After喧嘩
「……勝ち」
その言葉を最後に。
千乃の身体から。
ふっと。
力が抜けた。
「……」
ドサッ。
そのまま。
地面に倒れる。
動かない。
黒い羽も。
ぴくりとも動かない。
赤い瞳も。
静かに閉じられている。
「……」
そして。
少しずつ。
千乃の姿に。
変化が始まった。
白かった髪が。
さらさらと。
色を変えていく。
白から。
いつもの。
メタルピンクへ。
長く伸びていた髪も。
ゆっくりと。
元の形へ戻っていく。
ふわり。
ふわり。
そして。
最後には。
いつもの。
メタルピンクのお団子ヘアー。
角が。
すっと消える。
赤かった瞳も。
元の。
右目・金色。
左目・ピンク。
へ戻っていく。
黒い和服も。
いつもの服へ。
黒い羽も。
光の粒となって。
空へ消えていった。
そこに残ったのは。
鬼月姫ではなく。
いつもの。
千乃だった。
「……」
けれど。
千乃は。
動かない。
地面に倒れたまま。
静かに。
眠っているようだった。
その身体のそばには。
戦いの跡だけが。
残されている。
一国の全戦力を。
一人で退けた。
その代償として。
千乃は。
すべての力を。
使い果たしていた。
そして。
星の箱の中では。
「……お姉ちゃん」
クオンが。
ぎゅっと。
拳を握っていた。
真銀は。
ただ。
目を閉じる。
「……必ず迎えに行く」
しかし。
今は。
誰も。
千乃のもとへ戻れない。
千乃自身が。
そうしたから。
戦場に。
静寂が戻る。
そして。
地面に倒れた千乃は。
いつもの姿のまま。
ただ。
静かに。
動かなかった。
――その時。
「……マスター権限」
星の箱の中。
真銀が。
静かに呟いた。
「緊急時、マスター権限を使用する」
手を前へ。
空間が。
大きく歪んだ。
「ゲート・オープン」
ズゥゥゥン……。
目の前に。
先ほど閉じたはずのゲートが開く。
「真銀!?」
カイルが驚く。
「戻る」
「でも、千乃が――」
「分かってる」
真銀の声が低い。
「だから戻る」
そして。
真銀はゲートを抜けた。
「……」
一歩。
二歩。
そして。
「…………」
止まった。
そこにあったのは。
先ほどまで戦場だった場所。
崩れた建物。
倒れた武器。
静まり返った大地。
そして。
「……千乃」
真銀の目が。
大きく見開かれた。
その視線の先。
血溜まりの中に。
千乃が倒れていた。
「千乃……?」
返事はない。
真銀が。
駆け寄る。
「千乃!!」
抱き起こす。
「おい……」
千乃の身体は。
ほとんど動かない。
「千乃……!」
頬に触れる。
反応がない。
「……」
真銀の手が。
震えた。
「アイシィ!!」
「はい!」
アイシィがすぐに駆け寄る。
千乃の状態を確認する。
「……っ」
表情が変わった。
「真銀さん」
「どうだ」
「すぐに処置しないと危険です」
「……」
「このままでは」
アイシィが千乃を見る。
「失血で……命が危ないです」
「……!」
真銀の表情が凍る。
「治せるか」
「ここでは十分な処置ができません」
アイシィは即座に答えた。
「国へ戻りましょう」
「分かった」
真銀は。
千乃を抱き上げる。
「……」
その身体が。
驚くほど軽かった。
「……軽い」
真銀が呟く。
「え?」
アイシィが振り返る。
「いや……」
真銀は千乃を強く抱きしめる。
「なんでもない」
「アイシィ!」
「はい!」
アイシィが。
本来の姿へ戻る。
巨大な氷龍。
「乗ってください!」
真銀は千乃を抱えたまま。
アイシィの背へ飛び乗る。
他の皆も続く。
「行くぞ!」
「はい!」
アイシィが。
一気に空へ飛び上がる。
――そして。
「もっと速く!」
真銀が叫ぶ。
「分かっています!」
アイシィが速度を上げる。
風が。
凄まじい勢いで流れていく。
真銀は。
千乃を抱いたまま。
「千乃……」
何度も呼びかける。
「聞こえてるか?」
「…………」
返事はない。
「千乃」
もう一度。
「俺はここにいる」
「…………」
「だから……」
腕に。
力を込める。
「戻ってこい」
その時。
真銀は。
また。
違和感を覚えた。
「……」
腕の中の千乃が。
さらに。
軽くなっている。
「……?」
さっきより。
明らかに軽い。
「アイシィ」
「はい!」
「……速度、まだ上げられるか」
「限界まで上げています!」
「そうか……」
真銀は千乃を見る。
「千乃……?」
返事はない。
その身体は。
少しずつ。
軽くなっていく。
まるで。
何か大切なものが。
少しずつ。
この世界から抜け落ちているように。
「……やめろ」
真銀が。
小さく呟いた。
「軽くなるな……」
千乃を。
強く抱きしめる。
「頼むから……」
声が震える。
「俺の腕の中から……」
一瞬。
言葉が詰まる。
「……いなくならないでくれ」
アイシィは。
前だけを見て。
全速力で飛び続けた。
目指すのは。
星霜王国。
そして。
千乃を救うための場所。
星氷神城。
――一刻でも早く。
戻らなければならない。
――そして。
星霜王国へ到着した。
「急いでください!!」
アイシィが叫ぶ。
真銀は。
千乃を抱いたまま。
城内へ駆け込んだ。
「医療班を!」
「こちらへ!」
すぐに医師たちが駆け寄る。
「患者をこちらへ!」
真銀は。
千乃をそっと寝台へ下ろした。
「……千乃」
医師が傷の状態を確認する。
「……」
その表情が。
徐々に険しくなる。
「剣が残っていますね」
「……ああ」
「これは……」
医師が小さく息を呑む。
「かなり危険な状態です」
アイシィが尋ねる。
「助かりますか?」
「処置を急ぎます」
医師たちが動き始める。
「まず止血を!」
「はい!」
「魔力循環を確認!」
「こちらも問題ありません!」
真銀は。
ただ。
千乃を見つめていた。
「……」
やがて。
医師が。
静かに口を開いた。
「あと少し遅ければ」
「……」
「間に合いませんでした」
真銀の目が。
大きく見開かれる。
「……そうか」
それだけ。
呟いた。
医師は。
「今から剣を抜きます」
「……分かった」
「動かないでください」
医師が。
慎重に。
剣へ手をかける。
「……いきます」
ゆっくり。
ゆっくりと。
剣が抜かれていく。
「……っ」
千乃の身体が。
わずかに震えた。
そして。
剣が完全に抜かれた瞬間。
「……!」
傷口から。
血が一気に溢れた。
「止血急いで!」
「はい!」
医師たちが。
すぐさま処置を続ける。
「魔力を!」
「こちらです!」
「癒光の補助を!」
アイシィも。
必死に魔力を送る。
「千乃さん……!」
真銀は。
寝台の横で。
拳を握りしめていた。
「……」
その時。
少し離れた場所で。
クオンが。
ずっと千乃を見ていた。
「…………」
小さな手が。
ぎゅっと握られる。
「……僕のせいだ」
誰にも聞こえないほど。
小さな声。
「……」
クオンの目に。
涙が浮かぶ。
「僕のせいだ………」
声が震える。
「ごめんなさい‥…‥」
そして。
「お姉ちゃん……」
千乃を見る。
「ごめんなさい……」
ぽろっ。
涙が落ちる。
「僕が……いなかったら……」
「クオン」
真銀が振り向く。
「違う」
「でも……」
「お前のせいじゃない」
真銀は。
クオンの前まで歩く。
「千乃は」
静かに。
「お前を守るために戦った」
「……」
「それを」
真銀はクオンの頭に手を置く。
「お前が謝る必要はない」
クオンは。
涙を拭おうとする。
けれど。
止まらない。
「……でも」
「大丈夫だ」
真銀が言う。
「千乃は」
一瞬。
言葉に詰まりながら。
「まだ、ここにいる」
そして。
寝台の上の千乃を見る。
「だから」
「……」
「俺たちも、ここにいる」
クオンは。
小さく頷いた。
「……うん」
その時。
医師の声が響く。
「まだ予断は許しません!」
全員が振り返る。
「ですが!」
医師が続ける。
「処置は間に合っています!」
真銀が。
静かに息を吐いた。
「……よかった」
けれど。
誰も。
まだ笑えなかった。
寝台の上で。
千乃は。
静かに眠っていた。
――それから。
数時間が経った。
「……」
千乃は。
まだ眠っていた。
医師たちは。
何度も状態を確認する。
「……」
「どうですか?」
真銀が尋ねる。
医師は。
千乃の状態を確認しながら。
「……不思議ですね」
「何が?」
「出血量を考えれば、普通ならもっと回復に時間がかかるはずなんですが」
「……」
「身体の回復が」
医師が。
目を疑う。
「異常に速いです」
アイシィが。
「やっぱり……」
と呟く。
「千乃さんは神ですから」
「神だから、で済ませていいのか……?」
医師が困惑する。
「傷の状態も」
確認する。
「少しずつですが、確実に良くなっています」
真銀が。
「……魔力は?」
「それが」
医師が首を傾げる。
「もっとおかしいです」
「……?」
「ほとんど空になっていたはずなんですが」
魔力測定器を見る。
「……回復しています」
「どれくらい?」
「先ほどより、かなり」
「かなり?」
「はい」
数値が。
ぐんぐん上がっていく。
「……」
医師が固まる。
「……増えてますね」
「増えてる?」
「回復しているというより……」
もう一度。
測定する。
「……回復速度が異次元です」
「異次元」
カイルが呟く。
「さすが千乃」
「感心してる場合じゃないだろ」
ライが言う。
「いやでも」
カイルが。
「千乃だし」
「それで納得するな」
ララも。
寝台の横から覗き込む。
「主、すごい!」
「寝てるけどな」
ライが冷静に返す。
「寝ながら回復してる!」
「それは確かにすごい」
アイシィが。
千乃の魔力を確認する。
「……」
「アイシィ?」
「はい」
アイシィが。
少し驚いた顔をする。
「魔力が」
「どうした?」
「もう、かなり戻っています」
「……」
真銀が。
千乃を見る。
「……まだ寝てるぞ」
「はい」
「それで?」
「それで、です」
アイシィが。
測定結果を見る。
「本人が何もしていないのに、魔力が回復しています」
「……」
真銀が。
少しだけ笑った。
「千乃らしいな」
「どういう意味ですか?」
「無茶して」
「はい」
「倒れて」
「はい」
「寝て」
「はい」
「寝ながら回復する」
「……」
アイシィが。
少し考える。
「……確かに、千乃さんらしいですね」
その時。
千乃の指が。
ほんの少し。
動いた。
「……!」
真銀がすぐに気づく。
「千乃?」
「……」
千乃は。
まだ目を閉じたまま。
けれど。
呼吸が。
少し安定している。
「……」
魔力も。
さらに増えていく。
「……また上がりました」
医師が呟く。
「この速度……」
「どうした?」
「このままなら」
医師が。
信じられないものを見るように。
「想定していた回復期間を、大幅に短縮できるかもしれません」
「本当か?」
「はい」
真銀が。
千乃の手を握る。
「……よく頑張ったな」
眠っている千乃から。
返事はない。
けれど。
握られた手が。
ほんの少しだけ。
動いた。
「……」
真銀は。
静かに目を細めた。
「聞こえてるのか?」
「……」
「千乃」
その瞬間。
魔力測定器が。
ピッ。
と音を鳴らす。
「……また増えました」
「…………」
医師が。
測定器を見る。
「……もう、驚くのをやめたほうがいいかもしれませんね」
アイシィが。
小さく笑った。
「そうですね」
千乃は。
まだ眠っている。
けれど。
その身体は。
確実に。
自分自身の力で。
少しずつ。
回復していた。
――さらに。
一晩が過ぎた。
星霜王国の医療室。
「……」
千乃は。
まだ眠っていた。
けれど。
昨日とは。
明らかに違っていた。
「……傷の状態が」
医師が。
何度目か分からない確認をする。
「かなり良くなっています」
「もう?」
真銀が尋ねる。
「はい」
医師は。
少し困ったように笑った。
「普通の人間なら、もっと時間が必要です」
「……」
「ですが」
千乃を見る。
「この方は普通ではありませんね」
真銀が。
少しだけ頷く。
「……神だからな」
「その一言で全部説明できてしまうのが怖いですね」
医師が呟く。
その横では。
クオンが。
椅子に座っていた。
「……」
ずっと。
千乃を見ている。
昨日から。
一度も。
ほとんど離れていない。
「クオン」
真銀が声をかける。
「……はい」
「少し休んだほうがいい」
「……」
クオンは。
首を横に振る。
「お姉ちゃんが起きるまで」
「……」
「ここにいる」
真銀は。
何も言えなかった。
そして。
千乃の魔力が。
また。
大きく増える。
「……!」
医師が測定器を見る。
「またですか」
「どうした?」
「魔力が急激に回復しています」
「どれくらい?」
「昨日の時点では、ほぼ枯渇状態でした」
「……」
「ですが今は」
測定器を見る。
「戦闘できるほどまで戻りつつあります」
「早すぎない?」
カイルが呟く。
「早すぎます」
医師が即答する。
「普通ならあり得ません」
ララが。
「主、寝ながら強くなってる!」
「回復してるだけだ」
ライが訂正する。
「でもすごい!」
「それは否定しない」
アイシィが。
千乃の手をそっと確認する。
「……」
「どう?」
真銀が聞く。
「安定しています」
アイシィが微笑む。
「もう、昨日ほど危険な状態ではありません」
「……そうか」
真銀の肩から。
ほんの少し。
力が抜けた。
そして。
「……ん」
小さな声。
「……!」
全員が。
一斉に振り向いた。
「千乃?」
真銀が。
すぐに近づく。
「……んぅ」
千乃の指が。
少し動く。
「……ここ」
かすかな声。
「……どこ?」
真銀が。
息を呑む。
「星霜王国だ」
「……」
「分かるか?」
千乃は。
ゆっくり。
目を開ける。
「……真銀?」
「ああ」
「……」
千乃は。
ぼんやりと。
周囲を見る。
「……みんな?」
「いるよ!」
ララが。
すぐに答える。
「主!」
「……ララ」
「主ー!」
ララが泣きそうになる。
「起きたぁ……!」
「……ごめんね」
「謝らないで!」
ララが首を振る。
「主は悪くない!」
千乃は。
少しだけ笑った。
「……そっか」
その時。
小さな声。
「……お姉ちゃん」
千乃が。
そちらを見る。
「……クオン?」
「……」
クオンの目には。
涙が溜まっていた。
「……起きた」
「うん」
「……よかった」
クオンは。
ぎゅっと服を握る。
「……ごめんなさい」
千乃が。
ゆっくり首を振る。
「クオン」
「……」
「こっち来て」
クオンが。
恐る恐る近づく。
千乃は。
動かせる手を伸ばした。
「……」
クオンの頭に。
そっと手を置く。
「お姉ちゃんは」
「……」
「大丈夫だから」
「……ほんと?」
「うん」
千乃は。
少し笑う。
「寝てたら勝手に治ってきた」
「……」
クオンが。
ぽろっと涙を落とす。
「……よかった」
千乃は。
その涙を。
指先で拭う。
「だから」
「……」
「もう謝らなくていいよ」
「……うん」
クオンは。
小さく頷いた。
その直後。
「……ぐぅ」
千乃のお腹が。
鳴った。
「…………」
「…………」
「…………」
全員が。
固まった。
千乃が。
「……お腹すいた」
と呟く。
医師が。
「…………」
測定器を見る。
魔力。
さらに上昇。
「……」
「先生?」
真銀が尋ねる。
「どうした?」
「……」
医師は。
真顔で答えた。
「この方」
「はい」
「食事したら、さらに回復速度が上がるんじゃないでしょうか」
「知らないよ!?」
千乃が。
布団の中から叫んだ。
医療室に。
久しぶりの笑い声が響いた。
「……お腹すいた」
千乃が。
布団の中から呟いた。
「何か食べられそうですか?」
アイシィが尋ねる。
「うん」
千乃は。
ゆっくり身体を起こす。
「普通に食べられると思う」
「無理はしないでくださいね」
「分かった」
しばらくして。
医療室へ。
食事が運ばれてきた。
「どうぞ」
「……!」
千乃の目が。
輝く。
「いただきます!」
ぱくっ。
「……」
もぐもぐ。
「……おいしい」
真銀が。
少し離れたところから見ている。
「……」
「何?」
「いや」
真銀は。
小さく笑った。
「元気そうだなって」
「うん」
千乃は。
もぐもぐしながら頷く。
「へんひひはっへひは」
「何言ってるかわかんないけど、それはよかった」
そして。
千乃が。
二口。
三口。
食べるたびに。
魔力測定器が。
ピッ。
ピッ。
ピッ。
「……」
医師が。
測定器を見る。
「……?」
もう一度見る。
「……?」
さらに見る。
「先生?」
真銀が尋ねる。
「どうした?」
「魔力が……」
「うん」
「食事を始めてから」
数値を見る。
「回復速度が上がっています」
「……」
「え?」
カイルが。
思わず声を出す。
「食べるだけで?」
「はい」
「そんなことある?」
「普通はありません」
「ですよね」
千乃は。
そんなことも気にせず。
ぱくぱく。
「おかわり!」
「早っ!?」
ララが叫ぶ。
「主、もう食べ終わったの!?」
「うん!」
「すごい!」
「まだ食べられるよ」
「怪我人とは……?」
ライが。
少し遠い目をする。
アイシィが。
測定器を確認する。
「……また上がりました」
「どれくらい?」
「かなりです」
医師も。
信じられない顔をする。
「身体の回復も進んでいます」
「食事だけで?」
「はい」
「……」
医師が。
千乃を見る。
「神様って」
「うん?」
「食事も回復薬みたいな扱いなんですか?」
「……?」
千乃は。
首を傾げた。
「普通にご飯だけど?」
「ですよね……」
そして。
千乃は。
また一口。
「……おいしい」
もぐもぐ。
魔力が。
さらに増える。
ピピピピピッ。
「……」
測定器が。
勢いよく鳴り始める。
「先生?」
「はい」
「これ」
医師が。
真顔になる。
「もう測定器の想定値を超え始めています」
「…………」
全員が。
千乃を見る。
「……?」
千乃は。
最後の一口を食べて。
「ごちそうさまでした!」
にこっ。
その瞬間。
魔力測定器が。
ピィィィィィィィィィ!!
「うわっ!?」
カイルが飛び退く。
「何!?」
千乃が驚く。
医師が。
測定器を確認する。
「……」
「……」
「……」
「どうしたんですか?」
医師は。
しばらく黙ったあと。
「……ほぼ全快です」
「早っ!?」
真銀が。
思わず声を上げた。
千乃は。
自分の身体を確認する。
「……ほんと?」
「はい」
「じゃあ」
千乃は。
ベッドから足を下ろす。
「立ってみようかな」
「待ってください!」
医師が慌てる。
「まだ完全に――」
千乃が。
すっと立ち上がる。
「……」
「……」
「……」
「立てた」
千乃が。
自分でも驚いたように呟く。
真銀が。
すぐに近づく。
「無理するな」
「うん」
千乃は。
少しだけ笑った。
「でも」
身体を動かす。
「もう、大丈夫そう」
医師は。
測定器を見る。
「……」
そして。
静かに呟いた。
「……異次元ですね」
ララが。
嬉しそうに飛び跳ねる。
「主、復活!」
「うん!」
千乃は。
笑った。
クオンも。
その姿を見て。
「……よかった」
小さく。
そう呟いた。
千乃は。
クオンを見る。
「クオン」
「……?」
「ご飯、一緒に食べよっか」
「……!」
クオンの顔が。
ほんの少し。
明るくなった。
「……うん!」
その日。
千乃の回復速度は。
医療関係者の常識を。
完全に置き去りにした。




