小さな変化
それから。
さらに。
数日が過ぎた。
千乃は。
しばらくの間。
車椅子を使っていた。
「……」
ごろごろ。
廊下を。
車輪が進んでいく。
後ろから。
クオンが。
ゆっくり押している。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「今日は」
「うん?」
「どこ行くの?」
「食堂」
「ごはん?」
「そう」
「ララさんもいるかな」
「たぶんいるよ」
「じゃあ急ごう」
「急がなくていいよ!?」
ごろごろごろ。
「ちょっとクオン!」
「……」
クオンは。
真剣な顔で。
車椅子を押していた。
「早くごはん」
「そこ!?」
そして。
食堂へ到着。
「主ー!」
「ほら」
ララが。
テーブルの向こうから。
飛んでくる。
「ごはん!」
「分かってるよ」
「今日のお昼なに?」
「ララはそれしか考えてないの?」
「うん!」
「即答……」
千乃が。
車椅子から。
ゆっくり降りようとした。
「……」
その瞬間。
「……あれ?」
クオンが。
千乃を見る。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん」
「うん?」
「……また」
クオンの視線が。
千乃のお腹へ。
「……大きくなってる」
「……え?」
千乃が。
自分のお腹を見る。
「……」
昨日より。
ほんの少し。
ふくらんでいる。
「……ほんとだ」
千乃が。
そっと。
お腹に手を当てる。
「また大きくなってる」
「うん」
クオンが。
こくん。
「昨日より分かる」
「……」
千乃。
少し。
驚いた顔。
「成長してるんだね」
「……」
クオンは。
嬉しそうに。
笑った。
「うん」
「なんか」
千乃も。
小さく笑う。
「毎日ちょっとずつ変わるね」
「……」
すると。
「主?」
ララが。
横から。
じーっ。
「……」
「ララ?」
「……ほんとだ」
「分かる?」
「うん!」
ララが。
千乃のお腹を見る。
「前より大きい!」
「ララまで……」
「すごい!」
「……」
そのとき。
食堂の入り口から。
「何がすごいんだ?」
真銀が。
入ってきた。
「真銀!」
クオンが。
すぐに振り返る。
「真銀さん!」
「どうした?」
「お姉ちゃんのお腹」
「……」
「また大きくなった」
「……!」
真銀。
一瞬。
固まる。
「……本当か?」
「うん」
千乃が。
笑いながら。
「私も今気づいた」
真銀が。
ゆっくり。
千乃のそばへ。
「……」
そして。
お腹を見る。
「……確かに」
「ね?」
「……少しずつ」
真銀の表情が。
柔らかくなる。
「育ってるんだな」
「うん」
千乃は。
お腹へ。
そっと手を当てる。
「……」
なんだか。
不思議だった。
昨日より。
今日。
今日より。
明日。
少しずつ。
変わっていく。
「……」
そのとき。
「千乃さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」
「……」
三人。
固まる。
「……」
ララ。
「……」
クオン。
「……」
真銀。
「……来た」
真銀が。
静かに呟く。
バンッ!!
「成長確認に参りましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ラブリー・スミス。
登場。
「確認って何!?」
千乃が。
思わず。
ツッコむ。
ラブリーは。
一直線に。
千乃を見る。
そして。
「……」
お腹を見る。
「……」
数秒。
「…………」
サングラスを。
ゆっくり。
下げる。
「……順調ですね」
「うん」
「前回より」
「……」
「ちゃんと成長しています」
ラブリーが。
嬉しそうに。
頷く。
「魂の核が」
「今も」
「千乃さんの中で」
「ゆっくりと」
「育っています」
「……」
クオンが。
千乃を見る。
「……お姉ちゃん」
「なに?」
「……すごいね」
「うん」
千乃。
少し照れながら。
「不思議だね」
ラブリーが。
にっこり。
「これからも」
「少しずつ」
「変化していきますよ」
「……」
千乃。
「じゃあ」
「うん?」
「しばらくは」
自分の車椅子を見る。
「これに乗って」
「無理しないようにする」
真銀が。
頷く。
「それがいい」
「うん」
クオンが。
すぐに。
車椅子の後ろへ回る。
「じゃあ」
「……?」
「今日も僕が押す」
「……」
千乃。
少し笑う。
「お願いしようかな」
「うん!」
ララが。
その横から。
「ララも!」
「二人で押す?」
「うん!」
「うん!」
ごろごろ。
ごろごろ。
車椅子が。
また。
ゆっくり。
廊下を進んでいく。
千乃は。
お腹へ。
そっと手を当てた。
「……」
昨日より。
少し大きくなった。
小さな変化。
でも。
その変化が。
とても嬉しかった。
新しい命は。
今日も。
少しずつ。
成長していた。
それから。
さらに。
数週間が経った。
千乃は。
相変わらず。
車椅子を使っていた。
「……」
ごろごろ。
ごろごろ。
クオンが。
後ろから。
ゆっくり押している。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「……」
「どうしたの?」
「また」
「……?」
「大きくなってる」
「……」
千乃は。
自分のお腹を見る。
「……うん」
数週間前とは。
明らかに違う。
ふくらみが。
少しずつ。
大きくなっている。
「……早いね」
真銀が。
隣から。
心配そうに見る。
「この世界の成長速度って」
「……」
「こんなに早いのか?」
「分からない」
千乃も。
首を傾げる。
「私も初めてだし」
すると。
「だからこそ!」
「……」
聞き覚えのある声。
「診察ですっっっっっっっっっ!!」
「ラブリーさん」
バンッ!!
ラブリー・スミスが。
いつもの勢いで。
入ってきた。
「本日の確認を担当いたします!」
「担当って」
「もちろん私です!」
「医者なの?」
「恋愛ギルド式・未来観察担当です!」
「医者じゃないじゃん!」
「でも今日は」
ラブリーが。
眼鏡をかける。
「ちゃんと専門のお医者様も連れてきました!」
「……」
その後ろから。
一人の女性医師が。
静かに入ってくる。
「初めまして」
「……こんにちは」
「魔力核を取り込んだ後の経過を診察します」
「お願いします」
千乃は。
診察用の椅子へ。
ゆっくり移動する。
医師が。
魔力測定器を準備する。
「では」
器具を。
そっと。
千乃のお腹へ。
「……」
淡い光が。
広がる。
「……」
医師が。
画面を見る。
「……」
「どうですか?」
真銀が。
尋ねる。
「順調です」
「……よかった」
千乃も。
ほっとする。
けれど。
医師は。
まだ。
画面を見ていた。
「……?」
ラブリーが。
首を傾げる。
「先生?」
「……」
「何かありました?」
「……いえ」
医師が。
もう一度。
測定する。
「……」
「……?」
千乃。
「どうしたんですか?」
医師。
「……少し」
「はい」
「確認したいことがあります」
医師が。
測定器を。
もう一度。
お腹へ。
当てる。
「……」
画面に。
光が。
一つ。
表示された。
「……」
医師。
「……?」
さらに。
その隣。
「……」
もう一つ。
光が。
現れた。
「……」
沈黙。
ラブリー。
「……」
真銀。
「……」
千乃。
「……?」
「先生?」
医師は。
ゆっくり。
画面を指差した。
「……二つあります」
「……?」
千乃が。
首を傾げる。
「何が?」
「生命反応が」
「……」
「二つ」
「……」
「確認できます」
「……」
千乃。
固まった。
「……二つ?」
「はい」
真銀。
「……二つ」
医師が。
頷く。
「はい」
ラブリー。
「…………」
「…………」
「…………」
数秒。
完全な沈黙。
そして。
「二人ですかぁっっっっっっっっっっ!!」
「ラブリーさん声!!」
医師が。
びくっ。
「驚かせないでください!」
「す、すみません!」
ラブリーが。
口元を押さえる。
けれど。
目は。
完全に。
輝いている。
「まさか……」
千乃は。
お腹へ。
そっと手を当てる。
「……二人?」
「はい」
医師。
「双子です」
「……」
真銀が。
千乃を見る。
千乃も。
真銀を見る。
「……」
「……」
「……二人」
「……ああ」
「……」
千乃は。
しばらく。
言葉が出なかった。
クオンが。
横から。
小さな声で。
「……お姉ちゃん」
「ん?」
「二人いるの?」
「……うん」
「……すごい」
「うん」
クオンは。
嬉しそうに。
笑った。
「家族が」
「……」
「増えるんだね」
「……うん」
千乃の表情が。
柔らかくなる。
「そうだね」
ララが。
横から。
ぴょこっ。
「二人!?」
「うん」
「二人いるの!?」
「うん」
「じゃあ」
ララ。
指を。
二本立てる。
「二倍?」
「何が?」
「お世話!」
「……」
真銀が。
「そういう計算になるのか?」
「ならないよ」
千乃が。
即答した。
ラブリーが。
感動したように。
胸へ手を当てる。
「素晴らしい……!」
「ラブリーさん?」
「まさか最初から」
「……」
「魂の核が二つに分かれて育っていたとは……!」
「……」
医師も。
測定結果を確認する。
「二つの生命反応は」
「はい」
「どちらも安定しています」
「……よかった」
千乃が。
ほっと息を吐く。
「じゃあ」
お腹へ。
そっと。
手を当てる。
「二人とも」
「……」
「元気なんだね」
画面の中。
二つの小さな光が。
並んで。
静かに。
輝いていた。
「……」
真銀が。
その光を見る。
「……二人か」
「うん」
「……」
「どうしたの?」
「いや」
真銀は。
少しだけ。
笑った。
「楽しみだな」
「……うん」
千乃も。
笑う。
「私も」
クオンが。
千乃の隣へ。
そっと近づく。
「……お姉ちゃん」
「なに?」
「僕」
「うん」
「お兄ちゃんになるんだ」
千乃。
「……!」
目を丸くする。
そして。
「もちろん」
優しく。
頷いた。
「二人とも」
「クオンの家族だよ」
「……うん」
クオンは。
嬉しそうに。
頷いた。
ララが。
「じゃあララは?」
「ララは?」
「二人のお姉ちゃん?」
「……」
千乃。
「……たぶん」
「やったー!」
「そこは即決なんだ!?」
星氷神城。
その日。
誰も予想していなかった。
小さな核が。
二つ。
新しい命として。
ゆっくり。
育っていた。
それから。
さらに。
数週間。
時間が経った。
「……」
千乃は。
自分のお腹を。
じっと見ていた。
「……大きい」
以前とは。
明らかに違う。
双子が。
少しずつ。
少しずつ。
成長している。
「……」
千乃は。
ベッドから。
立ち上がろうとする。
「……よいしょ」
手を。
ベッドの端へ。
「……」
ぐっ。
身体へ力を入れる。
「……んっ」
けれど。
「……あれ」
なかなか。
立ち上がれない。
「……」
もう一度。
「……よいしょ……」
ふらっ。
「危ない!」
真銀が。
すぐに支える。
「わっ」
「大丈夫か?」
「うん」
千乃は。
苦笑する。
「ただ」
「……?」
「お腹が重い」
「……」
真銀が。
千乃のお腹を見る。
「……確かに」
「前は普通に立てたのに」
「今は無理するな」
「うん……」
千乃は。
もう一度。
立とうとする。
「……」
「千乃」
「大丈夫」
「……」
「ちょっとだけ」
ぐっ。
「……」
そして。
ようやく。
「……立てた」
「よかった」
「……でも」
千乃。
数秒。
その場に立っただけで。
「……疲れた」
「だろうな」
真銀が。
すぐに。
車椅子を。
持ってくる。
「……これ」
「うん」
「しばらく」
「また使おう」
「……」
千乃は。
車椅子を見る。
「……またお世話になるね」
「無理するよりいい」
「そうだね」
ゆっくり。
千乃は。
車椅子へ座る。
「……」
ほっ。
「楽」
「だろ?」
「うん」
そのとき。
「お姉ちゃん!」
クオンが。
部屋へ入ってきた。
「……!」
千乃が。
車椅子に座っているのを見て。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「……」
クオンが。
千乃のお腹を見る。
「また」
「うん」
「大きくなった」
「そうだね」
クオンが。
車椅子の後ろへ回る。
「僕が押す」
「……」
「いい?」
「うん」
千乃は。
少し笑う。
「お願い」
「うん!」
ごろごろ。
車椅子が。
ゆっくり進む。
廊下へ出ると。
「主ー!」
ララが。
向こうから飛んでくる。
「……あれ?」
車椅子を見て。
「主、また乗ってる!」
「うん」
「歩けないの?」
「歩けないわけじゃないよ」
「じゃあ?」
「歩くのが大変」
「なるほど!」
ララは。
すぐに理解した。
「じゃあララも押す!」
「クオンと一緒に?」
「うん!」
クオンが。
少しだけ。
ララを見る。
「……」
「……」
「一緒に押す?」
「うん!」
ごろごろ。
ごろごろ。
今度は。
二人で。
車椅子を押していく。
その後ろから。
真銀が。
「……」
しっかり。
ついてくる。
「真銀」
「何だ?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「分かってる」
「……」
「でも」
真銀は。
千乃を見る。
「今は」
「無理をさせたくない」
「……」
千乃は。
少しだけ。
笑った。
「そっか」
そのとき。
「千乃さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」
「……」
全員。
固まる。
「……」
「……」
「……」
「来た」
真銀が。
静かに言う。
バンッ!!
「定期検診ですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ラブリー・スミス。
登場。
「……」
千乃の姿を見る。
そして。
お腹を見る。
「…………」
「……」
「…………」
ラブリーが。
ゆっくり。
眼鏡?サングラス?をかけ直す。
「……これは」
「うん」
「かなり」
「……」
「大きくなりましたね」
「……そうみたい」
ラブリーが。
真剣な顔になる。
「双子ですからね」
「……」
「これからさらに大きくなる可能性があります」
「……」
千乃。
「じゃあ」
車椅子を見る。
「これ」
「はい」
「しばらく」
「使いましょう」
「……」
ラブリーが。
力強く。
頷いた。
「無理に歩く必要はありません!」
「うん」
「移動は車椅子!」
「了解」
「立ち上がるときは誰かが補助!」
「……」
「階段は避ける!」
「はい」
「重いものは禁止!」
「はい」
「無理は禁止!」
「……」
千乃が。
少しだけ。
目を細める。
「……なんか」
「はい?」
「私」
「……」
「急に要注意人物になってない?」
「違います!」
ラブリーが。
胸を張る。
「超重要人物です!」
「そっちのほうが大げさ!」
クオンが。
くすっと笑う。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「僕が押すから」
「……」
「大丈夫」
千乃。
一瞬。
黙った。
そして。
「……ありがとう」
「うん!」
ごろごろ。
車椅子は。
ゆっくり。
廊下を進んでいく。
千乃は。
お腹へ。
そっと手を当てる。
「……」
二人。
ちゃんと。
ここにいる。
そのためなら。
今は。
無理をしなくていい。
かつて。
歩けなかった頃に。
お世話になった車椅子。
今度は。
大きくなったお腹を抱えながら。
二人の成長を見守るために。
もう一度。
千乃のそばで。
静かに。
役目を果たしていた。




