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180/197

喧嘩Time

 瓦礫の山。


 その中央で。


 千乃と。


 落札者が。


 向かい合っていた。


「……」


 落札者は。


 ゆっくりと。


 立ち上がる。


「私は」


 服についた埃を払い。


「この国の王だ」


「……」


 千乃が。


 少し目を丸くする。


「王様?」


「ああ」


 王は。


 胸を張る。


「この国、ヴァルディア王国の国王だ」


 真銀が。


 眉をひそめる。


「国王自ら、闇オークションに来ていたのか」


「必要なものを手に入れるためなら、手段は選ばん」


「必要なものじゃない」


 千乃が。


 静かに言う。


「クオンだよ」


「……」


 王が。


 千乃を見る。


「ならば」


 一歩。


 前へ出る。


「国同士の問題にするか?」


「……?」


「私一人を倒したところで」


 王が。


 腕を広げる。


「この国には兵がいる」


 その瞬間。


 ズズズズズズ……。


 瓦礫の向こうから。


 大量の兵士が姿を現した。


「……」


 千乃が。


 見る。


「いっぱい来たね」


 真銀が。


「千乃」


「うん」


「気をつけろ」


 王が。


 告げる。


「条件を出そう」


「条件?」


「この国と戦え」


 千乃が。


 首を傾げる。


「私が?」


「そうだ」


 王は。


 指を一本立てる。


「お前一人で」


「……」


「お前の仲間は」


 真銀たちを見る。


「一切、手を出してはならない」


「……!」


 真銀が。


 一歩前へ出ようとする。


「それは――」


「いいよ」


 千乃が。


 遮った。


「千乃?」


 真銀が振り返る。


「私一人でいい」


「……」


「だって」


 千乃は。


 クオンを見る。


 真銀に抱かれている。


 小さな身体。


 まだ涙の跡が残っている。


「クオンを取り戻すためだから」


「……」


 クオンが。


 千乃を見る。


「お姉ちゃん……」


「大丈夫」


 千乃が笑う。


「絶対に負けないから」


 王が。


 口元を上げる。


「威勢だけはいいな」


「そう?」


「ああ」


 王が。


 手を上げる。


「では、もう一つ条件だ」


「何?」


「もしお前が負けたら」


 王の視線が。


 クオンへ向く。


「その狐人族を」


 そして。


「私に引き渡せ」


「……」


 空気が。


 止まった。


 千乃の笑顔が。


 消える。


「……分かった」


 真銀が。


「千乃!」


「大丈夫」


 千乃は。


 クオンを見る。


「私が負けなければいいんでしょ?」


「そうだ」


「じゃあ」


 千乃が。


 王を見る。


「その条件でいいよ」


「決まりだ」


 王が。


 高らかに宣言する。


「我がヴァルディア王国の全戦力をもって!」


 兵士たちが。


 一斉に構える。


「この女を倒せ!」


「……」


 千乃は。


 ゆっくり。


 前へ出る。


 真銀が。


「……本当に一人でやるのか?」


「うん」


「無理だと思ったら?」


「その時は助けて」


「それ、手出し禁止の条件に引っかからないか?」


「……」


 千乃が。


 考える。


「じゃあ」


「?」


「その前に勝つ」


「そうしてくれ」


 ララが。


「主!」


「なに?」


「ララも戦いたい!」


「今回はダメ」


「むぅ!」


 ライも。


「俺も手を出さない」


「うん」


 アイシィが。


「私も見守ります」


「お願い」


 カミルも。


「我も約束しよう」


「ありがとう」


 カイルが。


「俺は――」


 千乃が。


「カイルもダメ」


「まだ何も言ってない!」


「なんとなく」


「ひどい!」


 そして。


 ライムが。


 千乃の横に立つ。


「……」


「ライム」


「わん」


「あなたも」


「わん」


「手出し禁止だからね」


「……」


 ライムが。


 ちょこん。


 と座る。


「お座り?」


「わん」


「……」


 真銀が。


「本当に座った」


「ライムは賢いから」


「それ以外できないだけじゃないか?」


「……」


「わん」


「ごめん」


 そして。


 千乃は。


 前を向く。


「さあ」


 目の前には。


 数え切れないほどの兵士。


 魔法使い。


 騎士。


 大型の魔導兵器。


 そして。


 王国最強を名乗る者たち。


「全部まとめて」


 千乃の周囲に。


 魔力が集まり始める。


「かかってきて」


 王が。


 手を振り下ろした。


「総員!」


 兵士たちが。


 一斉に走り出す。


「進めぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 地面が。


 揺れる。


 千乃は。


 一歩。


 踏み出した。


「……」


 そして。


 にこっと笑う。


「気合は万能!」


 ドォォォォォォォォォン!!


 大地が。


 震えた。


 その瞬間。


 王国史上最大の。


 とんでもない喧嘩が。


 始まった。


 千乃は。


 静かに。


 ローブを羽織った。


 深くフードを被る。


「……よし」


 そして。


 走った。


 ドドドドドドドドッ!!


「撃てぇぇぇぇぇぇ!!」


 無数の魔法が飛んでくる。


 千乃は。


 右へ。


 左へ。


 跳ぶ。


 しゃがむ。


 身体をひねる。


 すべて避ける。


「当たらないよ!」


 そのまま。


 地面を蹴った。


「せぇぇぇぇぇいっ!!」


 ドォォォォォォォォォン!!


 一撃。


 数千人の兵士が。


「うわあああああああああああ!!」


「飛ぶぞぉぉぉぉぉぉ!!」


「なんで一人でこんな威力出せるんだぁぁぁ!!」


 まとめて吹き飛んでいく。


 ドドドドドドドドッ!!


 さらに。


「まだまだぁっ!!」


 千乃が腕を振る。


 魔力の衝撃が広がる。


 ズドォォォォォォォォン!!


 また数千人。


「ぐわあああああああ!!」


 兵士たちが次々と吹き飛ぶ。


 しかし。


 倒しても。


 倒しても。


「前へぇぇぇぇぇ!!」


「囲めぇぇぇぇぇ!!」


「数で押し切れぇぇぇぇ!!」


 新たな兵士が。


 次々と押し寄せる。


「……っ!」


 千乃が走る。


 避ける。


 攻撃する。


 また避ける。


 また攻撃する。


 何千人。


 何万人。


 それでも。


 兵士の数は。


 減っているようで。


 減らない。


「……多すぎでしょ!?」


 千乃が叫ぶ。


 ズガァン!!


 魔法を避ける。


 その直後。


「そこだぁっ!!」


 背後から剣が迫る。


「っ!」


 千乃は身体をひねって避けた。


 しかし。


 完全には避けきれない。


 服が少し裂ける。


「……っ」


 腕に。


 浅い傷が増えた。


「千乃!!」


 真銀が叫ぶ。


「大丈夫!」


 千乃は振り返らない。


「まだ動ける!」


 また走る。


 また避ける。


 また攻撃する。


 ドォォォォォォン!!


 数千人が飛ぶ。


 しかし。


 その隙間から。


 さらに兵士が押し寄せる。


「まだ来るの!?」


「一国を相手にしているのだから当然だ!」


 王が叫ぶ。


「我が国の全戦力を前に!」


「一人で勝てるものか!!」


 千乃は。


 息を整える。


「……」


 周囲を見渡す。


 敵。


 敵。


 敵。


 どこを見ても。


 兵士。


 魔術師。


 騎士。


 そして。


 まだ後ろから来る。


「……そっか」


 千乃が。


 小さく呟く。


「一人で国全部なんだ」


 そして。


 拳を握る。


 また。


 走る。


 けれど。


 少しずつ。


 千乃の動きが鈍くなっていく。


「……っ」


 肩。


 腕。


 脚。


 小さな傷が。


 少しずつ増えていく。


 魔力も。


 少しずつ消耗していく。


「千乃さん……!」


 アイシィが心配そうに見つめる。


「主……」


 ララも。


 ぎゅっと拳を握る。


 ライは黙って千乃を見ている。


 カミルも。


 カイルも。


 ライムも。


 誰も。


 動かない。


 約束したから。


 これは。


 千乃自身が選んだ戦いだから。


「……っ!」


 千乃が。


 また兵士を吹き飛ばす。


 しかし。


 その直後。


 別の兵士が。


 横から迫る。


 千乃が避ける。


 そのさらに後ろから。


 魔法。


「……!」


 ドンッ!!


 千乃が地面を転がった。


「千乃!!」


 真銀が叫ぶ。


 千乃は。


 ゆっくりと立ち上がる。


「……大丈夫」


 息が。


 少し荒い。


 それでも。


 千乃は真銀を見る。


「真銀」


「……ああ」


「何があっても」


 千乃は。


 クオンを見る。


 真銀のそばで。


 小さな身体を震わせている。


「クオンは守って!!」


「……分かった」


 真銀が即答する。


「絶対に」


 クオンが。


「……お姉ちゃん」


 小さく呟く。


 千乃は。


 少しだけ笑った。


「大丈夫」


 そして。


 また前を向く。


「お姉ちゃんが」


 拳を握る。


「絶対に帰してあげるから」


 次の瞬間。


 千乃は。


 再び。


 敵の大群へ走り出した。


 千乃は。


 走りながら。


 ふと。


 立ち止まった。


「……」


 周囲には。


 無数の兵士。


 魔術師。


 騎士。


 まだまだ。


 押し寄せてくる。


 千乃は。


 ゆっくりと。


 フードを下ろした。


「……もう」


 目を閉じる。


「このままじゃ」


 そして。


 小さく。


「足りない」


 千乃の身体から。


 黒い魔力が。


 溢れ出した。


「……え?」


 兵士たちが。


 一斉に足を止める。


 ズズズズズズズ……。


 空気が。


 重くなる。


 千乃の髪が。


 ゆっくりと。


 色を変えていく。


 メタルピンクだった髪は。


 白く。


 長く。


 風に揺れる。


「な、なんだ……?」


「何が起きている!?」


 千乃の服が。


 黒を基調とした。


 和服へと変わっていく。


 袖が揺れる。


 裾が舞う。


 そして。


 背中から。


 バサァッ!!


 巨大な黒い羽が。


 二枚。


 広がった。


「……」


 千乃が。


 ゆっくりと。


 目を開く。


 その瞳は。


 赤い。


「ひっ……」


 一人の兵士が。


 後ずさる。


 さらに。


 額から。


「……」


 白い髪の間から。


 二本の角が。


 ゆっくりと伸びる。


 そして。


 千乃が。


 口元を少し開く。


 そこには。


 鋭く尖った歯。


「……」


 静寂。


 千乃は。


 自分の手を見る。


「……鬼化」


 黒い羽が。


 ゆっくりと揺れる。


「鬼月姫」


 その瞬間。


 ドォォォォォォォォォン!!


 黒い魔力が。


 一気に周囲へ広がった。


 地面が震える。


 兵士たちが。


「うわあああああああああああ!!」


「何だ、この魔力は!?」


「さっきまでと全然違うぞ!!」


 一斉に後退する。


 千乃は。


 ゆっくりと。


 一歩。


 前へ出た。


「……クオンは」


 赤い瞳が。


 真っ直ぐ。


 王を見る。


「渡さないッ!!!」


 王の顔が。


 引きつった。


「……っ」


 その後ろで。


 真銀は。


 千乃を見つめていた。


「……鬼月姫」


 クオンも。


 震えながら。


 千乃を見る。


「……お姉ちゃん」


 千乃は。


 ほんの少しだけ。


 クオンへ顔を向ける。


「大丈夫」


 尖った歯が。


 少しだけ見える。


「怖くないよ」


 そして。


 再び。


 敵を見る。


 黒い羽が。


 大きく広がった。


「さあ」


 千乃が。


 静かに。


 構える。


「続き、やろうか」


 鬼月姫となった千乃は。


 ゆっくり。


 一歩。


 踏み出した。


「……っ」


 兵士たちが。


 後ずさる。


 それでも。


「怯むなぁぁぁぁ!!」


 指揮官が叫ぶ。


「まだ我々には数がある!!」


「そうだ!!」


「囲めぇぇぇ!!」


 一斉に。


 兵士たちが走り出した。


 数千。


 数万。


 巨大な波となって。


 千乃へ迫る。


「……」


 千乃は。


 動かない。


 ただ。


 黒い羽を。


 ゆっくりと。


 広げた。


「……行くよ」


 次の瞬間。


 バサァッ!!


 千乃の姿が。


 消えた。


「なっ!?」


 空中。


 兵士たちの頭上。


「ここ」


「え?」


 千乃が。


 静かに。


 手を振る。


 ドォォォォォォォォォン!!


 巨大な衝撃波。


 兵士たちが。


「うわあああああああああ!!」


「飛ぶぅぅぅぅぅ!!」


 数千人単位で。


 一気に吹き飛ぶ。


 地面に倒れた兵士たちは。


 すぐに立ち上がろうとする。


「まだだ!!」


「まだ戦える!!」


「前へ!!」


 しかし。


 その間に。


 千乃は。


 もう別の場所にいる。


「そこ」


 ドンッ!!


「ぐわぁっ!!」


 また。


 数千人。


「こっち!」


 ドォン!!


 さらに。


「次!」


 ズドォォォン!!


 また。


 数千人。


 戦線が。


 少しずつ。


 崩れていく。


「……おい」


 一人の兵士が。


 周囲を見る。


「さっきまで、ここに何千人もいたよな?」


「……いた」


「どこ行った?」


「……吹き飛ばされた」


「……」


 二人が。


 千乃を見る。


「……あれ、一人だよな?」


「一人だ」


「なのに……」


 兵士の声が。


 震える。


「なんで、こっちの人数が減っていくんだ……?」


 その間にも。


 魔術師部隊が。


 魔法を放つ。


「一斉射撃!!」


 無数の魔法弾。


 炎。


 雷。


 氷。


 風。


 それらが。


 一斉に千乃へ向かう。


「……」


 千乃は。


 片翼を。


 軽く振った。


 バァン!!


 魔法が。


 すべて弾かれる。


「な……」


「嘘だろ……」


「魔法が通らない!?」


 千乃は。


 そのまま。


 魔術師たちへ手を向ける。


「じゃあ」


 赤い瞳が。


 光る。


「こっちの番ね」


 ズドォォォォォォォン!!


 魔術師部隊が。


 一斉に吹き飛ぶ。


「魔術師隊、後退!!」


「後ろへ!!」


 指揮官が叫ぶ。


 だが。


 後退した先には。


 別の部隊がいる。


「下がれません!!」


「後ろにも兵が――」


 混乱。


 命令が。


 通らなくなっていく。


 さらに。


 騎士団が前へ出る。


「我々が止める!!」


 鎧をまとった騎士たちが。


 一斉に突撃する。


「……」


 千乃は。


 真正面から。


 歩いていく。


 騎士の剣が。


 振り下ろされる。


 千乃は。


 身体を傾ける。


 避ける。


 次。


 また避ける。


 そして。


 軽く。


 手を添える。


「……えい」


 ドォン!!


「うわあああああ!!」


 騎士たちが。


 まとめて飛んでいく。


「騎士団まで……」


 王の顔から。


 少しずつ。


 余裕が消えていく。


「まだだ」


 王が。


 必死に言う。


「まだ兵はいる!」


 しかし。


 その声とは裏腹に。


 戦場では。


 明らかに。


 国側が押され始めていた。


 兵士の列が。


 短くなる。


 魔術師の数が。


 減る。


 騎士団も。


 後退する。


 巨大な魔法兵器も。


 千乃に近づく前に。


 無力化される。


「……」


 千乃は。


 傷だらけの身体で。


 それでも。


 立っている。


 白い髪が。


 風に揺れる。


 黒い羽が。


 ゆっくりと動く。


 赤い瞳が。


 真っ直ぐ。


 王を捉える。


「……まだやる?」


「……」


 王は。


 答えられない。


 少し前まで。


 圧倒的だった。


 自分たちの国が。


 今は。


 たった一人に。


 少しずつ。


 追い詰められている。


 その光景を。


 真銀は黙って見つめていた。


「……千乃」


 クオンは。


 真銀の服を。


 ぎゅっと握る。


「お姉ちゃん……」


 真銀は。


 静かに答えた。


「大丈夫だ」


 そして。


 千乃を見る。


「千乃は、負けない」


 その言葉に。


 千乃の口元が。


 ほんの少し。


 上がった。


「……うん」


 鬼月姫は。


 再び。


 歩き出した。


 そして。


 一国の戦線は。


 また一歩。


 後退した。


 そのとき。


「……!」


 真銀のそばにいた。


 クオンへ。


 一筋の魔法が。


 流れてきた。


「クオン!!」


 真銀が叫ぶ。


 だが。


 千乃のほうが。


 速かった。


「させない!!」


 バサァッ!!


 千乃が。


 一瞬で距離を詰める。


 手をかざす。


「――っ!」


 バァン!!


 魔法を。


 弾き飛ばした。


 しかし。


 その瞬間。


 千乃の背中が。


 完全に。


 敵へ向いた。


「……!」


 背後から。


 一人の兵士が。


 剣を突き出す。


 ズッ!!


「……っ」


 千乃の身体が。


 ぴたりと止まった。


 剣は。


 背中から入り。


 そのまま。


 身体を貫いていた。


「千乃!!」


 真銀の叫びが。


 響く。


 千乃は。


 すぐには動けなかった。


 剣が身体を貫いたまま。


 背後の兵士によって。


 固定されている。


「……っ、ぁ……」


 千乃の肩が。


 小さく震える。


 それでも。


「ク……オン……」


 千乃は。


 振り返ろうとする。


 だが。


 身体を動かした瞬間。


「……っ!」


 激しい負担が走り。


 千乃の動きが止まる。


 それでも。


 クオンを見る。


 そして。


「……大丈夫」


 無理に。


 笑った。


 兵士が。


「まだ動けるのか!?」


 さらに。


 剣を押し込む。


「ぐっ……!!」


 千乃の身体が。


 大きく揺れる。


 剣は。


 完全に。


 身体を通り抜けていた。


「千乃さん!!」


 アイシィが叫ぶ。


「主!!」


 ララも。


 今にも飛び出しそうになる。


 しかし。


「来ないで!!」


 千乃が叫んだ。


 その声に。


 全員が止まる。


 千乃の口元から。


 赤いものが。


 こぼれる。


「……っ」


 ぽた。


 ぽた。


 地面へ落ちる。


 千乃は。


 それでも。


 笑顔を作った。


「……だい、じょうぶ」


 けれど。


 口の端から。


 また。


 赤い雫が流れた。


 ぽた。


 ぽた。


「ま、、、、、しろ……」


 千乃は。


 震える声で。


 それでも。


 はっきりと言った。


「クオンを連れて……かえって……」


「……!」


「星の箱……」


 剣が。


 身体を貫いたまま。


 千乃は。


 片手を伸ばす。


「ゲート……オープン……」


 空間に。


 星のような光が集まる。


 大きな入口が。


 開いた。


「はや、く……」


「千乃!」


「早……く!!」


 真銀は。


 拳を握る。


 そして。


 クオンを抱き上げた。


「……分かった」


 クオンが。


 必死に千乃を見る。


「お姉ちゃん……!」


「大丈夫」


 千乃は。


 また笑った。


「……先に帰ってて」


「いや……!やだよぉっ!!」


「クオン」


 真銀が。


 優しく呼ぶ。


「行こう」


「でも……!」


「千乃が望んでいる」


 クオンは。


 涙をこらえながら。


 ゲートへ入る。


「……お姉ちゃん」


 最後まで。


 千乃を見ていた。


「っ……またね」


 千乃が。


 小さく笑う。


 真銀。


 ララ。


 ライ。


 アイシィ。


 カミル。


 カイル。


 ライム。


 そして。


 クオン。


 全員が。


 星の箱へ入った。


 その瞬間。


 シュンッ。


 ゲートが。


 閉じた。


「……」


 千乃は。


 それを確認する。


 誰も。


 もう。


 ここには戻ってこられない。


「……これで」


 千乃は。


 ゆっくり。


 前を向いた。


「……守れた」


 身体を貫いている剣。


 それを抜くこともできない。


 抜けば。


 今以上に動けなくなる。


 だから。


 千乃は。


 そのまま。


 立ち上がった。


「……さて」


 赤い瞳が。


 兵士たちを捉える。


「続きだね」


「な、何だ……!?」


 兵士が。


 後ずさる。


 千乃が。


 手を上げた。


「――鬼月姫」


 黒い魔力が。


 集まる。


 ドォォォォォォォォン!!


 兵士たちが。


 まとめて吹き飛ぶ。


 しかし。


 先ほどまでとは。


 明らかに。


 威力が落ちている。


「……っ」


 千乃が。


 息を吐く。


 身体を貫いたままの剣が。


 動くたびに。


 千乃の動きを奪っていく。


「……さすがに」


 千乃が。


 苦笑する。


「これは……きついなぁ」


 それでも。


 歩く。


 剣を身体に残したまま。


 一歩。


 また一歩。


 敵を退けていく。


「まだだ!」


「囲めぇぇぇ!!」


 兵士たちが。


 押し寄せる。


 千乃は。


 羽を広げる。


 しかし。


 いつものようには。


 飛べない。


「……っ」


 それでも。


 魔力を放つ。


 ドォン!!


 敵が吹き飛ぶ。


 だが。


 以前より。


 明らかに弱い。


「押せ!!」


「まだ倒れていないぞ!!」


 千乃は。


 必死に立っていた。


 そして。


 ついに。


「……っ」


 足から。


 力が抜ける。


 ドサッ。


 千乃は。


 その場に倒れた。


「……」


 静寂。


 地面へ。


 赤い雫が。


 ぽた。


 ぽた。


 落ちていく。


 やがて。


 その周囲へ。


 じわじわと。


 広がっていく。


「終わった……」


 王が。


 呟いた。


「さすがにもう立てまい」


「……」


 千乃は。


 動かない。


 兵士たちが。


 ゆっくり。


 近づいてくる。


「勝ったぞ!」


「我々の勝ちだ!」


「国を守ったぞ!!」


 その声を。


 千乃は。


 聞いていた。


「……」


 そして。


 ゆっくり。


 指を動かした。


「……まだ」


 立てない。


 それでも。


 手は。


 動く。


「……終わってない」


 黒い羽が。


 僅かに。


 揺れた。


「私は……」


 千乃の周囲に。


 最後の魔力が集まる。


「……鬼月姫」


 空気が。


 震える。


 兵士たちが。


「な……」


「まだ魔力が……!?」


 千乃が。


 ゆっくり。


 顔を上げた。


 赤い瞳が。


 王を捉える。


「――月…黒・終星」


 ズドォォォォォォォォォン!!


 黒い閃光が。


 戦場を駆け抜ける。


 兵士たちが。


 一斉に吹き飛ぶ。


 魔術師も。


 騎士も。


 残っていた戦力も。


 次々と。


 戦場から消えていく。


「う、嘘だ……」


 王が。


 立ち尽くす。


「一人で……我が国の全戦力を……」


 そして。


 最後に。


 王へ。


 黒い光が迫る。


「……っ!」


 ドォォォォォォォォォン!!


 静寂。


 戦場から。


 敵の姿が。


 消えた。


 千乃は。


 倒れたまま。


 荒い息を吐く。


「……」


 そして。


 ほんの少し。


 笑った。


「私の……」


 一度。


 目を閉じる。


「……勝ち」

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