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リハビリ開始!

 ――翌日。


 医療室。


「では」


 医師が。


 千乃の前に立つ。


「今日から、リハビリを始めましょう」


「リハビリ!」


 千乃の目が輝く。


「うん!」


「ただし」


 医師が。


 指を一本立てる。


「無理は絶対に禁止です」


「分かった!」


「走るのも禁止」


「……」


「ジャンプも禁止」


「……」


「魔法の使用も、まだ控えてください」


「……」


 千乃が。


 少しだけ。


 しょんぼりする。


「分かった……」


 真銀が。


「素直で偉いな」


「だって早く動きたいもん」


「だからこそだ」


 医師が。


 杖を使って。


「まずは立つところからです」


「もう立てるよ?」


「昨日立てたのは知っています」


「じゃあ歩く?」


「順番があります」


「……はい」


 千乃は。


 ベッドから降りる。


「……」


 一歩。


 足を前へ。


「……」


 もう一歩。


「……」


「どうですか?」


「大丈夫!」


 千乃が。


 さらに一歩。


「……」


 医師が。


 目を丸くする。


「……普通に歩いてますね」


 真銀が。


「昨日まで寝ていたんだぞ」


「分かっています」


 千乃は。


 ゆっくり歩く。


 そして。


「……」


 数メートル進んだところで。


「はい、ここまで!」


 医師が止める。


「えー」


「今日はこれで十分です」


「まだ歩けるよ?」


「そうでしょうね」


 医師が。


 深く頷く。


「ですが、身体が治ったことと、身体を完全に動かせることは別です」


「……」


「少しずつ戻しましょう」


「分かった」


 千乃は。


 素直に頷いた。


 そして。


 翌日。


「では、昨日より少し長く歩いてみましょう」


「はい!」


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 昨日より。


 明らかに安定している。


「……」


 医師が。


 千乃の歩き方を見る。


「回復していますね」


「うん!」


「筋力も戻っています」


「よかった!」


 さらに。


 数日後。


「では」


 医師が。


「軽く走ってみましょうか」


「走っていいの!?」


「まだ全力は禁止です」


「分かった!」


 千乃が。


 ゆっくり走る。


 タッ。


 タッ。


 タッ。


「……」


 ララが。


「主、走ってる!」


「うん!」


「もう走れる!」


「うん!」


「すごい!」


 ライが。


「……回復速度がおかしい」


「本当にそうですね」


 アイシィも頷く。


 医師が。


 魔力測定器を見る。


「……」


「先生?」


「また魔力が増えています」


「走ったから?」


「おそらく」


「運動でも回復するの!?」


 カイルが叫ぶ。


 医師は。


「……神ですから」


「またそれ!?」


 そして。


 千乃は。


 少しずつ。


 走る距離を伸ばしていく。


 翌日。


 さらに。


 その翌日。


 さらに。


 そして。


「……」


 医師が。


 測定器を見ながら。


「もう十分ですね」


「ほんと?」


「はい」


 千乃が。


「じゃあ」


 立ち上がる。


「走っていい?」


「軽くなら」


「やった!」


 千乃が。


 廊下を走る。


「タタタタタタタタッ!」


「速っ!?」


 カイルが叫ぶ。


「リハビリじゃないだろこれ!」


 ライも。


「……」


 千乃を見る。


「……もう俺より速いな」


「え?」


 千乃が。


 止まる。


「そうなの?」


「うん」


 ライが。


 静かに頷く。


「完全復帰してる」


「やった!」


 千乃が。


 嬉しそうに笑う。


 クオンも。


「お姉ちゃん」


「ん?」


「もう痛くない?」


「うん」


 千乃は。


 自分の身体を確認する。


「大丈夫!」


「……よかった」


 クオンが。


 ほっとしたように笑う。


 真銀も。


 その姿を見ていた。


「……」


「真銀?」


「何でもない」


 真銀は。


 少しだけ笑う。


「ただ」


「うん?」


「戻ってきたなって思った」


 千乃は。


 一瞬。


 黙って。


 そして。


「……うん」


 笑った。


「ただいま」


 医療室に。


 少しだけ。


 穏やかな空気が戻った。


 そして。


 医師は。


 千乃の魔力測定器を見る。


「……」


「先生?」


「……これだけは」


「何?」


「どうしても理解できません」


「?」


「魔力の回復量が」


 測定器を見る。


「完全に規格外です」


「……」


 千乃は。


 少し考えて。


「ご飯がおいしいからかな?」


「それで説明しないでください」


 即答だった。


 ――その夜。


 星霜王国。


 千乃の部屋。


「……」


 クオンは。


 すやすやと眠っていた。


 今日も。


 千乃の隣で。


「……」


 千乃は。


 しばらくクオンの寝顔を見ていた。


「……よく寝てる」


 小さく呟く。


 そして。


 ゆっくりと。


 自分の服に手をかける。


「……」


 昼間。


 医師たちが見ていた千乃の身体。


 傷は。


 綺麗に塞がっていた。


 そう見えていた。


 けれど。


「……ごめんね」


 千乃が。


 小さく呟く。


 指先を動かす。


「幻影解除」


 淡い光が。


 身体を包む。


 そして。


 幻影が消える。


「……」


 本当の傷が。


 姿を現した。


 まだ。


 完全には塞がっていない。


「……やっぱり」


 千乃は。


 新しい包帯を取り出す。


「魔力は戻ってるんだけどなぁ……」


 魔力の回復速度。


 それだけは。


 本当に異常だった。


 けれど。


 身体そのものの傷は。


 まだ完全には回復していない。


「……まあ」


 千乃は。


 包帯を巻き直す。


「時間が経てば治るでしょ」


 その時。


「……ん」


「……!」


 千乃が。


 振り向く。


 クオンが。


 目を開けていた。


「……お姉ちゃん?」


「……」


 千乃が。


 固まる。


「……起きてたの?」


「……うん」


 クオンが。


 ぼんやりと。


 千乃を見る。


「……」


 そして。


 包帯を見る。


「……お姉ちゃん」


「……」


「怪我」


 千乃は。


 少しだけ。


 困った顔をした。


「……見ちゃった?」


「うん」


「……そっか」


 千乃は。


 包帯を整える。


「昼間は」


「……」


「みんなが心配するから」


「……」


「幻影をかけてたの」


「……」


「だから」


 千乃は。


 クオンを見る。


「本当は、まだ治ってない」


「……」


 クオンの目が。


 少し潤む。


「……痛い?」


「ちょっとだけ」


「……」


「でも大丈夫」


 千乃は。


 笑う。


「魔力はいっぱいあるから」


「……」


「ちゃんと治っていくよ」


「……」


 クオンは。


 しばらく黙っていた。


 そして。


「……言わない」


「え?」


「誰にも」


「……」


 クオンが。


 小さな指を。


 唇の前へ持っていく。


「内緒」


「……」


 千乃が。


 少し驚いた顔をする。


「……いいの?」


「うん」


「でも」


 千乃が。


 少しだけ笑う。


「クオンも心配でしょ?」


「……心配」


「そっか」


「でも」


 クオンは。


 千乃を見る。


「お姉ちゃんが隠したいなら」


「……」


「僕、言わない」


 千乃は。


 少し黙った。


 そして。


「……ありがとう」


 クオンの頭を。


 そっと撫でる。


「内緒ね?」


「……うん」


「誰にも言わない?」


「言わない」


「真銀にも?」


「……」


 クオンが。


 少し考える。


「……言わない」


「約束」


「約束」


 小さな指と。


 千乃の指が。


 ちょこんと重なる。


「……じゃあ」


 クオンが。


 また布団へ戻る。


「おやすみ、お姉ちゃん」


「うん」


「……早く治ってね」


「……うん」


 クオンは。


 目を閉じる。


 すぐに。


 また眠り始めた。


「……」


 千乃は。


 その寝顔を見つめる。


「……ありがと」


 小さく。


 そう呟いた。


 そして。


 包帯を巻き終える。


 窓の外では。


 静かな夜が続いていた。


 昼間。


 誰にも見つからなかった本当の傷。


 それを知っているのは。


 千乃と。


 クオンだけだった。


 ――クオンが。


 眠ったあと。


「……」


 千乃は。


 もう一度。


 自分の傷を見る。


「……やっぱり」


 包帯の下。


 まだ。


 完全には治っていない。


「……」


 千乃は。


 右手を。


 傷へ向ける。


「癒光」


 淡い光が。


 手のひらに集まる。


「……」


 いつもの。


 千乃の癒光。


 これまで。


 何度も。


 仲間を治してきた力。


「……治って」


 光が。


 傷へ触れる。


「……」


 けれど。


「……?」


 何も。


 変わらない。


「……」


 千乃が。


 もう一度。


「癒光」


 今度は。


 少しだけ強く。


 光を込める。


「……っ」


 魔力が。


 一気に流れ込む。


 それでも。


「……治らない」


 傷は。


 そのままだった。


「……なんで?」


 千乃は。


 自分の手を見る。


「魔力は」


 十分ある。


 むしろ。


 今までにないほど。


「……いっぱいあるのに」


 もう一度。


「癒光……!」


 強い光。


 部屋全体が。


 一瞬。


 白く染まる。


「…………」


 光が消える。


「……」


 変化なし。


「……効かない」


 千乃は。


 小さく呟いた。


 自分に使う癒光だけが。


 まるで。


 傷に拒絶されているようだった。


「……」


 千乃は。


 少し考える。


「もしかして」


 自分自身だから。


 なのか。


 いや。


 以前は。


 自分自身にも。


 癒光を使えた。


「……じゃあ」


 今回の傷が。


 普通じゃない。


 千乃は。


 そう判断した。


「……」


 包帯を。


 そっと押さえる。


「まあ」


 クオンを見る。


 まだ。


 ぐっすり眠っている。


「……言っちゃったし」


 千乃は。


 小さく笑う。


「早く治さないとな」


 そして。


 布団へ戻る。


 クオンの隣に。


 静かに横になる。


「……おやすみ」


 小さな声。


 けれど。


 千乃は知らなかった。


 今回の傷が。


 ただの傷ではないことを。


 そして。


 癒光すら受け付けない理由を。


 まだ。


 誰も知らなかった。


 ――翌朝。


 医療室。


「……」


 千乃は。


 ベッドに座っていた。


 昨夜。


 自分で何度も癒光を使った。


 けれど。


 傷は。


 ほとんど変わらなかった。


「……おかしいな」


 千乃が。


 小さく呟く。


 そこへ。


「おはようございます」


 医師が入ってきた。


「おはよう」


「少し診察しますね」


「うん」


 千乃は。


 服を整える。


 そして。


 いつものように。


 幻影をかける。


「……」


 実際には。


 まだ傷が残っている。


 けれど。


 医師から見れば。


 大きな傷は消え。


 薄い傷跡だけが残っているように見える。


「……」


 医師が。


 傷跡を確認する。


「順調ですね」


「……そう?」


「はい」


 医師は。


 傷跡の周囲を慎重に確認する。


「ただ」


「?」


「少し気になることがあります」


「何?」


 医師が。


 傷跡を見ながら言う。


「この傷」


「……」


「どうも、魔法の治療を拒絶しているようです」


「……!」


 千乃の表情が。


 一瞬。


 止まった。


「魔法を?」


「はい」


 医師が頷く。


「普通の傷なら、これほどまでに治癒魔法の効果が弱くなることはありません」


「……」


「ですが」


 医師が。


 傷跡へ魔力を流してみる。


「……」


 魔力が。


 傷の周囲で。


 弾かれる。


「やはり」


「……」


「拒絶反応があります」


 千乃は。


 静かに尋ねる。


「どうして?」


「おそらく」


 医師が。


 少し考える。


「刺さった剣に」


「……」


「魔法を拒絶する効果が付与されていたのでしょう」


「……!」


「傷そのものに残った術式が」


 医師は。


 慎重に言葉を選ぶ。


「治癒魔法を受け付けなくしている可能性があります」


 千乃は。


 黙っていた。


「……だから」


「はい?」


「私の癒光も」


 医師を見る。


「効かなかったんだ」


「おそらく、それが原因でしょう」


 医師は頷く。


「ただし」


「?」


「これは永久的なものではないと思います」


「……!」


「時間が経てば、術式の効果も薄れていくでしょう」


「本当に?」


「はい」


 医師が。


 微笑む。


「魔力そのものが回復しているのも大きいです」


「……」


「正直」


 医師が。


 少し苦笑する。


「あなたの魔力回復速度には、未だに驚かされていますが」


「……」


 千乃は。


 少しだけ笑った。


「そこは私もよく分かってない」


「神様ですからね」


「またそれ?」


 千乃が苦笑する。


 医師は。


 傷跡をもう一度確認する。


「今は」


「うん」


「薄い跡が残っている程度です」


「……そっか」


 千乃は。


 胸の中で。


 ほっと息を吐いた。


 幻影のおかげで。


 本当の状態を知られることはなかった。


 けれど。


「……」


 千乃は。


 自分の胸元へ手を置く。


 まだ。


 傷は消えていない。


 魔法も。


 届かない。


 だから。


 治るまで。


 待つしかない。


「……」


 そして。


 昨夜のことを思い出す。


『内緒ね?』


『……うん』


 クオンとの約束。


 千乃は。


 小さく笑った。


「……まあ」


 誰にも聞こえない声で。


「もう少しだけ、秘密」


 その時。


 医療室の扉が。


 コンコン。


 と鳴った。


「お姉ちゃん?」


 クオンの声。


 千乃は。


 すぐに振り向く。


「クオン?」


「入っていい?」


「うん!」


 扉が開く。


 クオンが。


 顔を覗かせる。


「おはよう」


「おはよう、お姉ちゃん」


 千乃は。


 いつもの笑顔を見せた。


 けれど。


 その笑顔の裏には。


 まだ誰にも知られていない傷が。


 残っていた。


 ――数日後。


 医療室。


「……」


 医師が。


 千乃の傷を確認していた。


「傷そのものは、かなり良くなっています」


「うん」


「ですが」


 医師が。


 少し眉をひそめる。


「やはり術式が残っていますね」


「……」


 千乃は。


 自分の傷を見る。


「魔法を使おうとしても?」


「はい」


「まだ拒絶される?」


「そうですね」


「……」


 千乃は。


 少し考えた。


「じゃあ」


「はい?」


「壊す」


「……え?」


 医師が。


 固まる。


「術式」


「……」


「壊せばいいんでしょ?」


「いや、理屈としてはそうですが……」


 千乃は。


 ベッドから降りる。


「ちょっとやってみる」


「待ってください」


「大丈夫!」


「何をするつもりですか!?」


 千乃は。


 自分の傷へ手を当てる。


「……」


 目を閉じる。


 魔力を。


 集中させる。


「……」


 医師が。


 慌てて魔力の流れを確認する。


「千乃さん、無理に術式へ干渉すると――」


「大丈夫」


 千乃は。


 静かに言った。


「こういう時は」


 深く息を吸う。


「気合」


「…………」


 医師が。


 嫌な予感を覚える。


「気合?」


「うん」


 千乃の周囲に。


 魔力が集まり始める。


「……」


 空気が震える。


 ベッドのシーツが。


 ふわっと浮く。


「魔力濃度が……」


 医師が。


 測定器を見る。


「また上がってる!?」


 千乃は。


 さらに魔力を集中させる。


「……いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ドンッ!!


 強烈な魔力が。


 一気に身体へ流れ込む。


「……!」


 医師が目を見開く。


「術式が……!」


 千乃の傷の周囲に。


 薄い光の紋様が浮かび上がる。


 それは。


 魔法を拒絶していた術式。


「そこぉぉぉぉぉ!!」


 千乃が。


 さらに魔力を込める。


「気合は万能ぉぉぉぉぉぉ!!」


 バキィィィン!!


 何かが。


 砕けたような音。


「…………」


 光の紋様が。


 一瞬で崩れ。


 粒子となって消えていく。


「……」


 医師。


 呆然。


「……」


 千乃。


 真顔。


「……壊れた?」


 医師が。


 測定器を見る。


「…………」


「先生?」


「……はい」


「どう?」


 医師は。


 何度も測定器を確認する。


「術式が」


「うん」


「完全に消滅しています」


「やった!」


 千乃が。


 小さくガッツポーズ。


「……」


 医師は。


 まだ固まっている。


「……」


「先生?」


「……」


「どうしたの?」


 医師が。


 ゆっくり顔を上げる。


「……私は」


「うん」


「これまで長年、治療魔法を研究してきました」


「はい」


「ですが」


 千乃を見る。


「術式を」


「うん」


「気合で破壊する患者は」


「……」


「初めて見ました」


「患者っていうか」


 千乃が。


 胸を張る。


「守護神だから!」


「そこなんですか!?」


 その瞬間。


 千乃の身体を。


 淡い光が包む。


「……」


「これは……」


 医師が。


 再び目を見開く。


「癒光ですね」


「うん」


 今度は。


 光が。


 傷へ。


 ゆっくり染み込んでいく。


「……」


 傷が。


 少しずつ。


 塞がっていく。


「……効いてる」


 千乃が。


 自分の身体を見る。


「効いてる!」


 医師は。


 呆然としながら。


「……術式を破壊したことで」


「うん」


「治癒魔法への拒絶がなくなったんですね」


「そうみたい」


 千乃は。


 にこっと笑う。


「じゃあ」


 もう一度。


「癒光!」


 淡い光が。


 さらに強くなる。


 傷が。


 見る見るうちに。


 回復していく。


「……」


 医師が。


 完全に言葉を失った。


 数秒後。


「……」


「先生?」


「……」


「大丈夫?」


 医師は。


 深く息を吐いた。


「……もう驚かないことにします」


「え?」


「あなたに関しては」


 医師が。


 遠い目をする。


「何が起きても」


「はい」


「『神だから』で処理することにします」


「雑!?」


 医療室に。


 久しぶりの笑い声が響いた。


 ――その日の昼。


 医療室。


「……」


 医師が。


 千乃の傷を確認する。


「かなり綺麗になりましたね」


「うん!」


 千乃が笑う。


 けれど。


 医師が見ているのは。


 幻影によって作られた。


 薄い傷跡だった。


「これなら」


 医師が頷く。


「もう少しで完全に治りそうです」


「よかった」


 千乃は。


 にこっと笑う。


「じゃあ、今日はこれで大丈夫?」


「はい」


 医師は。


 満足そうに頷いた。


「無理はしないでくださいね」


「分かった!」


 千乃は。


 医療室を出ていく。


「……」


 その背中を。


 医師は見送った。


 まさか。


 今見ていた傷が。


 本物ではないとは。


 夢にも思わなかった。


 ――夜。


 千乃の部屋。


 クオンは。


 もう眠っている。


「……」


 千乃は。


 静かにベッドから起き上がる。


「……よし」


 周囲を確認する。


「誰もいないね」


 そして。


 指先を動かす。


「幻影解除」


 淡い光が。


 身体を包む。


 昼間。


 綺麗に見えていた傷跡が消える。


「……」


 その下から。


 本当の傷が現れる。


 千乃は。


 少しだけ息を吐いた。


「……これで最後」


 右手を。


 傷へ向ける。


「癒光」


 淡い光が。


 ゆっくりと広がる。


 今度は。


 拒絶されない。


 先日まで傷に残っていた術式は。


 すでに。


 千乃自身の気合で破壊されている。


「……」


 光が。


 傷へ染み込んでいく。


 少しずつ。


 少しずつ。


 傷が。


 消えていく。


「……」


 千乃は。


 じっと見つめる。


 そして。


「……よし」


 最後の痕跡まで。


 完全に消えた。


「……治った」


 千乃は。


 自分の身体を確認する。


 痛みも。


 違和感も。


 もうない。


「……」


 小さく。


 笑う。


「これで」


 ようやく。


「本当に復活!」


 その声に。


「……んぅ」


「……!」


 千乃が。


 振り返る。


 クオンが。


 少しだけ目を開けていた。


「……お姉ちゃん?」


「……起きちゃった?」


「……うん」


 クオンが。


 千乃を見る。


「怪我……」


 千乃は。


 少しだけ笑った。


「治ったよ」


「……!」


 クオンが。


 目を丸くする。


「ほんと?」


「ほんと」


 千乃は。


 傷のあった場所を見せる。


「もう大丈夫」


「……よかった」


 クオンが。


 安心したように目を閉じる。


「おやすみ、お姉ちゃん」


「うん」


「……おやすみ」


 クオンが。


 また眠る。


 千乃も。


 静かにベッドへ戻る。


「……」


 そして。


 小さく呟いた。


「内緒、守ってくれてありがとう」


 返事は。


 もうなかった。


 クオンは。


 静かに眠っていた。


 翌朝。


 医療室。


「千乃さん」


「はい!」


「傷の確認をしますね」


「うん」


 医師が。


 診察する。


「……」


 しばらく。


 沈黙。


「……完全に治っていますね」


「えへへ」


 千乃が笑う。


 医師は。


 満足そうに頷いた。


「これで、本当に治療完了です」


「ありがとうございました!」


 千乃は。


 元気よく頭を下げた。


 こうして。


 千乃の長かった治療は。


 ようやく。


 本当の意味で。


 終わった。

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