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192/197

”大切”を取り戻すための戦い

 次の瞬間。


 ドォンッ!!


 千乃と。


 レグナード。


 二人の姿が。


 同時に。


 消えた。


「……!」


 キィィィン!!


 中央。


 一瞬。


 二人の姿が。


 現れる。


 千乃の拳と。


 レグナードの剣。


 真正面から。


 ぶつかっていた。


「……」


「……」


 ギギギギギ……!


 魔力と。


 魔力が。


 激しく。


 ぶつかり合う。


 レグナード。


「……なるほど」


 千乃。


「何?」


「確かに」


「強いな」


 千乃。


「そっちもね」


 レグナード。


「だが」


 力を。


 一気に。


 込める。


「俺は」


「世界最強だ!」


 ドォォォォォン!!


 衝撃。


 千乃の身体が。


 後ろへ。


 吹き飛ぶ。


「お姉ちゃん!」


 柚乃が。


 叫ぶ。


 しかし。


 千乃は。


 空中で。


 くるり。


 回転。


 そのまま。


 黒い翼を。


 広げる。


 ばさっ!


 空中で。


 停止した。


「……」


 レグナード。


「飛べるのか」


「うん」


 千乃。


「便利でしょ?」


「……」


「便利という言葉で済ませるか」


 レグナードが。


 剣を。


 構える。


「なら」


「空でも」


「俺が勝つ」


 次の瞬間。


 レグナードの身体から。


 巨大な魔力が。


 噴き上がった。


「……!」


 アイシィ。


「これは……!」


 クオン。


「すごい……」


 ララ。


「お姉ちゃん!」


 レオン。


「ママ!」


 シオン。


「ママ!」


 千乃。


「……」


 深紅の瞳が。


 レグナードを。


 捉える。


「……」


「本当に」


「強いんだね」


 レグナード。


「当然だ」


「この国で」


「俺に勝てる者はいない」


 千乃。


「そっか」


「じゃあ」


 黒い翼。


 大きく。


 広がる。


「私が」


「最初の一人になるね」


 レグナード。


「……!」


「面白い!」


 レグナードが。


 地面を。


 蹴る。


 ドンッ!!


 一瞬。


 姿が消える。


「……!」


 千乃。


 横へ。


 跳ぶ。


 その直後。


 ズガァァァァン!!


 千乃がいた場所の地面が。


 大きく。


 砕ける。


「速い!」


 柚乃。


 千乃。


「……」


 レグナード。


「避けたか」


「うん」


「なら」


 レグナード。


 連続で。


 踏み込む。


「これはどうだ!」


 キィン!


 キィィン!


 キィィィン!!


 剣撃。


 千乃は。


 翼を。


 使いながら。


 次々と。


 かわしていく。


「……」


 右。


 左。


 上。


 下。


 レグナードの剣が。


 空を。


 切る。


 千乃。


「……」


 そして。


 隙。


 一瞬。


 千乃が。


 レグナードの懐へ。


「……ここ」


 拳を。


 突き出す。


「っ!」


 レグナード。


 剣を。


 横へ。


 構える。


 ガァン!!


 拳と。


 剣が。


 ぶつかる。


 レグナード。


「……!」


 千乃。


「どう?」


「……」


 レグナード。


「重いな」


「よかった」


「褒めてるわけではない」


「知ってる」


 その時。


 千乃の背後。


「ママ!」


 レオン。


「気をつけて!」


 シオン。


「うん!」


 千乃。


 振り返らず。


「大丈夫!」


 レグナード。


「……」


「戦いながら」


「子どもと話す余裕があるか」


 千乃。


「あるよ」


「……」


「だって」


 千乃。


 レグナードを見る。


「私は」


「ママだから」


 レグナード。


「……」


 その言葉。


 一瞬だけ。


 レグナードの動きが。


 止まる。


 しかし。


「なら」


 すぐに。


 剣を。


 構え直す。


「その子どもたちの父親を」


「取り戻せるか」


 千乃。


「……!」


 真銀。


「千乃!」


 千乃。


 深紅の瞳。


 さらに。


 鋭くなる。


「……取り返す」


 レグナード。


「なら」


「来い!」


 魔力が。


 一気に。


 膨れ上がる。


「――王覇剣おうはけん!」


 レグナードの剣に。


 巨大な魔力が。


 集まる。


 ズズズズズ……!


 地面が。


 震える。


 アイシィ。


「千乃さん!」


「かなりの威力です!」


 クオン。


「お姉ちゃん……!」


 ララ。


「主!」


 レオン。


「ママ!」


 シオン。


「負けないで!」


 千乃。


「……」


 黒い翼を。


 大きく。


 広げる。


「分かった」


 深紅の瞳。


 静かに。


 輝く。


「私も」


「本気でいく」


 千乃の周囲。


 黒い魔力が。


 集まり始める。


 空気が。


 震える。


 レグナード。


「……!」


「その力……」


 千乃。


「鬼月姫」


 白い髪が。


 風に。


 舞う。


「私の力」


 レグナード。


「……」


 千乃。


「真銀を」


「返してもらうよ」


 レグナード。


「ならば」


 剣を。


 振り上げる。


「勝ってみろ!」


 千乃。


「うん」


 黒い翼。


 ばさぁぁぁぁぁぁっ!!


 レグナード。


「王覇剣!!」


 千乃。


「……」


 両者。


 同時に。


 踏み込む。


 轟音。


 魔力。


 衝撃。


 空気が。


 大きく。


 震える。


 そして。


 鬼月姫。


 千乃と。


 世界最強を名乗る。


 レグナード。


 二人の。


 本気の一撃が。


 真正面から。


 ぶつかった。


 轟音。


 王覇剣と。


 千乃の魔力が。


 真正面から。


 ぶつかった。


「――!」


 ドォォォォォォォォォォン!!


 巨大な衝撃波。


 王城の庭が。


 一瞬で。


 白い煙に包まれる。


「お姉ちゃん!」


「ママ!」


 柚乃と。


 レオン。


 シオンが。


 叫ぶ。


 アイシィも。


「千乃さん!」


 煙の向こうを。


 見つめる。


「……」


 数秒。


 何も。


 見えない。


 そして。


「……そこか」


 レグナードの声。


「終わったな」


 剣を。


 ゆっくり。


 下ろす。


「俺の王覇剣を」


「真正面から受けて」


「立っていられる者など――」


「いない」


 その瞬間。


 煙の中から。


「……誰が?」


 声。


「……!」


 レグナードが。


 顔を上げる。


 煙が。


 すうっ。


 晴れていく。


 そこに。


 千乃が。


 立っていた。


「……!」


 白い髪。


 深紅の瞳。


 二本の角。


 黒い着物。


 黒い翼。


 鬼月姫。


 千乃。


「残念」


「ちゃんと避けたよ」


 レグナード。


「……!」


「避けただと?」


「うん」


「真正面から」


「受けたように見せただけ」


「……」


 レグナード。


 目を細める。


「いつの間に……」


 千乃。


「ずっと」


「あなたの」


「剣を見てたから」


 レグナード。


「……」


「なるほど」


 そして。


 再び。


 剣を構える。


「ならば」


「次こそ」


「逃がさん!」


 千乃。


「……」


 しかし。


 千乃は。


 レグナードを。


 見なかった。


「……?」


 レグナード。


「何を見ている?」


 千乃。


 視線。


 その先。


 王城。


 真銀。


「……」


 そこに。


 いた。


 兵士たちに。


 囲まれて。


「千乃……」


 千乃の。


 深紅の瞳が。


 一瞬。


 揺れる。


「……真銀」


 レグナード。


「……」


「そいつを」


「返してほしいか?」


「うん」


 千乃。


 即答。


「なら」


 レグナード。


「俺に勝て」


 千乃。


「……」


「分かった」


 レグナード。


「何?」


 千乃。


「勝つ」


 その瞬間。


 千乃の翼が。


 ばさっ!!


 広がった。


 そして。


「……!」


 千乃の姿が。


 消える。


「なっ!?」


 レグナード。


 振り返る。


 しかし。


 いない。


「どこだ!」


 その直後。


 王城の中。


 兵士。


「な、何だ!?」


「上だ!」


「え?」


 天井近く。


 黒い影。


「……」


 千乃。


「見つけた」


 兵士。


「――!」


 千乃は。


 一瞬で。


 真銀のもとへ。


 降り立った。


「千乃……!」


「真銀」


「……」


「迎えに来たよ」


「……!」


 真銀が。


 目を見開く。


「でも」


「レグナードが」


「大丈夫」


 千乃。


「今は」


「私を信じて」


 真銀。


「……分かった」


 千乃。


 真銀の身体を。


 そっと。


 支える。


「行くよ」


「どこへ?」


「アイシィのところ」


 そして。


 千乃が。


 真銀を。


 抱え上げる。


「……!」


 真銀。


「千乃」


「うん」


「……悪い」


「何が?」


「また」


「助けられた」


 千乃。


「……」


 少しだけ。


 笑う。


「夫を迎えに来ただけだよ」


 真銀。


「……」


 千乃。


 そのまま。


 翼を広げる。


「行くよ!」


 ばさぁぁぁぁぁぁっ!!


 一気に。


 空へ。


「待て!」


 レグナード。


 王城の庭から。


 追いかける。


 千乃。


「アイシィ!」


 アイシィ。


「はい!」


 千乃が。


 真銀を。


 アイシィの背へ。


 そっと。


 託す。


「真銀を」


「お願い」


 アイシィ。


「お任せください」


 真銀。


「千乃」


「うん?」


「……気をつけろ」


「大丈夫」


 千乃。


「真銀は」


「私が取り返したから」


「……」


 アイシィ。


 真銀を。


 しっかり。


 支える。


「真銀さん」


「大丈夫です」


「……ああ」


 千乃。


 アイシィから。


 一歩。


 離れる。


 黒い翼。


 ゆっくり。


 広がる。


「千乃さん」


 アイシィ。


「……」


「ご無事を」


 千乃。


「うん」


 そして。


 レグナードが。


 庭へ。


 降り立つ。


「……」


「真銀を」


「連れ出したか」


 千乃。


「うん」


 レグナード。


「約束を」


「忘れたか?」


 千乃。


「忘れてないよ」


「……」


 千乃。


 深紅の瞳。


 レグナードへ。


「でも」


「私は」


「最初から」


「真銀を返してもらうために」


「あなたに勝つつもりだった」


 レグナード。


「……!」


 千乃。


「だから」


 黒い翼が。


 大きく。


 羽ばたく。


「ここからが」


「本番だよ」


 レグナード。


「……」


 剣を。


 構える。


「望むところだ」


 千乃。


「うん」


 アイシィの背。


 真銀。


 レオン。


 シオン。


 クオン。


 皆が。


 千乃を見る。


「ママ!」


「お姉ちゃん!」


「千乃さん!」


 千乃。


 振り返らず。


「大丈夫」


「すぐ終わらせるから」


 そして。


 鬼月姫。


 千乃と。


 ルースエルド王国第一王子。


 レグナード。


 二人の戦いは。


 ここから。


 本当の意味で。


 始まった。


 レグナード。


「……」


 千乃。


「……」


 二人。


 向かい合う。


 アイシィの背には。


 レオン。


 シオン。


 クオン。


 3人がいる。


 レグナードは。


 ちらりと。


 そちらを見る。


「……」


 千乃の。


 深紅の瞳が。


 細くなる。


「……何?」


 レグナード。


「別に」


 そう言って。


 剣を。


 ゆっくり。


 構える。


「……」


 千乃も。


 構えた。


「来て」


「……」


 その瞬間。


 レグナードの。


 手元が。


 光った。


「……?」


 魔法。


 千乃。


「……!」


 放たれた。


 しかし。


 その方向は。


 千乃ではなかった。


「……!」


 子どもたち。


 アイシィ。


 その方向。


「ママ!」


「お姉ちゃん!」


 千乃。


「……っ!」


 翼を。


 大きく。


 広げる。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ドォォォォォン!!


 千乃が。


 子どもたちの前へ。


 一瞬で。


 飛び込む。


 黒い翼が。


 盾になる。


 魔法が。


 千乃へ。


 直撃。


「……!」


 衝撃。


 地面が。


 大きく。


 揺れる。


「ママ!」


「お姉ちゃん!」


 千乃。


「……」


 煙の中。


 立っている。


 黒い翼。


 ゆっくり。


 開く。


「……大丈夫」


 レオン。


「ママ!」


「うん」


 シオン。


「守ってくれた!」


「当然だよ」


 千乃。


「私は」


「お母さんだから」


 その時。


「……」


 レグナードが。


 笑った。


「……そうすると思った」


 千乃。


「……?」


 その瞬間。


 別の場所から。


 魔力。


「……!」


 アイシィ。


「千乃さん!」


「後ろです!」


 千乃。


「……!」


 振り返る。


 真銀のいる方向。


「真銀!」


 もう一つ。


 魔法が。


 飛んでいた。


「……!」


 千乃の翼が。


 大きく。


 動く。


「させない!」


 黒い翼。


 バサァッ!!


 魔法を。


 真正面から。


 弾き飛ばす。


 魔法は。


 空へ。


 消えていった。


「……」


 千乃。


「……よし」


 その瞬間だった。


「……!」


 レグナードが。


 目の前に。


 いた。


「……え?」


 キィィン。


 剣が。


 光る。


「千乃!!」


 真銀が。


 叫ぶ。


 しかし。


 遅かった。


 ドンッ!!


 レグナードの剣が。


 千乃の心臓部を正面から貫いた。


「……」


 時間が止まったようだった。


 千乃。


「……」


 深紅の瞳がわずかに見開かれる。


「……っ」


 口元から。


 血が。


 こぼれる。


「千乃さん!!」


 アイシィが。


 叫ぶ。


「ママ!!」


「お姉ちゃん!!」


 レオンとシオンも。


 叫ぶ。


 千乃。


「……」


 レグナードは。


 剣を。


 抜かなかった。


 ただ。


 柄から。


 手を離す。


「……」


 そして。


 もう一本。


 剣を。


 抜く。


 シャキィン。


「……」


 そして構え直す。


 レグナード。


「……まだ終わっていない」


 千乃。


「……」


 身体を。


 わずかに。


 揺らす。


 それでも。


 倒れない。


「……」


 血が。


 ぽた。


 ぽた。


 地面へ。


 落ちる。


 赤い雫が。


 少しずつ。


 地面を。


 染めていく。


「千乃……!」


 真銀が。


 声を震わせる。


「……」


 千乃。


 ゆっくり。


 顔を上げる。


 白い髪。


 深紅の瞳。


 二本の角。


 黒い翼。


 その姿は。


 鬼月姫。


 けれど。


 今までとは。


 違っていた。


「……」


 千乃の目は。


 まだ。


 冷たい。


 しかし。


 その奥に。


 確かな光がある。


「……子どもたちを」


 千乃。


「狙ったね」


 レグナード。


「戦いだ」


「何でも使う」


 千乃。


「……」


 レグナード。


「それに」


「お前は」


「守ることを選んだ」


「なら」


「そこを突くのは」


「当然だろう」


 千乃。


「……」


 少し。


 俯く。


「……そう」


 そして。


 顔を上げる。


「なら」


 深紅の瞳。


「私も」


「遠慮しない」


 レグナード。


「……!」


 千乃。


 身体に。


 剣が残ったまま。


 ゆっくり。


 一歩。


 前へ。


 レグナード。


「……なに?」


 千乃。


「私は」


「真銀を」


「取り返す」


「子どもたちも」


「守る」


「だから」


 黒い翼が。


 ゆっくり。


 広がる。


「あなたに」


「負けない」


 真銀。


「千乃!」


 千乃。


「大丈夫」


「……」


 真銀。


「大丈夫じゃない!」


 千乃。


 少しだけ。


 笑う。


「……大丈夫だよ」


 レオン。


「ママ!」


 シオン。


「ママ!」


 クオン。


「お姉ちゃん!」


 アイシィ。


「千乃さん!」


 千乃。


「みんな」


「そこから」


「動かないで」


「……」


「私が」


「終わらせる」


 レグナード。


 二本の剣を。


 構える。


「できるものなら」


「やってみろ」


 千乃。


「……」


 深紅の瞳が。


 鋭く。


 輝く。


「うん」


「やる」


 そして。


 鬼月姫。


 千乃は。


 身体に残された剣を。


 そのままに。


 再び。


 レグナードへ。


 向かっていった。


 レグナード。


「……」


 千乃。


「……」


 二人の戦いは。


 すでに。


 限界へ。


 近づいていた。


 千乃の呼吸が。


 少しずつ。


 荒くなる。


 それでも。


 倒れない。


「ごふっ……!」


 千乃が。


 口元を押さえる。


 それでも。


 深紅の瞳は。


 レグナードを。


 見ていた。


「……まだ」


「いける」


 レグナード。


「その状態で?」


「うん」


 千乃。


「真銀を」


「取り返すから」


 レグナード。


「……」


 再び。


 剣が。


 交差する。


 キィィン!!


 ドンッ!!


 千乃が。


 後ろへ。


 飛ばされる。


 しかし。


 黒い翼を。


 広げ。


 空中で。


 止まる。


「……」


 千乃。


 自分の身体を。


 見た。


「……」


 限界。


 もう。


 長くは。


 戦えない。


「……」


 千乃。


 レグナードを見る。


「一撃」


「これで」


「終わらせる」


 深紅の瞳。


 静かに。


 輝く。


 残った力。


 すべてを。


 一つへ。


 集める。


 黒い翼。


 大きく。


 広がる。


 周囲の空気が。


 震える。


「……!」


 レグナード。


「何をする気だ?」


 千乃。


「全部」


「使う」


 レグナード。


「……!」


「来い!」


 千乃。


 地面を。


 蹴った。


 レグナードも。


 踏み込む。


「王覇――!」


「……!」


 千乃。


「これで終わらせるッ!神鬼陽炎しんきかげろう!!」


 次の瞬間。


 巨大な衝撃が。


 王城の庭を。


 包み込んだ。


 ドォォォォォォォン!!


「……!」


 レグナードの身体が。


 大きく。


 吹き飛ぶ。


「ぐっ……!」


 そのまま。


 地面を。


 転がり。


 動かなくなる。


「……」


 静寂。


 千乃。


「……」


 深紅の瞳で。


 レグナードを見る。


「……勝った」


 レグナード。


 気を失っている。


 千乃は。


 ゆっくり。


 真銀の方へ。


 歩こうとした。


「……」


 一歩。


 踏み出す。


 しかし。


「……あ」


 力が。


 抜けた。


 千乃の身体が。


 その場に。


 崩れ落ちる。


「千乃!!」


 真銀が。


 駆け寄る。


「千乃!」


 白い髪が。


 地面へ。


 広がる。


 千乃は。


 まだ。


 意識を。


 保っていた。


「……真……銀」


「千乃!」


 真銀が。


 必死に。


 呼びかける。


「俺はここだ!」


「……」


「大丈夫だから!」


 千乃。


 小さく。


 笑った。


「……みんなを」


「よ……ろしく……ね」


「何を言ってる!」


 真銀。


「自分で言ってくれ!」


「……」


 千乃の声が。


 少しずつ。


 小さくなる。


「クオン……」


「レオン……」


「シオン……」


「ララ……」


「ライ……」


「アイシィ……」


「柚乃……」


「カ……イル……」


「カミ……ル……」


 そして。


 ほんの少し。


 笑う。


「……ありがとう……」


 真銀。


「千乃……!」


 千乃。


「……だいすき」


 その瞬間。


 真銀の顔から血の気が引いた。


「……」


「……千乃?」


 その言葉。


 その声。


 その笑顔。


 真銀の記憶に。


 前世の光景が。


 重なった。


 あの日。


 自分を庇った千乃が。


 最後に。


 同じ言葉を。


 残した。


「……やめろ」


 真銀。


「千乃」


「その言葉」


「やめて……やめて…やめてくれ」


 千乃。


「……?」


「お願いだから」


 真銀の呼吸が。


 乱れる。


「前と」


「同じじゃないか……」


「真銀……。」


「また」


「また、俺を置いていくのか……?」


「……」


「嫌だ…嫌だ!」


「千乃!!」


 真銀が。


 千乃を。


 必死に呼ぶ。


「目を開けろ!」


「千乃!」


「俺は」


「もう」


「二度と」


「お前を失いたくない!」


 アイシィ。


「真銀さん!」


「まず星霜王国へ!」


「医師に診てもらいましょう!」


「……!」


 真銀。


「そうだ!」


「急げ!」


 アイシィが。


 千乃を。


 慎重に支える。


 クオン。


「お姉ちゃん……!」


 レオン。


「ママ……!」


 シオン。


「ママ……!」


 真銀。


「千乃!」


「聞こえるか!?」


 千乃。


「……」


 返事は。


 ほとんど。


 なかった。


 それでも。


 真銀は。


 呼び続けた。


「千乃!」


「もうすぐ帰る!」


「星霜王国へ!」


「みんながいる!」


「だから!」


「寝るな!」


 しかし。


 千乃の意識は。


 少しずつ。


 遠くなっていった。


「……真銀」


「いる!」


「ずっといる!」


「……よかった」


「何が……?」


「……今度は」


「……ちゃんと」


「……一緒に」


「……」


 千乃の声が。


 途切れる。


「千乃!?」


 真銀が。


 叫ぶ。


「千乃!!」


 アイシィ。


「急ぎます!」


 空を。


 駆ける。


 星霜王国へ。


 一刻も早く。


 戻るために。


 星霜王国。


 王城。


 医務室。


 扉が。


 勢いよく。


 開く。


「医者!」


「千乃を!」


「早く!」


 医師たちが。


 駆け寄る。


「こちらへ!」


 真銀。


「お願いします!」


「助けてください!」


 レオン。


「ママ……」


 シオン。


「……」


 クオン。


「お姉ちゃん……」


 ララ。


「主……」


 ライ。


「……」


 アイシィ。


「……」


 柚乃。


 何も言えない。


 ただ。


 扉の向こうを。


 見つめる。


 長い。


 長い時間。


 そして。


 医師が。


 ゆっくり。


 扉を開けた。


「……」


 真銀。


「先生」


「千乃は……?」


 医師は。


 すぐには。


 答えなかった。


「……申し上げにくいのですが」


「……」


「間に合いませんでした」


 真銀。


「……」


「……何?」


「……」


「もう一度」


「言ってください」


 医師。


「治療できる状態ではありませんでした」


「移動中には」


「すでに」


「……」


 真銀の。


 目が。


 大きく開く。


「……嘘だ」


「真銀さん……」


「嘘だ!」


 真銀。


「だって!」


「千乃は!」


「俺と一緒に帰るって!」


「約束した!」


「……」


 真銀。


 その場に。


 膝をつく。


「……また」


「またなのか……」


 前世も。


 同じだった。


 千乃が。


 自分を庇って。


 そして、


 運ばれる頃には。


 もう間に合わなかった。


 今回も。


 同じ。


「……千乃」


 真銀の声が。


 震える。


「……なんで」


「また」


「俺を置いていくんだよ……」


 レオン。


「……ママ」


 シオン。


「……」


 クオン。


「お姉ちゃん……」


 ララ。


「主……」


 誰も。


 何も。


 言えなかった。


 ただ。


 医務室の中には。


 静かな時間だけが。


 流れていた。


 そして。


 真銀は。


 前世と同じ言葉を。


 何度も。


 何度も。


 何度も。


 何度も。


 心の中で。


 繰り返していた。


 もう。


 千乃を失いたくなかった。


 それなのに。


 また。


 守れなかった。


 同じだった。


 あの日と。


 何もかも。

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― 新着の感想 ―
千乃? 嘘…だろ?
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