クオンの行方
星氷神城。
クオンが消えた直後。
千乃たちは。
城の中を調べていた。
「……ない」
真銀が。
窓を確認する。
「窓から出た形跡はない」
ライも。
床を見つめる。
「外へ続く足跡もない」
「じゃあ……」
千乃が。
部屋の中央を見る。
「やっぱり魔法で連れていかれたんだ」
「ああ」
真銀が頷く。
「しかも」
床に残った。
黒い魔力の痕跡。
「かなり特殊な転移魔法だ」
「追跡できないの?」
「普通なら難しい」
「普通なら?」
千乃が聞く。
真銀は。
少しだけ黙った。
「だが」
魔力の残滓へ手を伸ばす。
「完全には消えていない」
「……!」
千乃の目が輝く。
「追える?」
「可能性はある」
「じゃあ行こう!」
「待て」
真銀が止める。
「準備してからだ」
「……」
「千乃」
「はい」
「一人で突っ込むな」
「……はい」
千乃が。
少しだけ目を逸らす。
「分かった」
「本当に?」
「……たぶん」
「不安しかない」
ララが。
「主!」
「ん?」
「クオンの匂い!」
「分かるの?」
「少しだけ!」
ララが。
黒い魔力の残滓へ近づく。
鼻をひくひくさせる。
「……こっち!」
ぴょんっ。
走り出す。
「ララ!」
千乃たちも追いかける。
廊下を抜け。
階段を下り。
そして。
城門の前まで来る。
「……」
ララが立ち止まった。
「ここ」
地面には。
小さな黒い魔法陣。
「転移した場所か」
真銀が確認する。
「いや」
ライが首を振る。
「転移したのは城内だ」
「じゃあこれは?」
千乃が尋ねる。
カミルが。
魔法陣を見つめた。
「転移先を示すためのものだろう」
「……」
千乃の表情が変わる。
「じゃあ」
魔法陣の中心を見る。
「ここからクオンのところへ行ける?」
「正確な座標ではない」
カミルが答える。
「だが」
紅い瞳が光る。
「方向なら分かる」
「どっち?」
カミルが。
ゆっくり。
東を向いた。
「……あちらだ」
「よし!」
千乃が拳を握る。
「行こう!」
「準備は?」
真銀が尋ねる。
「今する!」
千乃が。
勢いよく走り出す。
「千乃!」
「待って!」
「主、速い!」
ララたちも。
一斉に追いかける。
その頃。
別の場所。
「……ん」
クオンが。
ゆっくり目を開けた。
「……ここ……」
知らない部屋。
クオンは。
周囲を見回す。
「……お姉ちゃん?」
返事はない。
「……」
クオンが。
小さく身を起こす。
狐耳が。
不安そうに垂れる。
「……お姉ちゃん」
もう一度。
呼ぶ。
返事はない。
「……」
クオンは。
布団を握る。
そして。
小さな声で。
「……迎えに来て」
呟いた。
「……お姉ちゃん」
その瞬間。
遠くで。
ドンッ!!
「……?」
クオンの耳が。
ぴんっ。
何かが。
近づいてくる。
「……?」
ドォン!!
また。
大きな音。
「……」
クオンが。
少しだけ目を見開く。
そして。
壁の向こうから。
「クオーーーーーーン!!」
「……!」
聞き覚えのある声。
「クオン!」
千乃。
「お姉ちゃん……?」
クオンの耳が。
ぴんっと立った。
「クオン!!」
さらに。
ドォォォォン!!
壁が。
大きく揺れる。
「お姉ちゃん……!」
クオンが。
初めて。
笑った。
「……来てくれた」
そして。
その頃。
壁の向こう。
「……」
千乃が。
拳を握っていた。
「見つけた」
その目には。
いつもの明るさとは違う。
強い決意が宿っていた。
「クオン」
そして。
「今、迎えに行くからね」
星氷神城から始まった。
クオン奪還作戦。
その幕が。
今。
上がった。
その頃。
千乃たちは。
クオンの行方を追っていた。
「……」
千乃は。
立ち止まる。
「見つからない」
真銀が周囲を見回す。
「痕跡は?」
「途中で消えてる」
ライが鼻を地面へ近づける。
「……魔力の匂いが濃すぎる」
「つまり」
千乃が。
ぎゅっと拳を握る。
「普通に探すのは無理ってこと?」
「ああ」
真銀が頷く。
「なら」
千乃は。
顔を上げた。
「別の方法を使おう」
「別の方法?」
カイルが首を傾げる。
「うん」
千乃は。
右手を前へ伸ばした。
そして。
「――来て」
魔力が。
一気に広がる。
地面に。
巨大な魔法陣が出現した。
「……!」
ララが目を輝かせる。
「何が来るの!?」
黒い霧。
闇。
そして。
低い咆哮。
「グルルルル……」
魔法陣の中央から。
ゆっくりと。
一匹の獣が現れた。
黒い毛。
立った耳。
くるんと巻いた尻尾。
そして。
「……」
普通サイズの。
黒柴。
「……」
「……」
「……」
全員。
沈黙。
「……犬?」
カイルが呟いた。
黒柴は。
ちょこん。
と座った。
「わん」
「かわいい!」
ララが飛びつきそうになる。
しかし。
その瞬間。
黒柴の周囲に。
ズズズズズズズズ……。
黒いオーラが。
噴き出した。
「……」
「……」
「……」
地面が。
震える。
木々が。
ざわめく。
空気そのものが。
重くなる。
カイルの顔が。
引きつった。
「……え?」
アイシィが。
静かに呟く。
「……これは」
カミルの目が細くなる。
「SSS級……」
「え?」
ライが黒柴を見る。
「……SSS級魔物?」
黒柴は。
ちょこん。
と座っている。
「わん」
「…………」
千乃は。
黒柴を見つめる。
「……ライム?」
黒柴の耳が。
ぴくっ。
「わん!」
「……!」
千乃の目が。
大きく見開かれた。
「ライム……!」
千乃が駆け寄る。
黒柴も。
尻尾を。
ぶんぶんぶんぶん!!
振る。
「ライム!」
「わんわん!」
千乃が。
そっと抱きしめる。
「……久しぶり」
「わん!」
「まさか……」
真銀が驚く。
「前世で飼っていた犬?」
「うん」
千乃が笑う。
「黒柴のライム」
ライムは。
千乃の前に座る。
「お座り」
「……」
すっ。
座る。
「お手」
ぽん。
「……」
千乃が。
「待て」
ライムは。
ぴたっ。
動かなくなった。
「……」
真銀が。
「本当にそれしかできないのか?」
「たぶん」
「SSS級だぞ?」
「うん」
「SSS級魔物だよな?」
「うん」
「……」
ライムの周囲で。
黒いオーラが。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「……」
真銀が。
「見た目との落差が凄いな」
千乃は。
ライムの頭を撫でる。
「ライム」
「わん!」
「クオンを探して」
「……」
ライムが。
首を傾げる。
「……」
「ライム?」
「……」
そして。
突然。
地面へ鼻をつけた。
すん。
すん。
すん。
次の瞬間。
ライムの目が。
カッ。
と光った。
「わん!!」
ダッ!!
「速っ!?」
千乃たちが慌てて追いかける。
「ライム!」
「待って!」
「速すぎる!」
黒柴は。
普通サイズの身体からは想像もできない速度で。
森を駆け抜けていく。
そして。
しばらくすると。
巨大な建物の前で。
急停止した。
「……ここ?」
千乃が。
建物を見上げる。
そこには。
大きな看板。
「……オークション会場」
真銀の表情が。
一気に険しくなる。
「ここにクオンがいる可能性が高い」
「……」
千乃が。
静かに拳を握った。
「行こう」
城の外。
巨大な扉の前。
警備員が立っている。
「止まれ!」
「ここから先は関係者以外……」
「クオンを返して」
千乃が。
一歩前へ出る。
「……は?」
「私の弟を」
千乃の目が。
鋭くなる。
「返して」
「何を言って……」
その瞬間。
千乃が。
扉へ向かって。
蹴りを放った。
ドォォォォォォン!!
「うわああああああ!?」
扉が。
吹き飛ぶ。
「正面突破!?」
カイルが叫ぶ。
「だって時間ないもん!」
「そういう問題!?」
千乃は。
そのまま中へ走り込む。
「クオン!!」
巨大な会場。
無数の人々。
そして。
壇上。
「……!」
そこに。
クオンがいた。
白い狐耳。
真っ白な尻尾。
そして。
鎖を持った係員。
「お姉ちゃん……!」
クオンの目が。
大きく開く。
「クオン!」
千乃が叫ぶ。
クオンが。
千乃へ向かって走ろうとする。
「お姉ちゃん!!」
「クオン!」
しかし。
鎖を持った係員が。
「待て!」
ぐいっ。
「……!」
クオンの身体が。
引き戻される。
「やっ……!」
足がもつれ。
クオンが。
その場に転んだ。
「クオン!!」
千乃の表情が。
一瞬で変わった。
「……」
静かに。
右手を前へ。
「触らないで」
その指先から。
淡く輝く。
魔法の糸。
「星の糸」
ヒュッ。
糸が。
一瞬で鎖へ絡みつく。
そして。
すぱっ。
鎖が。
断ち切られた。
「え……?」
係員が固まる。
千乃は。
すぐにクオンのところへ駆け寄る。
「クオン!」
「お姉ちゃん……!」
クオンが。
千乃へ手を伸ばす。
「怖かった……!」
「うん」
千乃は。
クオンをそっと抱き上げる。
「もう大丈夫」
「……お姉ちゃん……!」
「ここにいるよ」
「……うぅ……」
クオンの目から。
涙が溢れる。
「怖かった……」
「うん」
「ずっと……帰りたかった……」
「うん」
千乃は。
クオンを優しく抱きしめる。
「帰ろう」
「……うん……!」
クオンは。
千乃の胸元に顔を埋める。
「お姉ちゃん……」
「なに?」
「……怖かった……」
「もう大丈夫」
千乃が。
クオンの背中を。
ゆっくり撫でる。
「私が来たから」
「……うぅ……」
クオンは。
泣きじゃくりながら。
千乃にしがみついた。
その光景を。
真銀たちが見つめる。
「……」
真銀が。
静かに拳を握る。
ライが。
「……許せないな」
アイシィも。
「ええ」
カミルが。
「我も同意する」
そして。
ララが。
「クオンを泣かせた!!」
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ララの身体が。
震える。
「……主」
「ん?」
「やっていい?」
「……」
千乃は。
クオンを抱いたまま。
会場を見渡す。
「……うん」
にこっ。
「全部壊しちゃおう」
「主、許可出た!」
ララが跳ねる。
「俺もやる!」
カイル。
「お前は何もしなくていい」
真銀が止める。
「なんで!?」
そして。
千乃が。
クオンを抱いたまま。
「みんな、下がって」
魔力が。
膨れ上がる。
「え?」
カイルが後退する。
「千乃?」
「ここ」
千乃が。
会場の床を見下ろす。
「クオンを連れてきた場所だから」
そして。
「二度と使えないようにする」
ドォォォォォォォォォォン!!
巨大な衝撃が。
会場全体を駆け抜けた。
天井。
壁。
床。
観客席。
全部が。
「うわああああああああああ!!」
轟音とともに。
崩れていく。
ズズズズズズズズ……。
そして。
数秒後。
そこに残ったのは。
「……」
巨大な。
瓦礫の山。
千乃は。
その中心で。
クオンを抱いていた。
「……」
クオンは。
まだ泣いている。
千乃は。
そんなクオンの頭を。
そっと撫でる。
「帰ろう、クオン」
「……うん」
「お姉ちゃんと一緒に」
「……うん……」
そして。
瓦礫の上。
ライムが。
ちょこん。
と座った。
「わん」
黒いオーラだけは。
相変わらず。
化物級だった。
しかし。
「ライム」
「わん?」
「お座り」
すっ。
「お手」
ぽん。
「待て」
ぴたっ。
「……」
真銀が。
「本当にこれしかできないのか」
千乃が。
「うん」
「……SSS級なのに」
「うん」
ライムは。
瓦礫の山の上で。
満足そうに。
「わん!」
と鳴いた。
しかし。
瓦礫の山になった。
その瞬間だった。
「……?」
千乃が。
腕の中を見る。
「クオン?」
「……」
いない。
「…………え?」
千乃の顔が。
一瞬で固まった。
「クオン?」
腕の中に。
さっきまでいたはずの。
小さな身体が。
消えている。
「……」
真銀も。
周囲を見渡す。
「また転移魔法だ」
「……」
千乃の目が。
すっと細くなる。
「……また?」
ララの耳が。
ぴんっ。
「クオン、また連れていかれた!?」
「うん」
千乃は。
静かに答える。
「……じゃあ」
右手を。
前へ伸ばす。
「また探す」
その隣で。
ライムが。
ちょこん。
「わん」
「ライム」
千乃が見る。
「お願い」
「……」
ライムが。
鼻をひくひくさせる。
そして。
「わん!!」
ダッ!!
「また走った!?」
全員が追いかける。
そして。
最初の場所を見つけた。
そこは。
地上には存在しない。
裏世界の闇オークション会場。
「……」
千乃が。
入口を見る。
「ここも?」
「うん」
クオンの魔力が残っている。
「……壊す」
「主、判断が早い!」
ドォォォォォン!!
入口。
消滅。
「うわあああああ!?」
中にいた者たちが逃げ出す。
千乃たちは。
そのまま進む。
「クオン!」
しかし。
いない。
「もう移動したみたい」
真銀が。
残った魔力を見る。
「別の会場へ転送された」
「……」
千乃が。
無言で頷く。
「次」
そして。
次の闇オークション。
「ここだ」
ライムが。
「わん!」
ドォォォォン!!
破壊。
「次」
別の会場。
「ここ!」
ドォォォォン!!
破壊。
「次!」
ドォォォォン!!
破壊。
さらに。
「次!」
ドォォォォン!!
破壊。
さらに。
「次!」
ドォォォォン!!
破壊。
いつしか。
裏世界では。
奇妙な噂が広がり始めていた。
「……また来たぞ」
「何が?」
「ピンクの女だ」
「……ああ」
「闇オークションを片っ端から壊してる」
「なんで?」
「狐人族の子供を探してるらしい」
「……」
「見つけたら?」
「会場が壊れる」
「見つけなくても?」
「会場が壊れる」
「……」
「逃げろ!!」
そして。
ついに。
最後の会場。
「ライム」
「わん」
「ここ?」
「わん!」
千乃が。
建物を見る。
「……」
真銀が。
「かなり大きいな」
「うん」
中から。
大量の人の気配。
そして。
クオンの魔力。
「いる」
千乃の表情が。
変わる。
「行こう」
扉を開ける。
会場内。
大勢の客。
そして。
壇上。
「……!」
そこに。
クオンがいた。
「クオン!」
「……!」
クオンが。
千乃を見る。
「お姉ちゃん……!」
しかし。
壇上の係員が。
「ただいまより!」
声を張り上げる。
「最終落札額!」
会場が。
ざわめく。
「六千七百二十三万!」
「……」
千乃が。
固まる。
「……」
真銀も。
固まる。
「……6723万?」
「そうみたい」
カイルが。
小声で呟く。
「高すぎない?」
「そこじゃない」
千乃が。
即答する。
「クオンは商品じゃない」
係員が。
「それでは!」
木槌を。
振り上げる。
「落札!」
カンッ!!
「待って」
千乃が。
一歩。
前へ出る。
「……?」
会場中の視線が。
千乃へ集まる。
「その子」
千乃が。
クオンを見る。
「返して」
「お姉ちゃん……!」
クオンが。
千乃へ向かおうとする。
だが。
係員が。
「動くな!」
鎖を引く。
「……!」
クオンが。
その場で止まる。
千乃の目が。
冷たくなる。
「……その鎖」
指先から。
星の糸。
「切るよ」
すぱっ。
鎖が。
切れる。
「え!?」
千乃が。
そのままクオンを抱き上げる。
「よし」
「お姉ちゃん……!」
「もう大丈夫」
クオンが。
千乃にしがみつく。
「……怖かった……」
「うん」
千乃が。
ぎゅっと抱く。
「ごめんね」
「……」
「今度こそ絶対に離さない」
そのとき。
「待て」
会場の奥から。
一人の人物が立ち上がった。
さっき。
クオンを落札した人物だった。
「その子は私が落札した」
「……だから?」
「六千七百二十三万だ」
「……」
千乃が。
クオンを抱いたまま。
「知らない」
「何?」
「クオンに値段なんてない」
「だが私は金を払った」
「知らない」
「契約は成立している」
「知らない」
「返せ!」
千乃の眉が。
ぴくっ。
「嫌」
「貴様……!」
落札者が。
前へ出る。
「私のものだ!」
「違う」
千乃が。
クオンを抱く腕に。
少しだけ力を込める。
「クオンは誰かのものじゃない」
「ならば!」
落札者が。
魔力を放つ。
ドンッ!!
「千乃!」
真銀が叫ぶ。
しかし。
千乃は。
動かない。
クオンを抱いたまま。
片手で。
魔力を受け止める。
「……」
「なっ……!?」
千乃が。
静かに顔を上げる。
「私」
そして。
「今、かなり怒ってる」
空気が。
変わった。
ライムの周囲から。
黒いオーラが。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「わん」
ちょこん。
「……」
カイルが。
「その犬……」
ライが。
「SSS級だ」
「見た目普通の黒柴なのに!?」
カミルが。
「我も理解できぬ」
ライムは。
お座りしたまま。
じっと落札者を見る。
「……」
そして。
尻尾を。
ぶんっ。
「わん!」
その瞬間。
会場全体の空気が。
震えた。
「ひっ……!」
落札者が。
一歩後退する。
千乃は。
クオンを抱いたまま。
「返してもらったから」
にこっ。
「帰るね」
「待て!!」
「嫌」
「これは犯罪だぞ!」
「……」
千乃が。
首を傾げる。
「クオンを連れ去ったのは?」
「……」
「その子を売ろうとしたのは?」
「……」
「私の部屋から連れていったのは?」
「……」
千乃の笑顔が。
消える。
「そっちでしょ」
そして。
「Bom」
会場が。
吹き飛んだ。
ズドォォォォォォォォォォン!!
壁。
床。
天井。
観客席。
全部が。
瓦礫になっていく。
「うわああああああああああ!!」
「逃げろ!!」
「また会場がぁぁぁぁ!!」
轟音の中。
千乃は。
クオンを抱いたまま。
ゆっくり歩いていく。
「……」
クオンは。
千乃の胸元に顔を埋めている。
「お姉ちゃん……」
「うん」
「……もう、いなくならない?」
「ならないよ」
「……本当に?」
「本当」
千乃が。
クオンの頭を撫でる。
「今度こそ」
「ずっと一緒」
「……うん」
その後ろで。
落札者が。
瓦礫の向こうから叫ぶ。
「待てぇぇぇぇぇぇ!!」
千乃が。
振り返る。
「まだやる?」
「当然だ!」
「……」
千乃が。
クオンを見る。
「ちょっと待っててね」
「……うん」
クオンを。
真銀へ渡す。
「真銀、お願い」
「ああ」
クオンを抱いた真銀が。
少し離れる。
千乃が。
落札者を見る。
「じゃあ」
拳を握る。
「ちゃんと話し合おうか」
背後には。
瓦礫の山。
隣には。
黒いオーラを纏った普通サイズの黒柴。
「わん」
そして。
千乃。
「……」
落札者。
「……」
数秒の沈黙。
「話し合いとは」
真銀が。
遠くから呟いた。
「たぶん拳での話し合いだ」
「ですよね」
アイシィが。
静かに頷いた。




