勇者Kyle 〜ちゃんとした勇者”カイル”だね、ありがとう〜
その日の午後。
星霜王国。
王都から少し離れた森。
柚乃は。
一人で。
小さな籠を持って歩いていた。
「この辺りだったかなぁ……」
城の料理人から頼まれた。
森にしか生えない薬草。
戦えない柚乃でも。
森の浅い場所なら。
危険はない。
……はずだった。
「……あった!」
柚乃が。
少し離れた場所にある薬草を見つけた。
駆け寄る。
しゃがむ。
そして。
薬草を摘もうとした。
その瞬間。
――ズシン。
「……え?」
地面が。
揺れた。
柚乃が。
ゆっくり。
後ろを振り返る。
「……」
そこには。
巨大な魔物がいた。
黒い毛皮。
太い四肢。
鋭い牙。
柚乃の何倍もの。
巨体。
「……え」
魔物。
「グルルルルルルルルルルル……」
柚乃。
「……」
籠を。
落とした。
「え?」
魔物が。
一歩。
近づく。
柚乃。
「え?」
さらに。
一歩。
「え?」
そして。
「ええええええええええええええええええええ!?」
全力で。
走った。
「こっち来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
しかし。
魔物。
速い。
柚乃。
「速い速い速い速い!!」
戦えない。
魔法も。
千乃ほど。
使えない。
柚乃は。
必死に。
森の中を走った。
「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その叫びが。
森に響いた。
そして。
次の瞬間。
「柚乃!!」
声。
柚乃。
「……え?」
金色の髪が。
視界を横切った。
柚乃の前に。
一人の男が。
飛び込む。
「……カイルさん?」
「下がれ!」
カイルが。
柚乃の前に立った。
剣を抜く。
いつもの。
ふざけた雰囲気。
騒がしい声。
自信満々な笑顔。
……そのどれも。
今は。
なかった。
ただ。
真剣な。
勇者の顔。
「逃げろ」
柚乃。
「でも!」
「いいから!」
カイル。
「俺が」
「止める」
魔物。
「グルァァァァァァァァァッ!!」
巨大な爪が。
カイルへ。
振り下ろされる。
カイル。
「っ!」
――ガキィィィィン!!
剣で。
受け止める。
しかし。
「ぐっ……!」
そのまま。
地面を。
大きく。
削りながら。
後方へ。
押し飛ばされた。
柚乃。
「カイルさん!」
カイル。
「大丈夫だ!」
……大丈夫ではない。
腕。
足。
服も。
すでに。
泥だらけ。
それでも。
立ち上がる。
カイル。
「……こいつ」
「強いな」
魔物。
再び。
襲いかかる。
カイル。
「でも」
「だからって」
剣を。
構える。
「退くわけには」
「いかないだろ!」
――ガァァァァン!!
カイルの剣と。
魔物の爪。
激突。
衝撃が。
森に響く。
柚乃。
「……!」
カイルは。
何度も。
吹き飛ばされた。
木に。
叩きつけられ。
地面を。
転がった。
それでも。
立ち上がる。
「……っ」
息が。
荒い。
それでも。
振り返る。
「柚乃!」
「まだいるか!?」
柚乃。
「いる!」
カイル。
「何で」
「まだいるんだ!」
柚乃。
「カイルさんが!」
「一人で!」
カイル。
「俺のことはいい!」
「逃げろ!」
柚乃。
「嫌!」
カイル。
「……!」
柚乃。
「嫌だよ!」
「カイルさん」
「一人にするなんて!」
カイル。
「……」
その瞬間。
魔物が。
大きく。
吠えた。
そして。
カイルへ。
突進。
「っ!」
――ドォン!!
カイルの身体が。
大きく。
吹き飛んだ。
「カイルさん!!」
柚乃が。
叫ぶ。
カイル。
地面に。
倒れる。
「……っ」
起き上がる。
だが。
足が。
震えている。
魔物が。
ゆっくり。
近づいてくる。
カイル。
「……」
剣を。
握る。
もう。
まともに。
立つことすら。
厳しい。
柚乃。
「もうやめて!」
カイル。
「……無理だ」
柚乃。
「どうして!?」
カイル。
「……俺が」
ゆっくり。
立ち上がる。
「ここで」
「退いたら」
「柚乃が」
「危ないだろ」
柚乃。
「……!」
カイル。
「だから」
「無理でも」
「やる」
魔物が。
カイルへ。
襲いかかる。
カイル。
剣を。
振る。
――ガキィィン!!
「ぐっ……!」
衝撃。
カイルの身体が。
再び。
吹き飛ぶ。
柚乃。
「カイルさん!」
カイル。
木に。
ぶつかり。
倒れ込んだ。
「……」
「……」
動かない。
柚乃。
「……カイルさん?」
魔物が。
カイルへ。
近づく。
柚乃。
「……っ」
走った。
「やめて!!」
カイルの前へ。
飛び込む。
魔物。
柚乃へ。
狙いを変える。
しかし。
「……逃げろ……」
柚乃。
「……!」
カイルの声。
「カイルさん!?」
カイル。
意識が。
ぼんやりしている。
それでも。
剣を。
握っていた。
「……逃げろ……」
「柚乃……」
柚乃。
「嫌だよ」
カイル。
「……」
柚乃。
「もう」
「置いていかない」
カイル。
「……逃げろ……」
柚乃。
「嫌!」
カイル。
「……」
柚乃は。
カイルの身体を。
必死に。
支えた。
そして。
近くの。
大きな木の陰へ。
引きずるように。
移動する。
「ごめん……」
「ごめんね……」
カイル。
返事は。
ない。
「カイルさん……?」
柚乃。
顔を。
覗き込む。
「……!」
カイルは。
意識を失っていた。
「……」
「……」
柚乃。
震える手で。
カイルの服を。
掴む。
「……」
「……」
そして。
ぎゅっと。
抱きしめた。
「……死なないで」
「……お願いだから」
魔物の。
足音。
近づいてくる。
柚乃。
カイルを。
抱きしめたまま。
木の陰で。
息を潜める。
「……誰か」
小さな声。
「……助けて」
その時。
空から。
声が。
響いた。
「――柚乃!!」
柚乃。
「……!」
聞き間違えるはずがない。
「……お姉ちゃん!?」
次の瞬間。
空から。
光。
そして。
メタルピンクの髪。
右目。
金色。
左目。
ピンク。
千乃が。
森へ。
降り立った。
「柚乃!」
「カイル!」
千乃の目が。
二人を捉える。
そして。
カイルの姿を見た。
千乃。
「……」
笑顔。
……なのに。
目が。
笑っていない。
「……あれ」
柚乃。
「お姉ちゃん?」
千乃。
魔物を見る。
「……」
魔物。
「グルルルル……」
千乃。
「……」
魔物。
一歩。
近づく。
千乃。
「……」
笑顔。
「……私の妹と」
「仲間を」
「ボロボロにしたの?」
柚乃。
「……!」
千乃。
「そっか」
「そっかぁ」
「ふふっ。その行為、後悔させてあげる!」
魔物。
咆哮。
千乃。
「うるさいよ?」
次の瞬間。
千乃の身体が。
ふわりと。
浮いた。
背中から。
無数の羽。
「……え」
柚乃。
「お姉ちゃん?」
千乃。
「柚乃」
柚乃。
「なに?」
千乃。
「ちょっと」
「目を閉じてて」
柚乃。
「え?」
千乃。
「すぐ終わるから」
次の瞬間。
千乃が。
指を。
魔物へ。
向ける。
そして。
空中に。
一筋の。
軌跡を描いた。
「――星羽」
ズバババババババババババババババババババッッッッッッッッッ!!
無数の羽が。
描かれた軌跡に沿って。
一斉に。
魔物へ。
突き刺さった。
巨大な魔物。
一瞬。
動きを止める。
そして。
――ドォォォォォン!!
倒れた。
森。
静寂。
千乃。
「終わったよ」
柚乃。
「……」
ゆっくり。
目を開ける。
「……」
千乃。
「大丈夫?」
柚乃。
「……うん」
しかし。
柚乃の腕。
そこには。
意識のない。
カイル。
千乃。
「……カイル」
すぐに。
駆け寄る。
癒光。
淡い光が。
カイルを。
包み込んだ。
千乃。
「……」
そして。
「……この馬鹿」
小さく。
呟く。
「自分より」
「強い相手だって」
「分かってたでしょ」
柚乃。
「……」
千乃。
「それでも」
「来たんだね」
柚乃。
カイルを。
ぎゅっと。
抱きしめる。
「……私を」
「守るために」
千乃。
「うん」
柚乃。
「……」
「……私」
千乃。
「うん」
柚乃。
「カイルさんのこと」
千乃。
「うん」
柚乃。
「……もっと」
「好きになった」
千乃。
「……」
そして。
少し。
笑う。
「そっか」
柚乃。
「……」
「だって」
「怖かったはずなのに」
千乃。
「うん」
柚乃。
「逃げなかった」
千乃。
「うん」
柚乃。
「私の前に」
「ずっと」
「立ってた」
千乃。
「うん」
柚乃。
「……」
千乃。
「本当に」
「勇者だったね」
柚乃。
「……うん」
その時。
「……ん……」
カイルの指が。
少し。
動いた。
柚乃。
「カイルさん!?」
千乃。
「まだ起きない方がいいよ」
カイル。
「……」
「……柚乃……」
柚乃。
「いるよ!」
カイル。
「……」
「……無事?」
柚乃。
「無事だよ!」
カイル。
「……」
小さく。
笑った。
「……よかった」
柚乃。
「……!」
カイル。
「……俺」
「ちゃんと」
「守れた?」
柚乃。
「……」
柚乃。
少し。
黙った。
そして。
「うん」
「守ってくれた」
カイル。
「……」
「……そっか」
そのまま。
再び。
眠った。
柚乃。
「……」
千乃。
「柚乃」
柚乃。
「うん」
千乃。
「その顔」
「もう」
「認め始めたとかいうレベルじゃないね」
柚乃。
「……」
千乃。
「好きなんでしょ?」
柚乃。
「……」
千乃。
「柚乃?」
柚乃。
カイルを見る。
ボロボロになって。
それでも。
自分を守った。
その勇者を。
しばらく。
見つめる。
そして。
「……」
「うん」
千乃。
「うん?」
柚乃。
「……好き」
千乃。
にこっと。
笑った。
「そっか」
森の中。
千乃の癒光が。
カイルを。
優しく。
包んでいた。
その日。
柚乃の中で。
おまけ勇者。
泣き虫勇者。
ぐずり勇者。
いろいろな。
二つ名で呼ばれてきた。
金髪の男は。
初めて。
ただの。
カイルになった。
そして。
柚乃にとって。
――1番。
大切な人になり始めていた。
その日の夜。
星霜王国。
星氷神城。
医務室。
ベッドの上。
カイルは。
静かに眠っていた。
……眠っている。
……はずだった。
「……」
柚乃。
椅子に座り。
カイルを。
じっと見ていた。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
カミル。
全員。
なぜか。
医務室にいる。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
柚乃。
「……何?」
千乃。
「いや」
柚乃。
「何」
真銀。
「いや」
柚乃。
「だから」
「何?」
ララ。
「主」
「さっきから」
「カイルのこと」
「ずっと見てる!」
柚乃。
「見てない」
ララ。
「見てる」
柚乃。
「見てない」
ララ。
「見てる」
柚乃。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
カミル。
「……」
柚乃。
「……見てる」
ララ。
「認めた!」
柚乃。
「うるさい!」
その瞬間。
「……ん……」
全員。
「!」
カイルの指が。
動いた。
柚乃。
椅子から。
勢いよく立ち上がる。
「カイルさん!?」
千乃。
「近い近い」
カイル。
「……」
ゆっくり。
目を開けた。
「……」
「……ここ」
千乃。
「城」
カイル。
「……そっか」
そして。
少し。
顔を動かす。
「……柚乃」
柚乃。
「いるよ」
カイル。
「……無事?」
柚乃。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
全員。
静かに。
カイルを見る。
柚乃。
「……」
カイル。
「?」
柚乃。
そして。
ふっと。
笑った。
「うん」
「無事」
カイル。
「……」
大きく。
息を吐く。
「……よかった」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
カイル。
「何だよ」
千乃。
「いや」
真銀。
「いや」
カイル。
「?」
ララ。
「おまけ勇者」
「本当に勇者になった」
カイル。
「そこは普通に褒めろ!!」
柚乃。
「……ふふ」
カイル。
「笑うなよ!」
柚乃。
「ごめん」
カイル。
「本当に?」
柚乃。
「うん」
カイル。
「……ならいい」
千乃。
「優しい」
カイル。
「何が?」
千乃。
「柚乃」
「さっきからずっと」
「カイルの心配してたよ」
柚乃。
「……!」
カイル。
「本当か?」
柚乃。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
柚乃。
「お姉ちゃん」
千乃。
「はい」
柚乃。
「余計なこと」
「言わないで」
千乃。
「でも事実」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
そして。
ゆっくり。
笑った。
「……嬉しい」
柚乃。
「……」
カイル。
「俺」
「ちゃんと」
「守れたんだな」
柚乃。
「うん」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……何?」
柚乃。
しばらく。
迷って。
そして。
言った。
「……ありがとう」
カイル。
「?」
柚乃。
「助けてくれて」
カイル。
「……」
柚乃。
「怖かったのに」
「カイルさん」
「私より前に」
「ずっと立ってた」
カイル。
「……」
柚乃。
「ボロボロになっても」
「逃げなかった」
カイル。
「……」
柚乃。
「だから」
「ありがとう」
カイル。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
カイル。
顔を。
逸らした。
「……」
柚乃。
「?」
カイル。
「……泣かない」
柚乃。
「え?」
カイル。
「俺」
「泣かない」
千乃。
「泣きそうなんだ」
カイル。
「違う!」
ララ。
「顔」
「赤い」
カイル。
「うるさい!」
柚乃。
「……ふふ」
カイル。
「だから笑うなって!」
けれど。
柚乃は。
ベッドの近くへ。
歩いた。
「……」
カイル。
「?」
そして。
カイルの手を。
そっと。
握った。
「……!」
カイル。
「……柚乃?」
柚乃。
「……」
「もう」
「一人で」
「無茶しないで」
カイル。
「……」
柚乃。
「私を守ってくれたのは」
「嬉しかった」
カイル。
「……」
柚乃。
「でも」
「カイルさんが」
「いなくなる方が」
「嫌」
カイル。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
カイル。
「……」
完全に。
固まった。
ララ。
「止まった!」
カイル。
「止まってない」
千乃。
「瞬きしてないよ」
カイル。
「……してる」
真銀。
「してない」
カイル。
「……」
そして。
「……」
柚乃。
「カイルさん?」
カイル。
「……今」
「すごく」
「嬉しい」
柚乃。
「うん」
カイル。
「だから」
「泣きそう」
柚乃。
「泣かない」
カイル。
「……はい」
千乃。
「素直」
カイル。
「柚乃に言われたら」
「聞く」
柚乃。
「……」
千乃。
「……おー」
真銀。
「分かりやすいな」
カイル。
「何が!?」
柚乃。
「……」
カイル。
柚乃の手を。
握り返した。
「……なあ」
柚乃。
「なに?」
カイル。
「俺」
「今日」
「怖かった」
柚乃。
「……」
カイル。
「相手」
「俺より」
「ずっと強かった」
柚乃。
「うん」
カイル。
「正直」
「勝てると思わなかった」
柚乃。
「……」
カイル。
「でも」
「柚乃がいたから」
「逃げるのは」
「無理だった」
柚乃。
「……」
カイル。
「だから」
「体が勝手に」
「動いた」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
「俺」
「勇者だから」
「守ったんじゃない」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
カイル。
柚乃を見る。
「柚乃だったから」
「守りたかった」
柚乃。
「……!」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
カミル。
「……」
アイシィ。
「……」
ライ。
「……」
医務室。
静か。
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
そして。
柚乃。
「……私も」
カイル。
「?」
柚乃。
「カイルさんだったから」
「怖かった」
カイル。
「……」
柚乃。
「……いなくなったら」
「嫌だって」
「思った」
カイル。
「……」
千乃。
真銀。
ララ。
ライ。
アイシィ。
カミル。
全員。
静かに。
立ち上がった。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
千乃。
「出る?」
真銀。
「ああ」
ララ。
「なんで?」
千乃。
「ララ」
「出よう」
ララ。
「?」
ライ。
「察しろ」
ララ。
「……」
ララ。
「主!」
千乃。
「うん」
ララ。
「分かった!」
カイル。
「何が!?」
ララ。
「二人きり!」
カイル。
「言うなぁぁぁぁぁ!!」
千乃。
「静かに」
ララ。
「……」
千乃。
真銀たちは。
医務室を出ていった。
扉が。
閉まる。
残ったのは。
カイルと。
柚乃。
「……」
「……」
少し。
沈黙。
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……みんな」
「出ていったな」
柚乃。
「うん」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……気まずい?」
柚乃。
「少し」
カイル。
「正直だな」
柚乃。
「うん」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
そして。
柚乃。
「……でも」
カイル。
「?」
柚乃。
「二人きりなの」
「嫌じゃない」
カイル。
「……!」
柚乃。
「また固まった」
カイル。
「……」
柚乃。
「泣かない」
カイル。
「……はい」
柚乃。
「ふふ」
カイル。
「……」
少しだけ。
笑った。
「……俺」
「本当に」
「変わってよかった」
柚乃。
「……」
カイル。
「昨日までの俺なら」
「たぶん」
「こんな風に」
「柚乃と」
「話せてなかった」
柚乃。
「……」
カイル。
「自分のことばっかり話して」
「格好つけて」
「泣いて」
「町の人に」
「おまけって呼ばれて」
柚乃。
「最後のは」
「今も」
「呼ばれてる」
カイル。
「やめろよ!」
柚乃。
「ふふ」
カイル。
「……」
柚乃。
「でも」
カイル。
「?」
柚乃。
「私は」
「おまけ勇者じゃなくて」
「カイルさんって」
「呼ぶ」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「カイルさん?」
カイル。
「……」
柚乃。
「また止まった」
カイル。
「……」
そして。
ゆっくり。
顔を覆う。
「……」
「……俺」
「もう無理かも」
柚乃。
「え!?」
カイル。
「嬉しすぎて」
柚乃。
「それは無理って言わないよ」
カイル。
「でも」
「本当に」
「嬉しい」
柚乃。
「うん」
カイル。
「……」
柚乃。
「だから」
「これからも」
「ちゃんと」
「生きて」
カイル。
「……」
柚乃。
「無茶しすぎないで」
カイル。
「……分かった」
柚乃。
「約束」
カイル。
「約束する」
そして。
柚乃は。
そっと。
首元のペンダントを。
握った。
「これ」
「ずっと大事にするね」
カイル。
「……」
柚乃。
「だから」
カイル。
「?」
柚乃。
「カイルさんも」
「大事にする」
カイル。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
そして。
「……俺」
「今日」
「泣かないの」
「無理かもしれない」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
柚乃。
「……少しだけなら」
「許す」
カイル。
「……!」
そして。
カイル。
「びょええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」
柚乃。
「結局泣いた!?」
その頃。
医務室の外。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
アイシィ。
「……」
ライ。
「……」
カミル。
「……」
そして。
ララ。
「やっぱり」
「泣いた!」
千乃。
「分かってたけど!」
真銀。
「泣かない魔法」
「もう一回かけるか?」
千乃。
「……カイルには」
「効かないんだった」
医務室の中。
「びょえええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」
柚乃。
「だから」
「声大きいよ!」
その夜。
星氷神城。
久しぶりに。
泣き声が。
響き渡った。
ただし。
今までとは。
少しだけ。
違う。
それは。
悔しくて。
悲しくて。
情けなくて。
泣いている声ではなかった。
嬉しくて。
安心して。
大切な人が。
自分のそばにいることが。
どうしようもなく。
嬉しくて。
泣いている声だった。
……。
とはいえ。
うるさいものは。
うるさかった。
千乃。
「ララ」
ララ。
「なに?」
千乃。
「耳栓ある?」
ララ。
「ある!」
真銀。
「持ってるのかよ」
医務室の中。
「びょええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」
柚乃。
「だから声大きいってば!?」
カイル。
「だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
柚乃。
「泣くなとは言わないけど!」
「せめて!」
「静かに!」
カイル。
「無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
柚乃。
「子供!?」
カイル。
「……」
「……びょえ」
柚乃。
「小さくしてもダメ」
カイル。
「……」
数秒。
静かになった。
柚乃。
「……?」
「カイルさん?」
カイル。
「……」
柚乃。
「……寝た?」
カイル。
「……」
すると。
ベッドの上で。
カイルが。
もぞ。
もぞもぞ。
柚乃。
「……?」
カイル。
ゆっくりと。
布団の端を持ち上げる。
そして。
もそ。
柚乃。
「?」
もそもそ。
柚乃。
「え?」
もそもそもそ。
「……」
カイルが。
布団の中へ。
潜っていく。
柚乃。
「ちょっと」
「何してるの?」
カイル。
「……」
もぞ。
柚乃。
「聞こえてる?」
カイル。
「……」
布団が。
小さく。
震えた。
柚乃。
「……?」
次の瞬間。
「びょえええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」
柚乃。
「全然声を殺してない!?」
布団。
ぼこぼこぼこぼこ。
カイル。
「嬉しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
柚乃。
「何で潜ったの!?」
カイル。
「恥ずかしいからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
柚乃。
「潜った意味ないよ!」
カイル。
「びょええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっ!!」
柚乃。
「むしろ響いてるよ!!」
その頃。
医務室の外。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
カミル。
「……」
千乃。
「……さっきより」
「うるさくなってない?」
真銀。
「ああ」
ララ。
「主!」
「布団の中に潜った!」
千乃。
「見なくても分かるよ!」
ライ。
「音がこもっていない」
アイシィ。
「むしろ響いていますね……」
カミル。
「我もそう思う」
医務室の中。
「びょええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」
柚乃。
「カイルさん!」
「息できてる!?」
カイル。
「できるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
柚乃。
「じゃあ出てきて!」
カイル。
「恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
柚乃。
「だから声量!」
その時。
布団の中から。
カイルの手が。
にゅっ。
と。
出てきた。
柚乃。
「……?」
カイル。
「……」
手。
ぱたぱた。
柚乃。
「何?」
カイル。
「……」
ぱたぱた。
柚乃。
「分からないよ」
カイル。
「……」
布団の中から。
小さく。
「……手」
柚乃。
「?」
カイル。
「……手……」
柚乃。
「……」
少しだけ。
考える。
そして。
「……これ?」
そっと。
カイルの手を。
握った。
その瞬間。
布団の中。
「びょえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」
柚乃。
「だから何で大きくなるの!?」
カイル。
「手ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
柚乃。
「手だよ!?」
カイル。
「柚乃がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
柚乃。
「うるさい!」
カイル。
「手を握ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」




