初めての名前&お話
ある日の午後。
星氷神城。
千乃の部屋。
レオンとシオンは。
ベッドの上で。
並んで座っていた。
「……」
「……」
二人とも。
最近。
少しずつ。
言葉を覚え始めている。
千乃は。
二人の前に座って。
「今日は」
「お名前の練習しようか」
「……!」
レオン。
「……!」
シオン。
ぴこっ。
紫色の魔力が。
ぽわっ。
「まずは」
「お母さん」
千乃が。
自分を指差す。
「ま」
「……」
「ま」
レオン。
「……ま」
「……!」
千乃。
「言った!?」
真銀。
「……言ったな」
「レオン!」
千乃が。
嬉しそうに。
レオンを抱き上げる。
「すごい!」
「ま……」
「うんうん!」
「ま……」
そして。
シオンも。
口を開く。
「……ま」
「シオンも!?」
千乃。
「二人とも!?」
紫色の光が。
ぽわぽわ。
部屋中に。
「すごい!」
千乃は。
二人を。
ぎゅっと。
抱きしめる。
「お母さんだよ!」
「ま……」
「ま……」
千乃。
「……」
数秒。
「……まま」
「…………」
千乃。
停止。
真銀。
「……」
レオン。
「まま」
シオン。
「まま」
「…………」
千乃の目が。
じわっ。
「……」
「千乃?」
「……」
「泣く?」
「泣かない!」
「でも」
「泣かない!」
ぽろ。
「泣いた!?」
「だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
真銀が。
苦笑する。
「初めて呼ばれたな」
「……うん」
千乃。
二人を抱いたまま。
「……まま」
小さく。
呟いた。
「……嬉しい」
そして。
次の日。
「今日は」
千乃。
「他のみんなのお名前も覚えよう!」
「……!」
レオン。
「……!」
シオン。
最初に。
部屋へ入ってきたのは。
クオン。
「おはよう」
「……」
レオン。
じー。
シオンも。
じー。
「クオンだよ」
「く……」
「うん?」
「くおん」
「……!」
クオン。
完全停止。
「……」
「今」
「僕の名前」
「呼んだ?」
レオン。
「くおん」
シオン。
「くおん」
「……!」
クオンの尻尾が。
ぶわっ。
「……!」
千乃。
「クオン?」
クオン。
「……」
「どうしたの?」
「……」
クオン。
目を伏せる。
「……嬉しい」
「うん」
「僕」
「お兄ちゃんだから」
レオンが。
クオンへ。
手を伸ばす。
「……」
「おに……」
クオン。
「……?」
「おにーたん」
「…………」
クオン。
完全停止。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
いつの間にか。
部屋の入口。
「……」
クオン。
「……おにーたん」
ぽろ。
「クオン!?」
「嬉しい……」
「泣いた!?」
「……」
「僕」
「初めて」
「お兄ちゃんって呼ばれた……」
クオン。
涙を拭う。
「レオン」
「うん」
「シオン」
「うん」
「僕は」
「お兄ちゃんだよ」
二人。
「おにーたん」
「おにーたん」
「…………」
クオン。
「……もう一回言って」
「おにーたん」
「……!」
また。
ぽろ。
「泣くなぁぁぁぁぁぁ!?」
次。
柚乃。
「お姉ちゃん」
千乃が。
「柚乃だよ」
「ゆ」
「うん?」
「ゆぅの」
「……!」
柚乃。
「……」
「私?」
「ゆぅの」
「……」
柚乃。
そっと。
二人の手を。
握る。
「……嬉しい」
「シオンちゃんも」
「言ってみる?」
「……」
「ゆの」
「……!」
柚乃。
「……」
「二人とも」
「私の名前」
「覚えてくれたんだね」
千乃。
「ゆぅの」
「ゆの」
柚乃。
「……」
「かわいい」
「……」
「すごくかわいい」
そして。
ララ。
白くて。
ふわふわの。
うさぎ姿。
「ララだよー!」
「……」
レオン。
「ら」
「……!」
ララ。
「ん?」
「らら」
「……!」
ララ。
ぴょんっ!
「呼んだ!?」
「らら」
「もう一回!」
「らら」
「……!」
ララ。
ころん。
「主ぃぃぃぃぃぃ!!」
「ララ!?」
「呼ばれた!」
「うん!」
「レオンに!」
「うん!」
「シオンにも!」
「うん!」
ララ。
「らら!」
「……!」
シオンも。
「らら」
「うぇぇぇぇぇぇぇん!」
「なんでララが泣くの!?」
「嬉しいからぁぁぁぁぁぁ!」
ころころ。
白いうさぎが。
床を転がる。
「ララ!」
「はーい!」
ライ。
人型で。
「次は俺か」
「ら……」
「……?」
「ら、い」
ライ。
「……」
ぴたっ。
「今」
「俺の名前か?」
「ら、い」
「……」
ライ。
少しだけ。
目を伏せる。
「……そうか」
「ライ、よかったね」
「うん」
シオン。
「らい」
ライ。
「……」
「ありがとう」
千乃。
「ライも嬉しいんだ」
「……当然だろ」
「顔変わってないけど」
「変わってない」
でも。
尻尾が。
ないのに。
なぜか。
嬉しそうだった。
アイシィ。
人型で。
「次は私ですね」
「……」
シオン。
「あー」
「うん?」
「しぃ」
「……!」
アイシィ。
「……」
「あーしぃ」
「まあ……」
アイシィ。
両手で。
口元を覆う。
「かわいい……」
レオン。
「あーしぃ」
「……!」
「二人とも」
「上手ですね」
紫色の魔力が。
ぽわっ。
アイシィの周囲へ。
「綺麗ですね」
そして。
最後。
ラブリー・スミス。
「私の番ですね!」
「声!」
千乃。
「……」
ラブリー。
口を。
ぎゅっ。
「……はい」
そーっと。
二人の前へ。
「ラブリーです」
「ら……」
「うん」
「らぶ……」
「……!」
「らぶいー」
「……!」
ラブリー。
震える。
「……」
「らぶいー」
「……」
ラブリーの目が。
じわっ。
「ラブリーさん?」
「……」
「泣かないでね?」
「努力します」
シオン。
「らぶいーうみす」
「…………」
ラブリー。
完全停止。
「……」
「……今」
「私の」
「フルネーム……」
「近いけど!」
千乃。
「らぶいーうみす」
「……」
「……」
「……」
ラブリー。
「かわいいですぅぅぅぅぅぅぅっっっっっっっっl!!」
「声っっ!!」
レオン。
「……!」
シオン。
「……!」
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「また泣いたぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!!」
「だから声大きいって!」
ラブリー。
慌てて。
口を押さえる。
「……」
「……」
二人。
涙を拭う。
「……」
「らぶいー」
「……はい」
「うみす」
「……はい」
ラブリー。
小声で。
「ありがとうございます……」
そして。
全員の名前を。
呼べるようになった。
「まま」
「……!」
千乃。
「うん!」
「おにーたん」
クオン。
「……!」
「ゆぅの」
柚乃。
「はい!」
「らら」
ララ。
「はーい!」
「ら、い」
ライ。
「……ああ」
「あーしぃ」
アイシィ。
「はい」
「らぶいーうみす」
ラブリー。
「……!」
「……」
ラブリー。
涙を。
必死に。
こらえる。
「……声」
「出さない」
千乃。
「えらい」
ラブリー。
「……ありがとうございます」
そして。
二人が。
最後に。
「まま」
「……!」
千乃。
また。
固まる。
「……」
「……」
「二人とも」
「なに?」
「もう一回」
「まま」
「まま」
「……」
千乃。
ぎゅっ。
二人を抱きしめる。
「……うん」
「お母さんだよ」
レオン。
「まま」
シオン。
「まま」
紫色の魔力が。
ぽわぽわ。
二人の周りを。
優しく。
舞っていた。
その光景を。
みんなが。
静かに。
見ていた。
真銀だけは。
「……」
少し。
寂しそうだった。
千乃。
「真銀?」
「……」
「どうしたの?」
「いや」
「俺だけ」
「まだ」
「呼ばれてないなって」
「……」
千乃。
「……あ」
真銀。
「……」
「まさか」
「……」
千乃。
「まだ」
「お父さん」
「言ってないもんね」
「……」
真銀。
「……」
「……」
そして。
レオンが。
真銀を見る。
「……」
「……ぱ」
真銀。
「……!」
シオン。
「……ぱ」
「……!」
千乃。
「……!」
二人。
「ぱ、ぱ」
「ぱぱ」
「…………」
真銀。
完全停止。
「……」
そして。
「……」
ぽろ。
千乃。
「……」
真銀。
「…………」
ぽろぽろ。
「泣いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「だって……!」
「やっぱり!」
真銀。
二人の前へ。
ゆっくり。
しゃがむ。
「……」
「お父さんだ」
「ぱぱ」
「うん」
「ぱぱ」
「……うん」
真銀。
目を。
細める。
「……ありがとう」
千乃。
「……」
ララ。
「また泣いてる!」
「泣いてない!」
「泣いてるよ!」
「……」
真銀。
ぽろ。
「泣いた!」
「……」
真銀。
「……仕方ないだろ」
千乃。
「うん」
少し。
笑う。
「今日は」
「みんな」
「いっぱい呼んでもらえたね」
真銀。
「……ああ」
紫色の光が。
ぽわっ。
ぽわっ。
二人の周りを。
ゆっくり。
舞っていた。
そして。
その日。
星氷神城には。
新しい呼び声が。
増えた。
「まま」
「ぱぱ」
「おにーたん」
「ゆぅの」
「らら」
「ら、い」
「あーしぃ」
「らぶいーうみす」
それだけで。
いつもの城が。
少しだけ。
もっと。
家族のいる場所に。
なった。
その日の午後。
星氷神城。
城下町。
カイルは。
いつものように。
堂々と歩いていた。
「……」
金色の髪。
青い瞳。
勇者の装備。
そして。
無駄に。
胸を張っている。
「……」
「俺」
「勇者だよな」
町人。
「そうですね」
「イケメンだよな」
「……まあ」
「有名だよな」
「いろんな意味で」
「なんで含みがある!?」
カイル。
少し。
不満そうな顔。
「まあいい」
「俺は」
「勇者だからな」
そのとき。
町人の一人が。
「そういえば」
「ん?」
「昨日」
「千乃様の双子のお子さんたちが」
「初めてみんなの名前を呼んだらしいですよ」
「……!」
カイル。
ぴたっ。
「……みんな?」
「はい」
「誰を?」
「ええと」
町人。
指を折る。
「千乃様」
「まま」
「……」
「クオンさん」
「おにーたん」
「……」
「柚乃さん」
「ゆぅの」
「……」
「ララちゃん」
「らら」
「……」
「ライさん」
「ら、い」
「……」
「アイシィさん」
「あーしぃ」
「……」
「ラブリーさん」
「らぶいーうみす」
「……」
カイル。
「…………」
「…………」
「…………」
「……俺は?」
町人。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……呼ばれてませんね」
「…………」
カイル。
固まる。
「……」
「……俺」
「呼ばれてない?」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「俺だけ?」
「はい」
「俺だけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
城下町。
びくっ。
「カイルさん!?」
「俺だけ名前呼ばれてないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「落ち着いて!」
「落ち着けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「勇者ですよね!?」
「勇者だよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「じゃあ大丈夫では?」
「何が!?」
カイル。
その場に。
膝をつく。
「……」
「千乃の双子に」
「俺だけ」
「認識されてない……」
町人。
「いや」
「認識はされてるんじゃないですか?」
「じゃあ!」
カイル。
顔を上げる。
「なんで名前呼ばれてないんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そして。
「びょえええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
城下町。
静まり返る。
「……」
「……」
「……」
「また泣いた」
「勇者なのに」
「いつものことだな」
「声でかい」
「誰か止めて」
「無理です」
「なんで!?」
その頃。
星氷神城。
千乃の部屋。
レオンとシオン。
「……」
「……」
二人は。
ベッドの上で。
仲良く。
遊んでいた。
すると。
遠くから。
「びょえええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」
「……!」
「……!」
二人。
ぴたっ。
動きを止める。
「……?」
「……?」
千乃。
「……今の」
真銀。
「……カイルだな」
「だよね」
レオン。
「……」
シオン。
「……」
二人。
顔を見合わせる。
「……」
「……」
そして。
「びょえ……」
レオン。
「……」
シオン。
「……」
「びょええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」
「え!?」
千乃。
「なんで!?」
二人の目から。
ぽろ。
「……」
ぽろぽろ。
「ちょっと!?」
真銀。
「……」
「……」
そして。
「「びょえええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」」
「双子までぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
千乃。
慌てて。
二人を抱き上げる。
「どうしたの!?」
「ままぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「びょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「カイルの泣き声に釣られたの!?」
真銀。
「……たぶん」
「たぶん!?」
レオン。
「びょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
シオン。
「びょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
千乃。
「よしよし!」
「大丈夫!」
「……」
「……」
けれど。
二人とも。
泣き止まない。
「ままぁぁぁぁぁ!」
「ままぁぁぁぁぁ!」
「ここにいるよ!」
千乃。
二人を。
ぎゅっ。
「お母さんいるよ!」
「……」
「……」
少しずつ。
泣き声が。
小さくなる。
「……ぐすっ」
「……ぐすっ」
「よし」
千乃。
「落ち着いた?」
「……」
「……」
レオン。
「……」
シオン。
「……」
そして。
遠くから。
「びょええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「……」
「……」
「……」
二人。
再び。
「「びょえええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」」
「またぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
千乃。
頭を抱える。
「カイルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
そして。
数分後。
城下町。
カイル。
「……」
「……」
「……」
泣き疲れて。
ベンチに座っている。
「……」
そこへ。
千乃が。
走ってきた。
「カイル!」
「千乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「うるさい!」
「俺だけ!」
「うん?」
「俺だけ!」
「何が?」
「名前!」
「……」
千乃。
「……あ」
「気づいた!?」
「確かに」
「だろ!?」
「カイル」
「うん!」
「双子に」
「うん!」
「まだ名前教えてないね」
「…………」
「……」
「……」
「……俺」
カイル。
震える。
「教えてないの!?」
「うん」
「なんで!?」
「だって」
「カイルが」
「いつも」
「自分から名乗ってるじゃん」
「……」
「だから」
「もう知ってると思ってた」
「そういう問題じゃないぃぃぃぃぃぃぃ!!」
真銀。
後ろから。
「……自業自得だな」
「真銀!?」
柚乃。
「でも」
「うん?」
「カイルさん」
「なに?」
「次に会ったら」
「うん」
「ちゃんと名前を教えればいいと思う」
「……」
カイル。
立ち上がる。
「……そうだな」
涙を拭う。
「俺は」
「勇者カイル!」
「……」
「イケメン勇者!」
「……」
「双子ちゃんに!」
「俺の名前を!」
「覚えてもらう!」
千乃。
「頑張って」
「うん!」
そのとき。
城の中から。
「びょえええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「……」
「……」
「……」
カイル。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
全員。
「…………」
カイル。
「……俺」
「また泣いてると思われてない?」
千乃。
「思われてる」
「即答!?」
そして。
城の中。
双子。
「「びょえええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」」
カイル。
「双子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「カイルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
今日も。
星氷神城は。
平和だった。
たぶん。
翌日。
星氷神城。
千乃の部屋。
レオンとシオンは。
ベッドの上で。
楽しそうに遊んでいた。
そこへ。
カイルが。
恐る恐る。
入ってくる。
「……」
「……」
双子。
「……?」
カイル。
しゃがむ。
「よし」
「今日は」
「ちゃんと覚えてもらうぞ」
千乃。
「うん」
カイル。
胸を張る。
「俺は」
「カイル」
「勇者」
「カイル」
「イケメン」
「カイル」
「……」
「分かったか?」
レオン。
「……」
シオン。
「……」
じーっ。
カイル。
「……」
千乃。
「ほら」
「もう一回」
カイル。
「カイル!」
レオン。
「……」
「かいる」
シオン。
「……」
「かいる」
カイル。
「……!」
「言った!」
千乃。
「すごいじゃん!」
「そうだろ!?」
カイル。
満面の笑み。
「俺の名前!」
「ちゃんと覚えた!」
レオン。
「……」
シオン。
「……」
二人。
顔を見合わせる。
「……」
「……」
そして。
レオン。
「おまけ」
「……」
カイル。
「……ん?」
シオン。
「おまけ」
「…………」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
クオン。
「……」
カイル。
「……俺」
「今」
「何て呼ばれた?」
レオン。
「おまけ」
シオン。
「おまけ」
「…………」
カイル。
「いや」
「俺は」
「カイルなんだけど」
レオン。
「おまけ」
シオン。
「おまけ」
「なんで!?」
千乃。
肩を震わせる。
「……」
「千乃」
「……ごめん」
「笑ってるだろ!?」
「だって……!」
真銀。
「……」
「何も言わないでくれ」
カイル。
「真銀!?」
すると。
レオンが。
カイルを指差す。
「おまけカイル!」
「……」
シオンも。
「おまけカイル!」
「…………」
カイル。
「……」
「……俺の名前」
「そこだけは合ってる」
千乃。
「よかったね」
「よくない!」
レオン。
「おまけカイル!」
シオン。
「おまけカイル!」
二人。
「「おまけカイル!!」」
「…………」
カイル。
固まる。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
クオン。
「……」
そして。
カイル。
ゆっくり。
膝をついた。
「……」
「俺」
「勇者なのに」
「……」
「おまけ」
「……」
「俺」
「おまけカイルなの?」
千乃。
「……」
「うん」
「即答!?」
カイル。
「びょえええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
「泣いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
レオン。
「……!」
シオン。
「……!」
二人。
びっくりして。
紫色の魔力が。
ぽわっ。
「びょ……」
「びょえ……」
千乃。
「待って」
「まさか」
レオン。
シオン。
顔を見合わせる。
「「びょえええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」」
「双子までぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
カイル。
「俺のせい!?」
真銀。
「……」
「完全に連鎖したな」
ララ。
「カイルうるさい!」
「ごめん!」
「双子も泣いた!」
「ごめん!」
「おまけカイル!」
「それはやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
レオン。
「「おまけカイル!」」
シオン。
「「おまけカイル!」」
「なんでそこだけ元気なの!?」
こうして。
双子が。
初めて覚えた。
カイルの名前は。
正確には。
カイル。
ではなく。
「おまけカイル!」
「違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
その日から。
レオンとシオンにとって。
カイルの名前は。
完全に。
――おまけカイル。
になった。
なお。
本人だけは。
最後まで。
納得していなかった。
「俺は勇者カイルだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おまけカイル!」
「びょえええええええええええええええ!!」
それから。
少しずつ。
レオンとシオンの。
話せる言葉が。
増えていった。
「まま」
「ぱぱ」
「おにーたん」
「ゆぅの」
「らら」
「らい」
「あーしぃ」
「らぶいーうみす」
最初は。
一つの言葉だけ。
けれど。
少しずつ。
二つの言葉を。
つなげるようになっていった。
ある朝。
千乃の部屋。
「おはよう」
千乃が。
二人の前に座る。
「まま」
「うん!」
レオン。
「まま」
シオン。
「おはよう」
千乃が笑う。
「今日は何して遊ぶ?」
「……」
二人。
顔を見合わせる。
「……あそぶ」
「……!」
千乃。
「遊ぶ?」
「うん!」
レオンが。
両手を上げる。
「まま」
「あそぶ!」
「……!」
千乃。
「二語になった!?」
シオンも。
「まま」
「あそぶ!」
「二人とも!?」
紫色の魔力が。
ぽわっ。
ぽわっ。
嬉しそうに。
周囲を舞う。
「すごい!」
千乃。
二人を抱きしめる。
「ちゃんとお話できるようになってきたね!」
「まま!」
「まま!」
「うん!」
千乃。
にこにこ。
「お母さんだよ!」
そこへ。
クオンが。
部屋へ入ってくる。
「おはよう」
「おにーたん!」
「……!」
クオン。
ぴたっ。
「……僕?」
「おにーたん!」
「……」
「おにーたん!」
クオン。
顔が。
ぱぁっ。
「うん!」
「お兄ちゃんだよ!」
レオン。
「おにーたん」
シオン。
「おにーたん」
「……!」
クオン。
二人の前へ。
「どうしたの?」
「おにーたん」
「うん!」
「だっこ」
「……!」
クオン。
「抱っこ?」
「うん」
レオンが。
両手を伸ばす。
クオン。
「……いいよ」
そっと。
抱き上げる。
「……」
シオンも。
じーっ。
「……」
「シオンも?」
「……」
両手。
すっ。
「おにーたん」
「……」
クオン。
「もちろん」
シオンも。
抱き上げる。
「……」
二人。
クオンに。
ぎゅっ。
「おにーたん」
「おにーたん」
「……」
クオン。
完全に。
嬉しそうだった。
「……もう」
「ずっと」
「おにーたんでいいよ」
「おにーたん!」
「うん!」
「おにーたん!」
「うん!」
千乃。
「クオン」
「なに?」
「嬉しすぎじゃない?」
「……だって」
クオン。
二人を見ながら。
「僕」
「お兄ちゃんだから」
「……」
千乃。
「そっか」
「うん」
そして。
さらに数日。
柚乃が。
二人の前で。
「柚乃だよ」
「ゆぅの」
「そうそう」
シオン。
「ゆの」
「うん!」
柚乃。
「上手!」
レオン。
「ゆぅの」
「はい!」
「ゆの」
「はい!」
二人。
嬉しそうに。
「ゆぅの!」
「ゆの!」
柚乃。
「……」
「……」
「なんか」
「呼ばれるたびに」
「嬉しいね」
千乃。
「分かる」
ララも。
白くて。
ふわふわの。
うさぎ姿。
「ララだよー!」
「らら!」
「うん!」
「らら!」
「はーい!」
「らら」
「……!」
ララ。
ぴょんっ。
「呼ばれた!」
「らら!」
「うん!」
ララが。
二人の前で。
ころん。
と転がる。
「うさぎ!」
レオン。
「……!」
千乃。
「今、うさぎって言った!?」
「うさ!」
シオン。
「うさ!」
「すごい!」
ララ。
「私!」
「うさぎ!」
「覚えた!」
「らら!」
「うさ!」
「かわいい!」
ララ。
ころころ。
「主ぃぃぃぃ!」
ライ。
人型。
「次は俺か」
レオン。
「らい!」
ライ。
「……ああ」
シオン。
「らい!」
「うん」
「……」
ライ。
「ちゃんと呼べるようになったな」
レオン。
「らい!」
ライ。
「……」
シオン。
「らい!」
ライ。
「……二回言わなくても聞こえている」
千乃。
「嬉しいんでしょ?」
「……」
「否定しないんだ」
「……否定する理由がない」
アイシィ。
人型で。
「こんにちは」
「あーしぃ!」
「はい」
「あーしぃ!」
「はい」
アイシィ。
微笑む。
「二人とも」
「とても上手ですよ」
レオン。
「あーしぃ!」
シオン。
「あーしぃ!」
「はい」
そして。
ラブリー・スミス。
「こんにちは!」
「声!」
千乃。
「……」
ラブリー。
すぐに。
口を押さえる。
「……こんにちは」
「らぶいー」
「はい」
「うみす」
「はい」
シオン。
「らぶいーうみす!」
「……!」
ラブリー。
目が。
じわっ。
「……」
「泣かないでね?」
「……努力します」
レオン。
「らぶいーうみす」
「……」
ラブリー。
胸を押さえる。
「かわいい……」
「声!」
「……っ」
ラブリー。
必死に。
耐える。
「……ありがとうございます」
そして。
ある日の昼。
食堂。
二人は。
みんなを。
見回していた。
「まま」
「ぱぱ」
「おにーたん」
「ゆぅの」
「らら」
「らい」
「あーしぃ」
「らぶいーうみす」
そこまでは。
いつも通り。
けれど。
今日は。
少し違った。
レオンが。
千乃を見る。
「まま」
「なに?」
「すき」
「……!」
千乃。
停止。
「……」
「今」
「好きって言った?」
「すき」
シオン。
「まま」
「すき」
「……」
千乃。
両手で。
顔を覆う。
「……無理」
真銀。
「どうした?」
「嬉しすぎる」
「……」
「でも泣かない!」
真銀。
「俺は?」
「……」
真銀。
「ぱぱ」
「うん」
「すき」
「……」
真銀。
停止。
「……」
千乃。
「真銀?」
「……」
「泣く?」
「……泣かない」
ぽろ。
「泣いた!」
「……」
「……嬉しい」
千乃。
「知ってる」
レオン。
「ぱぱ」
「うん」
シオン。
「まま」
「うん」
二人。
顔を見合わせる。
「すき」
「すき」
「……」
千乃と真銀。
「……」
「……」
そして。
同時に。
「「ありがとう」」
二人の周囲。
紫色の魔力が。
ぽわぽわ。
優しく。
光っていた。
クオン。
「おにーたん!」
「うん!」
ララ。
「らら!」
「はい!」
ライ。
「らい」
「……ああ」
アイシィ。
「あーしぃ」
「はい」
柚乃。
「ゆぅの」
「うん!」
ラブリー。
「らぶいーうみす」
「……はい」
少しずつ。
言葉が。
増えていく。
一つ。
また一つ。
そして。
いつか。
もっと長い言葉を。
話せるようになる。
けれど。
今はまだ。
「まま」
「ぱぱ」
「おにーたん」
その三つの言葉だけで。
二人にとって。
世界は。
十分に。
大切なものだった。




