↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
168/198

真銀はなぜこちらの世界に?

 夜。


 星霜王国。


 王城の庭。


 昼間とは違う。


 静かな庭。


 月明かりが。


 芝生を。


 淡く照らしていた。


 中央にある。


 大きな噴水。


 さらさら。


 さらさら。


 水の音だけが。


 夜の庭に。


 響いている。


 そのそば。


 千乃と真銀。


 二人。


 並んで。


 座っていた。


 昼間の騒がしさが嘘のようだった。


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 しばらく。


 二人とも。


 何も話さない。


 ただ。


 噴水を。


 眺めていた。


 千乃。


「ねえ」


 真銀。


「ん?」


 千乃。


「どうして」


「真銀は」


「こっちの世界に来たの?」


 真銀。


「……」


 千乃。


「私は」


「死んだから」


「来たけど……」


 千乃。


 少し。


 言葉を。


 止める。


「真銀は……?」


 真銀。


「……」


 水の音。


 さらさら。


 さらさら。


 真銀。


「……俺も」


 千乃。


「?」


 真銀。


「死んでた」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 千乃。


「え?」


 真銀。


「だから」


「俺も」


「死んだから」


「こっちに来た」


 千乃。


「……」


「……え?」


 真銀。


「驚くよな」


 千乃。


「えっ」


「えっ!?」


「待って待って!」


 真銀。


「落ち着け」


 千乃。


「落ち着けないよ!?」


「なんで!?」


「どうして!?」


「えっ!?」


 真銀。


「……」


 千乃。


「私」


「知らなかった」


 真銀。


「言ってなかったからな」


 千乃。


「なんで!?」


 真銀。


「聞かれなかった」


 千乃。


「聞く機会なかったけど!?」


 真銀。


「そうだな」


 千乃。


「……」


「……それで」


「どうして?」


 真銀。


「……」


 真銀。


 噴水を。


 見たまま。


 ゆっくり。


 話し始めた。


「千乃が」


「死んだあと」


 千乃。


「……」


 真銀。


「俺は」


「しばらく」


「何もできなかった」


 千乃。


「……」


 真銀。


「目の前で」


「千乃が」


「俺を庇ったから」


 千乃。


「……」


 真銀。


「俺のせいだって」


「思った」


 千乃。


「違うよ」


 真銀。


「分かってる」


「でも」


「そう思ってしまった」


 千乃。


「……」


 真銀。


「もっと」


「俺が」


「早く気づいていたら」


「千乃が」


「俺を庇わなければ」


「俺が」


「ちゃんとしていれば」


 千乃。


「真銀」


 真銀。


「ずっと」


「そんなことばかり」


「考えてた」


 千乃。


「……」


 真銀。


「それで」


「前と同じように」


「普通に生活しようとした」


 千乃。


「うん」


 真銀。


「学校にも」


「行った」


「家にも帰った」


「ご飯も食べた」


 千乃。


「……」


 真銀。


「でも」


「何をしても」


「千乃がいない」


 千乃。


「……」


 真銀。


「当たり前だった」


「もう」


「いないんだから」


 千乃。


「……」


 真銀。


「分かってるのに」


「何度も」


「振り返った」


「……千乃が」


「いる気がして」


 千乃。


「真銀……」


 真銀。


「それで」


「ある日」


「一人で」


「あの場所に行った」


 千乃。


「……」


 真銀。


「千乃が」


「俺を庇った場所」


 千乃。


「……」


 真銀。


「そこに」


「立って」


「ずっと」


「考えてた」


 千乃。


「……」


 真銀。


「どうして」


「俺じゃなかったんだって」


 千乃。


「……」


 真銀。


「俺の代わりに」


「千乃が」


「死ぬ必要なんて」


「なかったのにって」


 千乃。


「真銀」


 真銀。


「そのあと」


「帰ろうとした」


 千乃。


「……」


 真銀。


「でも」


 そこで。


 真銀。


 少し。


 笑った。


「……俺」


「馬鹿だったんだよ」


 千乃。


「?」


 真銀。


「何も」


「周りが」


「見えてなかった」


 千乃。


「……」


 真銀。


「信号も」


「車も」


「何も」


 千乃。


「……!」


 真銀。


「気づいたときには」


「遅かった」


 千乃。


「……」


 真銀。


「だから」


「俺も」


「事故で」


「死んだ」


 千乃。


「……」


 噴水。


 さらさら。


 さらさら。


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 千乃。


「馬鹿」


 真銀。


「……」


 千乃。


「真銀」


「馬鹿」


 真銀。


「うん」


 千乃。


「なんで」


「ちゃんと」


「前を見なかったの」


 真銀。


「……」


 千乃。


「なんで」


「自分を」


「大切にしなかったの」


 真銀。


「……」


 千乃。


「私」


「真銀を守りたくて」


「庇ったんだよ」


 真銀。


「分かってる」


 千乃。


「なのに」


「真銀まで」


「死んだら」


「意味ないじゃん」


 真銀。


「……」


 千乃。


 少し。


 俯いた。


「私」


「真銀が」


「生きてるって」


「思ってた」


 真銀。


「俺も」


「千乃だけ」


「先に」


「こっちに来たんだって」


「思ってた」


 千乃。


「……」


 真銀。


「……」


 千乃。


「ねえ」


 真銀。


「ん?」


 千乃。


「怖かった?」


 真銀。


「……」


 千乃。


「死ぬとき」


 真銀。


「怖かった」


 千乃。


「……」


 真銀。


「すごく」


 千乃。


「……」


 真銀。


「でも」


「千乃が」


「もういない世界で」


「一人になる方が」


「怖かった」


 千乃。


「……」


 真銀。


「だから」


「もし」


「また」


「会えるなら」


 千乃。


「……」


 真銀。


「会いたいって」


「思ってた」


 千乃。


「……」


 真銀。


「そしたら」


「本当に」


「会えた」


 千乃。


「……」


 真銀。


「異世界で」


 千乃。


「うん」


 真銀。


「最初」


「見つけたとき」


「夢かと思った」


 千乃。


「私も」


 真銀。


「千乃が」


「生きてた」


 千乃。


「真銀も」


 真銀。


「……ああ」


 千乃。


 少し。


 笑う。


「なんか」


「変だね」


 真銀。


「何が?」


 千乃。


「二人とも」


「死んだのに」


「今」


「こうして」


「生きてるみたいに」


「話してる」


 真銀。


「……そうだな」


 千乃。


「しかも」


「結婚してるし」


 真銀。


「本当にな」


 千乃。


「前の世界の私が聞いたら」


「びっくりするかも」


 真銀。


「俺も」


 千乃。


「……」


 千乃。


 少し。


 真銀へ。


 近づいた。


「ねえ」


 真銀。


「ん?」


 千乃。


「もう」


「自分を責めないで」


 真銀。


「……」


 千乃。


「私が」


「勝手に庇ったんじゃない」


 真銀。


「……」


 千乃。


「庇いたかったから」


「庇ったの」


 真銀。


「……」


 千乃。


「真銀が」


「大切だったから」


 真銀。


「……」


 千乃。


「だから」


「私が死んだこと」


「ずっと」


「自分のせいにしないで」


 真銀。


「……」


 千乃。


「私」


「真銀が」


「生きててくれて」


「よかったって」


「ずっと思ってたから」


 真銀。


「……」


 千乃。


「真銀が」


「死んでたなんて」


「知らなかったけど」


 真銀。


「……」


 千乃。


「でも」


「今」


「会えたから」


 真銀。


「……」


 千乃。


「それで」


「いい」


 真銀。


「……」


 真銀。


 小さく。


 笑った。


「千乃」


 千乃。


「なに?」


 真銀。


「俺も」


「もう」


「自分を責めるの」


「やめる」


 千乃。


「本当に?」


 真銀。


「努力する」


 千乃。


「また努力するって言った」


 真銀。


「……」


 千乃。


「でも」


「今度は」


「信じる」


 真銀。


「何を?」


 千乃。


「千乃が」


「俺を守ってくれた理由」


 千乃。


「……」


 真銀。


「大切だったから」


 千乃。


「うん」


 真銀。


「なら」


「俺も」


「千乃を大切にする」


 千乃。


「……」


 真銀。


「今度こそ」


「自分も」


「ちゃんと」


「大切にしながら」


 千乃。


「……」


 千乃。


 にこっ。


「それなら」


「いいよ」


 真銀。


「うん」


 噴水。


 さらさら。


 さらさら。


 夜の庭。


 二人だけ。


 静かに。


 座っていた。


 前の世界では。


 失ってしまった。


 二人。


 もう。


 二度と。


 会えないと。


 思っていた。


 けれど。


 違う世界で。


 もう一度。


 出会った。


 千乃。


「ねえ」


 真銀。


「ん?」


 千乃。


「次は」


「置いていかないでね」


 真銀。


「……」


 千乃。


「どうしたの?」


 真銀。


「カイルのこと?」


 千乃。


「違うよ!?」


 真銀。


「違うのか」


 千乃。


「真銀のこと」


 真銀。


「……」


 千乃。


「一人で」


「どっか行っちゃ」


「駄目だよ」


 真銀。


「分かった」


 千乃。


「約束」


 真銀。


「ああ」


 千乃。


「絶対?」


 真銀。


「絶対」


 千乃。


「よし」


 真銀。


「……」


 千乃。


「……」


 そして。


 二人は。


 しばらく。


 噴水を。


 眺めていた。


 水の音。


 夜風。


 月明かり。


 前の世界では。


 叶わなかった。


 これからの時間。


 けれど。


 この世界なら。


 二人で。


 歩いていける。


 千乃。


「ただいま」


 真銀。


「……」


 千乃。


「この世界に」


 真銀。


「……ああ」


「おかえり」


 夜の庭。


 噴水のそば。


 二人の時間は。


 静かに。


 続いていた。


 真銀は、噴水を見つめたまま。


 しばらく、何も言わなかった。


 夜風が吹く。


 水面が、月明かりを揺らす。


 千乃の隣にいる今の自分と。


 あの日の自分が。


 不思議なくらい遠く感じた。


 けれど。


 目を閉じれば。


 今でも。


 鮮明に思い出せる。


 暖かい日だった。


 夕焼けが、綺麗だった。


 何でもない。


 ただの。


 学校帰りだった。








 学校帰りの夕暮れは、不思議と世界の輪郭を淡く溶かして見せる。


 橙色に染まる歩道。


 長く伸びた制服の影。


 電線の向こうから聞こえる鳥の鳴き声。


 そんな何気ない景色の中。


 夜坂真銀は。


 少し前を歩いていた。


 そして。


 その後ろにいる気配を。


 いつものように。


 感じていた。


 千羽千乃。


 同じ学校。


 同じ帰り道。


 気づけば。


 いつも。


 少しだけ後ろを歩いている少女。


 真銀は。


 何度も。


 振り返ろうと思った。


 話しかけようとも。


 思った。


 けれど。


 なぜか。


 できなかった。


 ほんの少し。


 振り返ればいいだけなのに。


 たった一言。


 話しかければいいだけなのに。


 その距離が。


 妙に。


 遠かった。


 千乃が。


 少し後ろで。


 何かを言った。


「真銀、今日は……」


 真銀。


「ん?」


 振り返ろうとした。


 その瞬間。


 ――キィィィィィッ!!


 甲高い音。


 タイヤの。


 悲鳴。


 真銀。


「……?」


 振り返る。


 そこには。


 制御を失った。


 トラック。


 猛スピードで。


 こちらへ。


 向かっていた。


 真銀。


「……っ」


 身体。


 動かない。


 足。


 動かない。


 理解が。


 追いつかない。


 ただ。


 近づいてくる。


 大きな車体。


 聞こえる。


 誰かの叫び声。


「危ないッ!!」


 そして。


「真銀ッ!!」


 千乃。


 真銀。


「……え?」


 次の瞬間。


 背中に。


 強い衝撃。


 千乃の両手。


 真銀の身体を。


 全力で。


 押した。


 真銀。


「――っ!」


 身体。


 横へ。


 投げ出される。


 地面へ。


 倒れる。


 その瞬間。


 見えた。


 千乃。


 こちらを。


 見ていた。


 そして。


 ――轟音。


 真銀。


「……」


 世界が。


 止まった。


 音が。


 消えた。


 何も。


 聞こえない。


 ただ。


 目の前。


 千乃が。


 倒れていた。


 真銀。


「……」


 理解。


 できなかった。


「……千乃?」


 返事。


 ない。


 真銀。


「……千乃?」


 身体。


 動かない。


 千乃。


 動かない。


「……千乃」


 真銀。


 立ち上がる。


 足が。


 震えていた。


 近づく。


「千乃」


 返事。


 ない。


「……千乃」


 声。


 震える。


「千乃ッ!!」


 駆け寄る。


 周囲。


 騒がしくなっていた。


 誰かが。


 救急車を呼んでいる。


 誰かが。


 警察へ。


 電話している。


 何人もの声。


 けれど。


 真銀には。


 聞こえなかった。


 真銀。


「千乃!」


 千乃。


 ゆっくり。


 目を開く。


 真銀。


「……!」


「千乃!」


 千乃。


 真銀を。


 見た。


 真銀。


「大丈夫だ」


「大丈夫だから」


「すぐ」


「救急車が来る」


「絶対」


「助かるから」


 千乃。


「……」


 真銀。


「だから」


「目」


「閉じるな」


 千乃。


「……」


 千乃。


 小さく。


 笑った。


 その笑顔を。


 真銀は。


 一生。


 忘れられない。


 千乃。


「……ありがとう」


 真銀。


「……?」


 千乃。


「……だいすき」


 真銀。


「……」


 時間が。


 止まった。


 真銀。


「千乃」


 千乃。


 ゆっくり。


 目を閉じる。


 真銀。


「千乃?」


「……」


「千乃?」


 千乃。


 返事をしない。


 真銀。


「千乃ッ!」


 救急車の音。


 近づいてくる。


 けれど。


 遅い。


 もっと。


 早く。


 来てくれ。


 お願いだから。


「千乃ッ!!」


 真銀。


 必死に。


 名前を呼んだ。


「千乃」


「千乃」


「千乃ッ!」


「俺も――」


 言わなければ。


 ならなかった。


 あの日。


 ずっと。


 言えなかった。


 言葉。


「俺も」


「千乃のことが――」


 救急車。


 到着。


 千乃は。


 すぐに。


 運ばれていった。


 真銀。


 後ろから。


 追いかける。


「千乃ッ!」


 けれど。


 救急隊員の表情を。


 真銀は。


 見てしまった。


 あの時。


 まだ。


 何も知らなかった。


 知らなかった。


 ……いや。


 本当は。


 分かっていたのかもしれない。


 千乃は。


 運ばれていった。


 けれど。


 運ばれる前から。


 もう。


 手遅れだった。


 真銀。


「……」


 認めたくなかった。


 病院へ。


 向かう。


 ただ。


 祈る。


 助かってくれ。


 頼む。


 お願いだから。


 目を覚ましてくれ。


 それだけ。


 何度も。


 何度も。


 繰り返した。








 そして。


 真銀。


 あの日、目の前で。


 千乃を。


 失った。








 あの日。


 夕焼けは。


 とても。


 綺麗だった。


 暖かい日だった。


 鳥が鳴いていた。


 歩道は。


 いつもの。


 帰り道だった。


 なのに。


 千乃だけが。


 いなくなった。








 それから。


 真銀の世界は。


 色を。


 失った。








 学校へ行く。


 授業を受ける。


 帰る。


 ご飯を食べる。


 眠る。


 また。


 朝が来る。


 同じことを。


 繰り返す。


 けれど。


 千乃が。


 いない。


 それだけで。


 何もかもが。


 違っていた。


 帰り道。


 いつも。


 後ろを。


 見てしまう。


 そこに。


 千乃が。


 いる気がするから。


 けれど。


 いない。


 何度。


 振り返っても。


 いない。


 話しかければ。


 よかった。


 もっと。


 早く。


 振り返れば。


 よかった。


「……」


 真銀。


 ずっと。


 自分を。


 責めていた。


 そして。


 ある日。


 真銀は。


 あの場所へ。


 向かった。


 千乃が。


 自分を。


 庇った場所。


 夕方。


 あの日と。


 よく似た。


 夕焼け。


 真銀。


 立ち止まる。


「……」


 道路を見る。


 何も。


 変わっていない。


 車が走る。


 人が歩く。


 世界は。


 普通に。


 続いている。


 なのに。


 千乃だけが。


 いない。


「……千乃」


 その時。


 後ろから。


 誰かが。


 名前を呼んだ。


 真銀。


「……?」


 振り返る。


 誰も。


 いなかった。


 ……千乃の声だった。


 そんな。


 気がした。


 真銀。


「……」


 笑った。


 自分が。


 おかしくなったのか。


 そう思った。


 そして。


 また。


 歩き出す。


 けれど。


 頭の中。


 千乃の。


 最後の言葉。


『……ありがとう、だいすき』


 何度も。


 何度も。


 繰り返される。


 真銀。


「……」


「俺も」


 口から。


 勝手に。


 言葉が。


 漏れた。


「俺も」


「好きだった」


 誰も。


 聞いていない。


 今さら。


 遅い。


 それでも。


 言わずには。


 いられなかった。


「好きだったんだよ」


 千乃。


 聞こえない。


 もう。


 聞こえない。


 真銀。


 前を。


 見なかった。


 ……いや。


 見られなかった。


 視界が。


 ぼやけていた。


 あの日。


 千乃が。


 自分を。


 突き飛ばした。


 その瞬間。


 自分だけが。


 助かった。


 なのに。


 その自分は。


 生きていて。


 千乃は。


 いない。


 そんなこと。


 受け入れられなかった。


 だから。


 周りが。


 見えていなかった。


 近づく。


 車の音。


 誰かの。


 叫び声。


 聞こえていた。


 それでも。


 頭が。


 動かなかった。


 気づいた時。


 目の前に。


 車。


 真銀。


「……あ」


 ほんの一瞬。


 思った。


 ――千乃。


 次に。


 目を開けた時。


 もし。


 また。


 会えるなら。


 今度こそ。


 ちゃんと。


 言おう。


 ずっと。


 言えなかった。


 あの言葉を。


「俺も」


「大好きだ」


 そして。


 真銀は。


 目を閉じた。








 ――神様と白い世界であったあと、次に目を開けた時。


 そこは。


 知らない世界だった。


 青い空。


 見たことのない景色。


 そして。


 魔法。


 異世界。


 最初は。


 何が起きたのか。


 分からなかった。


 ただ。


 しばらくして。


 信じられないことが。


 起きた。


 冒険者ギルドの扉を開けたとき。


「……」


 真銀。


 目の前。


 そこに。


 千乃が。


 いた。


 生きていた。


 笑っていた。


 真銀。


「……千乃?」


 千乃。


「……真銀?」


 二人。


 しばらく。


 動けなかった。


 夢だと。


 思った。


 幻だと。


 思った。


 けれど。


 千乃は。


 そこにいた。


 真銀。


「……」


 あの日。


 言えなかった言葉。


 ようやく。


 言えた。


 それから。


 二人は。


 もう一度。


 出会った。








 噴水。


 さらさら。


 さらさら。


 真銀。


 ゆっくり。


 目を開ける。


 目の前。


 千乃。


 今。


 ちゃんと。


 生きている。


 笑っている。


 話している。


 真銀。


「……だから」


 千乃。


「?」


 真銀。


「俺は」


「こっちに来た」


 千乃。


「……」


 真銀。


「千乃が」


「俺を助けた」


 千乃。


「……」


 真銀。


「でも」


「俺は」


「千乃がいないことを」


「受け止められなかった」


 千乃。


「真銀」


 真銀。


「だから」


「俺も」


「死んだ」


 千乃。


「……」


 真銀。


「馬鹿だよな」


 千乃。


「うん」


 真銀。


「即答」


 千乃。


「だって」


「本当に馬鹿だもん」


 真銀。


「……」


 千乃。


「でも」


 真銀。


「?」


 千乃。


「今」


「会えてるから」


 真銀。


「……」


 千乃。


「もう」


「怒らない」


 真銀。


「怒ってたのか?」


 千乃。


「ちょっと」


 真銀。


「……」


 千乃。


「かなり」


 真銀。


「かなりか」


 千乃。


「かなり」


 真銀。


「……」


 千乃。


 少し。


 笑った。


 そして。


 真銀の肩に。


 そっと。


 頭を。


 預ける。


 千乃。


「ねえ」


 真銀。


「ん?」


 千乃。


「今度」


「死ぬとか」


「絶対なしね」


 真銀。


「……」


 千乃。


「前の世界の話は」


「もう」


「変えられないけど」


 真銀。


「……ああ」


 千乃。


「この世界では」


「ちゃんと」


「生きよう」


 真銀。


「うん」


 千乃。


「二人で」


 真銀。


「ああ」


 千乃。


「あと」


 真銀。


「何だ?」


 千乃。


「次」


「置いていかれたら」


「怒るから」


 真銀。


「……カイルか?」


 千乃。


「違う!」


 真銀。


「本当に?」


 千乃。


「本当に」


 真銀。


 少し。


 笑う。


「分かった」


 千乃。


「約束」


 真銀。


「ああ」


 月明かり。


 噴水。


 静かな夜。


 あの日。


 言えなかった言葉は。


 もう。


 遅すぎる言葉ではなかった。


 千乃。


「真銀」


 真銀。


「ん?」


 千乃。


「大好き」


 真銀。


 今度は。


 迷わなかった。


「俺も」


「大好きだ」


 水の音が。


 二人の間を。


 静かに。


 流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。