真銀はなぜこちらの世界に?
夜。
星霜王国。
王城の庭。
昼間とは違う。
静かな庭。
月明かりが。
芝生を。
淡く照らしていた。
中央にある。
大きな噴水。
さらさら。
さらさら。
水の音だけが。
夜の庭に。
響いている。
そのそば。
千乃と真銀。
二人。
並んで。
座っていた。
昼間の騒がしさが嘘のようだった。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
しばらく。
二人とも。
何も話さない。
ただ。
噴水を。
眺めていた。
千乃。
「ねえ」
真銀。
「ん?」
千乃。
「どうして」
「真銀は」
「こっちの世界に来たの?」
真銀。
「……」
千乃。
「私は」
「死んだから」
「来たけど……」
千乃。
少し。
言葉を。
止める。
「真銀は……?」
真銀。
「……」
水の音。
さらさら。
さらさら。
真銀。
「……俺も」
千乃。
「?」
真銀。
「死んでた」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
千乃。
「え?」
真銀。
「だから」
「俺も」
「死んだから」
「こっちに来た」
千乃。
「……」
「……え?」
真銀。
「驚くよな」
千乃。
「えっ」
「えっ!?」
「待って待って!」
真銀。
「落ち着け」
千乃。
「落ち着けないよ!?」
「なんで!?」
「どうして!?」
「えっ!?」
真銀。
「……」
千乃。
「私」
「知らなかった」
真銀。
「言ってなかったからな」
千乃。
「なんで!?」
真銀。
「聞かれなかった」
千乃。
「聞く機会なかったけど!?」
真銀。
「そうだな」
千乃。
「……」
「……それで」
「どうして?」
真銀。
「……」
真銀。
噴水を。
見たまま。
ゆっくり。
話し始めた。
「千乃が」
「死んだあと」
千乃。
「……」
真銀。
「俺は」
「しばらく」
「何もできなかった」
千乃。
「……」
真銀。
「目の前で」
「千乃が」
「俺を庇ったから」
千乃。
「……」
真銀。
「俺のせいだって」
「思った」
千乃。
「違うよ」
真銀。
「分かってる」
「でも」
「そう思ってしまった」
千乃。
「……」
真銀。
「もっと」
「俺が」
「早く気づいていたら」
「千乃が」
「俺を庇わなければ」
「俺が」
「ちゃんとしていれば」
千乃。
「真銀」
真銀。
「ずっと」
「そんなことばかり」
「考えてた」
千乃。
「……」
真銀。
「それで」
「前と同じように」
「普通に生活しようとした」
千乃。
「うん」
真銀。
「学校にも」
「行った」
「家にも帰った」
「ご飯も食べた」
千乃。
「……」
真銀。
「でも」
「何をしても」
「千乃がいない」
千乃。
「……」
真銀。
「当たり前だった」
「もう」
「いないんだから」
千乃。
「……」
真銀。
「分かってるのに」
「何度も」
「振り返った」
「……千乃が」
「いる気がして」
千乃。
「真銀……」
真銀。
「それで」
「ある日」
「一人で」
「あの場所に行った」
千乃。
「……」
真銀。
「千乃が」
「俺を庇った場所」
千乃。
「……」
真銀。
「そこに」
「立って」
「ずっと」
「考えてた」
千乃。
「……」
真銀。
「どうして」
「俺じゃなかったんだって」
千乃。
「……」
真銀。
「俺の代わりに」
「千乃が」
「死ぬ必要なんて」
「なかったのにって」
千乃。
「真銀」
真銀。
「そのあと」
「帰ろうとした」
千乃。
「……」
真銀。
「でも」
そこで。
真銀。
少し。
笑った。
「……俺」
「馬鹿だったんだよ」
千乃。
「?」
真銀。
「何も」
「周りが」
「見えてなかった」
千乃。
「……」
真銀。
「信号も」
「車も」
「何も」
千乃。
「……!」
真銀。
「気づいたときには」
「遅かった」
千乃。
「……」
真銀。
「だから」
「俺も」
「事故で」
「死んだ」
千乃。
「……」
噴水。
さらさら。
さらさら。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
千乃。
「馬鹿」
真銀。
「……」
千乃。
「真銀」
「馬鹿」
真銀。
「うん」
千乃。
「なんで」
「ちゃんと」
「前を見なかったの」
真銀。
「……」
千乃。
「なんで」
「自分を」
「大切にしなかったの」
真銀。
「……」
千乃。
「私」
「真銀を守りたくて」
「庇ったんだよ」
真銀。
「分かってる」
千乃。
「なのに」
「真銀まで」
「死んだら」
「意味ないじゃん」
真銀。
「……」
千乃。
少し。
俯いた。
「私」
「真銀が」
「生きてるって」
「思ってた」
真銀。
「俺も」
「千乃だけ」
「先に」
「こっちに来たんだって」
「思ってた」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
千乃。
「ねえ」
真銀。
「ん?」
千乃。
「怖かった?」
真銀。
「……」
千乃。
「死ぬとき」
真銀。
「怖かった」
千乃。
「……」
真銀。
「すごく」
千乃。
「……」
真銀。
「でも」
「千乃が」
「もういない世界で」
「一人になる方が」
「怖かった」
千乃。
「……」
真銀。
「だから」
「もし」
「また」
「会えるなら」
千乃。
「……」
真銀。
「会いたいって」
「思ってた」
千乃。
「……」
真銀。
「そしたら」
「本当に」
「会えた」
千乃。
「……」
真銀。
「異世界で」
千乃。
「うん」
真銀。
「最初」
「見つけたとき」
「夢かと思った」
千乃。
「私も」
真銀。
「千乃が」
「生きてた」
千乃。
「真銀も」
真銀。
「……ああ」
千乃。
少し。
笑う。
「なんか」
「変だね」
真銀。
「何が?」
千乃。
「二人とも」
「死んだのに」
「今」
「こうして」
「生きてるみたいに」
「話してる」
真銀。
「……そうだな」
千乃。
「しかも」
「結婚してるし」
真銀。
「本当にな」
千乃。
「前の世界の私が聞いたら」
「びっくりするかも」
真銀。
「俺も」
千乃。
「……」
千乃。
少し。
真銀へ。
近づいた。
「ねえ」
真銀。
「ん?」
千乃。
「もう」
「自分を責めないで」
真銀。
「……」
千乃。
「私が」
「勝手に庇ったんじゃない」
真銀。
「……」
千乃。
「庇いたかったから」
「庇ったの」
真銀。
「……」
千乃。
「真銀が」
「大切だったから」
真銀。
「……」
千乃。
「だから」
「私が死んだこと」
「ずっと」
「自分のせいにしないで」
真銀。
「……」
千乃。
「私」
「真銀が」
「生きててくれて」
「よかったって」
「ずっと思ってたから」
真銀。
「……」
千乃。
「真銀が」
「死んでたなんて」
「知らなかったけど」
真銀。
「……」
千乃。
「でも」
「今」
「会えたから」
真銀。
「……」
千乃。
「それで」
「いい」
真銀。
「……」
真銀。
小さく。
笑った。
「千乃」
千乃。
「なに?」
真銀。
「俺も」
「もう」
「自分を責めるの」
「やめる」
千乃。
「本当に?」
真銀。
「努力する」
千乃。
「また努力するって言った」
真銀。
「……」
千乃。
「でも」
「今度は」
「信じる」
真銀。
「何を?」
千乃。
「千乃が」
「俺を守ってくれた理由」
千乃。
「……」
真銀。
「大切だったから」
千乃。
「うん」
真銀。
「なら」
「俺も」
「千乃を大切にする」
千乃。
「……」
真銀。
「今度こそ」
「自分も」
「ちゃんと」
「大切にしながら」
千乃。
「……」
千乃。
にこっ。
「それなら」
「いいよ」
真銀。
「うん」
噴水。
さらさら。
さらさら。
夜の庭。
二人だけ。
静かに。
座っていた。
前の世界では。
失ってしまった。
二人。
もう。
二度と。
会えないと。
思っていた。
けれど。
違う世界で。
もう一度。
出会った。
千乃。
「ねえ」
真銀。
「ん?」
千乃。
「次は」
「置いていかないでね」
真銀。
「……」
千乃。
「どうしたの?」
真銀。
「カイルのこと?」
千乃。
「違うよ!?」
真銀。
「違うのか」
千乃。
「真銀のこと」
真銀。
「……」
千乃。
「一人で」
「どっか行っちゃ」
「駄目だよ」
真銀。
「分かった」
千乃。
「約束」
真銀。
「ああ」
千乃。
「絶対?」
真銀。
「絶対」
千乃。
「よし」
真銀。
「……」
千乃。
「……」
そして。
二人は。
しばらく。
噴水を。
眺めていた。
水の音。
夜風。
月明かり。
前の世界では。
叶わなかった。
これからの時間。
けれど。
この世界なら。
二人で。
歩いていける。
千乃。
「ただいま」
真銀。
「……」
千乃。
「この世界に」
真銀。
「……ああ」
「おかえり」
夜の庭。
噴水のそば。
二人の時間は。
静かに。
続いていた。
真銀は、噴水を見つめたまま。
しばらく、何も言わなかった。
夜風が吹く。
水面が、月明かりを揺らす。
千乃の隣にいる今の自分と。
あの日の自分が。
不思議なくらい遠く感じた。
けれど。
目を閉じれば。
今でも。
鮮明に思い出せる。
暖かい日だった。
夕焼けが、綺麗だった。
何でもない。
ただの。
学校帰りだった。
学校帰りの夕暮れは、不思議と世界の輪郭を淡く溶かして見せる。
橙色に染まる歩道。
長く伸びた制服の影。
電線の向こうから聞こえる鳥の鳴き声。
そんな何気ない景色の中。
夜坂真銀は。
少し前を歩いていた。
そして。
その後ろにいる気配を。
いつものように。
感じていた。
千羽千乃。
同じ学校。
同じ帰り道。
気づけば。
いつも。
少しだけ後ろを歩いている少女。
真銀は。
何度も。
振り返ろうと思った。
話しかけようとも。
思った。
けれど。
なぜか。
できなかった。
ほんの少し。
振り返ればいいだけなのに。
たった一言。
話しかければいいだけなのに。
その距離が。
妙に。
遠かった。
千乃が。
少し後ろで。
何かを言った。
「真銀、今日は……」
真銀。
「ん?」
振り返ろうとした。
その瞬間。
――キィィィィィッ!!
甲高い音。
タイヤの。
悲鳴。
真銀。
「……?」
振り返る。
そこには。
制御を失った。
トラック。
猛スピードで。
こちらへ。
向かっていた。
真銀。
「……っ」
身体。
動かない。
足。
動かない。
理解が。
追いつかない。
ただ。
近づいてくる。
大きな車体。
聞こえる。
誰かの叫び声。
「危ないッ!!」
そして。
「真銀ッ!!」
千乃。
真銀。
「……え?」
次の瞬間。
背中に。
強い衝撃。
千乃の両手。
真銀の身体を。
全力で。
押した。
真銀。
「――っ!」
身体。
横へ。
投げ出される。
地面へ。
倒れる。
その瞬間。
見えた。
千乃。
こちらを。
見ていた。
そして。
――轟音。
真銀。
「……」
世界が。
止まった。
音が。
消えた。
何も。
聞こえない。
ただ。
目の前。
千乃が。
倒れていた。
真銀。
「……」
理解。
できなかった。
「……千乃?」
返事。
ない。
真銀。
「……千乃?」
身体。
動かない。
千乃。
動かない。
「……千乃」
真銀。
立ち上がる。
足が。
震えていた。
近づく。
「千乃」
返事。
ない。
「……千乃」
声。
震える。
「千乃ッ!!」
駆け寄る。
周囲。
騒がしくなっていた。
誰かが。
救急車を呼んでいる。
誰かが。
警察へ。
電話している。
何人もの声。
けれど。
真銀には。
聞こえなかった。
真銀。
「千乃!」
千乃。
ゆっくり。
目を開く。
真銀。
「……!」
「千乃!」
千乃。
真銀を。
見た。
真銀。
「大丈夫だ」
「大丈夫だから」
「すぐ」
「救急車が来る」
「絶対」
「助かるから」
千乃。
「……」
真銀。
「だから」
「目」
「閉じるな」
千乃。
「……」
千乃。
小さく。
笑った。
その笑顔を。
真銀は。
一生。
忘れられない。
千乃。
「……ありがとう」
真銀。
「……?」
千乃。
「……だいすき」
真銀。
「……」
時間が。
止まった。
真銀。
「千乃」
千乃。
ゆっくり。
目を閉じる。
真銀。
「千乃?」
「……」
「千乃?」
千乃。
返事をしない。
真銀。
「千乃ッ!」
救急車の音。
近づいてくる。
けれど。
遅い。
もっと。
早く。
来てくれ。
お願いだから。
「千乃ッ!!」
真銀。
必死に。
名前を呼んだ。
「千乃」
「千乃」
「千乃ッ!」
「俺も――」
言わなければ。
ならなかった。
あの日。
ずっと。
言えなかった。
言葉。
「俺も」
「千乃のことが――」
救急車。
到着。
千乃は。
すぐに。
運ばれていった。
真銀。
後ろから。
追いかける。
「千乃ッ!」
けれど。
救急隊員の表情を。
真銀は。
見てしまった。
あの時。
まだ。
何も知らなかった。
知らなかった。
……いや。
本当は。
分かっていたのかもしれない。
千乃は。
運ばれていった。
けれど。
運ばれる前から。
もう。
手遅れだった。
真銀。
「……」
認めたくなかった。
病院へ。
向かう。
ただ。
祈る。
助かってくれ。
頼む。
お願いだから。
目を覚ましてくれ。
それだけ。
何度も。
何度も。
繰り返した。
そして。
真銀。
あの日、目の前で。
千乃を。
失った。
あの日。
夕焼けは。
とても。
綺麗だった。
暖かい日だった。
鳥が鳴いていた。
歩道は。
いつもの。
帰り道だった。
なのに。
千乃だけが。
いなくなった。
それから。
真銀の世界は。
色を。
失った。
学校へ行く。
授業を受ける。
帰る。
ご飯を食べる。
眠る。
また。
朝が来る。
同じことを。
繰り返す。
けれど。
千乃が。
いない。
それだけで。
何もかもが。
違っていた。
帰り道。
いつも。
後ろを。
見てしまう。
そこに。
千乃が。
いる気がするから。
けれど。
いない。
何度。
振り返っても。
いない。
話しかければ。
よかった。
もっと。
早く。
振り返れば。
よかった。
「……」
真銀。
ずっと。
自分を。
責めていた。
そして。
ある日。
真銀は。
あの場所へ。
向かった。
千乃が。
自分を。
庇った場所。
夕方。
あの日と。
よく似た。
夕焼け。
真銀。
立ち止まる。
「……」
道路を見る。
何も。
変わっていない。
車が走る。
人が歩く。
世界は。
普通に。
続いている。
なのに。
千乃だけが。
いない。
「……千乃」
その時。
後ろから。
誰かが。
名前を呼んだ。
真銀。
「……?」
振り返る。
誰も。
いなかった。
……千乃の声だった。
そんな。
気がした。
真銀。
「……」
笑った。
自分が。
おかしくなったのか。
そう思った。
そして。
また。
歩き出す。
けれど。
頭の中。
千乃の。
最後の言葉。
『……ありがとう、だいすき』
何度も。
何度も。
繰り返される。
真銀。
「……」
「俺も」
口から。
勝手に。
言葉が。
漏れた。
「俺も」
「好きだった」
誰も。
聞いていない。
今さら。
遅い。
それでも。
言わずには。
いられなかった。
「好きだったんだよ」
千乃。
聞こえない。
もう。
聞こえない。
真銀。
前を。
見なかった。
……いや。
見られなかった。
視界が。
ぼやけていた。
あの日。
千乃が。
自分を。
突き飛ばした。
その瞬間。
自分だけが。
助かった。
なのに。
その自分は。
生きていて。
千乃は。
いない。
そんなこと。
受け入れられなかった。
だから。
周りが。
見えていなかった。
近づく。
車の音。
誰かの。
叫び声。
聞こえていた。
それでも。
頭が。
動かなかった。
気づいた時。
目の前に。
車。
真銀。
「……あ」
ほんの一瞬。
思った。
――千乃。
次に。
目を開けた時。
もし。
また。
会えるなら。
今度こそ。
ちゃんと。
言おう。
ずっと。
言えなかった。
あの言葉を。
「俺も」
「大好きだ」
そして。
真銀は。
目を閉じた。
――神様と白い世界であったあと、次に目を開けた時。
そこは。
知らない世界だった。
青い空。
見たことのない景色。
そして。
魔法。
異世界。
最初は。
何が起きたのか。
分からなかった。
ただ。
しばらくして。
信じられないことが。
起きた。
冒険者ギルドの扉を開けたとき。
「……」
真銀。
目の前。
そこに。
千乃が。
いた。
生きていた。
笑っていた。
真銀。
「……千乃?」
千乃。
「……真銀?」
二人。
しばらく。
動けなかった。
夢だと。
思った。
幻だと。
思った。
けれど。
千乃は。
そこにいた。
真銀。
「……」
あの日。
言えなかった言葉。
ようやく。
言えた。
それから。
二人は。
もう一度。
出会った。
噴水。
さらさら。
さらさら。
真銀。
ゆっくり。
目を開ける。
目の前。
千乃。
今。
ちゃんと。
生きている。
笑っている。
話している。
真銀。
「……だから」
千乃。
「?」
真銀。
「俺は」
「こっちに来た」
千乃。
「……」
真銀。
「千乃が」
「俺を助けた」
千乃。
「……」
真銀。
「でも」
「俺は」
「千乃がいないことを」
「受け止められなかった」
千乃。
「真銀」
真銀。
「だから」
「俺も」
「死んだ」
千乃。
「……」
真銀。
「馬鹿だよな」
千乃。
「うん」
真銀。
「即答」
千乃。
「だって」
「本当に馬鹿だもん」
真銀。
「……」
千乃。
「でも」
真銀。
「?」
千乃。
「今」
「会えてるから」
真銀。
「……」
千乃。
「もう」
「怒らない」
真銀。
「怒ってたのか?」
千乃。
「ちょっと」
真銀。
「……」
千乃。
「かなり」
真銀。
「かなりか」
千乃。
「かなり」
真銀。
「……」
千乃。
少し。
笑った。
そして。
真銀の肩に。
そっと。
頭を。
預ける。
千乃。
「ねえ」
真銀。
「ん?」
千乃。
「今度」
「死ぬとか」
「絶対なしね」
真銀。
「……」
千乃。
「前の世界の話は」
「もう」
「変えられないけど」
真銀。
「……ああ」
千乃。
「この世界では」
「ちゃんと」
「生きよう」
真銀。
「うん」
千乃。
「二人で」
真銀。
「ああ」
千乃。
「あと」
真銀。
「何だ?」
千乃。
「次」
「置いていかれたら」
「怒るから」
真銀。
「……カイルか?」
千乃。
「違う!」
真銀。
「本当に?」
千乃。
「本当に」
真銀。
少し。
笑う。
「分かった」
千乃。
「約束」
真銀。
「ああ」
月明かり。
噴水。
静かな夜。
あの日。
言えなかった言葉は。
もう。
遅すぎる言葉ではなかった。
千乃。
「真銀」
真銀。
「ん?」
千乃。
「大好き」
真銀。
今度は。
迷わなかった。
「俺も」
「大好きだ」
水の音が。
二人の間を。
静かに。
流れていた。




