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新しい命

 それから。


 さらに。


 数週間が経った。


 双子は。


 順調に。


 大きくなっていた。


 そして。


 千乃のお腹も。


 以前より。


 さらに大きくなっていた。


「……」


 朝。


 千乃は。


 ベッドの上で。


 目を覚ました。


「……ん」


 ぼんやり。


 天井を見る。


「……」


 いつもなら。


 ゆっくり身体を起こす。


 けれど。


「……よいしょ」


 身体へ。


 力を入れた瞬間。


「……っ」


 千乃の身体が。


 ぴたっ。


 と止まった。


「……あれ」


 起き上がれない。


「……」


 もう一度。


「……よいしょ……」


 ぐっ。


 けれど。


「……」


 身体が。


 ほとんど。


 動かない。


「……おかしいな」


 千乃は。


 少し休んで。


 もう一度。


「……んっ」


 それでも。


「……無理」


 そのまま。


 ベッドへ。


 ぽすっ。


 と戻る。


「……」


 千乃は。


 自分のお腹へ。


 そっと手を当てた。


「……重い」


 今までとは。


 明らかに。


 違った。


 そのとき。


「お姉ちゃん?」


 クオンの声。


「……クオン」


 隣のベッドで寝ていたクオンが。


 目を覚ます。


「おはよう」


「おはよう」


 クオンは。


 千乃を見る。


「……?」


「どうしたの?」


「……」


 千乃。


 少しだけ。


 笑う。


「ちょっと」


「起き上がれなくて」


「……え?」


 クオンの表情が。


 一気に心配そうになる。


「大丈夫?」


「うん」


「本当に?」


「うん」


 そのとき。


 クオンが。


 千乃の額を見る。


「……お姉ちゃん」


「ん?」


「顔」


「……?」


「ちょっと赤い」


「……」


 千乃は。


 自分の額へ。


 手を当てる。


「……熱い」


「熱あるの?」


「たぶん」


 クオンが。


 慌てて。


「真銀さん呼んでくる!」


「え、クオン」


「待ってて!」


 ぱたぱた。


 クオンが。


 部屋を飛び出していく。


「……」


 千乃は。


 ベッドの上で。


 しばらく。


 天井を見ていた。


「……こんなの」


 小さく。


「初めてかも」


 数分後。


「千乃!」


 扉が。


 勢いよく開く。


「真銀……」


 真銀が。


 慌てて入ってくる。


「大丈夫か?」


「うん」


「クオンから、起き上がれないって」


「うん」


 真銀は。


 千乃の額へ。


 手を当てる。


「……熱い」


「やっぱり?」


「ああ」


 真銀の表情が。


 少し険しくなる。


「体温を測ろう」


「うん」


 体温計。


 しばらくして。


「……」


 真銀が。


 表示を見る。


「……熱がある」


「何度?」


「少し高い」


「そっか」


 千乃は。


 意外と。


 落ち着いていた。


 けれど。


「……」


 真銀は。


 落ち着いていなかった。


「医者を呼ぶ」


「え?」


「すぐに」


「真銀」


「今は無理するな」


「……うん」


 すると。


「お姉ちゃん」


 クオンが。


 部屋の入口から。


 顔を出す。


「先生、呼んできた」


「早い」


「急いだ」


「ありがとう」


「うん」


 クオンは。


 千乃のそばへ来て。


 ベッドの横に座る。


「……」


 その手を。


 そっと。


 千乃の手へ重ねる。


「大丈夫だよ」


「……」


「僕、ここにいるから」


 千乃は。


 少しだけ。


 笑った。


「うん」


「ありがとう」


 ほどなくして。


「千乃さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」


「……」


「来た」


 真銀が。


 小さく呟く。


 バンッ!!


「定期検診じゃありませんよぉぉぉぉぉ!!」


 ラブリー・スミス。


 その後ろには。


 産婦人科を担当している医師もいる。


「どうしました!?」


「朝から」


 真銀が説明する。


「千乃が起き上がれなくて」


「熱もあります」


「……」


 医師が。


 すぐに千乃を見る。


「千乃さん」


「はい」


「今日は歩かなくていいですよ」


「……」


「というより」


 医師が。


 きっぱり。


「起き上がる必要もありません」


「え」


 千乃が。


 目を丸くする。


「今日は安静にしていてください」


「……分かりました」


 医師は。


 千乃のお腹を確認する。


「……」


 そして。


「双子も」


 確認。


「ちゃんと動いています」


「……!」


 千乃の表情が。


 少しだけ。


 明るくなる。


「よかった」


「はい」


「熱の原因は?」


 真銀が。


 尋ねる。


「今のところ」


 医師は。


 落ち着いて答える。


「妊娠中の体調変化によるものか、軽い感染症などの可能性もあります。今は状態を見ながら判断しましょう」


「……」


 千乃。


「そっか」


 そして。


 また。


 ベッドへ。


 ゆっくり。


 身体を預ける。


「……」


「千乃」


「ん?」


「今日は」


 真銀が。


 布団を整える。


「俺が全部やる」


「……」


「起きなくていい」


「でも」


「ダメ」


「……」


「水も」


「食事も」


「必要なものは俺が持ってくる」


「……」


「トイレも」


「……」


 真銀が。


 一瞬。


 言葉に詰まる。


「……必要なら呼んで」


「うん」


 クオンも。


「僕も手伝う」


「クオンは無理しなくていいよ」


「でも」


「お姉ちゃんが心配だから」


「……」


 千乃は。


 少しだけ。


 笑った。


「じゃあ」


「うん」


「そばにいて」


「うん!」


 クオンが。


 嬉しそうに頷く。


 その横。


 ラブリー。


「……」


 珍しく。


 静かに。


「双子ちゃん」


「うん」


「大きくなってきましたね」


「……」


「これからは」


 ラブリーが。


 優しく笑う。


「千乃さん自身の身体も」


「大事にしましょう」


「うん」


 千乃は。


 自分のお腹へ。


 そっと手を当てた。


「……」


 熱。


 重い身体。


 起き上がることさえ。


 今日は。


 辛い。


 それでも。


「……二人」


 小さく。


「ちゃんと」


「元気なんだね」


 お腹の中。


 小さな気配。


 それを感じて。


 千乃は。


 ゆっくり。


 目を閉じた。


「……じゃあ」


「今日は」


「いっぱい休もう」


「うん」


 クオンが。


 静かに。


 頷いた。


 真銀も。


「それでいい」


 そう言って。


 千乃のそばを。


 離れなかった。


 その日。


 星氷神城では。


 いつもなら。


 元気に動き回っている千乃が。


 一日中。


 ベッドの上で。


 静かに。


 休むことになった。


 そして。


 お腹の中の二人も。


 その日も。


 ゆっくりと。


 成長していた。


 その日の午後。


 千乃は。


 まだ。


 ベッドの上にいた。


「……」


 熱は。


 少しだけ。


 下がってきている。


 けれど。


 身体は。


 まだ重い。


「……ふぅ」


 千乃は。


 ゆっくり。


 息を吐く。


 そして。


 自分のお腹へ。


 そっと。


 手を当てた。


「……」


 双子。


 ちゃんと。


 元気なのかな。


「……」


 そのとき。


 ぴく。


「……?」


 千乃の手の下。


 ほんの少し。


 何かが。


 動いた。


「……」


 千乃。


 固まる。


「……今」


 もう一度。


 ぴくっ。


「……!」


 千乃の目が。


 大きくなる。


「……動いた?」


 もう一度。


「……」


 じっと待つ。


 すると。


 とん。


「……!」


 小さな。


 感触。


 確かに。


 お腹の中から。


「……動いた……!」


 千乃は。


 思わず。


 声を上げた。


「真銀!」


「ん?」


 すぐ隣にいた真銀が。


 顔を上げる。


「どうした?」


「今!」


「……?」


「動いた!」


「……」


 真銀。


 一瞬。


 意味が分からない。


「……双子が?」


「うん!」


 千乃。


 お腹へ手を当てたまま。


「今、ここ」


「……」


 真銀が。


 恐る恐る。


 千乃のお腹へ。


 手を添える。


「……」


「……」


 二人で。


 じっと待つ。


「……」


「……」


「……来ないね」


「……」


「さっきは動いたのに」


「……」


 真銀。


 少し寂しそう。


「……残念」


「ふふ」


 千乃が。


 小さく笑う。


「でも」


「うん?」


「本当に動いたよ」


「……そうか」


 その瞬間。


 とん。


「……!」


 真銀の手の下。


 小さな動き。


「……今」


「うん!」


「今、動いた」


「ね!」


 千乃。


 嬉しそうに。


 笑う。


「ちゃんといる」


「……ああ」


 真銀も。


 そっと。


 お腹を見る。


「二人とも」


「……」


「元気なんだな」


「うん」


 その声を聞いて。


 クオンが。


 ベッドの横から。


 顔を出す。


「……お姉ちゃん」


「ん?」


「動いたの?」


「うん!」


「僕も見たい」


「おいで」


 クオンが。


 そっと。


 近づく。


「……」


「ここ」


 千乃が。


 手を添える場所を。


 教える。


 クオンも。


 恐る恐る。


 手を置く。


「……」


「……」


「……動かない」


「ふふ」


「……」


 クオン。


 真剣。


「……待つ」


「うん」


 しばらく。


 三人で。


 じっと待つ。


「……」


「……」


「……」


 そして。


 ぴく。


「……!」


 クオンの目が。


 ぱっと開く。


「……今!」


「うん!」


「動いた!」


「ね!」


 クオン。


 嬉しそうに。


 お腹を見る。


「……すごい」


「うん」


「本当に」


「ここにいるんだ」


 千乃。


 少しだけ。


 笑う。


「二人とも」


 そっと。


「こんにちは」


「……」


「僕、クオン。お兄ちゃんだよ」


 すると。


 とん。


「……!」


 もう一度。


 小さな動き。


「返事した!?」


 クオンが。


 目を輝かせる。


「返事かな?」


「そうかも」


 千乃も。


 嬉しそう。


 真銀が。


「……俺も」


「ん?」


「もう一回、触っていいか?」


「もちろん」


 真銀が。


 そっと。


 手を添える。


「……」


「……」


 そして。


 とん。


「……」


 真銀。


 固まる。


「……」


「真銀?」


「……」


 目が。


 潤んでいる。


「……」


「ちょっと待って」


 千乃。


「まさか」


「……」


「また泣くの?」


「……だって」


「まだ泣いてないよね?」


「……」


 ぽろ。


「泣いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「だって……!」


「昨日から泣きすぎ!」


 クオンが。


 くすっと笑う。


「真銀さん、また泣いてる」


「……」


「クオンまで!?」


 真銀。


 涙を拭う。


「……嬉しいんだ」


「うん」


「二人が」


「……」


「ちゃんと」


「ここにいるって」


「……」


 千乃は。


 少しだけ。


 笑った。


「私も」


 お腹へ。


 そっと。


 手を当てる。


「嬉しいよ」


 そのとき。


 もう一度。


 とん。


「……」


 三人とも。


 一瞬。


 黙った。


「……」


「……」


「……」


 そして。


 クオンが。


 小さな声で。


「……二人とも」


「ん?」


「お姉ちゃんのこと」


「大好きなのかな」


「……」


 千乃。


 少しだけ。


 目を細める。


「そうだったら」


「……」


「嬉しいね」


 真銀。


「……ああ」


 また。


 目が潤む。


「真銀」


「……」


「泣くの禁止」


「……努力する」


「昨日も聞いた」


「……」


 ぽろ。


「泣いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 クオン。


「まただ」


「クオン!?」


 部屋の中。


 笑い声が。


 小さく響いた。


 熱で。


 まだ身体は辛い。


 起き上がることも。


 簡単ではない。


 それでも。


 千乃のお腹の中から。


 確かな。


 小さな動きが。


 何度も。


 何度も。


 伝わってきた。


 それは。


 千乃たちにとって。


 初めての。


 二人からの。


 小さな返事だった。


 それから。


 さらに。


 数日が経った。


 千乃は。


 相変わらず。


 ベッドで休んでいた。


 お腹は。


 以前より。


 さらに大きくなっている。


「……」


 千乃は。


 お腹へ。


 そっと手を当てる。


 とん。


「……」


 また。


 とん。


「ふふ」


「今日も元気だね」


 すると。


 扉の向こうから。


「千乃さん」


 アイシィの声。


「入ってもいいですか?」


「うん」


 扉が開く。


 アイシィ。


 そして。


 ライも一緒だった。


「……主」


「ライ」


「具合は?」


「まだちょっと重いけど」


「そうか」


 ライは。


 千乃のお腹を見る。


「……また大きくなったな」


「うん」


「双子だからな」


 アイシィも。


 千乃のそばへ。


「今日は」


「少し検査の日ですね」


「そうだった」


「忘れてたんですか?」


「……ちょっと」


 ライが。


 小さくため息をつく。


「主らしいな」


「ひどい」


「事実だ」


「ライまでそれ言う!?」


 そこへ。


「お姉ちゃん!」


 クオンが。


 ぱたぱたと入ってくる。


「先生来たよ!」


「ありがとう」


 そして。


「……?」


 クオンが。


 千乃のお腹を見る。


「また動いた?」


「うん」


「今日も?」


「うん」


「見たい」


「おいで」


 クオンが。


 千乃の隣へ。


 そっと手を添える。


「……」


「……」


 待つ。


 すると。


 とん。


「……!」


「動いた!」


「うん」


「すごい!」


 アイシィも。


 微笑む。


「元気そうですね」


「よかった」


 ライも。


 少しだけ。


 表情を緩める。


「……二人とも」


「うん」


「ちゃんと成長しているな」


「そうだね」


 そのとき。


「千乃さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」


「……」


 全員。


「……」


「……」


「……」


「来た」


 ライが。


 静かに呟いた。


 扉。


 バンッ!!


「検診のお時間ですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ラブリー・スミス。


 その後ろから。


 担当医も入ってくる。


「こんにちは」


「こんにちは」


 千乃。


 医師に診てもらう。


 しばらくして。


「……」


 医師の表情が。


 少し変わった。


「千乃さん」


「はい」


「かなり大きくなりましたね」


「……はい」


「そして」


 医師が。


 検査結果を確認する。


「双子とも」


「順調です」


「よかった」


 千乃が。


 ほっとする。


 しかし。


 医師は。


 続けた。


「ただ」


「……?」


「そろそろ」


 一瞬。


 間。


「出産が近いです」


「……」


 部屋が。


 静かになった。


「……え?」


 千乃。


 目を丸くする。


「もう?」


「はい」


「……」


 真銀が。


 固まる。


「……もうすぐ?」


「そうです」


 アイシィ。


「……」


 ライ。


「……」


 クオン。


「……」


 ラブリー。


「……!」


 全員。


 その言葉を。


 じっと受け止める。


「予定日も」


 医師が。


 説明を続ける。


「近づいています」


「いつ生まれてもおかしくない時期へ入ってきていますから、これからは特に体調の変化に注意してください」


「……分かりました」


 千乃。


 自分のお腹を見る。


 そのとき。


 とん。


「……」


 小さく。


 動いた。


「……」


 千乃。


 笑った。


「聞いてた?」


「……?」


 真銀が。


 千乃を見る。


「二人とも」


「もうすぐ会えるんだって」


 とん。


 とん。


「……!」


 クオン。


「また動いた!」


「うん」


 アイシィが。


 優しく。


「きっと分かったのかもしれませんね」


「そうだったら嬉しいな」


 ライが。


 お腹を見る。


「……」


「主」


「なに?」


「いよいよだな」


「うん」


 ライは。


 静かに。


「俺たちも」


「準備しておく」


「……」


「何かあっても」


「すぐ動けるようにな」


 アイシィも。


 頷く。


「私もです」


「必要なものは」


「すぐに用意できるようにしておきます」


「ありがとう」


 クオンが。


 小さな手を。


 千乃の手へ。


 ぎゅっ。


「僕も」


「うん?」


「お兄ちゃんだから」


「二人を迎える準備する」


 千乃。


「……うん」


 嬉しそうに。


「お願いね」


 そして。


 真銀。


 千乃の隣に座る。


「俺も」


「うん」


「ちゃんと準備する」


「……」


 千乃は。


 少しだけ。


 真銀を見る。


「みんな」


「……」


「ありがとう」


 ラブリーが。


 突然。


「それでは!」


「出産準備会議を始めましょうッ!!」


「今!?」


 ライが。


「……気が早い」


「早くありません!」


 ラブリー。


「もう近いんですよ!?」


「……」


 アイシィが。


 小さく笑う。


「確かに」


「準備は早いほうが安心ですね」


「アイシィまで!?」


 クオン。


「何を準備するの?」


「ええとですね!」


 ラブリーが。


 指を立てる。


「赤ちゃんのお洋服!」


「はい」


「寝る場所!」


「はい」


「必要な道具!」


「はい」


「そして!」


 ラブリー。


 勢いよく。


「名前!」


「……」


 全員。


「……」


 千乃。


「……名前」


 真銀も。


「……まだ決めてなかったな」


「……」


 千乃は。


 お腹を見る。


「……二人分」


 とん。


 とん。


「……」


「そろそろ」


 千乃は。


 少しだけ笑った。


「考えないとね」


 その瞬間。


 また。


 とん。


 とん。


 まるで。


「早く決めて」


 そう言っているようだった。


「ふふ」


 千乃。


「分かったよ」


 お腹へ。


 そっと。


 手を当てる。


「もうすぐ」


「会えるね」


 その言葉に。


 真銀。


 アイシィ。


 ライ。


 クオン。


 そして。


 ラブリー。


 みんなが。


 静かに。


 お腹を見る。


 これまで。


 少しずつ。


 少しずつ。


 大きくなってきた二つの命。


 その二人に。


 もうすぐ。


 直接会える。


 星氷神城は。


 少しずつ。


 出産へ向けて。


 準備を始めることになった。


 それから。


 数日後。


 星氷神城。


 千乃は。


 ベッドの上で。


 いつものように。


 お腹へ手を当てていた。


「……」


 とん。


「……」


 とん。


 今日も。


 二人が。


 元気に動いている。


「……ふふ」


 その隣には。


 真銀。


 そして。


 アイシィ。


 ライ。


 クオン。


 ララ。


 みんなが集まっていた。


「今日は」


 医師が。


 検査結果を確認する。


「二人の性別が分かりました」


「……!」


 千乃が。


 目を輝かせる。


「本当!?」


「はい」


 医師が。


 穏やかに。


「一人は男の子です」


「……!」


 真銀が。


 少しだけ。


 目を見開く。


「男の子……」


「そして」


「もう一人は」


「女の子です」


「……!」


 千乃。


「男の子と」


「女の子……」


 お腹へ。


 そっと。


 手を当てる。


「……二人とも」


 とん。


 とん。


「ちゃんと」


「いるんだね」


 クオンが。


 嬉しそうに。


「男の子と女の子!」


「うん」


「僕、お兄ちゃんになるんだ」


「そうだね」


 ララが。


「じゃあララは」


「お姉ちゃん!」


「……」


 千乃。


「ララ」


「なに?」


「クオンもお兄ちゃんだよ」


「じゃあ」


 ララ。


 胸を張る。


「ララもお姉ちゃん!」


「二人いる!」


「お姉ちゃんお兄ちゃんが二人!」


「……」


 ライが。


「主」


「ん?」


「ララは兄弟ではないだろ」


「でもお姉ちゃんになりたい!」


「……」


「……好きにさせてやれ」


「やった!」


 アイシィが。


 小さく笑う。


「二人とも」


「どんな子になるんでしょうね」


「うん」


 千乃は。


 少しだけ。


 想像する。


「男の子は」


「どんな名前がいいかな」


「女の子も」


「……」


 真銀が。


 腕を組む。


「考えよう」


「うん」


 テーブルの上に。


 一枚の紙。


 そして。


 ペン。


「まず」


 千乃。


「男の子」


「うん」


「女の子」


「そうだな」


「……」


 二人で。


 紙を見る。


「何か」


 千乃が。


 ぽつり。


「響きが似てる名前がいいな」


「……」


 真銀。


「クオンみたいに?」


「うん」


 クオンが。


「僕?」


「そう」


 千乃。


「クオンと並んだとき」


「兄弟みたいに聞こえる名前」


「……」


 クオン。


 少しだけ。


 嬉しそうな顔。


「僕と似た名前?」


「うん」


「……嬉しい」


 千乃。


「じゃあ」


 紙に。


 いくつか。


 名前を書いていく。


「レオン」


「……」


 真銀。


「レオン」


「うん」


「いいな」


「クオンと」


「レオン」


 クオンが。


「……」


 口にしてみる。


「クオン」


「レオン」


「……似てる」


「ね?」


「うん」


 千乃が。


 笑う。


「男の子は」


「レオン」


 真銀も。


 頷く。


「……レオン」


 その名前を。


 ゆっくり。


 口にする。


「いいと思う」


「うん」


 次に。


 女の子。


「シオン」


 千乃が。


 書く。


「……」


 真銀。


「シオン」


「うん」


「クオン」


「シオン」


「……」


 クオンも。


 少し。


 考える。


「僕と」


「似てる」


「そうだね」


 千乃が。


 嬉しそうに。


「クオン」


「レオン」


「シオン」


「……」


 三つの名前。


 並べてみる。


「……いいな」


 真銀が。


 小さく笑った。


「うん」


 千乃も。


「クオン」


 そして。


 お腹へ。


「レオン」


「シオン」


 呼びかける。


「聞こえてるかな」


 とん。


 とん。


「……!」


 千乃。


「返事した?」


「……そうかもな」


 真銀。


 少しだけ。


 笑う。


「じゃあ」


「決まりだな」


「うん」


 千乃。


 お腹を。


 優しく。


 撫でる。


「男の子は」


「レオン」


「女の子は」


「シオン」


「……」


 真銀。


「俺たちが」


「決めた名前だ」


 千乃。


「うん」


 クオンが。


 お腹へ。


 そっと。


 手を当てる。


「レオン」


「シオン」


「僕、お兄ちゃんだよ」


 とん。


 とん。


「……!」


 クオンの目が。


 輝く。


「返事した!」


「ふふ」


 千乃。


「二人とも」


「クオンお兄ちゃんのこと」


「分かったのかもね」


「……」


 ライが。


 静かに。


「いい名前だ」


「ライ」


「クオンとも」


「響きが繋がっている」


「うん」


 アイシィも。


「素敵ですね」


「クオンさん」


「……」


 クオン。


「僕」


「三人で」


「仲良くしたい」


「……」


 千乃。


 少しだけ。


 目を細める。


「もちろん」


「三人とも」


「大切な家族だよ」


 クオンは。


 嬉しそうに。


 頷いた。


「うん!」


 ララも。


「ララも!」


「はいはい」


「ララも家族!」


「分かってるよ」


「やった!」


 そして。


 千乃は。


 もう一度。


 お腹へ。


 手を当てる。


「レオン」


「シオン」


「もうすぐ」


「会えるね」


 とん。


 とん。


 二人から。


 小さな返事。


 その日。


 星氷神城では。


 新しい二つの名前が。


 正式に。


 決まった。


 男の子。


 レオン。


 女の子。


 シオン。


 そして。


 クオン。


 三人の名前が。


 並んだ。


「クオン」


「レオン」


「シオン」


 三つの響きが。


 星氷神城の中で。


 静かに。


 重なった。


 その夜。


 星氷神城。


 千乃の部屋。


「……」


 部屋の明かりは。


 少しだけ。


 落としてある。


 クオンは。


 隣の部屋で。


 もう眠っていた。


 ララも。


 自分の部屋へ戻っている。


 今。


 この部屋にいるのは。


 千乃と。


 真銀、寝てるクオンと、お腹の中のレオン、シオンだけ。


「……」


 千乃は。


 ベッドの上で。


 お腹へ。


 そっと。


 手を当てていた。


「……レオン」


 小さく。


 名前を呼ぶ。


「……シオン」


 もう一度。


「……」


 とん。


 とん。


「……」


 千乃が。


 少し笑う。


「聞こえてるのかな」


 隣。


 真銀も。


 お腹へ。


 手を添えていた。


「……たぶんな」


「ふふ」


「名前」


「うん」


「決まったな」


「うん」


 千乃は。


 しばらく。


 静かに。


 お腹を見つめる。


「……なんか」


「うん?」


「不思議」


「何が?」


「私たち」


「……」


「お父さんと」


「お母さんに」


「なるんだね」


「……」


 真銀。


 少し。


 黙った。


「……ああ」


 その一言が。


 いつもより。


 少しだけ。


 ゆっくりだった。


「俺が」


「お父さん」


「うん」


「千乃が」


「お母さん」


「……」


 千乃。


 自分のお腹を見る。


「……本当に?」


「本当にだろ」


「なんか」


「まだ実感ない」


「……俺も」


 真銀。


 小さく笑う。


「今まで」


「千乃を守るとか」


「みんなを守るとか」


「そういうことばかり考えてた」


「うん」


「でも」


 真銀の手が。


 お腹へ。


 そっと触れる。


「これからは」


「……」


「守るものが」


「二人増えるんだな」


 千乃。


「……」


 少しだけ。


 目を細める。


「二人だけじゃないよ」


「……?」


「クオンも」


「ララも」


「ライも」


「アイシィも」


「カミルも」


「みんな」


「……」


 真銀。


 少しだけ。


 笑った。


「そうだな」


「家族」


「……ああ」


 そのとき。


 とん。


「……!」


 二人の手の下。


 小さな動き。


「今」


「うん」


「動いた」


「レオンかな」


「それともシオン」


「……」


 とん。


「また」


 千乃。


 嬉しそうに。


「二人とも元気」


「……」


 真銀。


 しばらく。


 その動きを感じていた。


「……千乃」


「なに?」


「ありがとう」


「……?」


「俺と」


「一緒に」


「家族を作ってくれて」


「……」


 千乃。


 一瞬。


 黙った。


「……私も」


「うん?」


「ありがとう」


「……」


「真銀と一緒に」


「二人を迎えられること」


「嬉しい」


「……」


 真銀。


 また。


 目が潤む。


「……」


 千乃。


「……」


「真銀」


「……なに」


「泣く?」


「……泣かない」


「ほんと?」


「……」


 ぽろ。


「泣いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「違う」


「泣いてるよ!?」


「これは」


「うん?」


「……親になる実感だ」


「涙で実感するタイプなの!?」


 真銀。


 涙を拭う。


「……仕方ないだろ」


「ふふ」


 千乃も。


 小さく笑う。


「じゃあ」


 お腹へ。


 もう一度。


「レオン」


「シオン」


「お父さんと」


「お母さんだよ」


「……」


 とん。


 とん。


「……」


「返事した」


 真銀が。


「……ああ」


「ちゃんと」


「聞いてるのかもな」


 千乃。


「ふふ」


 そして。


 少しだけ。


 照れたように。


「……お母さんかぁ」


「……お父さんか」


 二人。


 顔を見合わせる。


「……」


「……」


「なんか」


「うん」


「恥ずかしいね」


「……分かる」


「でも」


 千乃。


 お腹へ。


 手を当てる。


「楽しみ」


「……俺も」


 真銀も。


 静かに。


 頷いた。


「レオン」


「シオン」


「もうすぐ」


「会おうな」


「……」


 とん。


 とん。


 また。


 二人から。


 小さな返事。


 その夜。


 千乃と真銀は。


 初めて。


 本当の意味で。


 自分たちが。


 お母さんと。


 お父さんになるのだと。


 少しずつ。


 実感し始めていた。


 そして。


 その部屋には。


 小さな二つの命と。


 二人の笑顔が。


 静かに。


 残っていた。

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