ぐすっ、びょえっ、びょ、、、、、
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
布団の中。
ようやく。
静かになった。
……と思った。
「……びょ」
柚乃。
「まだ泣いてる?」
「……びょ」
「語尾に泣き声つけないで」
「……」
しばらくして。
布団が。
もぞ。
と動いた。
柚乃。
「……?」
カイル。
ゆっくり。
布団から。
顔だけを出した。
金髪。
ぼさぼさ。
目元。
少し赤い。
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「落ち着いた?」
カイル。
「……うん」
「たぶん」
柚乃。
「たぶん?」
カイル。
「今は」
「泣かない」
柚乃。
「今は?」
カイル。
「……」
柚乃。
「不安しかないんだけど」
カイル。
「大丈夫」
柚乃。
「本当に?」
カイル。
「……たぶんだびょ」
柚乃。
「だから!」
カイル。
「……」
その後。
また少し。
静かになった。
カイルは。
布団から。
完全に出てきた。
そして。
枕に頭を乗せる。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……なあ」
柚乃。
「なに?」
カイル。
「さっき」
「怖かった」
柚乃。
「うん」
カイル。
「本当に」
「勝てないかと思った」
柚乃。
「……うん」
カイル。
「……」
「でも」
「柚乃が」
「後ろにいたから」
柚乃。
「……」
カイル。
「逃げるって選択肢」
「なくなった」
柚乃。
「……」
カイル。
「……別に」
「格好つけたかったわけじゃない」
柚乃。
「うん」
カイル。
「勇者だからって」
「思ったわけでもない」
柚乃。
「うん」
カイル。
「ただ」
少しだけ。
視線を。
柚乃へ向ける。
「……柚乃を」
「置いていきたくなかった」
柚乃。
「……」
カイル。
「一人で」
「怖がらせたくなかった」
柚乃。
「……」
カイル。
「だから」
「体が」
「勝手に動いた」
柚乃。
「……」
しばらく。
沈黙。
カイル。
「……何か言って」
柚乃。
「何を?」
カイル。
「……」
柚乃。
「私も」
「同じだよ」
カイル。
「……?」
柚乃。
「カイルさんが」
「ボロボロになっていくの」
「すごく怖かった」
カイル。
「……」
柚乃。
「でも」
「逃げろって言われても」
「逃げられなかった」
カイル。
「……」
柚乃。
「だって」
「カイルさんを」
「一人にしたくなかったから」
カイル。
「……」
柚乃。
「……だから」
「お互い様」
カイル。
「……」
そして。
カイルは。
小さく笑った。
「……そっか」
柚乃。
「うん」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……柚乃」
柚乃。
「なに?」
カイル。
「俺」
「今」
「すごく幸せかもしれない」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「……私も」
カイル。
「!」
柚乃。
「カイルさんが」
「無事だったから」
「今」
「安心してる」
カイル。
「……」
数秒。
沈黙。
柚乃。
「……カイルさん?」
カイル。
「……」
柚乃。
「また泣く?」
カイル。
「……泣かない」
柚乃。
「本当に?」
カイル。
「……」
「……」
柚乃。
「……?」
カイル。
ゆっくり。
顔を。
背けた。
柚乃。
「……カイルさん?」
カイル。
「……ちょっと」
「危ない」
柚乃。
「何が?」
カイル。
「涙腺」
柚乃。
「そこは頑張って」
カイル。
「……頑張る」
そして。
数秒。
「……」
「……」
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……大丈夫」
柚乃。
「よかった」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……危なかった」
柚乃。
「何と戦ってるの?」
カイル。
「涙腺」
柚乃。
「まだ戦ってた」
その時。
コンコン。
扉が。
ノックされた。
千乃。
「柚乃ー?」
柚乃。
「なにー?」
千乃。
「もう落ち着いた?」
柚乃。
「たぶん!」
千乃。
「たぶん?」
柚乃。
「私じゃないから!」
カイル。
「俺のこと!?」
千乃。
「分かってる」
カイル。
「なら聞くなよ!」
千乃。
「じゃあ」
「入っていい?」
柚乃。
「いいよ」
扉が。
開く。
千乃。
真銀。
ララ。
ライ。
アイシィ。
カミル。
全員。
入ってきた。
ララ。
「主!」
「静かになった!」
千乃。
「よかったね」
カイル。
「何だその言い方」
ライ。
「赤子を寝かしつけた後みたいだな」
カイル。
「誰が赤子だ!」
ララ。
「カイル!」
カイル。
「何だ」
ララ。
「さっき」
「布団に潜って」
「びょええええええってしてた!」
カイル。
「思い出させるな!」
千乃。
「結構すごかったよ」
カイル。
「何で褒めてるみたいに言うんだ!」
真銀。
「俺は耳が痛い」
カイル。
「ごめん」
真銀。
「素直だな」
柚乃。
「反省してる?」
カイル。
「してる」
千乃。
「本当に?」
カイル。
「……してる」
ライ。
「怪しい」
カイル。
「何でだよ!」
アイシィ。
「でも」
「カイルさんが元気になったようで」
「よかったです」
カイル。
「アイシィ……」
少し。
嬉しそうな顔。
そして。
すぐ。
涙目。
千乃。
「危ない」
カイル。
「……!」
真銀。
「来るか?」
カイル。
「来ない!」
ララ。
「来る?」
カイル。
「来ない!」
ライ。
「来そうだな」
カイル。
「来ない!!」
全員。
カイルを見る。
カイル。
「……」
「……」
「……」
千乃。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
千乃。
「……」
カイル。
「……」
真銀。
「……」
カイル。
「……」
ララ。
「……」
カイル。
「……」
カイル。
「……お前ら」
「何で見てるんだよ」
千乃。
「いつ泣くかなって」
カイル。
「泣かないから!」
その瞬間。
柚乃が。
くすっと。
笑った。
カイル。
「……」
そして。
カイルも。
笑った。
泣かずに。
ちゃんと。
笑った。
千乃。
「おー」
真銀。
「泣かなかった」
ララ。
「奇跡!」
カイル。
「奇跡扱いするな!」
柚乃。
「……ふふ」
カイル。
「……」
その声を聞いて。
カイルは。
また。
少しだけ。
笑った。
そして。
ゆっくり。
ベッドに。
体を預ける。
「……疲れた」
千乃。
「でしょうね」
カイル。
「今日は」
「もう寝る」
柚乃。
「うん」
カイル。
「……柚乃」
柚乃。
「なに?」
カイル。
「……」
少し。
恥ずかしそうに。
「……ここにいて」
柚乃。
「……」
カイル。
「寝るまででいい」
柚乃。
「……」
そして。
柚乃は。
椅子を。
少し。
ベッドへ近づけた。
「うん」
「いるよ」
カイル。
「……」
安心したように。
目を閉じる。
千乃たちは。
その様子を見て。
そっと。
笑った。
ララ。
「主」
千乃。
「うん?」
ララ。
「今度こそ」
「静かに寝る?」
千乃。
「たぶん」
カイル。
「お前までたぶんって言うな!」
医務室に。
小さな笑い声が。
広がった。
それから。
しばらくして。
カイルの寝息が。
聞こえ始めた。
柚乃。
「……寝た」
千乃。
「今度は本当に?」
柚乃。
「うん」
カイル。
「すぅ……」
ララ。
「寝た!」
カイル。
「すぅ……」
ライ。
「本当に寝ているな」
真銀。
「ようやく静かになった」
アイシィ。
「今日は色々ありましたからね」
カミル。
「うむ」
千乃。
「……よかった」
柚乃。
「うん」
千乃は。
柚乃の隣へ。
そっと立った。
「カイル」
「頑張ったね」
眠っている本人には。
届かないほど。
小さな声。
でも。
カイルは。
少しだけ。
笑ったように見えた。
その夜。
医務室は。
ようやく。
静かになった。
泣き声も。
叫び声も。
聞こえない。
ただ。
大切な人たちが。
同じ部屋にいる。
それだけの。
穏やかな時間だった。
その夜。
星氷神城。
医務室。
カイルの寝息が。
静かに響いていた。
「すぅ……」
千乃。
「……寝たね」
真銀。
「ああ」
ララ。
「静か!」
ライ。
「ようやくだな」
アイシィ。
「安心しました……」
カミル。
「我もだ」
柚乃。
「……」
カイルの隣で。
少しだけ笑う。
その時だった。
「ちょっと待ってくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
全員。
「!?」
医務室の扉が。
バーン!!
と。
開いた。
「びょえええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっ!?」
カイル。
「起きた!?」
千乃が叫ぶ。
カイル。
ベッドの上で。
勢いよく。
飛び起きる。
「な、何だ!?」
柚乃。
「カイルさん!」
カイル。
「敵か!?」
真銀。
「いや」
千乃。
「……声で分かる」
ララ。
「ラブリー!」
カイル。
「誰だ!?」
そして。
医務室の入口。
そこに。
立っていた。
ピンク色の。
ツインテール。
ハート型のサングラス。
そして。
両手を。
大きく広げた女性。
ラブリー・スミス。
「ちょっと待ってください!!」
千乃。
「やっぱり」
真銀。
「……何をしに来た」
ラブリー。
「何をって!」
カイルと。
柚乃を。
交互に指差す。
「これを見逃せるわけがないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カイル。
「何だよ!?」
柚乃。
「……」
ラブリー。
ずん。
と。
一歩。
近づく。
「恋の香りがします!!」
カイル。
「何の鼻だよ!?」
ラブリー。
「恋愛ギルド長ですから!」
真銀。
「その職業」
「嗅覚強化があるのか?」
ラブリー。
「ありません!」
真銀。
「ないのか」
千乃。
「そもそも」
「なんでここにいるの?」
ラブリー。
「それは!」
ばっ。
マントを翻す。
「運命に導かれ!」
ララ。
「主」
千乃。
「うん」
ララ。
「追い出していい?」
ラブリー。
「待ってくださいよぉ!?」
カイル。
「だから」
「何しに来たんだよ」
ラブリー。
「決まっています!」
びしっ。
カイルと。
柚乃を。
指差した。
「二人の関係を!」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
ラブリー。
「徹底的に!」
「調査しに来ましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
千乃。
「帰れ」
ラブリー。
「早い!?」
真銀。
「帰れ」
ラブリー。
「追撃!?」
ララ。
「帰れ!」
ラブリー。
「三連撃!?」
ライ。
「帰れ」
ラブリー。
「四連撃!?」
アイシィ。
「お帰りください」
ラブリー。
「丁寧でもダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
カミル。
「帰るのだ」
ラブリー。
「神龍までぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
柚乃。
「……帰って」
ラブリー。
「本人まで!?」
カイル。
「帰れ」
ラブリー。
「お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
千乃。
「満場一致だね」
ラブリー。
「なぜ!?」
真銀。
「うるさい」
ラブリー。
「それだけ!?」
ララ。
「カイル」
「せっかく寝てた!」
ラブリー。
「……」
カイル。
「……そうだな」
ラブリー。
「味方しないで!?」
その時。
ラブリー。
ふと。
カイルの隣を見る。
そこには。
柚乃。
椅子に座っていた。
そして。
カイルの手。
まだ。
柚乃が。
握っていた。
ラブリー。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
カミル。
「……」
柚乃。
「……?」
カイル。
「……?」
ラブリー。
ゆっくり。
ハート型サングラスを。
持ち上げた。
「……」
そして。
「……ほほう?」
カイル。
「何だよ」
ラブリー。
「いや」
にやっ。
「なるほど」
柚乃。
「……?」
ラブリー。
「そういうことですか」
カイル。
「何が!?」
ラブリー。
「手」
カイル。
「……!」
柚乃。
「……!」
ラブリー。
「握ってますね?」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
ラブリー。
「握ってますねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
カイル。
「声でかい!」
ラブリー。
「恋愛ギルド長として!」
「見逃せません!」
千乃。
「さっきまで寝てたんだよ」
ラブリー。
「それが何ですか!」
千乃。
「起こした」
ラブリー。
「……」
カイル。
「……」
ラブリー。
「……すみません」
ララ。
「素直!」
ラブリー。
「で・す・が!」
カイルと。
柚乃を。
もう一度。
見る。
「これは!」
「極めて重要な案件です!」
カイル。
「だから何の案件だよ」
ラブリー。
「恋です!」
カイル。
「違う!」
柚乃。
「……」
ラブリー。
「今」
「一瞬」
「間がありましたね?」
柚乃。
「ありません」
ラブリー。
「ありました」
柚乃。
「ありません」
ラブリー。
「ありましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
柚乃。
「うるさい!」
カイル。
「俺も言った!」
ラブリー。
「カイルさん」
カイル。
「何?」
ラブリー。
「あなた」
指差す。
「柚乃さんのために」
「格上の魔物へ」
「ボロボロになりながら!」
「立ち向かったんですよね!?」
カイル。
「……」
ラブリー。
「そして!」
「柚乃さんは!」
「そんなあなたが心配で!」
「ずっと!」
「そばにいた!」
柚乃。
「……」
ラブリー。
「さらに!」
手。
「握っている!」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
ラブリー。
「これを!」
大きく。
両手を広げる。
「恋と呼ばずして何と呼ぶのですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
全員。
「長い!!」
ラブリー。
「失礼しました」
真銀。
「何でそこで素直なんだ」
ラブリー。
「でも!」
千乃。
「でもじゃない」
ラブリー。
「……」
千乃。
「……」
ラブリー。
「……」
千乃。
「帰る?」
ラブリー。
「……」
カイル。
「帰れ」
ラブリー。
「まだ何もしてません!」
カイル。
「もう十分しただろ!」
その時。
ラブリー。
じっと。
柚乃を見る。
「……」
柚乃。
「何?」
ラブリー。
「柚乃さん」
柚乃。
「はい」
ラブリー。
「一つだけ」
「質問しても?」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「……一つだけなら」
ラブリー。
にっこり。
「カイルさんが」
「さっき」
「目を覚まさなかったら」
「どうしていました?」
柚乃。
「……」
その瞬間。
部屋。
静かになる。
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
ラブリー。
「……」
柚乃。
少し。
視線を落とした。
「……」
そして。
「……」
「ずっと」
「そばにいたと思う」
カイル。
「……」
ラブリー。
「……」
柚乃。
「目を覚ますまで」
「ずっと」
カイル。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
ラブリー。
「……」
そして。
ゆっくり。
笑った。
「……なるほど」
柚乃。
「……」
ラブリー。
「質問は」
「以上です」
カイル。
「え?」
千乃。
「帰るの?」
ラブリー。
「帰ります」
全員。
「!?」
ラブリー。
「今日は」
「もう十分です」
真銀。
「……珍しいな」
ラブリー。
「ただし」
千乃。
「やっぱり何かある」
ラブリー。
カイルを。
びしっ。
指差す。
「カイルさん!」
カイル。
「何だよ」
ラブリー。
「次に会った時!」
「二人の進展を!」
「詳しく聞かせてもらいますからね!」
カイル。
「帰れ!!」
ラブリー。
「では失礼します!」
そして。
ラブリーは。
勢いよく。
医務室から。
飛び出していった。
扉。
バタン!!
……。
静寂。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
そして。
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
そして。
千乃。
「……寝る?」
カイル。
「寝られるか!!」
ララ。
「ラブリー」
「すごい!」
カイル。
「何が!?」
柚乃。
「……ふふ」
カイル。
「笑うなって!」
その夜。
ようやく。
静かになった。
……はずだった。
廊下の奥。
遠くから。
「恋は世界を救いまぁぁぁぁぁぁす!!」




