃ」
「……」
真銀。
しばらく。
猫を。
見つめた。
「……お前」
猫。
「……」
「千乃に」
「似てるな」
クオン。
「……!」
レオン。
「やっぱり?」
シオン。
「ママみたい」
真銀。
「……」
猫が。
とことこ。
真銀へ。
近づいてくる。
「……」
そして。
真銀の足元で。
ぴたっ。
座った。
「……」
真銀。
しゃがむ。
そっと。
猫の頭へ。
手を伸ばす。
「……」
撫でる。
さらっ。
白い毛。
「……」
猫。
「……にゃ」
真銀。
「……」
ほんの少し。
表情が。
柔らかくなった。
「……千乃」
「……」
猫は。
真銀の手へ。
頭を。
擦りつける。
「……」
真銀。
その姿を。
しばらく。
見ていた。
そして。
「……」
「飼うか」
クオン。
「いいの?」
「……ああ」
レオン。
「名前!」
シオン。
「決めよう!」
真銀。
「名前か」
クオン。
「ママに似てるから」
「千乃?」
レオン。
「ちのちゃん!」
シオン。
「……」
猫。
「にゃ」
真銀。
「……」
「それは」
「本人みたいで」
「少し困るな」
クオン。
「じゃあ」
「何がいい?」
真銀。
猫を見る。
右目。
金色。
左目。
ピンク。
「……」
そして。
「アイ」
クオン。
「アイ?」
真銀。
「ああ」
「短いし」
「呼びやすい」
レオン。
「アイ!」
シオン。
「アイちゃん!」
猫。
「……にゃ」
クオン。
「気に入ったみたい」
真銀。
「そうだな」
こうして。
白い猫は。
星氷神城の。
新しい家族になった。
名前は。
アイ。
その夜。
三人の部屋。
「アイ!」
レオン。
「こっち!」
シオン。
「おいで!」
白い猫。
とことこ。
部屋へ入ってくる。
「にゃ」
クオン。
「……」
猫は。
三人の真ん中へ。
ぽすっ。
と。
座った。
レオン。
「かわいい」
シオン。
「ふわふわ」
クオン。
「……」
クオンは。
アイの頭を。
そっと。
撫でる。
「……お姉ちゃん」
アイ。
「……」
「にゃ」
クオン。
「……」
少しだけ。
笑った。
「……お姉ちゃんが」
「帰ってきたみたい」
レオン。
「ママ……」
シオン。
「……」
アイは。
三人の間に。
静かに。
座っていた。
そして。
三人の顔を。
順番に。
見る。
右目。
金色。
左目。
ピンク。
その瞳の奥には。
誰にも。
気づかれない。
小さな記憶が。
残っていた。
――大丈夫。
――一緒にいるよ。
――寂しくないよ。
けれど。
その記憶が。
どこから来たのか。
誰も。
知らない。
真銀も。
クオンも。
レオンも。
シオンも。
ララも。
ライも。
アイシィも。
誰一人として。
気づかない。
白い猫。
アイ。
その正体が。
千乃の霊を宿した存在だということを。
ただ。
アイは。
三人のそばで。
静かに。
寄り添っていた。
まるで。
ずっと。
そこにいたかのように。
そして。
誰にも。
知られないまま。
アイは。
星氷神城で。
暮らし始めた。
翌朝。
星氷神城。
大広間。
「みんなー!」
クオンの声が。
響いた。
「集まってー!」
「どうした?」
ライが。
大広間へ入ってくる。
アイシィも。
「何かありましたか?」
ララは。
「おやつ!?」
「違うよ!」
クオンが。
即答する。
「……」
レオン。
「猫」
シオン。
「見せたい」
ララ。
「猫!?」
ぴょんっ。
「どこ!?」
「そこ」
クオンが。
指を差す。
すると。
「……にゃ」
とことこ。
白い猫が。
部屋へ入ってきた。
「……!」
ララ。
ぴたっ。
「かわいい!」
そのまま。
アイの周りを。
ぐるぐる。
「白い!」
「ふわふわ!」
「ちっちゃい!」
アイ。
「にゃ……」
少し。
困ったように。
ララを見る。
ライ。
「落ち着け、ララ」
「だって猫だよ!」
「知ってる」
アイシィ。
しゃがみ込む。
「……まあ」
「とても可愛らしいですね」
アイは。
アイシィを見る。
「にゃ」
アイシィ。
「こんにちは」
そっと。
手を伸ばす。
アイは。
その手へ。
すりっ。
「……」
アイシィ。
「人懐っこいですね」
クオン。
「うん」
「昨日から」
「ずっと一緒」
レオン。
「ママみたい」
シオン。
「目も同じ」
ライ。
「……」
ライも。
アイの目を見る。
右目。
金色。
左目。
ピンク。
「……確かに」
「千乃に似てるな」
アイ。
「にゃ」
そこへ。
真銀が。
入ってきた。
「みんな」
「集まってたのか」
クオン。
「真銀さん!」
「昨日の猫!」
真銀。
「アイか」
「うん!」
ララ。
「名前!」
「アイ!」
「いい名前!」
真銀。
「だろ?」
その時。
玄関の方から。
「おーい!」
大きな声。
「何してるんだー!」
「……」
真銀。
「嫌な予感がする」
ライ。
「同感だ」
ばたんっ!
扉が開く。
「俺が来たぞ!」
カイル。
「……」
千乃がいない今も。
いつも通り。
金髪。
青い瞳。
勇者の装備。
そして。
無駄に堂々とした登場。
「カイル!」
ララ。
「おまけカイル!」
「俺はカイルだ!」
カイル。
胸を張る。
「今日は」
「この俺が」
「……」
そこで。
アイを見る。
「……?」
白い猫。
金色とピンクのオッドアイ。
「……」
カイル。
「……」
「猫?」
クオン。
「うん」
「アイ」
カイル。
「アイ?」
「新しい家族」
カイル。
「……」
ゆっくり。
アイへ近づく。
「……」
「かわいいな」
アイ。
「にゃ」
カイル。
しゃがむ。
「……」
右目。
金色。
左目。
ピンク。
「……」
カイル。
「……千乃に」
「似てるな」
真銀。
「俺もそう思った」
カイル。
「……」
少し。
黙る。
「……」
そして。
「アイ」
アイ。
「にゃ」
カイル。
「……よろしくな」
アイは。
カイルの手へ。
すりっ。
「……!」
カイル。
「懐いた!?」
ララ。
「アイ!」
「うん!」
「カイルにも懐いた!」
「俺にも!?」
カイル。
嬉しそうに。
笑う。
「……」
その瞬間。
アイが。
カイルの髪へ。
前足を。
ちょん。
「……?」
カイル。
「……」
「髪?」
アイ。
「にゃ」
ララ。
「アイ、カイルの髪触ってる!」
「……」
カイル。
固まる。
「……」
全員。
「……」
そして。
「……」
カイル。
「……俺」
「猫にも」
「髪をいじられるのか」
ライ。
「そういう星の下なんだろ」
「どういう星だよ!?」
アイシィ。
「ふふっ」
クオン。
「カイルさん」
「元気出して」
「……」
カイル。
「優しい……」
ぽろ。
「泣くな」
真銀が。
即座に言う。
「まだ泣いてない!」
ぽろ。
「泣いてる」
「これは感動だ!」
「何の?」
「アイが可愛すぎる!」
「それならいい」
ララ。
「泣き虫!」
「びょええええええええええええ!!」
「やっぱり泣いたぁぁぁぁぁぁぁ!?」
その後。
アイは。
みんなに。
順番に。
紹介された。
「俺はライだ」
アイ。
「にゃ」
「よろしく」
「にゃ」
「……」
ライ。
「ちゃんと返事するな」
次。
「私はアイシィです」
「にゃ」
「ふふっ」
「よろしくお願いしますね」
「にゃ」
そして。
ララ。
「ララ!」
「にゃ!」
「仲間!」
「にゃ!」
「……」
「ララ、猫に合わせてる?」
「うん!」
クオン。
「僕はクオン」
「お姉ちゃんの」
「……」
クオンの声が。
少しだけ。
止まる。
「……弟みたいなもの」
アイ。
「……」
とことこ。
クオンのところへ。
すりっ。
「……」
クオン。
そっと。
アイを抱き上げる。
「……あったかい」
アイ。
「にゃ」
レオン。
「僕はレオン!」
シオン。
「私はシオン!」
二人。
「よろしくね!」
アイ。
「にゃ」
三人と。
一匹。
笑った。
最後に。
カイル。
「……」
アイを見る。
「俺は」
「カイル」
ララ。
「おまけカイル!」
「だからそれは!」
アイ。
「……」
カイル。
「……」
アイ。
じーっ。
そして。
とことこ。
カイルのところへ。
「……?」
アイ。
すりっ。
カイル。
「……」
「……」
アイ。
「にゃ」
カイル。
少しだけ。
笑った。
「……よろしくな」
そして。
アイの頭を。
そっと。
撫でる。
「……」
誰も。
気づかなかった。
その瞬間。
アイの瞳が。
ほんの少しだけ。
優しく細められたことを。
白い猫。
アイ。
その胸の奥に。
千乃の記憶が。
静かに。
残っていることを。
けれど。
それを知る者は。
誰もいない。
アイは。
ただ。
新しい家族として。
星氷神城に。
受け入れられた。




