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イケメンKyle

 翌朝。


 星霜王国。


 王城。


 朝食の時間。


「……おはよう」


 千乃が。


 食堂へ入ってきた。


 真銀。


 ララ。


 ライ。


 アイシィ。


 カミル。


 柚乃。


 神様たち。


 そして。


 いつものように。


 カイルも。


 ……いるはずだった。


 千乃。


「……?」


 食堂を。


 見回す。


「カイルは?」


 ララ。


「まだ来てない!」


 千乃。


「珍しい」


 真銀。


「あいつが」


「朝食を遅刻するなんてな」


 アイシィ。


「昨日は遅くまで騒いでいましたから」


 千乃。


「それかな?」


 柚乃。


「泣き疲れて寝てるとか?」


 真銀。


「あり得る」


 ララ。


「びょええええええええってしてたもんね!」


「真似するな」


 千乃が。


 笑った。


 その時。


 食堂の扉が。


 開いた。


 全員。


 そちらを見る。


「……」


「……」


「……」


 カイルだった。


 ……なのだが。


 千乃。


「……誰?」


 カイル。


「俺だ」


 千乃。


「誰?」


 カイル。


「俺だって!!」


 真銀。


「カイル?」


 カイル。


「ああ」


 ララ。


「おまけ勇者?」


 カイル。


「その呼び方はやめろ!」


 しかし。


 全員。


 しばらく。


 カイルを。


 見つめた。


 いつもの。


 自信満々な。


 金髪勇者。


 ……ではない。


 髪。


 ちゃんと整っている。


 服。


 しわ一つない。


 姿勢。


 異様に良い。


 そして。


 何より。


 カイル。


「おはよう」


 真銀。


「……」


 千乃。


「……」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「何だよ」


 千乃。


「今」


「普通に」


「おはようって言った?」


 カイル。


「言った」


 ララ。


「びょえってしなかった!」


 カイル。


「朝からしないよ!?」


 アイシィ。


「声も」


「いつもより落ち着いていますね」


 カイル。


「俺だって落ち着いてる時くらいある!」


 ライ。


「いや」


「ほとんど見たことがない」


 カイル。


「お前まで!?」


 千乃。


「何かあった?」


 カイル。


「……」


 全員。


 注目。


 カイル。


 少し。


 黙る。


「……まあ」


「色々」


 千乃。


「?」


 カイル。


「昨日」


「柚乃が」


「一緒に城下町へ行ってくれるって」


「言っただろ」


 柚乃。


「うん」


 カイル。


「だから」


「考えた」


 千乃。


「何を?」


 カイル。


「……俺」


「柚乃と」


「出かけるのに」


 いつもの。


 調子で。


 泣いたり」


「叫んだり」


「自分をイケメンだって言い続けたりしたら」


 千乃。


「うん」


 カイル。


「絶対」


「嫌われる」


 柚乃。


「うん」


 カイル。


「即答!?」


 千乃。


「そこは否定しなよ!」


 柚乃。


「正直に言っただけ」


 カイル。


「ぐっ……」


 カイル。


 胸を押さえる。


 ……が。


 泣かない。


 全員。


「……」


 ララ。


「泣かない」


 カイル。


「泣かないぞ」


 ララ。


「すごい」


 カイル。


「その程度で褒めるな!」


 真銀。


「昨日までなら」


「今頃」


「びょええええええって」


「してた」


 カイル。


「……否定できない」


 千乃。


「で?」


 カイル。


「だから」


「今日くらいは」


「ちゃんとしようと思った」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「柚乃と」


「出かけるんだから」


「格好悪いところを」


「できるだけ」


「見せないように」


「しようって」


 食堂。


 一瞬。


 静かになる。


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 ララ。


「……」


 ライ。


「……」


 アイシィ。


「……」


 カミル。


「……」


 カイル。


「な、何だよ」


 千乃。


「いや」


 真銀。


「意外だった」


 カイル。


「だから何だよ!」


 真銀。


「自分のためじゃなくて」


「誰かのために」


「変わろうとしたんだな」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「……別に」


 千乃。


「照れてる?」


 カイル。


「照れてない」


 千乃。


「顔赤い」


 カイル。


「朝だからだ」


 真銀。


「意味分からない」


 カイル。


「……」


 柚乃。


 少し。


 笑った。


「似合ってるよ」


 カイル。


「……」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 ララ。


「……?」


 カイル。


「……」


 そして。


「……本当か?」


 柚乃。


「うん」


「昨日より」


「ずっと」


「いい感じ」


 カイル。


「……」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 ララ。


「主」


 千乃。


「ん?」


 ララ。


「おまけ勇者」


「固まった」


 カイル。


「聞こえてるぞ!?」


 ララ。


「固まった!」


 カイル。


「だから!」


 カイル。


 顔を。


 覆った。


「……」


「……だめだ」


 千乃。


「?」


 カイル。


「ちょっと」


「嬉しすぎる」


 真銀。


「泣くなよ」


 カイル。


「泣かない」


 ララ。


「本当?」


 カイル。


「本当だ」


 柚乃。


「……」


 カイル。


 深呼吸。


「よし」


 千乃。


「お?」


 カイル。


「じゃあ」


「朝飯食べたら」


「城下町へ行く」


 柚乃。


「うん」


 カイル。


「……楽しみにしてる」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 ララ。


「……」


 ライ。


「……」


 アイシィ。


「……」


 全員。


 固まった。


 千乃。


「今」


「なんて言った?」


 カイル。


「……」


 千乃。


「カイル?」


 カイル。


「楽しみにしてる」


 真銀。


「二回言った」


 ララ。


「キモ」


 カイル。


「おい!?」


 千乃。


「ララ!」


 ララ。


「主!」


 千乃。


「今のは言い過ぎ!」


 ララ。


「でも」


「びっくりした!」


 カイル。


「それは分かるけど!」


 カイル。


「俺が」


「普通にしてたら」


「そんなにおかしいか?」


 全員。


「おかしい」


 カイル。


「全員一致!?」


 カミル。


「我は」


「少し見直したぞ」


 カイル。


「カミル……!」


 カミル。


「ただし」


「三日もつとは思っておらぬ」


 カイル。


「お前もかぁぁぁぁぁ!?」


 千乃。


「朝から騒がない!」


 カイル。


「……すまん」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 ララ。


「……」


 千乃。


「本当に」


「別人みたい」


 カイル。


「失礼だな!?」


 柚乃。


「でも」


 カイル。


「?」


 柚乃。


「私は」


「今のカイルさん」


「いいと思うよ」


 カイル。


「……」


 千乃。


「また固まった」


 真銀。


「また泣くなよ」


 カイル。


「泣かない」


 ララ。


「びょえ?」


 カイル。


「泣かないって!」


 そして。


 カイルは。


 何度か。


 深呼吸した。


 顔を上げる。


 今度は。


 落ち着いた笑顔。


「……ありがとう」


 柚乃。


「どういたしまして」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 千乃。


 真銀を見る。


 真銀も。


 千乃を見る。


 二人。


 同時に。


 小さく。


 頷いた。


 ……これは。


 本当に。


 別人のようだ。


 その後。


 朝食。


 カイルは。


 騒がなかった。


 自分の皿から。


 料理を。


 こぼさなかった。


 誰かに。


「イケメンだろ?」


 とも。


 言わなかった。


 泣かなかった。


 千乃。


「……怖い」


 カイル。


「何でだよ!?」


 柚乃。


「褒めてるんじゃないかな」


 カイル。


「褒め方!!」


 そして。


 朝食を終える。


 カイル。


「じゃあ」


「行こうか」


 柚乃。


「うん」


 二人。


 並んで。


 食堂を出ていく。


 いつものカイルなら。


 数秒で。


 転んで。


 泣いて。


 叫んで。


 自分の髪を整え始めている頃。


 しかし。


 今日は。


 違う。


 真っ直ぐ。


 歩いていく。


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 ララ。


「……」


 ライ。


「……」


 アイシィ。


「……」


 そして。


 千乃。


「……もしかして」


「恋って」


「人を変えるんだね」


 真銀。


「……」


「カイルが変わるとは」


「思わなかった」


 ララ。


「おまけ勇者」


「すごい!」


 千乃。


「その呼び方は変えてあげて」


 ララ。


「恋愛勇者?」


 真銀。


「それはいいんじゃないか?」


 千乃。


「うん」


「いいかも」


 その頃。


 城下町へ向かう。


 カイル。


 柚乃。


 二人。


 並んで歩いていた。


 柚乃。


「ねえ」


 カイル。


「ん?」


 柚乃。


「今日は」


「どうして」


「そんなに静かなの?」


 カイル。


「……」


 少し。


 考える。


「昨日」


「柚乃に」


「嫌われたくないって」


「思ったから」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「だから」


「ちゃんと」


「しようと思った」


 柚乃。


「ふふ」


 カイル。


「何?」


 柚乃。


「なんか」


「かわいい」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「カイルさん?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「固まった?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「カイルさーん?」


 カイル。


「……」


 そして。


 カイル。


 ゆっくり。


 顔を。


 覆った。


「……」


 柚乃。


「え?」


 カイル。


「……今のは」


「泣いていい?」


 柚乃。


「だめ」


 カイル。


「即答!?」


 柚乃。


「今日は」


「泣かないんでしょ?」


 カイル。


「……」


 カイル。


 深呼吸。


「……泣かない」


 柚乃。


「よし」


 カイル。


「でも」


 柚乃。


「?」


 カイル。


「……嬉しい」


 柚乃。


「うん」


 二人は。


 そのまま。


 城下町へ。


 歩いていった。


 その背中を。


 たまたま。


 見ていた。


 城下町の子ども。


「ママー!」


 母親。


「なあに?」


 子ども。


「おまけ勇者様!」


「今日は泣いてないよ!」


 母親。


「しっ!」


「本人に聞こえるわよ!」


 カイル。


「聞こえてる!!」


 ……。


 その直後。


 カイル。


 泣きそうになった。


 柚乃。


「泣かない」


 カイル。


「……はい」


 そして。


 泣かなかった。


 それを見た。


 町の人。


「おお……」


「おまけ勇者が」


「耐えたぞ……!」


「成長した……!」


「今日の勇者様」


「別人じゃないか……!」


 カイル。


「聞こえてるぞ!!」


 しかし。


 その声にも。


 今日は。


 泣かなかった。


 カイル。


 人生初。


 泣かずに。


 城下町を。


 歩き切る。


 ――その日。


 星霜王国では。


 一つの。


 新しい伝説が。


 生まれた。


 泣かない勇者。


 なお。


 本人は。


 その二つ名を。


 めちゃくちゃ。


 気に入った。


 その日の午後。


 星霜王国。


 城下町。


 昨日。


 まるで別人のように。


 泣かず。


 叫ばず。


 自分で自分をイケメンだと主張することもなく。


 柚乃と城下町を歩き切った。


 あの。


 カイル。


 今日は。


 再び。


 柚乃と並んで歩いていた。


「……」


「……」


 柚乃。


「ねえ」


 カイル。


「ん?」


 柚乃。


「今日も」


「泣かないの?」


 カイル。


「……」


 少し。


 考える。


「努力する」


 柚乃。


「昨日と同じこと言ってる」


 カイル。


「でも昨日は成功した」


 柚乃。


「それはそう」


 カイル。


「だから」


「今日も成功する」


 柚乃。


「へえ」


 カイル。


「何だよ」


 柚乃。


「ちょっとだけ」


「見直した」


 カイル。


「……!」


 柚乃。


「どうしたの?」


 カイル。


「いや」


 柚乃。


「?」


 カイル。


「昨日から」


「ちょいちょい」


「俺の好感度が上がってないか?」


 柚乃。


「自意識過剰」


 カイル。


「下がった!!」


 柚乃。


「泣かない」


 カイル。


「……」


 深呼吸。


「泣かない」


 柚乃。


「よし」


 カイル。


「でも」


「今のはちょっと傷ついた」


 柚乃。


「正直でいいね」


 カイル。


「褒めてる?」


 柚乃。


「半分」


 カイル。


「半分かぁ……」


 そんな会話をしながら。


 二人は。


 城下町を歩いていた。


 すると。


 カイルが。


 ふと。


 一軒の店の前で。


 足を止めた。


 柚乃。


「?」


 カイル。


「ちょっと」


「待ってて」


 柚乃。


「え?」


 カイル。


 そのまま。


 店の中へ。


 入っていった。


 柚乃。


「……?」


 しばらく。


 待つ。


 一分。


 二分。


 三分。


 柚乃。


「……遅い」


 さらに。


 数分後。


 カイルが。


 店から出てきた。


「待たせた」


 柚乃。


「何してたの?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「?」


 カイル。


 なぜか。


 少し。


 緊張していた。


 いつもの。


 自信満々な顔ではない。


 何かを。


 隠すように。


 手を。


 後ろに回している。


 柚乃。


「どうしたの?」


 カイル。


「……いや」


「その」


 柚乃。


「うん」


 カイル。


「これ」


 そっと。


 小さな箱を。


 差し出した。


 柚乃。


「……?」


「何?」


 カイル。


「開けて」


 柚乃。


「?」


 箱を。


 受け取る。


 開ける。


 その中に。


 入っていたのは。


 小さな。


 ペンダント。


 派手すぎない。


 けれど。


 光を受けると。


 きらりと。


 綺麗に輝く。


 柚乃。


「……」


 カイル。


「昨日」


「一緒に出かけてくれただろ」


 柚乃。


「うん」


 カイル。


「だから」


「お礼」


 柚乃。


「……お礼?」


 カイル。


「ああ」


「一緒にいてくれて」


「ありがとうって」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「それに」


「俺」


「昨日」


「すごく楽しかったから」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「だから」


「何か」


「渡したかった」


 柚乃。


 ペンダントを。


 見つめる。


 カイル。


「……嫌だったか?」


 柚乃。


「違う」


 カイル。


「じゃあ」


 柚乃。


「……嬉しい」


 カイル。


「……!」


 柚乃。


「カイルさん」


「こういうことも」


「するんだね」


 カイル。


「……する」


 柚乃。


「知らなかった」


 カイル。


「昨日まで」


「俺を何だと思ってたんだ」


 柚乃。


「おまけ勇者」


 カイル。


「その呼び方をしたのはララだろ!?」


 柚乃。


「でも」


「泣き虫勇者」


 カイル。


「それも!」


 柚乃。


「ぐずり勇者」


 カイル。


「やめろぉぉぉ!」


 柚乃。


「……ふふ」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「何?」


 カイル。


「いや」


「笑った」


 柚乃。


「笑うよ」


 カイル。


「なんか」


「昨日までと違うな」


 柚乃。


「そう?」


 カイル。


「ああ」


「昨日までだったら」


「俺のことを馬鹿にして」


「もっと笑ってただろ」


 柚乃。


「今も少し笑ってる」


 カイル。


「そこは否定しろよ!」


 柚乃。


 けれど。


 ペンダントを。


 そっと。


 握った。


「でも」


 カイル。


「?」


 柚乃。


「ありがとう」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「私」


「こういうの」


「嫌いじゃない」


 カイル。


「……!」


 柚乃。


「ちゃんと」


「私のことを考えて」


「選んでくれたんでしょ?」


 カイル。


「……まあ」


 柚乃。


「だったら」


「嬉しいよ」


 カイル。


 数秒。


 動かなかった。


 柚乃。


「カイルさん?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「固まってる?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「泣く?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「泣かないでね」


 カイル。


「泣かない!」


 柚乃。


「即答」


 カイル。


「でも」


「ちょっと危なかった」


 柚乃。


「……」


 カイル。


 ゆっくり。


 顔を上げる。


「……なあ」


 柚乃。


「なに?」


 カイル。


「つけてくれる?」


 柚乃。


「うん」


 カイル。


「本当に?」


 柚乃。


「うん」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「だから固まらないで」


 カイル。


「無理」


 柚乃。


「なんで?」


 カイル。


「嬉しいから」


 柚乃。


「……」


 少し。


 柚乃の頬が。


 緩む。


「じゃあ」


「つける」


 カイル。


「……!」


 柚乃。


 ペンダントを。


 首に。


 つける。


 そして。


「どう?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「カイルさん?」


 カイル。


「……似合ってる」


 柚乃。


「ありがとう」


 カイル。


「……すごく」


 柚乃。


「?」


 カイル。


「似合ってる」


 柚乃。


「二回言った」


 カイル。


「一回じゃ足りなかった」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「また固まった」


 カイル。


「柚乃」


 柚乃。


「なに?」


 カイル。


「……」


「俺」


「昨日」


「本気で」


「変わろうと思ってよかった」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「だって」


「変わらなかったら」


「今」


「こんな風に」


「柚乃が笑ってくれること」


「なかったかもしれない」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「俺」


「今まで」


「自分のことばっかりだった」


 柚乃。


「うん」


 カイル。


「そこは否定しないのか」


 柚乃。


「だって」


「本当だもん」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「でも」


 カイル。


「?」


 柚乃。


「今のカイルさんは」


「前より」


「ずっといい」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「ちゃんと」


「人の話を聞くし」


「自分が悪いと思ったら」


「反省するし」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「泣かないように」


「努力もしてる」


 カイル。


「そこは」


「そんなに重要か?」


 柚乃。


「重要」


 カイル。


「即答!?」


 柚乃。


「それに」


 カイル。


「?」


 柚乃。


「私」


「昨日より」


「カイルさんのこと」


「好きになったかも」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「……え?」


 柚乃。


「今のは」


「忘れて」


 カイル。


「忘れられるか!!」


 柚乃。


「大声出さないで!」


 カイル。


「ご、ごめん!」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「……」


 そして。


 カイル。


 静かに。


 拳を握った。


「よし」


 柚乃。


「?」


 カイル。


「俺」


「もっと頑張る」


 柚乃。


「何を?」


 カイル。


「柚乃に」


「もっと好きになってもらえるように」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「もちろん」


「無理やりじゃない」


 柚乃。


「?」


 カイル。


「柚乃が」


「俺のことを」


「好きになってくれなくても」


「俺は」


「ちゃんと柚乃の気持ちを尊重する」


 柚乃。


「……」


 カイル。


「でも」


「もし」


「俺にも可能性があるなら」


「その可能性のために」


「頑張りたい」


 柚乃。


 しばらく。


 カイルを。


 見つめていた。


 そして。


 ペンダントを。


 そっと。


 握る。


「……」


「うん」


 カイル。


「?」


 柚乃。


「認める」


 カイル。


「……え?」


 柚乃。


「カイルさん」


「私が思ってたより」


「ずっと」


「いい人だった」


 カイル。


「……!」


 柚乃。


「まだ」


「好きって意味じゃないからね?」


 カイル。


「分かってる」


 柚乃。


「でも」


「これから」


「もっと知りたいとは思う」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「だから」


「また」


「一緒に出かけてもいいよ」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「カイルさん?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「また固まった」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「泣かない」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「カイル?」


 カイル。


 ゆっくり。


 顔を覆う。


「……」


「……」


「ちょっとだけ」


 柚乃。


「だめ」


 カイル。


「まだ何も言ってない!」


 柚乃。


「泣きそうなんでしょ?」


 カイル。


「……」


 柚乃。


「当たり?」


 カイル。


「……当たり」


 柚乃。


「だめ」


 カイル。


「びょ……」


 柚乃。


「だめ」


 カイル。


「……」


 カイル。


 深呼吸。


 そして。


「……耐えた」


 柚乃。


「偉い」


 カイル。


「……!」


 柚乃。


「その一言で」


「危ない!」


 カイル。


「だから泣かない」


 カイル。


「……はい」


 その日。


 城下町。


 二人は。


 昨日よりも。


 少しだけ。


 近い距離で。


 歩いていた。


 柚乃の首元では。


 カイルが選んだペンダントが。


 小さく。


 夕陽を反射していた。


 そして。


 少し離れた場所。


 物陰。


「……」


「……」


 千乃。


「見てる?」


 真銀。


「見てるな」


 千乃。


「柚乃」


「ちょっと認め始めてるね」


 真銀。


「ああ」


 千乃。


「カイル」


「頑張ってるね」


 真銀。


「……まさか」


「おまけ勇者が」


「ここまで成長するとは」


 千乃。


「だから」


「その呼び方」


 真銀。


「すまん」


 その瞬間。


 カイル。


「……くしゅん!」


 柚乃。


「大丈夫?」


 カイル。


「……なんか」


「今」


「おまけ勇者って」


「言われた気がする」


 柚乃。


「気のせいじゃない?」


 カイル。


「……そうか?」


 その後ろ。


 千乃。


「くしゅん!」


 真銀。


「風邪か?」


 千乃。


「違う」


「誰かに噂されてる」


 真銀。


「誰が」


 千乃。


「……カイル?」


 真銀。


「なんでだよ」


 その日。


 おまけ勇者。


 ……改め。


 少しずつ。


 ちゃんとした勇者になり始めたカイル。


 そして。


 柚乃もまた。


 少しずつ。


 彼を見る目を。


 変え始めていた。


 ペンダントは。


 夕陽の中で。


 小さく。


 きらりと。


 光っていた。

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