地上の光
しばらく。
通路を歩いていた。
「……」
「……」
「……」
千乃。
クオン。
そして。
助け出された人々。
全員で。
歩いていた。
しかし。
千乃が。
突然。
立ち止まった。
「……」
「千乃さん?」
クオンが見上げる。
「……めんどい」
「え?」
千乃が。
天井を見る。
「出口探すの」
「……」
「めんどい」
「……え?」
千乃は。
ぐっ。
と拳を握った。
「上、壊せばよくない?」
「…………」
クオンが。
天井を見る。
「……壊すの?」
「うん」
「どうやって?」
「蹴る」
「……」
クオンの狐耳が。
ぴくっ。
「蹴るの?」
「蹴る」
「天井を?」
「天井を」
「……」
クオンは。
少し考えて。
「……千乃さんなら、できそう」
「でしょ?」
千乃が笑う。
そして。
「みんな、ちょっと離れてて!」
「え?」
「上から何か落ちてくるかもしれないから!」
「何かって……」
「天井」
「天井!?」
人々が。
一斉に下がる。
千乃は。
その中央へ。
すっと立った。
桃色のローブが。
ふわっ。
と揺れる。
「……」
天井を見る。
「よし」
一歩。
後ろへ。
そして。
ぐっ。
と身体を沈める。
「せーの!」
ダンッ!!
地面を蹴る。
一気に。
跳ぶ。
そして。
「どりゃあああああああああああ!!」
ゴォンッ!!
千乃の蹴りが。
天井へ直撃した。
亀裂。
一本。
そして。
二本。
三本。
「……」
クオンが。
目を丸くする。
「……割れてる」
「まだまだ!」
千乃が。
空中で身体をひねる。
ローブが。
大きく。
ぶわっ!!
「もう一発!」
ドゴォォォォォォォォン!!
天井が。
完全に。
砕けた。
「えええええええええええええ!?」
人々が叫ぶ。
瓦礫が。
上へ。
吹き飛ぶ。
そして。
その先には。
「……」
光。
地上。
外の空気。
「……出口!」
誰かが叫んだ。
「やった!」
「外だ!」
人々が。
一斉に。
上を見る。
だが。
その直後。
地上では。
「……?」
真銀たちが。
何かを感じた。
カミルが。
空を見上げる。
「……何か来ます」
「何?」
真銀が。
警戒する。
「下から……」
ララが。
首を傾げる。
「下?」
次の瞬間。
地面が。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴ……」
「……」
「……」
「……」
大きく。
揺れた。
「何だ!?」
カイルが叫ぶ。
真銀が。
すぐに構える。
「全員、下がれ!」
「うん!」
「わかった!」
地面に。
亀裂が走る。
バキッ。
バキバキッ。
そして。
ドォォォォォォォォン!!
「うわあああああああ!?」
地面が。
吹き飛んだ。
土煙。
瓦礫。
その中から。
何かが。
飛び出した。
「……」
真銀たちが。
固まる。
土煙の中。
ゆっくりと。
一人の少女が。
立ち上がる。
桃色のローブ。
猫耳付きのフード。
髪は。
土まみれ。
けれど。
その姿は。
間違いなく。
「……千乃?」
真銀が。
呟いた。
「……」
千乃が。
顔を上げる。
「真銀!」
「千乃!?」
真銀が。
一気に駆け寄る。
「無事だったのか!」
「うん!」
千乃は。
にっこり笑った。
「ちょっと閉じ込められてたけど」
「……」
「上から出てきた!」
「上から?」
真銀が。
地面を見る。
正確には。
地面だった場所。
「……」
「……」
「……」
「何をした?」
「蹴った!」
「何を?」
「天井!」
「……」
真銀が。
ゆっくり。
空を見上げる。
「……地下施設の天井を?」
「うん!」
「蹴って?」
「うん!」
「地上まで?」
「うん!」
「……」
真銀が。
額を押さえた。
「……千乃らしい」
「でしょ?」
その後ろから。
「千乃さん!」
クオンが。
穴から顔を出した。
「……!」
真銀が。
クオンを見る。
「……誰だ?」
クオンは。
少しだけ。
千乃の後ろへ隠れる。
すると。
千乃が。
「この子、クオン!」
「クオン?」
「うん!」
「……」
真銀は。
クオンを見る。
そして。
千乃を見る。
「……助けたのか」
「うん」
千乃が。
笑う。
「みんなも!」
その後ろから。
次々と。
囚われていた人々が。
地上へ出てくる。
「……!」
真銀たちが。
一斉に驚く。
そして。
カイルが。
「……」
千乃の格好を見る。
「……なあ」
「何?」
「そのローブ」
「これ?」
「……猫耳?」
「猫耳!」
「……」
カイルが。
真銀を見る。
「お前のは?」
「水色」
「色違い!?」
「うん」
「そこ!?」
ララが。
千乃へ駆け寄る。
「主ー!」
「ララ!」
「心配した!」
「ごめんごめん!」
ララが。
千乃の周りを。
ぐるぐる回る。
「無事!」
「無事!」
「本当に!?」
「本当!」
「よかった!」
その横で。
真銀が。
小さく息を吐く。
「……帰ってきたな」
「うん」
千乃が。
笑った。
そして。
後ろを見る。
巨大な穴。
地下へ続く。
ぶっ壊れた天井。
「……」
真銀。
「……千乃」
「何?」
「帰ってきたのはいい」
「うん」
「だが」
真銀が。
穴を見る。
「……どうやって元に戻す?」
「……」
千乃が。
穴を見る。
そして。
「……時間経てば直るんじゃない?」
「ここ、星氷神城じゃないぞ」
「……」
「……」
「……」
千乃が。
ゆっくり。
目を逸らした。
「……気合は万能!」
「万能じゃない!!」
真銀のツッコミが。
青空へ。
響き渡った。
それから。
救出された人々は。
それぞれ。
自分たちの家へと。
帰っていった。
「ありがとうございました!」
「本当に助かりました!」
「あなたがいなかったら、どうなっていたか……」
次々と。
感謝の言葉を受ける千乃。
「ううん!」
千乃は。
いつものように。
明るく笑った。
「無事に帰れたなら、それでいいよ!」
「……」
人々は。
何度も頭を下げながら。
それぞれの道へ。
帰っていく。
やがて。
その場に残ったのは。
千乃たちと。
一人の小さな少年。
「……」
クオンだった。
白い狐耳。
ふわふわの尻尾。
そして。
千乃の服の端を。
ちょこん。
と掴んでいる。
「クオン?」
「……」
千乃が。
しゃがんで。
目線を合わせる。
「どうしたの?」
「……」
クオンは。
少しだけ。
俯いた。
「僕……」
「うん」
「帰る場所がない」
「……」
千乃の表情が。
少しだけ。
優しくなる。
「そっか」
「……」
「じゃあ」
千乃が。
にっこり笑う。
「一緒に帰ろう?」
「……!」
クオンが。
顔を上げる。
「……いいの?」
「もちろん!」
「……でも」
クオンが。
真銀を見る。
「……」
真銀も。
クオンを見る。
少しの沈黙。
そして。
「千乃がいいなら」
「……!」
クオンの尻尾が。
ふわっ。
と揺れた。
「……行きたい」
「うん!」
千乃が。
手を差し出す。
「じゃあ、一緒に行こう!」
クオンは。
その手を見る。
少し迷って。
そして。
ぎゅっ。
と握った。
「……うん」
こうして。
クオンは。
千乃たちと一緒に。
星氷神城へ向かうことになった。
しばらく歩いて。
ふと。
クオンが口を開く。
「……千乃さん」
「ん?」
「……」
少し。
言いにくそうにしている。
「どうしたの?」
「……その」
「うん?」
「千乃さんって……」
「うん」
「僕…」
クオンが。
小さく息を吸う。
「……お姉ちゃん、って呼んでもいい?」
「……!」
千乃が。
一瞬。
目を丸くする。
「……」
そして。
ぱあっ。
と笑った。
「もちろん!」
「……!」
「むしろ呼んで!」
「……お姉ちゃん」
「はい!」
「……お姉ちゃん」
「なに?」
「……」
クオンの尻尾が。
ぱた。
ぱた。
と揺れる。
「……なんでもない」
「そっか!」
千乃は。
嬉しそうに笑う。
その隣で。
真銀が。
「……」
静かに。
その様子を見ていた。
「真銀?」
「いや」
真銀も。
少しだけ笑う。
「良かったな」
「うん!」
クオンは。
千乃の手を握ったまま。
歩いていく。
もう。
ひとりじゃない。
帰る場所も。
できた。
そして。
その日から。
クオンにとって。
千乃は。
ただの救出者ではなくなった。
「お姉ちゃん!」
「なーに?」
少し先を歩く千乃が。
振り返る。
「……!」
クオンは。
自分が自然にそう呼んだことに。
少し驚いた。
でも。
嫌じゃなかった。
むしろ。
胸の奥が。
ほんの少し。
暖かくなった。
「……なんでもない」
「えー?」
「なんでもない!」
「そっか!」
千乃は。
笑った。
そして。
星氷神城へ続く道を。
三人で歩いていった。
星氷神城へ向かう道。
三人は。
ゆっくり。
歩いていた。
「……」
クオンの歩く速度が。
少しずつ。
遅くなっていく。
「クオン?」
「……うん」
「疲れた?」
「……」
クオンは。
少し迷って。
「……ちょっと」
と答えた。
「そっか」
千乃は。
足を止める。
そして。
「じゃあ」
くるっ。
クオンの前へ回る。
「お姉ちゃんが抱っこしてあげる!」
「……え?」
クオンの狐耳が。
ぴんっ。
「……抱っこ?」
「うん!」
千乃が。
両手を広げる。
「おいで!」
「……」
クオンは。
千乃を見る。
少しだけ。
ためらって。
そっと。
近づく。
千乃が。
優しく抱き上げた。
「よいしょ!」
クオンの身体が。
ふわっ。
と浮く。
「……!」
白い狐耳が。
ぴくっ。
千乃の腕の中で。
クオンが。
少し固まる。
「……重くない?」
「全然!」
千乃は。
にこにこ。
「これくらい余裕!」
「……そう」
クオンは。
千乃の肩へ。
そっと頭を預ける。
「……」
千乃が。
少しだけ笑う。
「眠い?」
「……少し」
「寝てもいいよ」
「……いいの?」
「もちろん!」
クオンの尻尾が。
千乃の腕の横で。
ふわっ。
と揺れる。
「……お姉ちゃん」
「ん?」
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
千乃は。
クオンを抱いたまま。
歩き始める。
その隣で。
真銀が。
「……」
静かに。
二人を見る。
「何?」
千乃が尋ねる。
「いや」
真銀が。
少し笑う。
「すっかりお姉ちゃんだな」
「そう?」
「ああ」
千乃は。
嬉しそうに笑う。
「じゃあ、今日から正式にお姉ちゃん!」
「……」
真銀が。
クオンを見る。
クオンは。
千乃の肩に頭を乗せたまま。
「……お姉ちゃん」
「はーい!」
「……」
クオンの目が。
ゆっくり。
閉じていく。
「寝ちゃった?」
「……まだ」
「そっか」
千乃は。
歩く速度を。
ほんの少し。
落とした。
桃色のローブが。
風に揺れる。
その中で。
クオンは。
初めて。
安心しきった顔で。
千乃に抱かれていた。
そして。
遠くに。
星氷神城が。
見えてきた。
「……」
千乃が。
小さく笑う。
「帰ろうね、クオン」
返事は。
ない。
ただ。
千乃の肩に。
小さな頭が。
ちょこん。
と乗っていた。
ユミナリア皇国。
首都で起きていた。
謎の失踪事件。
その被害者たちは。
無事に。
全員、救出された。
そして。
「……帰るぞ」
真銀が。
星氷王国へ続く道を見つめる。
「うん!」
千乃が頷く。
その腕の中には。
クオン。
「……」
クオンは。
千乃に抱かれたまま。
少し眠そうにしている。
「お姉ちゃん……」
「ん?」
「……もう帰るの?」
「うん!」
千乃が笑う。
「私たちの国へ!」
「……」
クオンの耳が。
ぴくっ。
「お姉ちゃんの……家?」
「そう!」
「……」
クオンが。
少しだけ。
千乃の服を握る。
「……楽しみ」
「よし!」
千乃が。
嬉しそうに笑った。
「じゃあ、出発!」
「おー!」
ララが。
元気よく手を上げる。
「帰る!」
「……ララさん」
「ん?」
「元気だね」
「元気!」
ララが。
胸を張る。
「ララはいつでも元気!」
「……そうなんだ」
クオンの尻尾が。
少しだけ。
揺れた。
その横では。
「長旅になりますね」
アイシィが。
空を見上げる。
「ですが、無事に帰れそうで何よりです」
「そうだな」
ライも。
静かに頷く。
「クオンもいるしな」
「……ライさん」
クオンが。
少しだけ顔を上げる。
「何?」
「……よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ライが。
小さく笑う。
「困ったことがあれば言ってくれ」
「……うん」
そして。
「では」
カミルが。
ゆっくり前へ出る。
「帰国しましょう」
「うん!」
千乃が。
クオンを抱いたまま。
歩き始める。
その後ろから。
真銀。
ララ。
ライ。
アイシィ。
カミル。
そして。
カイルたちも続く。
しばらく歩いて。
クオンが。
「……お姉ちゃん」
「なーに?」
「柚乃さんもいる?」
「いるよ!」
「……」
クオンの耳が。
ぴんっ。
「会いたい」
「じゃあ、帰ったら紹介するね!」
「……うん」
千乃は。
嬉しそうに。
クオンを見る。
「柚乃は私の妹なんだよ」
「妹?」
「そう!」
「……じゃあ」
クオンが。
少し考える。
「僕にとっても……妹?」
「違う違う!」
千乃が笑う。
「柚乃はクオンから見たら……」
「……?」
「お姉ちゃんの妹!」
「……」
クオンが。
真剣に考える。
「……柚乃さん」
「うん、それでいい!」
そして。
そのまま。
一行は。
星霜王国へ向かって進んでいく。
国境を越え。
見慣れた景色が。
少しずつ。
増えていく。
「……!」
クオンが。
顔を上げる。
「これが……」
「うん?」
「お姉ちゃんの国?」
「そうだよ!」
千乃が。
笑う。
「星霜王国!」
「……」
クオンは。
その景色を。
じっと見つめる。
まだ。
自分の国ではない。
けれど。
帰る場所がないと思っていた自分に。
初めて。
新しい場所ができた。
「……お姉ちゃん」
「ん?」
「……帰ろう」
「うん!」
千乃が。
ぎゅっと。
クオンを抱き直す。
「一緒に帰ろう!」
そして。
一行は。
星氷神城へ。
帰っていった。




