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ラブリー・スミスからのプレゼント

 ――ある日。


 星氷神城。


「千乃さんッ!!」


「うわっ!?」


 突然。


 扉が。


 バァァァン!!


「真銀さんッ!!」


「……」


 真銀が。


 ゆっくり顔を上げる。


「……ラブリーか」


「そうですッ!!」


 そこに立っていたのは。


 ピンク色のツインテール。


 ハート型のサングラス。


 そして。


 いつも通り。


 ものすごく元気な。


 ラブリー・スミスだった。


「今日は!!」


「何?」


「とっても重要な!!」


 ラブリーが。


 両手を広げる。


「プレゼントを持ってきましたぁぁぁぁぁぁッ!!」


「プレゼント?」


 千乃が。


 首を傾げる。


「そうです!!」


 ラブリーが。


 懐から。


 小さな箱を取り出す。


「こちらですッ!!」


「……?」


 箱を。


 ぱかっ。


「……これ」


 中には。


 小さな。


 透明な器が入っていた。


 不思議な模様が。


 淡く輝いている。


「なんだこれ?」


 真銀が尋ねる。


「よくぞ聞いてくださいましたぁぁぁぁぁ!!」


「声が大きい」


「重要なことなので!!」


「絶対それ関係ないでしょ」


 千乃が。


 苦笑する。


「で?」


「これはですね!!」


 ラブリーが。


 器を掲げる。


「お二人専用のッ!!」


「……」


「未来へつながるッ!!」


「……」


「超・特別な器ですッ!!」


「……」


 千乃と真銀が。


 顔を見合わせる。


「……未来?」


「はい!!」


 ラブリーは。


 満面の笑み。


「お二人の魔力を、この器に少しずつ蓄えていくんです!!」


「魔力を?」


「そうです!!」


「それで?」


「ある程度の時間が経つとですね!!」


 ラブリーが。


 人差し指を立てる。


「器の中にッ!!」


「……」


「ななななんとッ!!」


「何?」


「小さな核が生まれます!!」


「核?」


「はいッ!!」


 ラブリーが。


 ぐっと身を乗り出す。


「二人の魔力から生まれる、いわば魂の核です!!」


「……」


「そして!!」


 千乃が。


 少し驚いた顔をする。


「それを?」


「母親が取り込むことでッ!!」


「……」


「新しい命が育ち始めるんですッ!!」


「……なるほど」


 真銀が。


 器を見る。


「その後は?」


「そこから先は!!」


 ラブリーが。


 ビシッ!!


 と指を立てる。


「地球とほぼ同じです!!」


「地球と?」


「はい!!」


「妊娠して」


「そうです!!」


「その後、普通に赤ちゃんが生まれる?」


「その通りです!!」


「……」


 千乃は。


 器を見つめる。


「……不思議だね」


「でしょう!?」


 ラブリーが。


 ものすごい勢いで頷く。


「愛と魔力と未来を詰め込んだ、超スペシャルアイテムです!!」


「名前は?」


「名前はまだありません!!」


「ないの!?」


「お二人で決めてください!!」


「急に丸投げ!?」


 ラブリーは。


 ケラケラ笑う。


「だって!!」


「……?」


「未来の子のための器ですよ!?」


 千乃を見る。


 真銀を見る。


「だったら!!」


 ラブリーが。


 満面の笑みで。


「未来を作るお二人が、名前を決めるべきでしょう!!」


「……」


 千乃は。


 器を両手で受け取る。


「……ありがとう」


「どういたしましてぇぇぇぇぇぇ!!」


「うるさい」


 真銀が。


 即答する。


「なぜです!?」


「いつも通りだろ」


「褒め言葉ですね!?」


「違う」


「即答!?」


 千乃が。


 思わず笑う。


「ラブリーさん」


「はいッ!!」


「大切にするね」


「……!」


 ラブリーが。


 一瞬。


 静かになる。


「……はい」


 そして。


 すぐに。


「ではッ!!」


 ビシィッ!!


「素敵な未来をお過ごしください!」


「だから声が大きいって!」


 ラブリーは。


 笑いながら。


 部屋を出ていった。


 扉が閉まる。


「……」


「……」


 千乃と真銀。


 二人だけになる。


「……」


 千乃は。


 手の中の器を見る。


「……未来、か」


「……ああ」


 二人は。


 しばらく。


 その小さな器を。


 静かに見つめていた。


 ――それから。


 数日後。


 星氷神城。


 千乃と真銀は。


 ラブリーからもらった器を。


 机の上に置いていた。


「……これに」


 千乃が。


 自分の手を見る。


「魔力を入れるんだよね」


「ああ」


 真銀も。


 手を器へ向ける。


「少しずつ、だな」


「うん」


 二人は。


 それぞれ。


 自分の魔力を。


 ほんの少しだけ。


 器へ流し込む。


「……」


 千乃の指先から。


 淡い光が生まれる。


 その色は。


 深紅。


「……」


 器の中へ。


 深紅の魔力が。


 ゆっくりと。


 溜まっていく。


「私のは」


 千乃が。


 器を見る。


「前と同じだね」


「ああ」


 そして。


 真銀も。


 魔力を流す。


「……」


 器の中へ。


 もう一つの魔力が。


 流れ込む。


「……」


 千乃が。


 目を丸くした。


「……あれ?」


「どうした?」


「真銀」


「ん?」


「魔力の色」


「……?」


 真銀が。


 器を見る。


「……」


 そこには。


 深紅の魔力と。


 青い魔力が。


 ゆっくりと混ざり合っていた。


「……青?」


「うん」


 千乃が。


 不思議そうに見る。


「前は」


「……」


「黒だったよね?」


 真銀が。


 自分の手を見る。


「……そうだったな」


「私、覚えてる」


「俺も覚えてる」


 以前の真銀の魔力は。


 黒。


 深く。


 夜のような色だった。


 けれど。


 今は。


「……青」


 真銀が。


 呟く。


「いつからだろうな」


「分からない」


 千乃が。


 少し考える。


「でも」


「……」


「綺麗だね」


「……」


 真銀は。


 器の中を見る。


 深紅と青。


 二つの魔力が。


 ぶつかることなく。


 ゆっくりと。


 混ざっていく。


「……ああ」


 真銀は。


 小さく笑った。


「綺麗だな」


「なんか」


 千乃が。


 器を覗き込む。


「私の色と真銀の色って」


「うん」


「並ぶと不思議な感じ」


「そうだな」


 千乃は。


 自分の魔力を見る。


「深紅」


 そして。


 真銀を見る。


「青」


「……」


「前と違うね」


「何が?」


「真銀」


 千乃が。


 笑う。


「昔より」


「……」


「ちょっと柔らかくなった気がする」


「……そうか?」


「うん」


 真銀は。


 少し考える。


「千乃と一緒にいるからかもな」


「……!」


 千乃が。


 少しだけ。


 照れたように笑う。


「……そっか」


「たぶんな」


 器の中で。


 深紅と青の魔力が。


 静かに揺れる。


 そして。


 ほんの一瞬。


 二つの色が重なった場所に。


 小さな光が。


 生まれた。


「……?」


 千乃が。


 目を凝らす。


「今」


「何かあったか?」


「うん」


 けれど。


 光は。


 すぐに消えた。


「……気のせいかな」


「かもしれない」


 二人は。


 もう一度。


 器を見る。


「……」


 まだ。


 何も起きていない。


 ただ。


 深紅と青の魔力が。


 静かに。


 器の中で揺れていた。


 その日から。


 二人は。


 少しずつ。


 魔力を器へ蓄えていくことになった。


 深紅と。


 青。


 二つの魔力が。


 少しずつ。


 同じ器の中へ。


 重なっていった。 ――それから。


 二人は。


 毎日。


 少しずつ。


 器へ魔力を貯めていった。


 朝。


「今日もやろうか」


「うん」


 千乃が。


 器へ手をかざす。


 深紅の魔力が。


 ふわり。


 器の中へ入っていく。


「……」


 続いて。


 真銀の魔力。


 青い光が。


 静かに流れ込む。


「……よし」


「今日の分、終わり」


「うん」


 ほんの少し。


 それだけ。


 けれど。


 毎日続ける。


 次の日。


「千乃」


「ん?」


「昨日より少し増えたな」


「ほんと?」


 千乃が。


 器を覗き込む。


「……ほんとだ」


 深紅と青。


 二つの魔力が。


 器の中で揺れている。


 その様子を。


 部屋の隅から。


「……」


 クオンが。


 じっと見ていた。


「クオン?」


「……見ててもいい?」


「もちろん」


 クオンは。


 少し近づく。


「これ」


「うん」


「毎日増えるの?」


「そうだよ」


「……」


 クオンが。


 器を見る。


「きれい」


「ね」


 千乃が笑う。


「一緒に貯めていくんだって」


「……うん」


 クオンは。


 嬉しそうに頷いた。


 さらに。


 数日後。


「……」


 ララが。


 器を覗き込んでいた。


「主ー」


「なに?」


「これ」


「うん」


「主の魔力」


「そうだけど?」


「……」


 ララが。


 じーっと見る。


「ちょっとだけ」


「?」


「食べてもいい?」


「ダメ」


「即答!?」


「これは食べ物じゃないよ」


「でも!」


 ララが。


 器を見る。


「おいしそう!」


「見た目で分かるの!?」


「違う!」


 ララが。


 首を振る。


「匂いじゃない!」


「……?」


「味!」


「味?」


「うん!」


 ララが。


 嬉しそうに頷く。


「主の魔力」


「甘くて、おいしい!」


「……」


 千乃が。


 少し考える。


「そういえば」


「ん?」


「契約したばっかりの頃」


「ララ、私の魔力食べてたっけ」


「うん!」


 ララが。


 即答する。


「初めて食べたとき」


「すっごくおいしかった!」


「だからって勝手に食べないの」


「えー」


「これは将来のための大事な魔力だから」


「……」


 ララが。


 器を見る。


「ちょっとだけなら?」


「ダメ」


「ひとくち!」


「ダメ」


「ちょびっと!」


「ダメ!」


「……」


 ララが。


 しょんぼりする。


「……主の魔力、おいしいのに」


「あとでちゃんとご飯あげるから」


「魔力がいい!」


「ダメ」


「……はい」


 ララは。


 渋々引き下がった。


 ――と思った。


「……」


 千乃が。


 器を棚へ置く。


 その数秒後。


「ぺろっ」


「ララ?」


「…………」


 ララが。


 器から。


 ほんの少しだけ。


 魔力をつまみ食いしていた。


「ララぁぁぁぁぁぁ!!」


「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!」


 逃げるララ。


 追いかける千乃。


「食べちゃダメって言ったでしょ!」


「ちょっとだけ!」


「そのちょっとがダメなの!」


「だっておいしいんだもん!」


 部屋の中を。


 ぐるぐる。


「捕まえた!」


「きゃー!」


「反省!」


「はーい!」


 クオンが。


 その様子を見て。


「……」


 少しだけ。


 笑った。


 ちなみに。


 真銀やクオンたちには。


 千乃の魔力の「味」は分からない。


 匂いも。


 感じない。


 人間や。


 従魔ではない者にとって。


 魔力は。


 ただの魔力。


 けれど。


 従魔たちには。


 違っていた。


 魔力そのものを。


 感覚として捉えられる。


 そして。


 千乃の魔力は。


 ララにとって。


「甘くて、おいしい魔力」


 だった。


 また別の日。


 器の前。


「今日も入れる?」


「うん」


 千乃。


 深紅。


 真銀。


 青。


「……」


 クオンが。


 隣で見ている。


 ララも。


 少し離れたところから見ている。


「……」


「……」


 ふわり。


 二つの魔力が。


 器へ入る。


 深紅。


 青。


 そして。


 二つの色が。


 ゆっくり。


 重なっていく。


「……」


 クオンが。


 小さく呟く。


「毎日、増えてる」


「うん」


 千乃が。


 笑う。


「少しずつね」


 その言葉通り。


 ほんの少しずつ。


 二人の魔力は。


 器の中に。


 積み重なっていった。


 今日も。


 明日も。


 その次の日も。


 深紅と青は。


 静かに。


 同じ器の中で。


 増えていった。


 そして。


 何日も。


 何日も。


 千乃と真銀は。


 毎日少しずつ。


 魔力を器へ入れていった。


 深紅。


 そして。


 青。


 二つの魔力は。


 器の中で。


 ゆっくりと。


 混ざり合っていた。


「……」


 ある日の朝。


 千乃が。


 いつものように。


 深紅の魔力を。


 ほんの少し。


 器へ注ぐ。


 ふわっ。


 深紅の光が。


 器の中へ。


 広がった。


 続いて。


 真銀も。


 青い魔力を。


 少しだけ。


 加える。


 ふわぁ。


 青い光が。


 深紅の隣へ。


 静かに広がる。


「……」


 クオンが。


 器を覗き込む。


「……今日も、きれい」


「うん」


 千乃が笑う。


「毎日ちょっとずつ増えてるね」


「……うん」


 そのとき。


 クオンが。


 首を傾げた。


「……?」


「どうしたの?」


「……あれ」


 クオンが。


 器の中央を指差す。


「……何か」


「……?」


 千乃も。


 器を見る。


「……」


 真銀も。


 覗き込む。


「……」


 深紅と青。


 その二つの魔力が。


 重なっている場所。


 そこに。


「……何だ?」


 小さな。


 小さな光が。


 浮かんでいた。


「……」


 千乃が。


 目を丸くする。


「これ……」


 光は。


 ほんの少し。


 揺れている。


 消えそうで。


 消えない。


 豆粒ほどの。


 小さな光。


「……核?」


 真銀が。


 静かに呟いた。


「……まだ」


 千乃は。


 器を見つめる。


「すごく小さい」


 クオンも。


 じっと見ている。


「……これが?」


「うん」


 千乃が。


 小さく頷く。


「たぶん」


 光は。


 深紅と青に包まれて。


 器の中央で。


 ふわ。


 ふわ。


 と。


 静かに揺れている。


 まるで。


 生まれたばかりの。


 小さな星のようだった。


「……」


 ララも。


 ぴょこっと。


 器を覗き込む。


「……?」


「ララ?」


「これ」


 ララが。


 目を輝かせる。


「食べられる?」


「食べないで」


 千乃が。


 即答した。


「まだ何も言ってない!」


「顔に書いてある」


「むぅ……」


 ララは。


 頬を膨らませる。


「でも」


 もう一度。


 核を見る。


「……なんか」


「いつもの魔力と違う」


「……分かるの?」


 千乃が尋ねる。


「うん」


 ララは。


 小さな核を見つめる。


「魔力だけじゃない感じ」


「……」


 千乃と真銀が。


 顔を見合わせる。


「……」


「……魂の核」


 真銀が。


 静かに言った。


 千乃は。


 器を両手で。


 そっと持つ。


「……生まれ始めたんだ」


 小さな核。


 まだ。


 完成していない。


 まだ。


 ほんの小さな光。


 けれど。


 確かに。


 そこにある。


「……」


 クオンが。


 少しだけ笑った。


「……すごい」


「うん」


 千乃も。


 笑う。


「すごいね」


 真銀も。


 静かに。


 その光を見る。


「……急がなくていい」


「うん」


「少しずつでいい」


「うん」


 二人は。


 器を見つめる。


 その中央。


 小さな核は。


 深紅と青の光に包まれながら。


 ゆっくりと。


 瞬いていた。


 今日も。


 明日も。


 その次の日も。


 きっと。


 少しずつ。


 大きくなっていく。


 小さな。


 小さな。


 新しい命の核が。


 静かに。


 生まれ始めていた。


 それから。


 さらに。


 何日も。


 何日も。


 少しずつ。


 少しずつ。


 器の中の核は。


 大きくなっていった。


 最初は。


 ほんの小さな光だった。


 けれど。


 今では。


 豆粒ほどだった核が。


 小さな星ほどの大きさになっている。


「……」


 千乃は。


 毎朝。


 その核を見つめていた。


「大きくなったね」


「……ああ」


 真銀も。


 静かに頷く。


 深紅と青の魔力は。


 核を包むように。


 ゆっくりと。


 その周囲を巡っていた。


 そして。


 ある日のこと。


「千乃さぁぁぁぁぁんッ!!」


「!?」


 聞き覚えのある声。


「……ラブリーさん?」


 バンッ!!


 扉が開く。


「様子を見に来ましたぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ピンクのツインテール。


 ハート型のサングラス。


 いつもの。


 ラブリー・スミス。


「……相変わらず元気だね」


「当然です!」


 ラブリーは。


 胸を張る。


「未来を見守る恋愛ギルドの長ですからッ!」


「恋愛ギルドって、そんな活動もしてたっけ?」


「今、作りました!」


「作ったんだ……」


 真銀が。


 小さくため息をつく。


「それで」


 ラブリーが。


 器を見る。


「例の器は?」


「ここ」


 千乃が。


 器を見せる。


「……」


 ラブリーの表情が。


 止まった。


「…………」


「ラブリーさん?」


「…………」


「どうしたの?」


 ラブリーは。


 ゆっくり。


 器を両手で受け取る。


「……」


 そして。


 中央にある。


 小さな核を見る。


「……まあ」


「……」


「まあまあまあまあまあッ!!」


「うるさい」


 真銀が。


 即座に言った。


「育っていますねッ!!」


「声が大きい」


「これは!」


 ラブリーが。


 器を掲げる。


「もう十分です!」


「……十分?」


 千乃が。


 首を傾げる。


「ええ!」


 ラブリーは。


 いつになく。


 真剣な顔になった。


「見てください」


「……」


「魂の核が」


「……」


「もう、ちゃんと形になっています」


 器の中央。


 深紅と青の光に包まれた核。


 以前よりも。


 ずっと安定している。


 消えそうになることもない。


 小さく揺れることもない。


 静かに。


 そこに存在している。


「……」


 千乃は。


 そっと。


 器へ手を伸ばす。


「これを……」


「はい」


 ラブリーが。


 頷く。


「千乃さんが取り込めば」


「……」


「次の段階へ進めます」


 真銀が。


 器を見る。


「……もう」


「うん」


 千乃も。


 頷いた。


「十分なんだ」


「はい!」


 ラブリーが。


 満面の笑みを浮かべる。


「これ以上、魔力を貯める必要はありません!」


「……」


 クオンが。


 横から。


 器を覗き込む。


「……この小さい光が」


「そうですよ」


「……すごい」


 ララも。


 ぴょこっと。


 横から顔を出す。


「……」


「ララ?」


「……これ」


「うん」


「あのー」


「ダメ」


「まだ何も言ってない!」


「顔に書いてある」


「むぅ……」


 ラブリーが。


 そのやり取りを見て。


 くすっと笑う。


「相変わらずですわね」


「ララだからね」


 千乃が笑う。


 そして。


 もう一度。


 器を見る。


「……」


 小さな核。


 深紅。


 青。


 二つの魔力に包まれて。


 静かに。


 光っている。


「……じゃあ」


 千乃が。


 器を受け取る。


「私が」


「うん」


 真銀が。


 静かに頷く。


「……取り込む」


 千乃は。


 核を見つめる。


 怖くはなかった。


 ただ。


 不思議だった。


 毎日。


 少しずつ。


 二人で魔力を注いで。


 見守ってきたもの。


 それが。


 今。


 新しい段階へ。


「……」


 千乃が。


 そっと目を閉じる。


 器の中から。


 小さな光が。


 ふわり。


 浮かび上がった。


 深紅と青の光が。


 千乃の周囲を。


 静かに巡る。


 そして。


 その小さな核が。


 ゆっくりと。


 千乃の身体へ。


 溶け込むように。


 消えていく。


「……」


 千乃は。


 胸元へ手を当てる。


「……入った」


 ラブリーが。


 満面の笑顔。


「はい!」


「……」


 真銀も。


 千乃を見る。


「大丈夫か?」


「うん」


 千乃は。


 小さく笑う。


「大丈夫」


 クオンが。


「……どうなったの?」


 と尋ねる。


 ラブリーが。


 胸を張る。


「ここからですわ」


「……?」


「ここから先は」


 ラブリーが。


 にっこり。


「新しい命が。ゆっくりと。育っていく時間です!」


「……」


 千乃は。


 自分の胸元へ。


 もう一度。


 手を当てる。


「……」


 そこには。


 もう。


 器はない。


 けれど。


 確かに。


 何かが。


 始まっていた。


 ラブリーは。


 ハート型サングラスを。


 きらりと光らせる。


「素敵な未来の始まりですわね!」


 真銀が。


「……声を抑えてくれ」


「無理ですね!」


「だと思った」


 クオンが。


 小さく笑う。


 ララは。


「……」


 千乃の胸元を。


 じーっ。


「ララ?」


「……」


「何?」


「……食べられない?」


「食べられないよ!」


「むぅ」


 星氷神城。


 その日。


 新しい未来が。


 静かに。


 始まった。


 翌朝。


 星氷神城。


 千乃の部屋。


「……ん」


 千乃が。


 ゆっくり。


 目を開ける。


 隣では。


 クオンが。


 まだ眠っていた。


「……」


 千乃は。


 ベッドから。


 ゆっくり起き上がる。


「……ふぁ」


 そして。


 自分のお腹を見る。


「……?」


 千乃。


 少し。


 首を傾げた。


「……なんか」


 昨日と。


 少し違う。


 ほんの少し。


 お腹が。


 丸くなっている。


「……」


 千乃は。


 そっと。


 お腹に手を当てる。


「……気のせい?」


 昨日までは。


 ほとんど。


 何も変わらなかった。


 なのに。


 今日は。


 服の上からでも。


 ほんの少しだけ。


 ふくらみが分かる。


「……」


 千乃は。


 驚きながらも。


 どこか。


 不思議そうに。


 その変化を見つめていた。


 すると。


「……ん」


 隣から。


 クオンが。


 もぞっ。


「……お姉ちゃん?」


「ん?」


 クオンが。


 目をこする。


「おはよう」


「……おはよう」


 クオンは。


 まだ眠そうに。


 千乃を見る。


 そして。


「……?」


 視線が。


 千乃のお腹で。


 止まった。


「……お姉ちゃん」


「なに?」


「……」


 クオン。


 じーっ。


「……お腹」


「……うん?」


「……ちょっと」


「……」


「大きくなってる?」


「……!」


 千乃。


 目を丸くする。


「分かる?」


「うん」


 クオンは。


 こくん。


「昨日と違う」


「……」


 千乃は。


 もう一度。


 自分のお腹を見る。


「……本当だ」


「……」


 クオンが。


 少し。


 心配そうな顔をする。


「……大丈夫?」


「うん」


 千乃は。


 笑う。


「たぶん」


「……たぶん?」


「うん」


 そして。


 ふと。


「……!」


 千乃が。


 気づく。


「昨日の……」


「……?」


「核」


 クオンの目が。


 少し大きくなる。


「……あの光?」


「うん」


 千乃は。


 お腹へ。


 そっと手を当てる。


「もしかしたら」


「……」


「もう」


「育ち始めたのかも」


「……!」


 クオンが。


 ぱっと顔を上げる。


「……ほんと?」


「まだ分からないけど」


「……」


「たぶん」


 クオンは。


 しばらく。


 千乃のお腹を見る。


「……」


 そして。


 ベッドから。


 ぴょん。


 と降りる。


「……?」


 千乃が。


 首を傾げる。


「クオン?」


「真銀さん」


「……」


「呼んでくる」


「え?」


 クオン。


 部屋の扉へ。


 とことこ。


「ちょっと待って!?」


「大丈夫」


「いや、何が!?」


「真銀さんに」


「知らせる」


「クオン!」


 扉が。


 ぱたん。


「……」


 千乃。


 一人。


「……」


 そして。


「……早い」


 数秒後。


「真銀さん!!」


 廊下から。


 クオンの声。


「どうした?」


 真銀の声。


「お姉ちゃんの」


「……」


「お腹が」


「……?」


「ちょっと大きくなってる!」


「……」


 一瞬。


 廊下が。


 静かになる。


「……何?」


 真銀の声が。


 明らかに。


 動揺した。


「お姉ちゃんが」


「昨日の核が」


「育ったかもしれないって」


「……!」


 足音。


 ダダダダダッ!!


「真銀!?」


 千乃が。


 驚いている間に。


 扉が。


 勢いよく。


 開いた。


「千乃!」


「わっ!?」


 真銀。


 ものすごい勢いで。


 部屋へ入ってくる。


「大丈夫か!?」


「うん!」


「痛くないか?」


「痛くないよ」


「苦しくない?」


「ない」


「体調は?」


「普通」


「本当に?」


「本当」


「……」


 真銀。


 ようやく。


 少し落ち着く。


 そして。


 千乃のお腹を見る。


「……」


「……」


「……本当だ」


「でしょ?」


 真銀は。


 しばらく。


 何も言わなかった。


 そして。


 そっと。


 千乃を見る。


「……昨日まで」


「うん」


「何も分からなかったのに」


「うん」


「……もう」


 真銀の表情が。


 少しだけ。


 柔らかくなる。


「変化が出てきたんだな」


「……うん」


 千乃も。


 小さく笑う。


「なんか」


「うん?」


「不思議だね」


「……ああ」


 クオンが。


 その二人を。


 じっと見ている。


「……」


「クオン?」


「……」


「どうしたの?」


「……なんか」


 クオンは。


 小さく笑った。


「……嬉しい」


「……」


 千乃が。


 少し驚く。


「……そっか」


「うん」


 そのとき。


「千乃さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」


「……」


 三人。


 固まる。


「……」


「……」


「……」


 真銀が。


 ゆっくり。


 扉を見る。


「……来たな」


 バンッ!!


「朝の確認に参りましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ラブリー・スミス。


 いつもの。


 ピンクのツインテール。


 ハート型サングラス。


「……」


 ラブリー。


 千乃のお腹を見る。


「…………」


 数秒。


「…………」


 そして。


「えっ」


 目を見開く。


「……もう?」


「うん」


 千乃が。


 苦笑する。


「なんか少しだけ大きくなったみたい」


「…………」


 ラブリー。


 ゆっくり。


 サングラスを。


 少し下げる。


「……」


「……」


「……これは」


 そして。


 満面の笑顔。


「順調なスタートですッ!!」


「声!!」


 真銀が。


 即座に叫んだ。


 クオンは。


 少し離れたところで。


 嬉しそうに。


 笑っていた。


 千乃は。


 お腹へ。


 そっと手を当てる。


「……」


 昨日まで。


 小さな光だったもの。


 今は。


 少しずつ。


 変化を見せ始めている。


 新しい命は。


 本当に。


 育ち始めていた。


 それから。


 数日。


 千乃は。


 少しずつ。


 身体の変化を感じ始めていた。


 歩ける。


 走れる。


 魔法も。


 普通に使える。


 けれど。


「……」


 千乃は。


 廊下を歩きながら。


 ふと。


 足を止めた。


「……ちょっと疲れた」


「……」


 隣を歩いていた真銀が。


 すぐに振り返る。


「休むか?」


「うん」


 すると。


 後ろから。


 とことこ。


 クオンがやってくる。


「お姉ちゃん」


「ん?」


「これ」


 クオンが。


 指差した。


 そこに。


 一台の。


 車椅子。


「……」


 千乃が。


 少しだけ。


 目を丸くする。


「……これ」


「前に使ってたやつ?」


 真銀が。


 静かに尋ねる。


「うん」


 それは。


 かつて。


 千乃が。


 まだ自由に歩けなかった頃。


 ずっと。


 お世話になっていた。


 車椅子だった。


「……懐かしい」


 千乃は。


 そっと。


 車椅子の背に。


 手を置く。


「これに乗ってたんだよね」


「……ああ」


 真銀も。


 頷く。


「ずっと」


「うん」


 千乃は。


 少しだけ。


 車椅子を見る。


「まさか」


「また使うことになるとはね」


「……」


 真銀。


「無理する必要はない」


「分かってる」


「身体が変化している時期なんだから」


「うん」


「疲れたら使えばいい」


「……」


 千乃。


 少し考える。


 そして。


「……そうだね」


 車椅子へ。


 ゆっくり。


 腰を下ろした。


「……」


 座る。


 久しぶりの感覚。


「……なんか」


「うん?」


「懐かしい」


「……そうか」


 クオンが。


 車椅子の後ろへ。


 とことこ。


「……」


 そして。


 両手を。


 ハンドルへ。


「お姉ちゃん」


「ん?」


「押していい?」


「……」


 千乃が。


 少し驚く。


「クオンが?」


「うん」


「重くない?」


「大丈夫」


 クオンは。


 小さな手で。


 ぎゅっ。


 と握る。


「……」


 そして。


 ゆっくり。


 押し始めた。


 ごろごろ。


「……」


 千乃。


 少し。


 目を細める。


「……ありがとう」


「うん」


 クオンは。


 嬉しそうに。


 車椅子を押している。


 すると。


「……」


 真銀が。


 その後ろを見る。


「俺も代わる」


「……」


 クオンが。


 真銀を見る。


「……」


「どうした?」


「……僕が押す」


「……」


 真銀。


 少しだけ。


 驚いた。


 そして。


「分かった」


 そのまま。


 一歩。


 横へ退く。


「任せた」


「うん」


 クオンは。


 また。


 ゆっくり。


 車椅子を押す。


 千乃が。


 振り返る。


「クオン」


「なに?」


「押すの、楽しい?」


「……うん」


 小さく。


 笑う。


「お姉ちゃんを運ぶの」


「……そっか」


 千乃も。


 笑った。


「じゃあ今日はお願いしようかな」


「うん!」


 ごろごろ。


 車輪が。


 廊下を進んでいく。


 その途中。


「主ー!」


「……」


 ララが。


 向こうから。


 飛んでくる。


「……あれ?」


 車椅子を見て。


 首を傾げる。


「主、またこれ乗ってる!」


「うん」


「歩けるのに?」


「歩けるよ」


「じゃあなんで?」


「疲れるから」


「なるほど!」


 ララは。


 一瞬で納得した。


「じゃあララも押す!」


「え?」


 クオンが。


 ぴくっ。


「……」


 ララが。


 車椅子の横へ。


「ララも押す!」


「……」


 クオンが。


 じーっ。


 ララを見る。


「……」


 ララも。


 クオンを見る。


「……」


「……」


 千乃。


「……?」


 二人。


 無言。


 そして。


「僕が押す」


「ララも!」


「僕が!」


「ララ!」


「僕!」


「ララ!」


「僕!」


「二人とも!?」


 千乃が。


 思わず。


 笑った。


「じゃあ」


「……?」


「二人で押せば?」


「……!」


「……!」


 ララとクオン。


 顔を見合わせる。


「……」


「……」


「いいよ」


 クオンが。


 頷く。


「うん!」


 ララも。


 にこっ。


 二人が。


 車椅子の左右へ。


「せーの!」


 ごろごろごろ。


「……」


 千乃。


 車椅子に乗ったまま。


 少し笑う。


「なんか」


「……」


「昔と全然違うね」


 真銀が。


 隣を歩きながら。


「そうだな」


「前は」


 千乃が。


 車椅子の肘掛けへ。


 そっと手を置く。


「一人で歩けるようになることばっかり考えてた」


「……」


「でも今は」


 前を見る。


 クオン。


 ララ。


 そして。


 隣の真銀。


「無理しなくても」


「誰かが一緒にいてくれる」


「……ああ」


 真銀が。


 小さく笑う。


「だから」


 千乃も。


 笑った。


「しばらくは」


「これにお世話になります」


 ごろごろ。


 車椅子は。


 ゆっくり。


 廊下を進んでいく。


 かつて。


 歩けなかった千乃を。


 支えてくれた車椅子。


 今度は。


 無理をしないために。


 もう一度。


 千乃のそばに戻ってきた。


「……」


 クオンが。


 車椅子を押しながら。


 小さく呟く。


「お姉ちゃん」


「なに?」


「これ」


「うん」


「なんか」


「……」


「家族みたい」


「……」


 千乃は。


 一瞬。


 目を丸くした。


 そして。


 優しく。


「……うん」


 頷いた。


「そうだね」

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